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フーリガンの狂騒

瞳はサッカーが好きだった。
小学校時代から続けているサッカーでは男をも凌駕する実力だと評判だ。
そして運動神経に秀でるだけでなく器量もいい。

そもそも俺が瞳を気にかけ始めたのは、連れがする彼女の噂を聞いてのことだ。
連れにそそのかされて一目見たとき、ああなるほど、と思った。
ウェアに包まれた華奢な体つき、ハーフパンツから伸びる健康的な脚。
走るたび揺れる艶々の黒髪からはいかにも良い匂いがしそうだ。
印象深いのは、俺たちが瞳を見ている時、同じようにフェンス越しに他校の奴が覗いていた事だった。
わざわざ他所から覗きが来るぐらいには、器量の良さが知れていたという事だろう。


本来、俺がそんなタイプの女子と親密になる事はありえなかった。
俺はクラブ活動など全くしない帰宅部だったからだ。
瞳との接点といえば、同じ高校という以外はスポーツ観戦が趣味であること、しかない。
俺は自分ではスポーツをしないが、応援するのは好きだった。
特にサッカーとバスケは毎週関連雑誌を買い漁るほどだ。
そして瞳もやはりサッカー好き。
俺の高校の男子サッカー部が県大会に進出したとき、たまたま隣り合わせた俺達は声が枯れるほどの声援を送った。
結果はウチの惨敗だったが、俺と瞳はいつのまにか意気投合し、お茶するようになり、そして交際を始めた。


瞳と付き合うようになって、意外な事実がわかった。
彼女の弟が現在サッカーのジュニアユースでプロ入りを目指していること。
そしてその弟にサッカーを教えたのは瞳であること。
「女の子はプロ行くのは厳しいからね。私のはあくまで趣味。」
瞳はいつかそんな風に笑った。
だが彼女のサッカー熱を知る身としては、何とも心苦しい話だ。


瞳とのデートは、スポーツという共通の話題があるため会話には事欠かない。
選手について、歴史的な名試合について、話し始めれば何時間でも語り明かせた。
瞳ほど話していて楽しい相手は男でもいなかった。
それはきっと、瞳が話上手であるとともに聞き上手であるからだ。
美人とあって人と話し慣れているのだろう。
おまけに近くで見ると本当に凄い体をしている。
夢中で話しながらもミニスカートから覗く脚につい目が行ってしまう。
「もう、敬ちゃんまたやーらしい目で脚見てる!次でレッドカード、パフェ奢りね!」
敬ちゃんとは俺のことだ。
瞳はいつだって目敏く俺の下心を見透かし、けらけらと笑いながら俺をからかった。


瞳は性に対して奥手だ。
基本的にはおおらかで、たとえシャワーを浴びた後の無防備な姿を俺に見られても、まぁそこまで騒ぐことはしない。
だがデートの帰り道、公園でそういった雰囲気になると急に黙りこくってしまう。
俺も押しが弱く、彼女に悪い気がしてなかなかその一線を越えられない。
今時信じられるだろうか?
俺が瞳と初めて身体を重ねたのは、彼女と付き合い始めてから丸1年、お互いが高校を卒業してからだった。



「ねぇ、もうちょっとだけ暗くして。……恥ずかしい……」
初めての夜、ホテルの寝台に横になり、瞳はそう囁いてきた。
「何でだよ、こんなに綺麗なカラダしてんのに。…手入れもちゃんとしてあるしさ」
俺は笑いながら彼女の腹部を撫で下ろし、綺麗に整えられた若草をくすぐる。
今日俺とすると決意して、家で処理してきたのだろう。
俺はそれが嬉しかった。改めて瞳が俺の彼女なんだと実感できたからだ。
「っ!!い、いきなり下の毛の話なんて………ええい、あっち向け!向け!!」
「お、おい、なんだよ!」
瞳は解りやすいほど顔を赤らめ、俺を蹴りはじめる。細い足だがこれが痛い。
「…ったく…」
俺が仕方なく背を向けると、何やらシーツの擦れる音がする。


そして直後、俺の背中に二つ、ひどく柔らかな物体が圧し掛かってきた。
何か?考えるまでもない、乳房だ。今まで何度も夢想した瞳の乳房。
思っていたより遥かに柔らかい感触はまさに肉だ。
抱きつかれている。あの瞳に、後ろから。
しかもただ抱きつくだけではない。
すでに全裸の俺の背中に顔を埋め、深呼吸を繰り返している。
「鼻息くすぐったいぞ、変態」
「うるさい、真性変態」
瞳の腕が俺の腰の前に回され、この状況で一気に硬さを増した逸物に触れる。
「……硬い…興奮してるんだ」
瞳の指がそれを扱いた。
「当たり前だろ。どんだけ待ったと思ってる」
俺は憮然とした表情を装い、瞳の指の中で逸物を跳ねさせた。瞳がくすりと笑う。


