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水寺真姫 1

出会いがしらに頭をゴツン!
目覚めてみればアラ不思議、ぶつかった相手と人格が入れ替わっちゃった!
……なんていう、漫画やアニメでしかお目にかかれないような現象が、わが身に降り注ぐなんて。
信じられない。
ありえない。
けれど、現実は厳然と私に事実を突きつける。
朝、遅刻しそうだった私は身支度を整えて部屋から駆け出すなり、妹の伊織とぶつかって意識を飛ばした。
そして、恐らくは一分と経たずに意識を取り戻し――自分と妹の中身が入れ替わってしまったことを知った。
何をバカな、とおっしゃる?
言いたいなら言えばいい、というか私が言いたいよ「人格交換? はぁ? 馬鹿じゃない?」ってさ。
だけど私の目には現実がくっきりと映し出されている。
……視界の中。
尻餅をついたままこちらを見て、信じがたいとばかり目を白黒させる『私』がいる。
頬をつねってみても、この現実に終わる気配はなかった。




伊織と急遽話し合い、お互い頭突きをしてみても人格が元に戻る気配がないのを知った私たちは、このまま登校することを決めた。
両親に相談なんて論外。
姉妹そろって仲良く発狂したと思われては、父さんも母さんも自殺しかねないし。
とりあえず今日のところは学校に行って適当にやり過ごし、今後のことについては夜話し合うということにしたのだ。
幸い、私たちは家に友達を呼ぶことが多かったし、姉妹仲も良好だから互いの交友関係の概容は知っている。
「なんとかなるよ。……しようよ、ね、お姉ちゃん――じゃなかった伊織」
よく通るアルトボイスが私の鼓膜を叩く。私の、という表現が正しいのかは微妙なところだけど。
「そうね……とりあえず、学校じゃ上手くやりましょ」
そう答えると、ぴたり、と人差し指で唇を封じられた。
「違うでしょ伊織?」
……もうなりきっている。
適応が早いというべきだろーか。
いや、それくらいの気構えは必要なのかもしれない。
私は何時もの伊織らしい柔和な笑顔を模してみせた。
「そうだね、いお、お、お姉ちゃん」
「よしよし、その調子。……ああそうだ伊織、自転車の鍵どこ?」
「私の机の上」
私こと水寺真姫と妹の伊織は違う高校に通っている。
成績で言えば伊織の高校の方がランクは上で、距離で言えば私の高校の方が遠い。
……アホだとわざわざ遠い低ランク高に通わないといけないのは悲しい現実だ。
いつもより低い位置で固定された視界に戸惑いを覚えつつ、階段を下る。
「それじゃ、行ってくるね、おかあさん」
いってらっしゃーい、という返事が来るのに小さくガッツポーズ。伊織らしく行ってきますを言えたみたいだ。
玄関を出ると秋の澄み切った青空と、清らかな朝日が網膜をつついた。
何も変わらない空。
物理法則を超越する勢いで変わった私。
……嘆息を禁じえない。
玄関脇の自転車に向かいそうになる足を修正し、門扉を押して家を出た。


