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仁美

矢島大介が学食で食事をしていると、背後に座っている男子学生の二人連れが、
気になる事を言った。
「経済学部の山瀬仁美って知ってるか」
「ああ」
「俺、この前、あいつと飲みに行ったんだけど」
男子学生がどこの誰かはどうでも良いが、気になるのは山瀬仁美という名前の方。
何故なら、大介はその名を持つ女とほんの一ヶ月前まで付き合っていたからだ。

「すぐにやらせてくれたぜ」
「付き合ってるのか?」
「まさか。何度かやらせてもらったけど、可愛い顔してる割に貪欲でさ。彼女には
したくないタイプだったぜ」
「サセ子なのかな」
「お前も誘ってみたら?」

ここで大介は席を立った。耳障りこの上ない会話に食欲も失せてしまったのだ。
(仁美、どうしてるのかな)
大介はふと、別れた女の影を追った。容姿は十人並みよりちょっと上、愛嬌があっ
て男好きのする性格だったように思う。あの時はおしとやかで従順で、あまり声を
上げなかったはずだ。大介は薄闇に浮ぶ、仁美の肉体を今もしっかりと目に焼き
付けている。

外へ出てタバコを吸っていると、偶然にもその仁美が目の前を歩いていた。声を
掛けようか迷っていると、
「仁美」
と、見知らぬ男が先に名前を呼んだ。
「篤くん」
「今夜、いいか?皆で飲みたいんだけど」
「いいよ。暇してる」
飲み会の誘いのようだった。大介は黙って踵を返して顔を伏せる。


強い酒を飲んだ時のように、胃がかっと熱くなった。篤くんと呼ばれた男は新しい
恋人だろうか。いや、そうに決まっている。となれば自分が付き合っていた時のよう
に、男女の関係になっているはずだ。俺が手をつけた女があの野郎に。大介の心
は張り裂けんばかりである。

別れた理由は他愛の無い物だった。口喧嘩に始まって、罵られてかっとなりつい
手を上げてしまった。平手でぴしゃりと頬を打つと、仁美は黙って目の前から去って
行った。大介も意固地になり、とうとう今日まで謝る機会を逃してしまったが、仁美を
嫌いになった訳ではない。むしろ離れてからは日、一日と恋心が募るばかりで、共通
の友人に仲裁を頼みたいくらいである。だが、今の様子を見ると、好機を逃してしまっ
た感がある。大介はタバコを揉み消しながら、小さくなる仁美の背を見送った。

その晩、大介は小さな居酒屋で友人と飲んでいた。先だっての事もあり、やや荒れ気
味である。そうして杯を重ねていると、見知った顔が店内に入ってきた。
「五人だけど、空いてるかな」
そう言ったのは、仁美に篤くんと呼ばれた男。その後に仁美と、何人かの男が続く。
「お座敷へどうぞ」
従業員が案内をして、一同は奥座敷へ向かった。
「あれ、うちの学生だろう」
友人の言葉を大介は無視した。仁美が誰と飲もうと関係ない。そう心で叫んでいた。

かれこれ一時間も飲み、小用を足したくなると大介は便所へと向かった。その時、あの
奥座敷の前を通るのだが、わざと顔を背けてやり過ごす。ただ耳を欹てていたので、
間接的ながらも中の様子が窺えた。
「いいぞ、仁美。もっと脱げ」
耳を押さえたくなるような居酒屋の喧騒の中で、大介ははっきりとその言葉を聞いた。
そして心臓が誰かの手に掴まれたように痛む。


「ブラも取っちまえよ」
また聞こえた。この中で一体何が起こっているのか。大介の心臓は恐ろしいほどに
早まった。
「駄目よ、これ以上は」
「もったいつけるなよ」
「下も脱げ」
大介の脳内に、男数人を向こうに回して服を脱ぐ仁美の姿が結ばれた。なまじ女体
を知っている為、一層、現実味を帯びていた。

「あっ、駄目よ。触らないで」
「お客さん、おさわりは困りますねえ」
篤という名のあの男が、妙な節回しでそんな事を言った。仁美をストリッパーか何か
に見立てている。その事が大介の癪に障った。
「おっぱいの形が良いな」
「そそるぜ」
酒が回っているのか、淫猥な言葉が次々に仁美へ投げかけられている。この襖一枚
を隔てて、かつて恋人だった女が男数人の前で素肌を晒しているという事実に、大介
は絶望的な気持ちになった。

(悪い夢なら醒めてくれ)
過酷な現実だった。立ち止まらなければ良かった。知らなければそれで済んだのにと
こみ上げてくる涙を辛うじて止めた。
「パンツは俺が脱がしてやるよ」
篤の声だった。次に聞こえてきたのは仁美の哀願する声。
「ここじゃ危ないよ。お店の人が入ってくるかもしれないし、やめようよ」
「追加注文しなきゃ、わざわざ入ってこないさ。おい、お前ら、体押さえとけ」
「駄目だって・・・あっ」
ここで会話は途絶えた。後は店内の喧騒に紛れて、中の様子は窺えなかった。


(仁美)
大介は顔を手で押さえながら、男たちに捕らえられるかつての恋人の姿を思った。
仁美は篤の恋人ではない。男数人の共通の玩具である。どんな激しい行為に及ぶ
のだろうか。嫌がっているのか、それとも喜んでいるのか。様々な光景が頭の奥で
結ばれ、切れ切れに散っていく。落花無残とでも言うべきか、美しい花が手折られる
ような残酷さがそこにはあった。

座席に戻った大介の顔を見て、友人が驚いた。
「お前、顔色悪いぜ」
「酔ったかな」
「そろそろお勘定といくか」
「いや、もう少し飲みたい気分なんだ」
そう、仁美と男たちがあの奥座敷から出てくるまでは──大介は震える手で杯を
干した。

それから一時間ほどして、あの篤が伝票を持って現れた。その後に仁美、そして
男たちと入店時と同じ並びでやって来る。大介が横目で仁美を見ると、ひどく憔悴
した感じだった。それに対し、男共はすっきりした顔である。大介は小一時間で、
仁美が男全員に犯されたと悟った。まるで玩具のように扱われたのだ。仁美が店を
出た時、大介も反射的に飛び出していた。闇の中で目を凝らすと、一同は大通りに
向かって歩いていく所だった。

仁美は男達の真ん中にいて、足取りも覚束ないようだったが、夜風に当たって気を
取り戻したのか、存外、上機嫌である。その時、不意に男の一人が仁美のスカートを
捲り上げると、真っ白な尻がお目見えした。下着は身に着けていない。
「やだ、やめてよ」
「そうだぜ。今夜はこれから、いくらでもできるんだから」
「そうよ、篤くんの言う通り」
アハハ、と仁美は大声で笑った。その自棄のような楽しんでるような、かつて恋人と
呼んだ女の複雑極まる様子を、大介は落涙しながら見送った。

おすまい

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