「ごめんね……敬ちゃんの気持ちにはずっと前から気付いてた。
 …この人にならいいかなって、何度も、何度も思った。
 でも怖かったの。色んな男の子見てきて、私を幸せにしてくれる人が解らなくなって。
 結局身体に飽きたら捨てられるんじゃないかなって…心配だった」
瞳がより強く俺を抱く。
「だから、丸1年…男の人が愛想を尽かすって言う期間を過ぎて、
 その時まだ私たちが付き合ってたら、今度こそ初めてを貰ってもらおうって…」
「…………」
俺は黙って瞳の話に聞き入った。
ここで気の利いた一言でも言うべきか、否か、それが解らない。
俺にとっては瞳が初めての女性なんだから。


ただ、ここは沈黙でよかったらしい。
瞳は言いたい事を言って満足そうに息を吐き、また吸い込んだ。
どうも俺などの匂いを胸に溜め込んでいるらしい。
「だから今、すごく幸せ。サッカーのこと含めて私を理解してくれる敬ちゃんと居て……
 敬ちゃんの匂いに包まれて、すっっごく幸せ。
 ……ああもう、なんか上手く言えないや」
瞳はそう囁きながらぐりぐりと髪を押し付けてくる。
なんと愛らしい事だろう。
「…心配すんな、言いたいことは痛いほど伝わってる。
 俺も今、お前とおんなじだけ幸せだよ」
俺はそう言いながら手を後ろに伸ばし、瞳の脚の間に差し入れた。
一瞬瞳の腿がびくりと震えるが、やがてゆっくりと力を抜く。
濡れていた。暖かい潤みからは、幸せだという彼女の言葉を裏付けるかのように蜜が零れていた。
そして俺自身もまた、幸せではち切れそうな逸物から先走りを垂らしている。
「……好きだよ、敬ちゃん」
「……お、俺だって」
ぎこちない告白の後、俺と瞳は改めて向かい合い、キスをして、
初めて深く身体を重ねた。




それからさらに2年が経ち、俺たちが大学生になった時だ。
あの忌々しい事件が起きたのは。


その年に開催されたワールドカップ決勝戦の応援のため、俺たちは海外に飛んでいた。
何としても日本が戦っている現地で応援をしたかったのだ。
何しろそのワールドカップには、あの瞳の弟が選ばれていたのだから。


大会会場にほど近いホテルには、俺たちと同じような日本人客がかなりいた。
そして当然ながら、決勝相手国の人間も。
「あの子……だいじょうぶかな」
祈るように手を合わせる瞳。俺はその細い肩を抱きしめる。


独特の緊張感の中、いよいよ決勝戦は始まった。
試合は接線、どちらも点を入れられないまま膠着が続き、後半7分、ついに日本が待望のゴールを決める。
決めたのはベテランの選手だが、サポートしたのは瞳の弟だ。
「よし!!」
俺と瞳は思わず立ち上がり、そのまま試合の行方を追う。
そして俺たちが目を見開いて見守る中、ついにその僅かな点差は守りきられた。
日本の勝利だ。
「やったー!やったよ、勝ったぁ!!」
瞳が俺に抱きつき、俺も瞳を抱きしめる。その俺たちの声に倣うように、一斉に日本ファンの歓声が沸き起こった。
万歳三唱だ。俺たちは幸せの只中にいた。


…そう、俺たちは全く気がついていなかった。この場には対戦相手の国の者も居たことを。
そしてその者たちが、自国が負けたことと勝利国の歓声を前にして、憤怒の形相を浮かべていた事を。


だが俺たちは悪かったか?そんなことはない。母国が勝って嬉しくない筈がない。
相手の国だって、自分の所が勝ったら何を置いても喜んだだろう。
だからあの行動は横暴だ。
VTR内の弟を労う瞳をいきなり押さえつけ、無理矢理『自分達の部屋に引きずり込んだ』奴らの行動は。



