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思い出のタケちゃんぐすり1

部屋を見渡す。
乱れたシーツの上に、縄が引き千切られて落ちていた。
嫁の由美を拘束していた縄だ。

テーブルに目を移すと、彼女のデジカメが置かれてある。
中を見ると、ひとつ新しい動画が収められていた。
少し前のものだ。
映ったのは、腕をこちらに突き出すやつれきった姿の由美。
自分で自分を映しているのだろう。
その細い腕には、まだ鮮明に縄の痕が残っていた。



 ――タケちゃん タケちゃんだったんだね。
 心配かけて ごめんね。
 そして 私の事は もう、忘れてください。


 縛ってまで一緒に居ようとしてくれた事、本当に嬉しかった。
 でも、だからこそ、そんなタケちゃんにこれ以上迷惑をかけたくありません。


 ……好きな人、また、見つけて下さい。
 優しいタケちゃんだから、きっと簡単だと思います。
 新しい恋人さんとデートして、キスもして…。
 あ、キスの前にはちゃんと歯磨きとうがいするんだよ?
 ここ、女の子にモテるポイント!…なんてね。



 ………… さよなら  タケちゃん。


       いままで  ありがと 。



録画はそこで終わっている。
その中で由美は、瞳を沈ませ、少しおどけて見せ、そして穏やかな目で別れを告げた。


かさ、とテーブルで音がする。ビニールの袋が倒れていた。
中には乾燥しきった古い錠剤が入っている。
ビニールの表面には『タケちゃんぐすり』と幼い字で記されていた。
俺がまだ小学校の頃、風邪を引いた由美の見舞いに持って行った物だ。
たまたま家にあった何の事はない錠剤だったが、由美は以来、それを宝物と言って憚らなかった。






子供時代の由美は病弱だった。
一週間のうち3日は学校を休んでいたように思う。
そのせいか、彼女は薬が大好きだった。依存していた、と言ってもいい。
それは身体が丈夫になり、陸上で活躍するようになっても変わらなかった。
ドーピングじゃないかと思えるほどのサプリメントを常に服用し、
挙句には俺とキスをする前にさえ、必ずうがい薬を使うほどだった。


要は異常な薬好きなのだ。
だから彼女が製薬会社に入社したのは、必然だったと言える。
彼女はよく上機嫌で会社の話をした。
曰く、まだ試作段階の自社製品を好きに試せるのだという。
彼女にとっては楽園だったに違いない。


俺はその話を聞きながら、「へぇ良かったなぁ」と呑気に答えていた。
彼女が試していたのは湿布や磁気マッサージ器程度なのだから、
危機感など抱くわけもない。
だがそれが甘かった。
俺は前をよぎる影に慣れ、着実に立ち込めていく暗雲に気がつけなかった。



「今度ね、希望社員が対象の、ちょっとえっちな治験があるんだってさ」
由美はふとフェラチオを止め、俺を見上げながら囁いた。
治験とは医薬品の臨床実験のことだ。
「へぇ、どんな」
うがい薬で清涼さを増した舌遣いだ、射精感を煽られていた俺はその言葉を心半ばで聞く。
「何かね、女用の精力剤らしいよ。マッサージオイル開発してたら、偶然できたんだって」


ああまたか、と俺は思った。
製薬会社が性的な商品を手がける事は実に多い。
金になるし、そもそも健康維持と滋養強壮は切っても切り離せない。
だからその話題自体は別に珍しくはなかった。
普通なら一般に被験者を募る所だろうが、社員で済ます辺りが世知辛いな、
思うのはその程度のことだ。
それよりも口戯を途中でやめられた俺は、頭の中がセックスで一杯だった。
今の話題だってそそるものがある。由美が淫靡な薬剤実験で昂ぶらされるというのだ。
俺は再び逸物に舌を這わせ始めた由美を見下ろした。


由美は可愛い。
背は低く、160もなかったはずだ。
顔立ちもリスっぽい童顔で、黙って目をくりくりさせていれば下手をすれば中学生に見える。
歳は今年で24だが、子供ができて父兄参観に行っても姉扱いだろう。
華奢な身体は服を着ていても愛らしいが、脱ぐとさらに魅惑的だ。


腕や脚は健康的な桃色だが、それでも真っ白な腹部に比べれば日に焼けているとわかる。
そのコントラストは実に反則的といえた。
いつも後ろで束ねている髪は、こうしてセックスする時だけはさらりと下ろされる。
軽くウェーブのかかったその黒髪が、いつもは幼いだけの彼女にオリエンタルな美をもたらす。


