2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『練習』・・・4

僕はモモちゃんをどこまで傷つければ良いのだろう?
「先輩に嫌われちゃうよ…それでもいいの?」
「えっと…じゃあ、練習が終わるまでしまっておく…」
「しまって置いたら気になって『練習』出来ないでしょ?」
「でも…でも…捨てられないよ」
「違うよ」
「えっ、じゃあ…捨てなくて「壊すんだ」
ほっとして言葉を続けようとしたモモちゃんの言葉を遮り言う。

僕は自分のつまらなく、醜い感情を隠し正当化するため言葉を紡ぐ。
「モモちゃんはまだ使える物を捨てられないし、あったらあったで集中できないでしょ?」
「でも…でも…」
師走先輩からもらった髪留め。
モモちゃんの宝物。
それを壊せと言う僕。
「どうしてもと言うなら、壊さなくてもいいんだよ」
「えっ…じゃあ…」
希望を見つけ、それに縋ろうとするモモちゃん。
「でも、ちゃんと『練習』しないと師走先輩に捨てられちゃうよ」
「そんな…」
希望を叩き潰す僕。
「だから、モモちゃんが師走先輩を諦めるなら、その髪飾りを大切にするといい」
「嫌…嫌…両方は、ダメなの…?」
僕の胸が痛む。
こんなことをして何になるだろうか?
髪留めの一つや二つくらい良いのでは?
先輩との仲直りのしるし。
ダメだ、目障りだ。
「モモちゃん…僕はモモちゃんのために最高の選択肢を考えているんだ。それでも限界はあるんだ」
聞き分けのない子供に言い聞かせるように言う僕。
聞き分けのない子供は僕だというのに。
「だって…」
「『本番』の時に先輩が喜んでくれなかったら、どうするの?」
「……本当に…本当にそれしかないの…?」
苦しそうに言葉を搾り出すモモちゃん。
こんな馬鹿げた主張も信じるほど、僕を信頼し無垢なモモちゃん。
そして、それを利用する僕。
「モモちゃんが選ぶんだ、髪留めか、先輩か」
「……ぇ……」
「なに?」
「…セン…パイ…」
そう言ってモモちゃんはゆっくりと髪留めを外す。
そして、僕に渡そうとする。


「待って、モモちゃん」
「な、なに?」
「モモちゃんが選んだのに僕に壊させるの?」
「えっ…?」
「モモちゃんが選んだのに僕にその責任を負わせるの?モモちゃんがやるんだ」
「あっ…うっ…あっ…」
卑劣な僕。
モモちゃんの宝物をモモちゃん自身に壊させようとする僕。
モモちゃんは髪留めを両手に持ってブルブルと震えている。
壊すためというより必死に守るために。
涙をポロポロと流すモモちゃん。
僕はモモちゃんの背後に回り自分の手を後ろからそっと、包み込むように添える。
「シュン…ちゃん…?」
「髪留めはちょっと丈夫かもしれないから、僕も手伝うよ」
「今…じゃ…ダメ…?」
「いつに、するの?」
「後で…そう…後で」
モモちゃんは何とか髪留めを守ろうとする。
その健気な姿は僕の大好きなモモちゃん。
でも、モモちゃんが守ろうとしているのは…
「明日も、そう言うの?」
「えっ…?」
「明日も、明後日も、『後で』『後で』『後で』、何時まで経ってもできないよ…それじゃ」
「でも…」
「『今』しかないんだよ、モモちゃん」
諭すように優しく言う僕。
最低な、僕。
「……」
「モモちゃん、合図するから、その時に力を込めて…」
「うん…」
涙に染まった視界に、モモちゃんの宝物は目に入っているのだろうか?
モモちゃんの涙を拭き視界をクリアにする。
モモちゃんが自分の手で何をするか、きちんと見ていてもらわないと。
「3……2……1……ゼロ」
それだけで、
モモちゃんの手の中の宝物は、あっけなく壊れた。
「うっ……ごめんね…ごめんね……うっ……うっ……」
嗚咽するモモちゃん。



