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紅 kure-nai 学園の罠 後編 1

 /捕らわれていない子猫/


 菅原は重い荷物、子供一人分の重量を持って立ち上がった。彼が持っているバッグの中には、今回の標的、九鳳院紫が体を丸めて入っている。
 背負うのならばともかく、20キログラムほどの重量を片手で維持するのは楽な仕事ではない。肉体的にそれほど優れているわけではない菅原ならばなおさらだ。
 本当はそんな余裕などないのに、ちらりとバッグを見た。この中で紫はバイブの振動に揺られながら、夢見心地でいるだろう。気楽なものだ、と一人愚痴る。
 なにせ菅原はこれから今回の仕事の最大の山場、九鳳院の護衛の目を盗んで学校から脱出する、を実行しなければいけないのだ。愚痴の一つも言いたくなる。
「手はず通りに……行かなかったら命がありませんね」
 言うだけ馬鹿馬鹿しい話だった。菅原に護衛を退ける実力などない。一刀の元に切り伏せられる自信ならばあったが。
 肩を叩かれる。振り向いてみれば、そこに黒づくめの人間がいた。服装だけではなく、仮面のようなものも黒である。一人しかいなかった空間に突如現れた相手に、しかし菅原は驚かない。背後を取られる事など慣れている。
 その格好は思い切り目立ってしまうのではないだろうかと思ったが、能力さえあればどうでもいい事だ。
「あなたがそうですか?」
 返事はなかったが、その代わりに首を縦に振ることで肯定を表す。黒づくめは紫を受け取るとすぐに歩き出し、菅原もその後を追った。
 黒づくめは淀みなく歩き、無造作に校舎を出た。菅原はその行為に恐怖の冷や汗が出る事を自覚しながら、同じように校舎から出る。
 現在の小学校校舎の外とは九鳳院家の護衛の領域であり、誰一人として逃すことなく目を光らせている筈だ。そんな所を怪しい集団が通れば、どんな仕打ちを受けるか想像するだに恐ろしい。
 この黒づくめもプロだろう。護衛に見つからず脱出できる能力があると見込まれたからこそ派遣されたのだろうが、例えそうだとしても恐怖感が和らぐものではない。
 対面の壁までの数メートル、たかだかその距離に体中の気力を使った気がした。いつ見つかり拷問の末に死ぬのかと思うと、まるで生きた心地がしない。
 驚く事に、菅原たちは護衛に見つからなかった。壁にあらかじめ空けられた穴から抜けて、全員出ると黒づくめが穴を閉じて偽装する。これで僅かでも時間が稼げれば御の字、そう思っての行為だろう。
 用意されていた車の後部座席に紫を押し込み、運転席に黒づくめが、助手席に菅原が座る。緊張で極度に消耗したため、菅原は座った瞬間動けなくなった。
 ちらりと隣を見ると、黒づくめは平然とした顔で運転している。それだけ自分の技に自信があるのだろう。実際、恐ろしいまでの技能なのだが。
 それから三時間、車で移動しある場所に止まる。そこで菅原と黒づくめ、紫は別れて3方向に移動するのだ。別の車には菅原含めて四人の男がいる。また別の場所で止まり、分かれては進む。
 撹乱を何度も繰り返し、位置を特定し辛くする。別れていった人間の中には、公共機関を利用する者もいただろう。そうして半日、やっと目的地まで着いた。
「お久しぶりです、ルーシーさん」
「はい、お久しぶりです。仕事を達成していただきありがとうございます。やはり貴方に依頼してよかったですよ」
「気になさらず。私も所詮、金銭の対価に行っただけですから」
 紫は菅原より先に着いており、ルーシーは中身を確認していたのだろう。大きなバイブを二本もくわえ込み、涎を垂らして喜んでいる様を見ればできていないと言われるわけがない。
