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今だけは……忘れられるから……(1)

「乃絵と付き合ってやってくれ」
「俺が石動乃絵と付き合う代わりにあんたに比呂美と付き合ってくれって言ったらどうする?」
「かわいいよな。あの子。……じゃ、そうゆうことで」

 売り言葉に買い言葉。というつもりでもなかったが、眞一郎は石動純の言動に納得がいかず、勢いに任せてそんなことを言ってしまった。
 比呂美は石動純のことが好きだと言っていたし、自分も比呂美を諦めるためには必要なことのようにも思える。
 けど、胸の奥の蟠りが気持ち悪かった。

 眞一郎と純とのやりとりからほぼ二月が過ぎた。
 あれから純とは何もなかったが、比呂美と接する機会が減ったように眞一郎は感じていた。
 もともと学校でも家でも会話することが少なかったが、早くに登校したり帰宅が遅かったり姿を見ることも少なくなった気がした。
 部活が忙しいんだろうと眞一郎は推測していたが、実際はどうも違うらしい。
「最近 比呂美どうしたのかな? 部活休みがちだよね」
「ん?なんか家の方の用事でいろいろ忙しいみたいだよ」
 昼休みに偶然 比呂美と同じバスケ部の子がそんな話をしているのを聞いてしまったのだ。
 確かに彼女は酒屋である家の手伝いをしてくれてはいるが、部活を休んでまですることではないし、
部活のしてない自分が、早くに帰宅して手伝いをしている比呂美の姿を見たことはなかった。
 ……比呂美のやつどうしたんだ……?

 放課後。眞一郎は視線で比呂美を追っていた。
 部活仲間の朋与と申し訳なさそうな表情をして会話をしている。
 どうやら今日も部活を休むようだ。
「眞一郎ー。あいちゃん寄ってこうぜ」
「悪い。今日ちょっと用があるんだ」
 比呂美が教室を出たのを確認して、三代吉の誘いを断り席を立つ。
 なんだよつれないなーとつまらなそうな顔で非難する三代吉に、悪いなともう一度告げて教室をあとにした。
 探偵よろしく付かず離れずの距離で比呂美の後を追う眞一郎。
 いや、これはむしろストーカーだろ…
 馬鹿なことをしていると自分を蔑みながらも、比呂美が何をしているのか真相が知りたかった。

 他の生徒と同様に学校を後にしていく比呂美。案の定自宅とは違う方に向かってゆく。
 長く綺麗な髪がさらさら揺れる様は遠目に見ても目立つので見失うことはなさそうだ。
 しかしどこに向かって歩いているのか見当がつかない。
 気付けば知らない路地を進んでいて、うっかりすると帰り道に迷いそうだった。
 そうして数十分歩き続けた結果、辿り付いたのは住宅街の見知らぬ一軒屋だった。
 ……誰の家だ?
 比呂美がインターホンを押し少しすると引き戸のドアが開いた。
 眞一郎の場所からは死角になって誰が出迎えたか見えない。
 誰かを確認する前に比呂美はそのまま家の中へ招かれていってしまった。
 行ってみるか。物陰から出て眞一郎はその家に向かう。真っ先に目にしたのは、
 ……このバイク……石動乃絵の兄貴の……!
 紛れもなく純のバイクがそこに止めてあった。
 なら、この家は石動家と思って間違いない。
 だとすれば比呂美を出迎えたのは──……
 嫌な胸騒ぎがした。眞一郎は思わず戸口に手をかけた。

 !……開いてる……
 鍵をかけ忘れたのか、日中在宅時は鍵をかけないのか?
 勢いで手をかけたものの、まさか鍵がかかってないとは思わなかった。
 ただ、鍵が開いてるとはいえ、自分は何をしようというのか?
 勝手に上がってしまえば明らかな不法侵入だし、石動家に自分がいることに理由がない。
 比呂美のことが気になるからなんて、私情も甚だしい。
 ただ……それでも比呂美の事が気になって仕方がない。
 彼女は純のことが好きで、もし二人がいつの間にかそういう関係になっていたのなら……
 それでも……それでも俺は…… 
 常識的なことなど全てふっとばして、感情的な思考のまま眞一郎はドアを静かに開けた。
 ゆっくりと音を立てないように、足音、衣擦れ、息さえも押し殺して玄関の中へ。
「……ん……あっ………」
 静かな空間からわずかに聞こえた女性のくぐもった声…
 嘘……だろ……
 玄関からすぐ近くの部屋…リビングだろうか? そこから漏れる声に吸い寄せられるように、
眞一郎は激しく打ち付ける自分の鼓動の音を聞きながらふらふらと近づく。
 閉まりきっていない扉から覗き込んだ瞳に映ったのは……
「んっ……っ……」
 抱き合い、唇を重ねる比呂美と純の姿だった。