「おい、開けろ!!瞳を返せ!!!」
俺は奴らの泊まっている一室の扉を激しく叩いた。
俺だけではない、日本人全員が瞳が連れ込まれたことの異常性に気付いて集まっている。
だが正直どうしようもなかった。
部屋には内側から鍵がかけられ、マスターキーは暴動のドサクサに紛れて奪われ、持ち込まれた。
テロを想定に入れた頑丈な造りであるため、扉を体当たりで開けることも不可能だ。
「くそっ!どうすりゃあいいんだよ!!!」
俺は床にへたり込んだ。
部屋は完全防音になっており、中からは何の音も聞こえてこない。それがまた不安を煽る。
もしかすると、もうすでに瞳は……。


そんな不吉な予感は、ホテルの支配人が「警察が来るまでの様子見」として見せてきた監視カメラによって、
醜悪な形で再現されることとなる。
495 名前:フーリガンの狂騒[sage] 投稿日:2009/06/28(日) 05:11:08 ID:dni10FrF


映像が映し出される。
広いホテルの部屋を真上から撮ったもので、まずは何人もの男の頭が映る。
その連中が全員裸であることに、俺はまずショックを受けた。
その男達の囲む中心に椅子に跨らされた女性が居る。
考えるまでもなく、瞳だった。
瞳は椅子の背もたれに胸を押し付ける格好で腰掛けていた。
そして肩甲骨を背もたれの上部にぶつけながら、後頭部を掴まれて男のモノを無理矢理に咥えさせられている。
イラマチオという奴だろうか。
鮮明には見えないが男の逸物は相当大きいらしく、瞳は顎が不自然に開いて鼻が上を向いてしまっていた。
よく聞けばかぽかぽと音が響いている。
男のモノが瞳の喉奥を抉り回している音だ。
「れおっ……っこぉ、ろう゛え…え゛ぇっ……」
瞳の淡々としたえづき声もその音に混じる。
AVのような激しいフェラではなく、本当にただ喉奥の感触を味あわれているだけの苦悶の声。
画像の不鮮明さとは裏腹に、それらの音はやけにはっきりと拾われていた。


頭を掴まれて道具のように前後されながら、瞳が抵抗することはない。
その筈だ、彼女の細い腕は後ろ手に紐で何重にも縛られていた。
えづき声が上がるたび、その小さな手が握り込まれる。俺は胸が張り裂けそうになった。


『$■g△!』
突如、聞きなれない言語が怒ったように発せられた。
椅子に座った瞳の腰がぴしゃりと叩かれる。瞳が腰を浮かせる。
その瞬間、さらに絶望的なものが見えた。
男の手に握られていたのは細いバイブだ。膣に入れるものではない、アナル用のバイブ。
男はそれを瞳の浮いた尻に沈めていく。
まさか、瞳は後ろの穴にあんなものを入れられているのか!?
俺は到底信じられなかったが、バイブは現に根元まで瞳の身体に飲み込まれている。
そして椅子に座っている以上、膣にそれを入れる事は不可能だ。



男は尻に、瞳の尻の穴にバイブを出し入れする。
瞳の尻の穴、そこがどんな風なのかは俺だってじっと見たことがない。
恥ずかしがりの瞳はそこを見るとすぐに怒ってしまうからだ。
それがその男は、瞳の排泄の穴をにやけた笑みで覗きながら、細長いバイブをゆっくりと差し込んでいく。
見ている俺がこそばゆくなるほどの徹底的な尻責めだ。
じっくりと時間をかけて呑み込ませ、角度を調節しながら奥まで抉り込み、ぐりぐりと押し付けた後に一息に引き抜く。
俺ならすぐにビンビンになってしまうだろう、それは女とはいえ瞳だってそのはずだ。
ところが瞳はひどく苦しそうに腰をゆする。感じているふうではない、まるで腹を下したような…。


ぎゅるるるるるぅ…


その時だ。紛れもなく椅子に座った瞳の腹から濁音が轟いた。
そしてその音を聞き、周囲の男たちが笑い出す。
まさか……まさか。俺は映像に目を凝らした。尻を嬲る男の足元に何かがある。
浣腸だ。空のイチジク浣腸が2個転がっている。
考えるまでもなく、瞳に対して使用されたものだろう。
サッカーの応援に来たはずのフーリガンが、何故そんなものを用意しているんだ?
まさか…始めから誰かしらをこうするつもりだったのか?
俺は錯乱した頭でそんな事を考えた。
俺は傍観者でしかないのに、瞳の身に起こっていることから意識を逸らしたかった。
当の瞳はどう感じているのだろう。
ぶびっ、ぶちいっという音が瞳のアナルから漏れる。瞳が男の逸物から口を離し、唾だらけでうがいのような叫びを上げた。
周りの笑いが大きくなる。
さらによく見れば、椅子の下にはホテル備え付けの白い洗面器が置かれていた。
様々なピースが嵌り、悪夢のような状況が確定的になっていく。
行き着く先が見えてしまう。