「実際調教自体は難しい仕事ではありませんでしたからね。その代わり、九鳳院をごまかすのには必死でしたが。こんな危険な仕事はこれっきりにして下さいよ。毎日気が気じゃありませんでしたからね」
「すみません、貴方が優秀すぎるからつい依頼してしまうんですよ。これほど危険な仕事はそうそうありませんから安心してください。それに、次はもっと楽で稼げる仕事を紹介しますよ」
「それはいい。無茶をしたかいがありました」
 菅原は小さくため息をつく。危険な仕事は確かに実入りは大きいが、いつ死んでもおかしくない。ただそういう仕事をある程度請けておけば、楽で稼げる仕事を優先してまわしてもらえる。
 今回の件など適任が一人しかいなかったのだから、さぞやいい仕事を回してもらえるだろう。貴重な技能を持っていると言う事は、それだけ大切にされると言う事なのだから。
「所で、こんなにゆっくりしていて大丈夫なのですか?」
「ええ、今回は気を使いましたから。少なくとも場所を特定されるまで三日はかかります」

「それはなんというか、凄いですねぇ」
 九鳳院家の諜報相手に居場所を最低三日稼げるというのは、正に脅威の一言だ。菅原はてっきり海外に高飛びするものだと思っていたのだから。九鳳院相手にはそれでも足りないくらいなのに。
「世間話は終わりにしましょう」
 ルーシーはバッグの中の紫を引きずり出して、コンクリートの床に転がす。まだ気を失ったままで、めくれ上がった服の隙間からうっすら赤らんだ肌を露出している。
 今の紫は申し訳程度に手を縛っているだけで、拘束らしい拘束をされていない。意識を取り戻してもバイブを挿入していれば抵抗しないのだから。万が一の保険以上の意味はない。
 幼い性器から乱暴にバイブを引き抜くと、少女はびくびくと跳ねてごぷりと大量の愛液を吐き出した。
「本当にだらしない姿ね」
 ルーシーはその様子を蔑んだ目で見ながら、衣服を正して足を縛る。さらにアイマスクと猿轡を噛ませ、携帯電話のカメラで撮影した。
「何をしてるんです?」
「勧誘したい人がいるって言ったでしょう。この姿、いかにも無理矢理拉致されたように見えません?」
 くすくすと笑いながら、楽しそうに文字を打ち込んでいる。入力を終えると、近くにいた男に投げて渡した。あらかじめ決まっていた事なのだろう、男は何も言わずに携帯電話を持って出て行く。
「あまりリスクを負うような行為はしないで欲しいのですが……」
「申し訳ありません。ですが、もしもの時は菅原さんに迷惑をかけない事だけは誓います」
 と、ルーシーは断言した。そこまで言われれば、菅原は拒めない。知らずとはいえ、彼女の勧誘を邪魔するきっかけを作った負い目があるし、九鳳院が追って来ない限り関係ない話だ。彼女との関係を悪くしたくないと言うのもある。
 さて、とルーシーが前置きをして、ちらりと紫を見て笑った。
 見知った女性の表情に、思わず寒気がする。獲物を捕らえた蛇のようなルーシーを見て、女性は怒らせまいと心に誓った。
 なにせ車の中で行うはずだった最終調整の予定を変更して、自分の前で仕事の邪魔をした少女の没落を鑑賞させてくれと言うのだから。
 恐ろしく加虐的な蛇が、ウサギを前に舌なめずりをする。
「最後の『仕上げ』をお願いします」
 それは、とても残酷な笑顔だった。

 紫はまどろみの中を泳いでいた。心地よいはずなのに、妙に物足りなさを感じる。空白を埋めるように全力で泳いでも、まだぽっかりと空いた穴は何かを求めている。
 悪くないはずの感覚を、なぜか全力で否定してしまう。求めているのはこれではない、もっと激しいものを、と。
 つい先ほどまで、体中を弄ぶ激流に流される事ができたのに。一際大きい濁流が過ぎて、あとは嵐の後のように穏やかになってしまった。