途端、
「おはよ、伊織ちゃん」
穏やかな声が名前を呼んだ。
反応が遅れたのは、やはりまだ慣れないために、自分が呼ばれたのだと自覚できなかったためというのもある。
だけどそれ以上に影響したのは、私はどうしてこんな重大なことを忘れていたのか! という驚愕だ。
私も伊織も、彼氏いるんですけど!
しかも伊織の恋人は――私にとっても伊織にとっても幼馴染であるのだ!
やべえバレるとしたら確実にこいつからだ!
私は油をさしていない機械みたいにぎこちなく首を回し、その間に全力で『伊織っぽい笑顔』を構築した。
そして言う。
「うん、おはよう。夕平……げふんげふん、ゆー兄さん♪」
視界の中で、妹の恋人が平和そうに微笑している。
日高夕平――私にとってはただの幼馴染、伊織にとっては幼馴染、プラス恋人。
中肉中背で容姿はまあ、男らしい男が好きな私からしてもそんなに悪くはないと思う。
伊織が言うには、成績は毎度学年トップクラスだとか。私と同学年だったときもそんなだったなあ。
運動の方はからっきし。
性格のほうは何となく油断ならないと感じられるときもあるけど、概して温厚。
私に評させれば、いい奴だけど柔弱。
恋人にするには値しない。
やっぱ男は体育会系の、男らしい奴じゃないとね。私の彼氏、一久みたいにさ。
だけど伊織に言わせれば、『ゆー兄さんは私の世界そのものなのー』なのだそうだ。
まあ、好みは人それぞれ。口を出すような筋のことではないけれど。
うーん、それにしても、今日は大変だな。不審に思われないよう注意しないと。
――そんな風に、一瞬思考でトリップしてしまったからだろう。
気づくと夕平の顔がアップになっていて、私は思わず後ずさってしまった。
「伊織ちゃん?」
戸惑ったように言う夕平は、姿勢を少し低くしていて、右手が上がっている。
……もしかして、撫でようとした?
ううん、私にとっては受け付けない行為だけれども、そういえば伊織は夕平に撫でられるのが大好きなんだった。
付き合ってるのに、まだ前みたいな兄妹気分が少し抜けていないとこがあるのよね、伊織は。
ともあれ、朝っぱらから怪しまれるのは宜しくない。私は全力で柔らかく笑ってみせた。
「あ、ううん、何でもないんだよ。ちょっと考え事してたから、びっくりしちゃっただけ」
「そう? ならいいけど……言える悩みなら、いつでも僕も聞くからね?」
恋人っぽい言動。
当たり前だけど私はそんな言葉を夕平から向けられた経験はないから、少し妙な気分になる。
と、ちょっと奇妙な心境になっていると、背後から「行ってきまーす!」という威勢のいい声が聞こえてきた。
私だ。……違った、伊織だ。
伊織は自転車を引いて私の脇を軽快にすり抜けて道路に出、自転車に跨ると、夕平の方を向いた。
「おはよう、真姫」
穏やかな挨拶を受けて、私の、真姫の肉体はピッ、と右手を軽く上げた。
「よっす夕平。伊織のこと、ちゃーんと送っていってよね?」
夕平は微笑し、ちょっと気取った様子で胸に手を当てた。
「心得てますよ、姉君」
「いい返事だ」
伊織はカラッと笑うと、勢いよくペダルを漕ぎ出した。



「んじゃ伊織も気をつけるのよ! 行ってきまーす!」
私の肉体を駆る伊織は、ぐんぐんと遠ざかっていった。
伊織の肉体の運動能力は低い。ある意味夕平とはお似合いな感じに。
だからこの機会を使って存分に体を動かしてみようと伊織は考えたのか、自転車に乗る姿はどこか生き生きして見えた。
夕平は苦笑して、「真姫はいつも元気いいねえ」とコメント。
……あれ?
全然怪しんでないよ。
伊織のやつ、実は演技派?
図書委員で文芸部という私の妹に、隠された才能が?
また思考の渦に落ち込みそうになる私は、
「それじゃ、行こうか伊織ちゃん」
という夕平の言葉で思考を現実に復帰させた。
「うんっ」
弾むように言って、妹の恋人の横に並んで歩き出す。
穏やかに笑う夕平とは裏腹に、私は今日学校で味わうであろう心労を想像して、こっそりとため息をついた。