モモちゃんの中では自分の手で宝物を壊したことになっているだろう。
僕は、あくまで、『手伝い』。
僕が壊したのに。
「モモちゃん」
「ひっぐ……ひっぐ……」
「泣きたい時は、ちゃんと泣かなきゃ、ダメだよ?」
僕は自分がここまで下劣な人間とは思わなかった。
けど、モモちゃんはその言葉を聞き、
「うっうっ、うわーーーーーーーーーーーーん!!」
大声で泣き出した。
僕は、頭をなでながらあやした。
「ひっく…ひっく…」
少し落ち着いてきたモモちゃんに
「よく、がんばったね」
「えっ…?」
信じられない、といった表情で僕を見るモモちゃん。
「でも…私…」
「モモちゃん、君は『練習』をしよう、そういう強い意志を持って未練を断ち切ったんだ」
先輩のため、宝物のこと。
両方とも出さずに、『練習』のため、未練を断ち切った。
僕はそう言った。
「うっ…うっ…未練…?」
「そう、モモちゃんは『練習』に集中するために頑張ったんだ。自分を誇っていい」
「そう…なの…」
僕の用意した逃げ道。
モモちゃんは宝物を壊したんじゃなく、
『練習』のために未練を断ち切ったんだ、と。
もちろん、こんなことを簡単に受け入れないだろう、すぐには。
だが、罪悪感と戦ううちに、この考えを全て、とはいかないが徐々に受け入れるだろう。
モモちゃんは僕のことを信じる。
だから、そうする。
僕はモモちゃんを優しく抱きしめる。
「僕だけは何があってもモモちゃんの味方だからね…」
そう言って、モモちゃんが泣き止むまで抱きしめる。
「…これで…良かったんだよね…シュンちゃん…?」
自分に言い聞かせるように、僕に縋りつくように、言うモモちゃん。
「もちろんだよ、モモちゃん…」
僕にとっては、良かった。
でも、モモちゃんにとっては?
それでも、安心した様子を見せるモモちゃん。
しばらくして、モモちゃんがだいぶ落ち着いてきたので今日はお別れということになった。
「じゃあね、モモちゃん、また明日」
「うん…ありがとう、シュンちゃん」


モモちゃんは笑顔だったけど、少し悲しげだった。
モモちゃんはこんな僕にありがとう、と言う。
小学生の頃も僕はモモちゃんにしょうもない嘘をついていた。
『百葉箱は葉っぱを百枚付けてないといけないんだ』とか。
モモちゃんは本当に百枚葉っぱを集め、ペタペタと張り出した。
今更嘘だよ、と言い辛くモモちゃんてバカじゃないか?と思いながら手伝った。
そして、翌日、葉っぱがペタペタ張られた百葉箱の前で、僕とモモちゃんは叱られた。
お説教が終わった後も、モモちゃんは僕をなじったりしなかった。
『シュンちゃん、楽しかったね!』と笑っていた。
その笑顔を見て僕はモモちゃんはどうしようもないバカだ、と確信した。
今ならわかる。
バカなのは、モモちゃんの信頼を裏切り嘲笑していた僕のほうだと。
そして、今の僕は大バカ者だ。
ポケットの中に壊れてしまったモモちゃんの宝物が入っていた。
モモちゃんのことだから、捨てずにとっておくかもしれない。
だから、僕が代わりに捨ててきてあげる、と言った。
壊れた宝物を見つめ、僕は、暗い笑みを浮かべた。
捻じ曲がった僕の心は喜びを感じていた。
モモちゃんにこびり付いた目障りなシミを一つだが排除できたから。
それに、形だけとは言えモモちゃんの手で壊させたのだ。
モモちゃんと先輩の間の絆をモモちゃん自身の手で。
僕は今日1日を思い返す。
モモちゃんの涙。
自分自身に吐き気がした。
それでも僕は、止まらない。

コメント

きもい

男9女1で吐き気がする

コメントの投稿

非公開コメント

最近のトラックバック

アクセスランキング

アクセスランキング ☆ランキングの参加は、このページ
http://saeta.blog.2nt.com/
にリンクするだけです☆

ブロとも申請フォーム

お知らせ

(*´Д`)<ハァハァ・・・・・・

かんりにん:(*´Д`)<ハァハァ・・・・・・
相互リンクも大歓迎です。
気に入ったらどんどんリンクしてください。

コメント欄にでも知らせてくださると嬉しいです。

ブログ内検索

注目

ページの先頭へ戻る