 ただ流される事がこれほどの安心感をもたらすのを知らなかった。もっと流されたい。ずっと激流に飲まれて、二度と浮かび上がれないくらい沈められて、もっともっともっと――水の檻の中で。
「紫ちゃん」
「――ぁえ?」
 聞きなれた声に、紫は目を覚ます。冷や水をかけられたかのような急激な覚醒と感じる違和感に、少なからず戸惑ってしまう。
 背中に感じる暖かい感触で、菅原の上に座っている事に気が付いた。手は背後で縛られていて、動かす事ができない。
 これは別におかしい事ではない。放課後には日常的に行われている行為なのだから。
 まず、服を着ているのがおかしい。私服に汚れを残すわけには行かないので、いつもは全裸か縄、もしくはボンテージなのだ。
 次におかしいのが場所だ。ここは少しばかり寂れた旧校舎の理科室ではないのだ。もっと広くて寒々しい、まるで廃工場の跡地の様に見える。
 そして最も違和感を覚えるのが、こうして菅原と触れ合っているにも関わらず自分が犯されていないという事だった。菅原を見れば股が潤むし、触れ合えばショーツを汚してしまう。
 膣を制圧され肉が崩れるほどかき回されていないのが不思議で、我慢できない。
「あの、先生……」
「お久しぶりね、お嬢ちゃん」
 いつの間にか正面にいた女が紫に声をかける。声の主をしばらく呆けた顔で見て、誰だか理解できなかった。数秒の間をおいた後、柳眉を逆立ててかつて真九郎を騙した女、ルーシーを睨み付ける。
「お前! いつの間にここに!」
「あら、私は最初からここにいたわよ」
 ルーシーは嘘を言っていない。突如現れた訳でも気づかれぬようそっと前に出たのではなく、本当に最初から紫の正面にいた。ただ、淫欲に捕らわれた紫は犯されることしか頭になく、正面を気にする余裕がなかっただけだ。
「酷い格好」
 蔑んだ目で紫を見下しながら、ルーシーが言う。紫にその言葉を否定する事はできなかった。

 見下すルーシーの言葉には、一点の偽りもない。半ばはだけた服は、少女の肩から膨らみのない胸の頭頂部近くまで見えている。下半身はスカートできっちり隠れているものの、中心部分は濡れて変色している。
 桃色の吐息を吐いて、わたしは発情していますと隠されもしない。紫は怒りを示しているつもりだろうが、その顔からは淫欲に対する媚びの方が比重が高かった。
「流石は九鳳院が誇る奥ノ院の雌ですね。所構わず発情するなんて、信じられない能無しの淫乱」
「ふざけるな! それよりなぜ、おまえがここにいる!」
「紫ちゃん、そんな言葉を使ってはいけないよ」
 背後からの言葉に、思わぬ人物と対面したショックで忘れていた菅原を思い出す。
「先生、縄を解いてくれ!」
「それはできないよ。紫ちゃん、逃げてしまうでしょう?」
「残念でしたね。私が菅原さんに頼んで、ここまであなたを連れてきてもらったんですよ」
 にこやかなルーシーの言葉に、紫は目の前が真っ暗になるほどの絶望を感じた。
 菅原が手を引いていた事など本当は分かっていた。それでも菅原を頼ったのは、心から信頼した人間を疑いたくなかったから。実は自分の味方でいてくれると、信じていたかった。
「先生、なんでわたしを裏切ったんだ……。いや、わたしの目が節穴だったんだな」
 始めてあった時に感じた違和感。紫はあれを信じるべきだった。
「裏切っただなんて心外な。私はただ、友人であるルーシーさんのお願いを聞いて、紫ちゃんと話す場を用意しただけですよ。その証拠に、ほら」
 菅原の手が、紫の股の間に潜り込んだ。湿ったスカートの上から、少女の形を確認するかのように柔らかく撫でる。
 紫の背中をぞくぞくと虫が走り、求めた刺激に脳が幸福の信号を出す。怒りや失望すら塗りつぶす幸福に、紫は恐怖した。こんなものを長く味わっていたら、間違いなく逆らえなくなる。