おはよう、と教室のドアを開けたときから私の戦いは始まった。
まず自分の座るべき席をさりげなく探るところから始まり、伊織の友達との会話、昼食などなど……
誰かと話さなくても済む授業の時間だけが救いだった。
普段はかったるくて、遅々として進まない時計の針に気をもむだけだったこの時間が、こんなにありがたいと思える日があるなんて。
……にしても、伊織は一つ先の学年の授業なんて受けて大丈夫なんだろうか。
私と違っておつむに刻まれた知性の回路は精緻だけど、全然習ったことのない内容を理解するのは無理だろうな。
いくらここよりランクが下の高校だって、学年の壁は厚いだろうし。
反面私のほうはというと、さすがに以前自分が習った部分を聞かされるだけなので、さしたる苦労はなかった。
姉のほうが楽な身分ってのも何だかなー。
などと考えているうちに、ようやく一日の終わりを告げるチャイムが鳴った。
個性のない無機的な音が、今日ばっかりは天使のラッパに聞こえた。
ほぼ未知の人間関係の中で、綱渡りするみたいに関係性を測って応対していく精神的負担と来たら!
普段ならここで「はああああああああ」と、でっかく溜息をつくところだけど、伊織はそんなことしない。
するなら家に帰ってから、だ。
ホームルームが終わると、私はカバンに荷物を手早く詰めて席を立った。
「わたし、今日はもう帰るね。亜子、ちぃちゃん、なつめ、バイバイ」
にっこり笑顔で手を振る。
よく我が家に遊びに来る、私――真姫とも顔見知りである、亜子ちゃんがにまーっと笑った。
「ういうい。まーた、日高先輩と下校ですかー」
うんうんと頷き、
「セーシュンだなあ。あたしも彼氏欲しいわマジで。ある日突然空から降ってこないかなあ」
ちぃちゃん……もとい、私にとっても初見だった、仲原千里ちゃんがそれを受けて、
「そういう漫画なら沢山あるから貸してあげるよ? どれがいい? 目録でも渡す?」
と眼鏡のレンズを光らせた。
どうやら彼女、女版のオタクのようだ。
なかなか伊織も面白い子たちと付き合っている。
正直ひとつひとつの会話自体が気が気でなかったとはいえ、この子たちとのお喋りは結構楽しかった。
伊織はやや内気な子だけど、学校では上手くやっているみたいだ。


私は姉らしい感情を覚えつつ、妹の友人たちに改めて別れを告げ、教室を出た。
部活に向かう生徒、家に帰る生徒たちの生み出す喧騒の中、場違いな私は心中で縮こまりつつ昇降口を目指した。
伊織の所属する文芸部は不定期に開かれるようで、その辺は都合がよかった。
「さて、と」
こっそりと呟く。
昇降口で靴を履き替え、外に出ると、家路につく生徒たちの背が連なるなかに、こちら側を見ている人間がひとり。
「またまた試練ね……」
要注意リスト上位である幼馴染、日高夕平。
わたしは伊織っぽく微笑んで、ゆー兄さん、待った?
と愛らしく尋ねてみせた。
「ん、大したことないよ」
気の抜けるような笑顔で夕平は応じる。
定型句なのか、本当に今来たところか……その辺はよく分からない。
悪いやつではないと思うんだけど、私は夕平の、本音を見透かせない感じが昔から少しだけ苦手だった。
妹の恋人であるのだから、間違っても変な対応は出来ないけれど。
伊織と夕平の間に禍根を生むようなことは絶対避けたいし、それに付き合いが長いだけに、妙な行動はすぐ不審を買うだろうし。
とはいえ、付き合いの長さは私にとっては不幸中の幸いでもある。
私との関係が薄い伊織の友達とは違って、夕平の伊織の関係については前から目にしていて情報もある。
夕平の人となりも大体把握してるから、対応のしようもあるしね。
条件は決して悪くない。勝てない勝負ではない――。
――って。
帰り道ひとつで戦争かよ。
私、いつになったらこんな罰ゲームみたいな状況から解放されるんだろ……。
「――はぁ」
「?」
「あ、ううん、ちょっと今日体育で疲れちゃって」
溜息をついた私に目をやった夕平に、すぐさまフォローを入れる。
伊織と同じく運動音痴であるコイツは、ああうん体育か、なら仕方ないよなあと頷き、
ぽん、と私の頭に手のひらをのせた。
よしよし、とばかりに優しく撫でる。
「がんばったね」
……調子狂うこと甚だしい。
私は帰途のことを考えて重くなる胃のことを必死で隠しながら、エヘヘ恥ずかしいよ、ゆー兄さん――とはにかんでみた。




予想通りに帰り道は胃袋殺しだったけど、私はどうにか家のそばまで来ていた。
隣を歩く夕平に私を疑う様子はない。
見た感じ、いつも通りだ。
あと百メートルくらいで、私はとうとう安息の城への帰還を果たす。
……母さんたちもいるけど、部屋にこもって負担を減らそう、うん。
伊織は自分の部屋に居ることが殆どだったし。多分、読書でもしていたんだろうね。
そんな風に、私が早くも帰宅後の算段をしていると。
「ねえ伊織ちゃん」と夕平が足を止めた。
夕平の家――日高家の直前だった。
私も流石に慣れてきていて、
「どしたの?」
と、同調して止まる。