「そっか。その実験に期待してるから、今日の由美はこんなにご機嫌なんだ?」
俺はそんな事を言いながら、由美の小さな体をひっくり返し、慎ましい割れ目に指を差し入れる。
「ちょっ、タケちゃん!まだ、ちょっと痛いよぉ…。」
由美は眉を下げながら言う。
小柄な彼女は膣も小さく、ある程度気分が乗った状態で指を入れても痛がる事が多かった。
「ああ、悪い、悪い。」
俺は少し意地悪く笑いながら由美の乳房に口づけする。幼児体型の由美も胸だけは掴めるほどある。
由美はそこでは感じるのか、ぴくんと肩を震わせた。





それからしばらくたった頃の事だ。
俺が仕事から帰ると、すでに由美が帰宅していた。
多忙な由美は、いつも俺より早く出社し、帰るのも夜遅いというのに。
「由美…?…随分早いんだな、具合でも悪いのか?」
俺が声をかけると、由美は緩慢な様子で布団から起き上がった。
「あ……おかえり……なさい………」
そう返す由美は、顔が真っ赤に上気し、息を乱している。まるで風邪だ。
「おい、大丈夫かよ!?」
「へいきだよ……ちょと、風邪っぽいかな。でもホラ、くすりあるし」
由美は笑いながら、胸に下げたビニール袋を振って見せた。中でカラカラと錠剤が踊る。
「バカ、んな一昔も前の薬なんてかえってヤべーだろ。
 コンビニで卵粥かなんか買ってくるわ」
間の抜けた由美の発言で少し気が楽になり、俺は玄関へ向かおうとした。
しかし、その俺の足を由美の手が掴む。
「ね、タケちゃ、まって……。」
はぁはぁと息を切らしながら、片目を瞑った由美が見上げてくる。
「何だよ?」
俺は振り向き、そのまま凍りついた。


そこには服のボタンを外し、乳房を曝け出す由美が居た。
「お、おまえ、何してんだよ!?
俺は度肝を抜かれる。
由美は恥知らずではない。いくら夫の前とはいえ、脈絡もなく肌を晒す女ではない。
異常だった。
異常といえば、その白い乳房の先にある突起がしこり立っている。
よく見れば、由美は全身に脂汗を搔いていた。桃色に上気した身体を震わせて。
「……やらしいの、分かっちゃった?」
由美が震える声で言う。呆然とする俺を尻目に、彼女はするりと下穿きをおろす。
「…………ッ!!!!」
俺は息を呑む。彼女のそこは、濡れきっていた。
陰唇が飛び出し、充血し、陰核が触れられるほどに屹立している。
初心な由美がそこまで感じきっているのを見るのは初めて……、
いや、学生時代からの経験の中で数度は見たかも知れないが、ともかくすぐに浮かばないほどだ。
「ね、タケちゃん。……抱いて」
由美は潤みきった目で俺を見つめる。
ごくん、と喉が鳴った。



行為の後、お互い汗まみれ、青息吐息で寝そべりながら、俺は質問を投げかけた。
何があったのか、と。
薄々見当はついた。以前に彼女が言っていた精力剤の臨床実験だ。
そのせいか、と問うと、由美は素直に頷いた。だが俺は腑に落ちなかった。


まず効果が強すぎる。
いくら媚薬として優れた薬であっても、ここまで身体に影響を及ぼすような投与はしまい。
薬好きの由美のことだ、プラシーボ(思い込み)効果で特に影響が大きい可能性もある。
だがそれなら、由美に幾ばくかの満ち足りた表情があるはずだった。
便秘で下剤を服用している時でさえ、苦悶と悦楽の入り混じった顔をする奴だ。
だが今の由美に窺えるのは、後ろめたさ、恥ずかしさ、怖さ、そのような物ばかり。


さらには、以前話題にしたときからその時までに、かなりの日数が空いていた。
あの時由美が言った「今度」がいつを指していたのかはわからない。
だがそれは、実に“2ヵ月”の経過した時点ではない筈だ。


俺はそれらの疑念を、できるだけオブラートに包みながら由美にぶつけた。
だが由美は最低限の事を明かすだけで、深く説明しようとはしなかった。


全てが明かされたのは、そこからさらに2ヶ月が経った頃。
由美の働く製薬会社で医師の一人が逮捕され、
由美が薬物中毒で入院する事になってからだった。


昏睡状態から意識が戻るたび、由美はそれまでの事を語ってきた。
意識が混濁し、途切れ途切れで、おまけに会話ごとに「ごめんね」「ごめんなさい」がつくものだから、
解明は遅々として進まなかった。
だがそれ故に、俺は彼女の苦悩をいやというほど味わう事になった。