「い、やだぁ! やめてくれ!」
「はい、やめます」
「……え?」
 少女の女を刺激していた手はあっさりと引かれ、幸福の時間が終わる。急激に引く快楽に安堵を感じたが、それ以上に深い絶望を感じてしまう。
 紫は拒絶しても『無理矢理犯してくれる』と心のどこかで思っていたのだ。そうすれば快楽に負けて『支配される言い訳になる』とも。
 自分の浅ましい考えに気づき、急いで首を左右に振り否定する。これではまるで、本当はそうしてもらう事を望んでいるようではないか。
 紫の尻に硬いものが当たっている。何度も味わい絶頂をくれた、陰茎の感触。膣の奥底にある子宮が甘い熱を発し、粘度の強い液体を生産してショーツを濡らしだす。
「せん、せい。お尻に当たってるから、どけて、くれ」
「すまないね。これは生理現象だから自分ではどうにもならないんだよ」
 ならば足を縛ってそこらに転がしておけばいいだけなのに、それを指摘する事ができなかった。
 本当は、この熱い肉棒をどけて欲しくなどないのだ。緩やかだがねっとりとした快感がじわじわと体を上る。しかし、こんなものでは足りない。早く挿入して欲しい。
「は、早く用件を言え!」
 湧き上がる焦燥に任せて絶叫する。こんな状態が長時間続いたら、自分を保っていられる自信がない。
 まんまと手中にはまった少女に、ルーシーはほくそ笑む。
「それでは早速。お嬢ちゃんには紅さんに悪宇商会に所属するよう言ってもらうわ。用件はそれだけ」
「な!? ふざけるな! 誰がおまえたちなんぞにいいいいいぃぃぃ!?」
 全て言い終わる前に絶叫してしまう。尻に当たっている陰茎が少し動いて、紫の媚肉を僅かにえぐったのだ。それだけで紫の理性は決壊し、快楽が脳を突き抜ける。
 絶頂する寸前まで高められた性感に、舌を出しながら犬のように喘ぐ。怒りで体に篭ったはずの力は、一瞬にして散って弛緩する。
「はしたない顔だわ。とても会話をしようとしている人間には思えない」
 ルーシーはあごを掴み、上に持ち上げる。紫の視線の先にあるのは、九鳳院紫という汚物を見る女。刃のような鋭さが、少女のマゾヒスティックな性感を刺激して止まない。
「そんな事を言ったら失礼ですよ、ルーシーさん。もう少し気持ちよくなれば、ちゃんと返事できますよね?」
「ぅ、ん」
 紫が頷いたのは、菅原の言葉に同意したからではない。気持ちよくしてもらえる、それだけを汲み取ったにすぎない。
 浅く座って腰を前に突き出すような体勢にされ、ショーツとスカートを切り取られる。さらに大きく開脚してM字に固定される事で、紫の全てをルーシーに晒す形になる。
 上着の前ボタンもはずし、リンゴの様に赤く火照った幼い全身はとても淫らだ。盛り上がりなど無きに等しい胸なのに、乳首だけは強烈に自己主張をしている。

 菅原の硬い指が幼丘の閉じた一本筋に沿って触れ、媚肉を少しだけ割って開き指を入れる。クリトリスを触れるか触れないかの高さでくすぐりながら前後し、秘所は前に後ろに口を開けてはつぐむ。
 これだけの痴態を見せ付けておきながら、最後の一線だけは死守しているようにも見えて滑稽だ。たとえ見た目がつぼみでも、中には淫蜜をたっぷり蓄えているのは誰の目にも明らかなのだから。
「いい? 我々悪宇商会は所詮ただの人材派遣会社なの。請け負う仕事が表沙汰にできないものばかりというだけで。能力があればその分悪宇商会も報いるわ。たとえば、菅原さんのように」
「ふゎ……ああぁ……あふぅ……うう……はあぁ」
 ルーシーの言葉に全く反応せず、菅原の指にのみ踊る。目の色はどんどん怪しくなり、濁った瞳はどこを見ているのかもう判断がつかない。