夕平は、頭ひとつ低い私――伊織の目を覗き込むようにすると、
「うん。……今日も、うち誰もいないんだけどさ」
と言った。



「――――――」



私の思考に大いなる空白が訪れた。
数瞬して、再起動を果たした私の頭脳は一発で恐慌に叩き込まれた。
そう!
そうなのよ!
何で私はこんな簡単なこと忘れていたんだろ!?
伊織と夕平は恋人で、恋人ってのはつまりその、そういうことだって当然してるわけで!
あまり深く考えたことはなかった。
というか、近しい二人同士の交わりというものを想像することを、無意識に避けていたのかもしれない。
いやそれにしても!
つーかアレ!? もしかして伊織も一久からそういうお誘い受けてたりするッ!?
いやいや思考が脱線してる、今はここをなんとか凌ぐことを考えないと!
私のあまり高性能ではないCPUがガチャガチャ音を立てて稼動した。
一瞬、大宇宙や素粒子の世界が見えそうなほどに私の思考は展開、縮小した。
そして最後。シンプルながらも有効であろう対策を思いつく。
生理! これだね!
思い立ったら即実行、私は表情筋を駆使して困った顔を作り、たいそう申し訳なさそうに、
「あのね、わたし今日は――」
生理なの、というより早く、
「生理なら終わってるし問題ないよね?」
と夕平が人畜無害な笑顔を浮かべた。
つーか何でアンタが把握してるの!?
とよっぽど叫びたかったけど、私は渾身の一策が戦果ナシで散ったことに衝撃を受け、口にはできなかった。
「最近試験とかあって出来なかったし、ちょっと情けないけど、我慢できないんだ」
流石に恥ずかしそうに夕平は頬を掻いた。
……どうしよう。いい断り文句が思いつかない。
無碍に拒絶するのは簡単だけど、それで万が一この関係にヒビが入る一因となったらどうする。
私に責任は取れない。
ひとの恋人関係を破壊するなんて、私がやっていいことじゃないでしょう。
思案しかねて、私は結局、
「……うん」
と、恥ずかしそうに頷いた。
中身はかなりのヤケクソ状態ですけど。
ほら、まあ、一回、一回だけだし!
明日になったら元に戻れるかもしれないし! さすがにこんな希望的観測は自分でも信じがたいけど!
一久には――申し訳ないけれど。
それに、と私は目の前の背中を見つめた。
自宅の二階への階段を上る夕平は、多少高揚してるように見えた。
……夕平のセックスなんて、たかが知れてるよね。
少し侮るように、私は予測した。
おとなしい夕平とおとなしい伊織の交わり。
多分きっと、二人に相応しいような、穏やかなものだろう。
さっさと夕平に出させちゃえば、それでお終い。
うん。何も問題はない。
だって夕平、ねちっこく責めるとか激しく攻めるとか、そういうのとは無関係そうだしね。


