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今だけは……忘れられるから……(2)

 キスをしながら胸を愛撫されると、これからセックスをするんだと嫌でも意識しまう。
 嫌……ではないのだが、恥ずかしさに思考が鈍ってゆく。
「んっ……あっ……んっ!…そっちはっ」
 純は手馴れていて愛撫がとても上手だった。
 だからいつも間にか性感を高められていて、スカートの中に手が進入してきたことに気付かなかった。
「もう十分濡れてる感じだな」
 ショーツの上から触れられただけでも、自分で濡れてしまっていることが分かるくらい愛液を滲ませていた。
「言わないで…」
 恥ずかしさに顔を覆ってしまう比呂美。それが逆に無防備になってしまい、純はショーツをするすると脱がせてしまう。
「あっ……」
「もっと良くしてやるから」
 言って純は半分比呂美に覆いかぶさるようにして、キスをし、左手で胸を弄り、膣内に指を挿れた。
「んっ!んふっ…んっ、んっ!」
 くちくちと純はわざと音を立てるようにして比呂美の羞恥を煽りながら、膣壁を引っかくように擦ってゆく。
 加えて親指で器用にクリトリスも刺激すると、比呂美は目に見えて身体をびくびくと反応させて喘いだ。
「ダメっ…純さっ……もうっ」
「イッていいよ」
 純に耳元で囁かれ比呂美の全身にゾクゾクとした何かが走り抜けた。
 そして止めとばかりにGスポットを強く擦り上げられた。
「やっ!ダメっ…んっ、んんっっ─! ああっ、んっ…あはぁ…」
 ビクビクと身をこわばらせて比呂美は絶頂に達する。
 ……もういいだろ……
 もうここにはいられない。想い人が他の男に抱かれる様は見たくない。なのに、
「んっ……はぁ……はぁ……」
 比呂美の漏らす喘ぎ、吐息が足を絡める鎖のように巻きついて足が動かなかった。


 ぎしっと音が鳴って眞一郎ははっとした。
 リビングを見れば横たえた比呂美と向き合うようにソファに上がる純の姿が見えた。
「あっ……」
 達して力の抜けていた比呂美はその様を眺めることしかできず、これから何をするかは一目瞭然だった。
 ……やめてくれ!
 声を上げて部屋に突入したい思いだった。だが、そんなことできるはずがなかった。
『私が好きなのは蛍川の4番』
 それが呪いの言葉のように眞一郎を押しとどめていた。
 これは比呂美が望んだ状況で、自分が後押しした状況なのだと。
「挿れるぞ」
 再び勃起したモノを比呂美の膣口に宛がう純。
 わかっている……わかっているんだ……
 これが比呂美にとって一番幸せなことなんだと。
 けど、けど──!
「んっ…あっ!…んんっ……!」
 俺はそれでも比呂美が好きなんだよっ……!

 眞一郎の想いは報われることなく、比呂美の膣内は純のペニスで満たされていった。

「大丈夫か?」
 体勢的に密着できる限界まで腰を沈めて、純は息を吐いた。
「んっ……大丈夫…」
 初めの数回は破瓜の痛みが残っていたが、もうほとんど痛みはなくなっていた。
 が、異物を膣内に収めることにはまだ慣れず、純の大きなサイズもあって苦しさはまだ残っていた。
「そっか、ならよかった」
 比呂美の膣内は処女を失って間のないきつさが残っていて、締りもとても良かった。
 その上膣襞がペニスを歓迎するように生き物のごとく絡み付いてきて、挿入するだけで十分気持ちよかった。
 初めて比呂美としたとき“名器”だなと感じたが、数回こなした今間違いないと確信していた。
「動くぞ」
 比呂美の返答を待たず、純はゆっくりと動き出した。
「んっ…あっ…!んっ……んんっ……」
 実は達したばかりで少し敏感になっていた比呂美には少しの動きでも感じすぎるくらいだった。
 それを見抜いていた純はもっと比呂美を煽るように語り掛ける。
「比呂美の膣内はいいな。今までした中で一番良いよ」
「やだっ……比べないでっ……」
「比べるのが馬鹿らしくなるくらいだって」
 比呂美は羞恥心が高まるほど感じてしまうタイプだというのはこれまでの経験でわかっていた。
 大きなストロークで膣内を擦りながら、彼女が恥ずかしくなるよなことをたくさん囁いてやる。
「絡み付いて吸い付いて…たまらないな」
「んっ…そんなことっ…!んんっ…んっ、あっ…ああっ……!」
 言葉からの恥ずかしさと、身体からの快感であっさりと高められていやいやと比呂美は首を振る。