 尻穴が物欲しげにぱくぱくと開き、乳首も勃起して刺激を要求する。どちらも強い淫気を放ち、女性的な魅力を無視して男を惑わす魅力をかもし出す。しかし菅原はそのどちらにも触れず、淫気はさらに強くなる。
 浅く撫でるような動きの指を、幼女の淫肉がねっとりと絡みつく。ゆったりとした緩い刺激に膣は待ちきれず、なんとか自分から奉仕してさらに快楽を得ようとする。
「紅さんがしかるべし依頼料を払えば、悪宇商会は当然仕事をこなすわ。尤も、当社の不利益にならないようにではあるけれど」
「ひゅうぅ! はぁ、はぁ、くうぅ……! もっと……ふあぁ……なんで……」
 紫の体を知り尽くしている菅原は、絶頂できるほどの刺激を与えない。寸前の点を見極めて、ひたすら後一歩の時点で焦らし続けていた。
 全身が快楽地獄に悲鳴を上げて、何も考えられなくなる。スタンガンを押し付けられたような快楽が体を焼いて、心臓の鼓動がうるさいほど響いた。頭に溜まった血液が思考を破壊して、イく事しか考えられない。
 幼女の小さなつぼみがくぱりと淫猥な花を咲かせ、生臭い強烈な性臭が鼻腔の奥まで突き刺さる。膣と言う名の肉食植物が、肉棒と精液を欲してやまない。
 陰部からこぼれる愛液は開ききっただらしない肛門の内側、腸内にながれていく。さらに腸液と混ざり合って獣臭を放つ混合液ができあがり、蓄積限界を超えたものが淵から割れ目を伝って流れる。
 人間らしさを忘れた一匹の雌は、顔の前に出された指に吸い付いた。持てる舌技を駆使するという淫らさを持ちながら、顔は赤子のように純粋だ。
「商売である以上、信用こそが命だから我々は社員を裏切らない。腕に覚えがあるのなら最適の就職先であるという自負を持っているの。……もう聞こえてないみたいね」
「ちゅば、ちゅぶ、ぢゅるぅ! もう、イかへて、イかへてぇ」
「と、言っていますよ、菅原さん」
「困りましたね。イき始めたら話どころではなくなるから寸止めにしているのですが」
 くすくすと、世間話でもしているかのように笑う二人。
「私は紫ちゃんに、ルーシーさんのお話を聞いて欲しいだけですから」
「私も、紅さんが悪宇商会に登録していただけるまでお願いするだけです」
 つまりルーシーの話に乗るまで、永遠にイかせてはもらえないのだ。最初から拒否権など存在しない、最悪の取引だと言う事にやっと気づく。
 真九郎を裏切る事はできない。しかし、それと同じくらい絶頂を味わいたい。紫の思考は壊滅寸前だ。
 何も言う事ができず表情を強張らせている紫に、菅原はじゃあ、と囁く。
「紫ちゃんも一緒に悪宇商会に登録しましょうよ。そうすれば真九郎くんと一緒にいられますし、何も問題はないでしょう?」
「ぅぁ?」
 それは何の解決にもならない、悪宇商会自体が悪辣な会社なのだから。その正常な紫の考えは、快楽に染まった紫に蹴落とされる。
 どれほど回答を考えてもすぐに蹴落とされてしまい、答えが纏まらない。焦らし攻めに思考と我慢の限界は着々と削られ、もうこの時が終わりさえするならばなんでもいいと思えてしまう。
 結局紫が用意できた考えは最低のもの、菅原に全ての答えをゆだねると言う事だった。
「ほん、と? それで、なにも、もんだい、ない?」
「ええ、本当ですよ。これで皆の要望が満たされますから」
「じゃあ、そう、する。せんせいの、いうとおりに、する。から、イかせて……」
 こんなに簡単な事だったのだ。隷属を宣言した瞬間、紫の心はすっと軽くなる。もう悩みなどなにもない、たとえできたとしても他人が答えをくれる。
 紫の体が持ち上げられ、菅原と対面になる。淫欲に蠢いて仕方がなかった花びらの中心に、最高の花粉を吐く雄しべがあてがわれた。紫の雌しべが歓喜にうねり、それをルーシーが手で静止する。
「なん、なんでぇ。ちゃんと、言われたとおりに、するから」