 …………そんな……
 眞一郎は愕然として身体から力が抜けてしまい、壁に寄りかかるようにその場に崩れこんでしまった。
 二人はもうそんな関係だったのかと、やっぱりこんなことやめておけばよかったと、後悔の念が一気に押し寄せてきて、自分が愚かで哀れで情けなさで消えてしまいたくなってしまった。
 二人に気付かれる前に早くこの場を立ち去りたい。そう思うのに、
 ……比呂美…………
 二人がこれから何をするのか──それはわかりきってはいるのだけど──気がかりでその場を動けない。
 事実、
「ん……純さん……んんっ……」
 比呂美の声に下半身が反応してしまっていていた。

 互いに制服姿のまま、二人は唇をゆっくりと重ねあう優しいキスを繰り返していた。
 それは純が主導で彼が上唇や下唇をはむのを比呂美が受けとめているといった感じだった。
「……はぁ……んっ……」
 互いの唇を潤しあい、時折唇が離れれば短く銀の糸が引く。
 そんな恋人同時の甘いひと時を、眞一郎は胸が締め付けられる思いで見つめていた。
 いつか比呂美と──そんな夢を見なかったといったら嘘になる。
 比呂美と結ばれることを夢想して、自慰をしたことだってある。
 それでも、現実は甘くも優しくもなく……ただ残酷だった。
「……んっ……!…」
 純が比呂美の右手を取ると自分の股間に引き寄せてきたので、比呂美は驚いて唇を離してしまった。
「触って…」
 短く告げて純は再び彼女の唇を奪う。
「んっ!……っ……んっ……」
 比呂美は恥ずかしさに頬を真赤に染めながらも、観念したのか膨らむ純の股間をおずおずと撫で擦る。
 ……あいつ比呂美にあんなこと……
 眞一郎は悔しさに拳を握り締める。
 自分が同じ立場だったらさせているかもしれないことでも、他人にされていれば怒りがこみ上げる。
 ただそれも比呂美が望んだ関係ならばどうすることもできない。

「口でしてくれるか?」
 長いキスを終えてぼんやりしている比呂美に純は問いかける。
 口でって……比呂美断ってくれよ……!
 祈るような思いで比呂美を見つめる眞一郎だったが、
「……うん」
 ……そんな……
 無常にも比呂美はそれを受け入れた。
 三人がけのソファに純が座ると、比呂美がその前にかがみ込む。
 純のベルトに手をかけ外すと、ジッパーを開けズボンを降ろすとトランクスに手をかける。
 そこで戸惑うように純を見上げる比呂美だったが、
純が何も言わず見つめ返すのを受けて、目を逸らしがちにしながらも慎重に脱がせた。
「……っ……」
 すでに十分勃起したペニスが比呂美の目の前に現れ、存在を主張する。
 眞一郎は知らないことだが、比呂美は数度 純のペニスを見ている。
 それでもやはりこうはっきりと視界に入れられるのは恥ずかしくてたまらなかった。
「それじゃ……するから……」
「あぁ…」
 決心しておずおずと純のペニスに手を伸ばし、利き手で優しく根元を握った。
 ……くそっ!
 見ていられなくて眞一郎は顔を背けた。 
 なのに、二人の息遣いや、かすかな動作音がはっきりと耳に張ってきて、ますます股間が刺激されるばかりだった。

 熱くて、硬い……
 純のモノをゆっくりと撫でながら比呂美は思った。
 誰かと結ばれ深い仲になればこういうことをする日がくるかもと考えたこともあるが、
実際にするとなるとこんなにも恥ずかしくてドキドキするものだとは思わなかった。
「……んっ……」
 ペニスを両手で支えるようにすると、先端に優しくキスをするように唇をつけた。
 ……………………
 目をそむけたい。目を背けられない。
 二律背半な思いのまま、眞一郎はその光景を見てしまいまたひとつ大切な何かを失ったような気がした。
「んっ………っちゅ……ん……はぁっ……んっ……」
 小さな猫のように短く舌を出し先端に濡らすようになめてゆく。
 亀頭の部分が乾いていると、触ったときに痛みがあるということは純に教えられていたので、
まずは全体を湿らせることから始めた。
 亀頭を舐め、カリ首周りにも舌を這わせる。
 これでいいの?というように比呂美が純を見上げると、彼は比呂美の髪を優しく撫でた。
 肯定と受け取った比呂美はさらに全体的にペニスを舐め上げていく。
 ゆっくりと腫れ物を扱うようにして、性感を呼び起こす努力をする。
「咥えて」
「うん……」
 十分にペニスが湿ったところで純の次の要求を受け入れる。
「んっ……んんっ……」
 ゆっくりと口内へ迎え入れ、唇で優しく締め付け舌も這わせた。