「いやあああああああっっっ!!!!」


その瞬間、男達の凝視に取り囲まれた瞳の叫びを、俺はきっと生涯忘れることがない。



瞳の叫びを聞いた瞬間、俺の心臓は打ち抜かれたように激しく脈打った。
耳はきいんと鳴って聞こえなくなった。
ショックの為か、俺はまだこんなに瞳が好きなのか、と意味のない安心をしていた。
画像の中では男たちがわざとらしく鼻をつまみ、何かを罵っていた。
聞こえていたとしても意味は解らなかっただろうが、『何』を『どう』罵っているのかは理解できる。
その『何』かは椅子にしがみつくように座ったまま放心状態でいた。
目を見開いたまま瞬きもせず、正直俺はその顔にぞっとした。


そんな顔の彼女を受け入れられるのは、同じく理解の範疇を超えた連中だけだ。
男達は瞳を椅子から抱え上げ、ベッドに投げ捨てた。瞳の脚が開き、股から何かが滴っているのが見える。
…精液だ。零れるほどの精液が瞳の中から溢れている。
そして男達は我先にと瞳に群がり、獣のように犯し始めた。
後ろ手に縛られた瞳に上から圧し掛かったり、体格差を愉しむように駅弁の体勢で突いたり。
ある男は瞳の眼球に舌を入れ、またある男は交配の最中に蹴り上げられた瞳の脚を掴んで舐めしゃぶった。


『日本人の女は最高だぜぇ』


理解できるはずもないのに、男達からそんな言葉が発された気がした。
瞳は抵抗も許されずに身体を使われる中、じっと『こちらを見ていた』。
カメラの中の俺を覗き込むように、偶然かもしれないが凍りついたような目をこちらに向けていた。
俺は背筋に滝のような冷や汗をかいているのを感じた。
どうする事も出来ない事への焦り……?いいや、違う。そうでは決してない。


俺は脅えていたのだ。その彼女の状態に、その状態の彼女に。



やがて警察が到着し、窓からの侵入を経て瞳は助け出された。
極度の恐慌状態にあるとの事で数ヶ月の入院をし、今はまた俺と付き合うようになっている。
ただ、前とは全く違っていた。
瞳の目を盗んで彼女の携帯やPCを弄ると、奇妙なデータが入っている。
女性が外国人の手で淫核ピアスを開けられるまでの連続写真、得体の知れない白い錠剤を舌の上に置いている写真、
口に手拭いを噛みながら真っ白な背中に刺青を入れられていく映像。
脅されてのことなのか、それとも自発的な事なのか。それを聞く勇気を、俺はもっと早くに持つべきだった。


彼女は今、俺の正面に座っている。
胸を揉んでやっても別に嫌がらない。ただ真顔で3千えんだよ、などと冗談を抜かすだけだ。
彼女は俺を前にし、遠い昔を見る目で語り出す。
「あたしもねー、むかしはバカみたいに純情だったんだよ。
 凄くすきな人がいてね、その人がわたしを幸せにしてくれるのかって、ずっと悩んだりしたの。
 ね、おっかしいよね。男の人なんて、力いっぱい犯してくれれば十分なのに」
たった一年で瞳は変わり果てた。
彼女の目はもう光を孕んではいない。何も見えてなどいない。
髪もすっかり艶がなくなってがさがさだ。もうあの猿のような男共すら見向きもしないだろう。


「俺もさ、すげえバカな奴の話知ってるぜ」
俺はその搾りかすのような瞳に語りかける。
「1年間焦らされた男の話だ。そいつは結局、いつでも意気地なしでさ。
 美人の彼女の気持ちに気付いていながら、ずっと告白できなかったんだ。
 美人の彼女の変化に気付いていながら、助けてやれなかったんだ。
 ……何もかんも終わっちまって、お互い幸せじゃあなくなっちまったけど……
 そいつは、まだ彼女のことが好きなんだぜ」
瞳は難しそうに眉を顰めた。
「何それ、へんなの」
「変だろ」
俺は瞳を抱きしめた。
「変だろ…」


瞳のあの1年間は無駄だった。
1年待って付き合った相手は、瞳を幸せになんかしてやれなかった。
俺は所詮、観戦するだけの人間なんだ。



                 終り

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