「と言われてもね。我が悪宇商会は無能なクソガキなんてこれっぽっちも欲しくないんですよ。つまり、紅くんは欲しくてもお嬢ちゃんは要らないの。分かる?」
「そん、なぁ」
 紫が泣きそうな目でルーシーを見る。その瞳に、ルーシーは絶頂しそうなほどの快感を味わった。
 かつて紫の登場により勧誘を妨害されたルーシーは、依頼抜きに紫をむちゃくちゃにしてやりたいと思うようになっていた。だからこそ業務に影響の出ない範囲、つまり止めを自分の目の前で鑑賞できるようにしたのだ。
 あの強気な表情など影も形もなくし、怯えた目を向ける少女に密かに満足する。そして笑顔の仮面の下にどす黒い欲求を隠しながら、あらかじめ決められていた『妥協案』を言った。
「でも、家畜としてなら話は別よ。無能なクソガキは許せないけど、相手がペットなら仕方ないと思えるもの。ちゃんと命令を聞くペットなら、責任を持って飼ってあげるわ」
 紫は自分で答えを出す努力を完全に放棄して、菅原にすがる目を向ける。それは九鳳院紫が堕落したと二人に確信させるのに十分だった。
「それがいいですよ」
「する! ペットになって、言う事をちゃんと聞くぞ!」
「随分態度の大きいペットね。誰がわざわざ何もできないペットを飼ってあげると思ってるの?」
「うぁ、ごめんなさい! ルーシー様! ご主人様ぁ!」
 ずぶりと音を立てて陰茎が挿入され、紫はそれだけで絶頂した。見も心も満たす幸福感は、これが正解であると証明しているように感じる。脳が蕩けながら現実を歪めて認識し、快楽の祝福を受け取った。
「ちゃんと私の言う事を聞くわね?」
「はい」
「紅さんにも命令できるわね? しっかり働くように」
「はい」
「いい子ね紫。ご褒美にたくさん楽しんでいいわよ」
 ご主人様のお許しが出た紫は、菅原に寄りかかりながら全力で腰を振り出す。脳が壊れる寸前まで焦らされた後の快楽は、天に上るほどすばらしいものだった。
 ひと擦りごとに絶頂する。力が抜けていく足腰を痙攣させるほど酷使し、僅かでも強い快楽を得ようとするが満足できない。少女の媚体は、もう自分で動いただけでは満足できないほど快楽に支配されていた。
「んひぃ! もっと、もっとくだしゃいぃ……きゅううぅ!」
「紫はもう人間じゃないの。年中発情する猫になった事を自覚するのよ」
「はいぃ、わたし、ねこれすぅ。ルーシーしゃまぁ」
「よろしい」
 ルーシーはバイブを手に持って、少女のすぼまりが来るあたりに固定する。擬似陰茎の先端と寸分の違いなく紫の小さなつぼみはバイブを捕らえた。
「んおおおあああぁぁっぁあああぁ!」
 予期していなかったアナルへの刺激に、はしたない声で絶叫する。同時に強い絶頂が襲い掛かり、淫液が尿を漏らしたかのように溢れる。
 快楽に体を仰け反らせながらも、腰だけは別の生き物になったかのように振り続ける。とどまる事を忘れた紫は、もう快楽以外を幸福と感じる事ができない。
 アナルと膣は今まで経験を総動員して棒に奉仕する。片方はそれで快楽を感じられるものではないと知っていても、もう紫には関係のない事だ。
 無能な猫にできる事は、ただ奉仕する事だけ。それを理解した紫は、相手が何であれ全力で奉仕する。ましてや尻穴も膣も両方彼女の主が犯しているのだから、気合の入りも桁違いだ。
 ただでさえ名器といえる紫の奉仕に、射精を耐えられなくなる。いくら菅原が女を調教するのが仕事とは言え、これだけ快楽を与える膣は味わった事がないのだから。
「もう中に出すよ」
「にゅううぅぅ! うん、くらしゃい! わらひのぉ、うあああぁぁ! なかに、いっぱいぃ……きゅあああぁぁぁぁぁ!」
 中で出される精液をすすり上げ、子宮口を開いて子宮に受け入れる。待ちに待った男の射精はどんな媚薬よりも強く作用し、とてつもない威力で体の中から焼夷した。