 もう眞一郎は完全に視線を落としていた。
 その場に座り込んで動こうにも動く気力すらなくなってしまっていた。
 ただただ、漏れてくる音を受け入れるしかなかった。


 どうすれば男が気持ちよくなるかはだいたいわかっていたので、
比呂美は唇で締め付けながら頭を動かし、ペニスをゆっくりと擦ってゆく。
 純のモノがどの程度大きいものなのか他の男を知らない比呂美には分からないが、
喉奥付近まで飲み込んでもまだいくらか余裕があるサイズだった。
「んっ…っぢゅっ……んんっ……んっ……」
 時折自分の唾液がこぼれそうになりそれをすする音や、空気が漏れてしまう音が大きく聞こえて、
大胆ではしたないことをしているような気になってますます頬を朱に染めて恥ずかしさでいっぱいになってしまう。
 そんなことに気を取られたからか、ほんのわずかだが比呂美の歯が純の先端に当たってしまった。
「痛っ……!」
「!…ごめんなさい……!」
 比呂美は慌てて口を離し申し訳なさそうに純を見上げた。
「……大丈夫だから続けて」
 微かに顔を歪めたが、何事なかったように純は続きを促した。
「ごめんなさい……」
 もう一度謝って、比呂美は歯を当てたところを癒すように何度も優しく舐めた。
 そしてもう一度咥え直し、今度はもっと優しく慎重に出し入れする。
 技術はないが奉仕する心遣いが十分に伝わってくるフェラチオに純の性感は確実に高まっていた。
「……このまま出していいか?」
「…………うん」
 少し逡巡したが比呂美は了承すると、自分なりに精一杯唇を舌を頭を動かしペニスを刺激した。


「っ……出すぞっ……!」
 純は宣言と同時に深く咥えた比呂美に喉奥に思い切り射精した。
「んんっ!…んっ!…っはっ!…けほっ………んん……」
 あっという間に喉奥を満たされ息ができなくなってしまった比呂美はペニスを外してしまい、
行き場のなくした精液を顔に浴びることになってしまった。
「大丈夫か?」
 喉に絡む精液を処理しようと何度も噎せる比呂美に純は心配そうに声をかける。
「んふっ……んっ……大丈夫…」
「待ってろ」
 純はその場を離れると台所へ向かい、コップへ水を汲んで戻ってきた。
 眞一郎は一瞬気付かれたかと焦ったがそうではなく息を吐いた。
「ほら、これ」
「…ありがとう」
 純の汲んできた水で口内をすすぐ様にしてゆっくり飲んでゆく。
 ホントは吐き出したいような気もしたが、純の手前そういうことはしたくなかった。
「悪い。無理させたな」
 言いながら近くから取ったティッシュで比呂美の顔についた精液をぬぐってゆく。
「ううん……気持ちよかったならそれでいいから…」
 健気な比呂美の言葉に純より眞一郎の方が反応する。
 ……ホントにアイツのことが好きなんだな……


「今度は俺が良くしてやるよ」
「えっ?…きゃっ!」
 純が比呂美の手を取り立ち上がらせると、そのままソファに座らせ肩を抱き唇を奪う。
「んっ!…んんっ……ぷはっ…んっ、んんっ…」
 さっきのとは違う舌を入れた濃厚なキスをする純。
 空いた右手で比呂美の胸を制服の上から弄る。
「んふっ、んっ…んんっ……」
 進入してくる舌を受けとめるので精一杯な比呂美は、自分の身体に触れられるのをされるがまま受け入れた。
 そのまま純は器用に上着を脱がしてゆき、ブラウスのボタンも外して、清純そうな比呂美らしい白のブラジャーに包まれた胸を露にする。
「外して」
 さすがに背中に手を回すのは難しいのか最後は比呂美に任せる。
「……………………」
 戸惑いながらも比呂美はあまりはっきり見られないよう身をかがめながら背中に手を回してブラを外した。
 ……あれが比呂美の……
 思わず眞一郎は息を呑んだ。
 どちらかといえば大きい部類に入る比呂美の乳房は離れて見ても綺麗だった。
 形も良くて頂の桃色の乳首は小さくて可愛らしかった。
「んっ…」
 その憧れすら覚える乳房に、純はあっさりと触れ優しく撫で回す。
 眞一郎は嫉妬心に身を焦がされる思いだった。

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