「気持ち良いか?」
 純はストロークを続けながら、覆いかぶさり両胸を揉みながら比呂美に尋ねる。
「んんっ、ふぁっ…あんっ……ん、んんっ……」
 素直に気持ち良いと答えることもできず、視線を逸らすことでごまかそうとするが、
そうすることでより快楽が内に溜まっていってますます我慢できなくなってゆく。
「顔見せて」
「あっ…!」
 背けている比呂美の顔を両手で正面を向かせる。
 汗ばむ肌に前髪が張り付き、瞳は泣きそうなくらい潤み、頬はこの上なく紅潮していた。
 その表情は年不相応の色気があって純もどきりとさせられた。
「やっ……」
 感じている自分の姿をまじまじと見られるのが恥ずかしくて比呂美は目を伏せる。
 同時に身をこわばらせ、膣内もきゅっと締まった。
「あっ!やぁっ、んんっ…純さんっ、激しっ…!」
 強く擦れるこの瞬間を狙って純は身を起こして、激しく腰を動かした。
「んんっ、もぅっ!んっ、ああっ…イクッ…!んっ!あっ!ああっっー!」
 身体を突っ張らせて比呂美は達した。
「くっ……」
 膣内が思い切り締め付けられ、一気に射精感が高まるのをなんとかやりすごす。
「あっ…ああっ……はぁ……はぁ……んっ…んんっ」
 絶頂の余韻が冷めぬまに、純は比呂美と唇を重ねた。

「んんっ!…あっ、あっ…んふっ、んんっ…んっ!あんっ…」
「やらしいな…男に跨って腰ふるタイプには見えないんだけどな…」
 比呂美の柔らかなお尻を支えるように掴んで純は言う。
 子宮口を擦られるのはゆっくりでも感じすぎるくらいだったが、比呂美はその動きを止めることはしなった。
「だって……こうしてるとっ、んんっ…凄く感じて…今だけは……忘れられるから……」
 途切れ途切れに、比呂美は切なげに呟いた。
「……そうだな……こうしてるときが一番忘れられる」
 ……忘れる……?……何を?……
 二人の言葉は俯く眞一郎にも届いたが、その意味を理解することはできなかった。
 共有する想いがあって、二人はそれで惹かれあったのだと眞一郎は知る由もない。
「もっと忘れさせてやるから」
 言って、純はソファの弾力を利用して比呂美の奥を突き上げ始める。
「ああっ!あんっ、んっ、んんっ!凄いっ…あんっ…いいっ…!」
 奥を突かれれば突かれる程、思考が弾け頭の中が真っ白になってゆく。
 膣内は締まり、愛液をまとった肉襞が絡みつき、純にも多大な性感を与えた。
「もうっ、もう、私っ!」
「俺もイクから…」
 絶頂を訴える比呂美に応えるように、純もスパートをかけた。
「ああっ!あんっ!イクっ…もうっ…!イクぅっ……!」
「イクぞ」
「うんっ、来てっ、来てっ!…んっ!あんっ!イクっ、あっ、ああっっ──!!」
 比呂美と純、二人が同時に絶頂に達する。

 その瞬間、眞一郎の瞳から一粒の涙がこぼれた。

 達してふわふわとした気持ちのまま、優しくキスをされ少しだけ幸せな気分にさせられた。
 唇が離れ純の顔を確認するとその気持ちはすぐに霧散した。
 それが何故なのか。比呂美には分かっていたが、今は分かりたくなかった。
「純さんまだ……」
 純が射精しなかったのは感覚的に分かっていた。
「次こっち乗って」
 純は比呂美の膣内から抜き去ると、ソファに座り込む。
 比呂美は気だるげに身を起こして、付けたままのスカートを外した。
 彼の肩を支えに足を跨ぐ。そそり立つペニスめがけてゆっくりと腰を下ろしてゆく。
「んっ……」
 先端が触れたところで、純の方で膣口にペニスを宛がう。
 二度イカされたっぷりと愛液を湛えた膣内は、先端が少し入り込んだだけでちゅぷりと淫らな音を上げた。
「あっ……んんっ……!」
 ぬるぬると柔襞を切り裂く感触に膝が振るえ、身体を支えきれなくなり比呂美は純にもたれる様に一気に挿入した。
「んんっ!…ああっ…んふっ……」
 自分の体重が思い切り膣奥を押し上げることになり、比呂美はそれだけで軽く達した。
「子宮降りてきるな…奥当たってるのわかるだろ?」
 比呂美は純に抱きつきながら、こくんと頷く。
「奥までいっぱい……あんっ、んっ……んんっ……」
 そのまま比呂美は自分で子宮口を擦るようにゆっくりと腰をくねらせ始めた。