どこかから、やっぱりな、という突っ込みが飛んできそうだ。
……私の予想は完全に外れていた。
「んっ……くぅ、ふぅ、ぁ」
声が漏れてしまう。屈辱だ。
夕平は何とも、ゆったりと事を運ぶタイプだった。
一久とのセックスだったら、もう挿入に移っててもおかしくないくらいの時間だけど、わたしは殆ど服を脱いでもいない。
ブレザーを脱いだ。
シャツの真ん中あたりのボタンを外して、伊織らしい子供っぽいブラを露出した。
ブラの右側がずり下げられて、形のいい丸い丘をあらわにさせられた。
それだけ。
ベッドに転がった私の上にかぶさる夕平は、丹念に胸をいじめている。
胸の左側、まだシャツに包まれているほうは服の上からじっくり揉みほぐす。
右、ブラをずらされた方は、小さくて桃色の乳首に吸い付いて、ちろちろと舐めている。
「あ、んん……」
ゆっくりとしつこい愛撫。
左手が動き、布越しに乳首を指でこすった。
もどかしい刺激が送られる。
(っていうか……舌の動きがっ)
乳輪をなぞるようにしたかと思うと、蛇みたいに乳首に絡みつき、先端をほじるように突く。
「あ、あ、う、きゃっ」
断続的に声を漏らしていると、ふと夕平が口を離した。
微笑んで訊いてくる。
「気持ちいい?」
問う間も、指はころころと乳首を転がしていた。
私は思わず頷いてしまった。
「う、うん、いいよぉ」
ショックだった。自然に出てきた言葉だった。
……一久を裏切ったみたいだ――。
夕平は楽しそうに頷くと、
「じゃ、いつもみたいに胸で一回イッておこうか」
と宣言した。
すぐに責めを再開する。
それは随分と巧みで、ショックを受けた私の頭は、すぐ桃色の靄で包まれた。
太ももの付け根、その奥が疼きだすのがわかる。
伊織の肉体は愛撫に敏感に反応し、さっきからずっとジュースを漏らしている。
「は、あ、ああん……いいよう、ゆーにいさん……」
悶えてしまう。どうしようもない。
気を良くしたみたいに夕兵は乳首をなぶり、ひっかき、さらに責めを重ねた。
そのうち、だんだん胸の奥から妙な熱が湧き、ついには胸の先に届き、そこでもどんどん膨らんでいく。
(やっ……私、これじゃイッちゃ……)
思った瞬間、乳首が少し強めに噛まれた。
甘い電気が脳みそを走った。
「は、ひゃ。いっちゃぁ!」
びくんと体が跳ねた。
腰がぴくぴく震えた。
どろ、と穴が欲望の液体を吐き出す。
もう、パンツにはすっかり染みができてしまっている。


「ふふ」
イッたね――と、身を起こした夕平はくりくりと乳首を指で弄った。
そのたび私は腰を小さく跳ねさせた。
結果に満足したのか、夕平は次の場所に移る。
それは勿論、下。
スカートを無造作にめくりあげ、青と白のストライプのパンツのクロッチを観察し、唇の端を上げる。
「すごいシミだね」
「や、言っちゃやぁ……」
私はどうにか芝居を継続した。私ならもっと乱暴に、「うるさいよ」とか言ってしまうだろうけど、伊織はそうではないと思う。
けど、予想に反して夕平は目をぱちくりさせた。
「……伊織ちゃん?」
今の対応、ヘンだった?
私はほんの少し焦り、しかしそれは表に出さず、
「なぁに?」と聞き返した。
さほど気にしたわけでは無かったのか、
「いや、なんでもないよ」
と、夕平は誤魔化すみたいに笑った。
身をかがめ、責めを再開する。
どうやら、はいたままが好みらしい。
夕平はパンツの上から、割れ目をついついとなぞり、時々入り口のところをぎゅっと押した。
「ふぁ、あああ」
私はそのたび、面白いように声を上げてしまう。
なんだか少し嫌な話だけど、伊織はよっぽど開発されたみたいだ。
ちょっとの刺激でも、理性が軋むみたいな快感が生まれてくる。
……そんなだから、パンツ越しにクリトリスを摘まれたときは、
「はっひゃあああああああん!」
簡単に、私は叫び声を上げてしまった。
どうしよう、すごい。
すごい……。
夕平は下着越しにクリトリスを撫でだすけど、それだけでも、おマメがどんどん勃起してくるのが分かる。
どんどんエッチな膨らみが、しましまのパンツに生まれていく……。
「ふふ、相変わらずすぐ勃っちゃうんだなあ、伊織ちゃんのクリは」
からかうような言葉に、わたしは思わず目を腕で隠して横を見た。
演技じゃなかった。
実際に恥ずかしかった。
でもそれは、夕平に違和感を与えてしまったみたいだ。
夕平は手を止めた。
「……ねえ、伊織ちゃん」
気遣わしげに、
「今日何かあった? それとも、僕としたくない?」
少し不安の滲む声だった。
それを聞き、私は確信する。
普段の伊織は、もっと積極的なんだ。
妹の知らなくても良いような一面を知ったのは愉快じゃないけど、ここでは重要だ。
このままここで、したくないと答えれば夕平は手を止めるだろう。
夕平も伊織のことが好きなのだから、無茶なことは言わない。
だけどそれじゃ、当初の目的は達成できない。

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