治験が行われたのは、あの日の会話があった3日後の事だった。
彼女は仲の良い同期と共に実験に臨んでいた。
場には若い女性社員数名と、あとは閉経後の年配女性ばかり。
治験に際して、まずはマウスを対象とした実験の映像が流れたらしい。
頬を擦り付けたり、転げまわったり、メスは明らかに発情していた。
由美は想像以上の効果にたじろいだが、医師は「あくまでマウスだから」と説明したそうだ。
その後、実験が開始された。


『ねぇゆーみん、知ってる?こういう実験ってさ、2つグループがあって、
 一方には本物の薬、もう一方には偽の薬を投与して興奮の度合いを調べるんだってさ。
 偽の方で昂ぶっちゃったら、超恥ずかしいよねぇ~』
由美の同士がそう言った通り、由美たちは2つのグループに分けられた。
由美は同期と離れ、見知らぬ年配女性に囲まれた状態で薬を服用したらしい。
そして、由美は語る。
ちょうど薬を飲もうとコップを傾けた瞬間、部屋の奥から強烈な視線を感じたそうだ。
視線は薬を開発した中年医師のものだった。
彼は食い入る様に由美の喉下を、いや或いは胸元を注視していたが、
由美は『医師として関心があるのだろう』と思って知らぬふりをした。
下心を感じない訳ではなかったが、どうせ見るなら年配より若い方がいいのだろうと、
男の生理を知る由美は考えたらしい。


ひょっとすると偽薬かな、そう考えながら隣の年配女性と会話を交わしていた由美は、
すぐにそうではないと気付いた。
顔から汗が滴っていたからだ。太腿に落ちる冷たさでそれに気付いたという。
やがて胸の奥が熱気のようなもので一杯になり、呼吸が荒くなり始めた。
周囲に気付かれまいと腹式呼吸を試みたが、すぐに隣の女性から「大丈夫?」と問われたという。
「若いからお盛んなのねぇ」
周囲は彼女を振り返って笑い、由美もそうなのかと思った。
おまけに自分が薬が大好きだ、効果が強く出てもおかしくない、と。


由美は語らなかったが、俺は今になって一つ思うことがある。
恐らくこの時に由美に投与された薬品は、それ以外の人間の物より濃度が高かったのだ。
効果に個人差があるとはいえ、健常な一人にだけ爆発的に表れることは考えづらい。
他が10倍希釈だとすれば、由美のものは2倍、ともすれば原液…。
そんな風だったのではないだろうか。




そうこうしているうちに、由美の隣にある白衣の女性が腰掛けたらしい。
「ご機嫌いかが?」
彼女は眼鏡の淵に手をかけて問うた。
由美は彼女を知っていた。先ほどの中年医師の補佐を務める女だ。
「は、はい…えぇと、何だか、すごいですね」
由美は女の登場と昂ぶりでしどろもどろになりながら答えた。
すると女性は笑いながら、由美の腰のベルトに手を潜らせた。
「あっ!」
由美はとっさにその手を押さえるが、女性に見つめられ気まずい沈黙が起きた。
「効果が見たいのよ。あなた若いし、反応良さそうだから。…ね。」
女性はくすぐるように由美の下腹を撫でる。
由美はそのおどけた様子に少し安心し、また相手が目上である事も相まってそっと手を離した。
すると女は遠慮なく由美のスカートに上から手を入れ、ショーツにまで指を潜らせたそうだ。
周囲の年配女性からはからからと笑いが起きていたらしい。
「んっ!」
女性の細い指が秘裂に入り込むと、由美は反射的に声を上げた。
しかし、痛くはなかったそうだ。
「ふふ、とろっとろ。」
女は言いながら中をかき回した。
由美は足を閉じかけるが、女に開いておいて、と囁かれて仕方なく足を開いた。


そこから20分ほど、由美にとって恥辱にまみれた時間が続いたらしい。
足を開いたまま椅子に腰掛け、背もたれを握りしめたまま秘部を嬲られ続けた。
凄く効いてるのね、とか、きつくてステキなあそこね、などと声をかけながらも、
女は巧みに由美をかき回す。
由美からすれば信じられないほどに上手かったらしい。
女の指が膣襞を搔くたびに愛液が溢れ、腰が浮いてしまう。
20分の間に3回は達してしまったと由美は言った。
「ああ、きゅんきゅん締め付けて、気持ちいいのね?
 今度からオナニーする時にはこうやるのよ」
女の言葉を聞きながら、由美は愛液が椅子の下まで滴っているのがわかったらしい。
同時に薬の効果と相まって、どうしようもないほど自分が火照っている事に。

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