 比呂美の腰を抱き寄せ、ペニスの先端を子宮口に擦りながら純はびゅくびゅくと勢い良く射精した。
 我慢したせいか、フェラでの射精時より多くの精液を膣内へと解き放った。
「あっ…ああっ……んんっ……んはぁ……」
 ビクビクと暴れるペニスをしっかりと締め付けながら、注ぎ込まれる熱い精液の感触に陶酔する比呂美。
 本当に何も考えられなくなり、ただただ快楽の海を漂う。
 間違いなく幸せだった。満たされていた。この瞬間だけは──
「……抜くぞ」
 一足先に落ち着いた純が比呂美をソファに座らせるように身体を入れ替える。
「あっ、待って……もう少しだけ……」
 まだこの感覚を失いたくない。その思いで比呂美は離れようとした純の腕を掴む。
「もう…時間だろ」
 言われて辺りが暗くなりかけているのに気付いた。
 居候の身分でいつまでも外にいられない。
「シャワー浴びてくんだろ?」
「……ん」
 比呂美が納得したのを確認して膣内からペニスを抜き去る。
「んふっ……」
 同時に綻んだ膣口から純の放った濃厚な精液がこぽりと溢れた。
 それを純はティッシュと取って拭ってやる。
 他人に拭かれるのは恥ずかしかったが力の入らない比呂美はされるがままにするしかなった。

「でも……もう少しだけこうしてたかった」
 俯き加減に比呂美は呟く。
「なら一緒にシャワー浴びるか? それならまだしてやれるぞ」
「そんな……一緒になんて恥ずかしい……」
 意地悪く問う純の視線から顔を背けて比呂美は頬を染めた。
「今さら恥ずかしいもないだろ?」
 純は拭くのを止めて、膣内に指を差し込んで膣壁を引っかきながらまた抜いた。
「んんっ!」
「こんなに男の精液受けとめてるんだから」
 まだ残っていた精液がかき出されてそれを見せ付けられる。
 淫らな女だと言わんばかりに。
「………わかった…………だから、もっとして……」
 淫らでも構わなかった。
 はしたなくても構わなかった。
 純がこうして忘れさせてくれるなら。
 いつか本当に忘れられるときがくるなら。


 陽の沈みかける町の中を眞一郎は一人歩いていた。
 見たくなった。見なければ良かった。
 そうすればこんな思いをしなくてすんだのに……
 後悔だけが身体に巻きついて、他には何も考えられなかった。
「……眞一郎?」
 誰かが自分の名を呼んで、ふと前を見ると、きょとんとした顔の乃絵がいた。
「どうしたのこんなところで?」
「いや……そのちょっと…」
 いつもいつもタイミングが悪いな。と眞一郎は思った。
 こんなときは誰にも会いたくないのに。
「……眞一郎……泣いてるわ……」
「えっ……?」
 言われて初めて気付いた。乃絵が背を伸ばして頬を伝う涙を指で拭った。
「あっ……俺……」
 ヘボ涙と言われたあの時を思い出した。
「ま、またヘボ涙とか言うんじゃないだろうなっ」
 恥ずかしくなってごしごしと袖で涙を拭う。
「そんなこと言わないわ」
 予想に反して乃絵は眞一郎を抱きとめた。
「それは眞一郎を強くする涙。だから、もっと流したほうがいい」
「あっ……うっ……っ!…っ……!」
 押しとどめていたものがその一言で堰を切ったようにあふれ出して止まらなくなってしまった。
 眞一郎は逆に乃絵を抱きしめるようにしてその肩口で声を押し殺して泣いた。
 時間が許す限り、いつまでも。

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