 人生最高の幸福を味わいながら、九鳳院紫はこの瞬間に終わった。

 ふぅ、と菅原はため息をついて、紫を床に転がした。それほど交わっていたわけではないにも関わらず、腰が抜けそうになっている。なんとも情けない姿だった。
「随分と早かったんですね」
「いやお恥ずかしい。この子見た目に反して随分な名器でしてね」
 誰も7歳の子供が女に慣れた人間を簡単に射精させるとは思わないだろう。ましてや調教師となればなおさらだ。
「へえ。こんなメス猫でも一つくらいはとりえがあったんですね」
 ルーシーはどうでもよさそうに答えながら、紫を脱がしていく。次に変態的なボンテージを着せて、手足にも同様の皮でできた手袋足袋を付ける。

 ここまではまだ理解できたのだが、次に出されたものは菅原の想定外だった。猫の耳のようなものがついたカチューシャ、尻尾のようなアナルバイブ、おまけに鈴が付いた首輪まで用意されている。
 それらを全てが装着された紫を満足げな表情で見るルーシーに、菅原は温い表情を向けた。それに気づいたルーシーは慌てて弁解をする。
「これは依頼主の要望であって、誓って私の趣味ではありません。まずそれを理解してください」
「そうですか。私はてっきり、随分と特殊な趣向をしているなと……」
 そういった行為が好きな人間がいるのは知っているし、実際にそうなるよう調教した事もある。しかし、それが知り合いだと妙な気分になるのを始めて知った。
「なんでまたここで着替えさせるんです? 依頼主の元についてからでもいいでしょう」
「これは依頼主に渡しませんよ。成果を映像に撮って、依頼達成の結果としてお渡しするんです」
「私が気にする事ではないのでしょうが、それでいいんですか?」
「ええ。元々引渡しまでは依頼内容に含まれていません。一度抱くくらならば話は別ですが。それに、その後はこれを使って九鳳院との交渉が待ってますんで、どちらにしろ手放せませんよ」
 凄いものだ、と素直に感心する。ルーシーの中では、既に九鳳院相手の交渉手順も頭の中にあるのだろう。どれほどの能力と胆力が必要なのか、菅原には予想もできない。
 ルーシーが手元のリモコンを操作すると、バイブが振動を始めた。気絶していた紫の変化は劇的で、目を見開きながらがくがくと震える。
「着いて来なさい、紫。今から貴方がド変態のペットになった事を証明するビデオを撮るから」
「はい、ルーシーさま」
 あれだけ反抗していた相手に、紫は従順についていく。調教が完璧である事を確認した。
 たとえ相手が憎く思っている奴でも、激情に駆られて傷つけるような真似はしないだろう。ルーシーは仕事人なのだから。
 余計な心配はせず、ここ暫くの疲れを癒すためにゆっくり休む事にする。命の心配をせずに眠れる事など、調教をしている時はなかったのだから。
 紫の艶声は、一晩中途切れる事がなかった。
 少女のはしたない喘ぎ声を子守唄に寝ていた菅原は、肩を揺すられながら起こされる。
「菅原さん、起きてください」
 久方ぶりの安眠のためか、まだ体は睡眠を欲している。時計を見てみればまだ深夜と言ってもいい時間だった。太陽はあと2時間はしなければ顔を見せないだろう。
「どうしたんですか、こんなに早く」
 いまだぼやける目を擦りながら、ルーシーに問うた。別の人間ならばともかく、菅原では睡眠時間が短いのは辛い。
 ルーシーの顔はすがすがしく、眠る前までのしかめ面ではなかった。随分とストレスを発散できたようだ。こんな仕事を続けていれば、相応に溜まってしまうものなのだろう。
「いえ、撮影が終わりましたので、ビデオを持って一足先に脱出してもらおうかと」
「ルーシーさんはどうするんです?」
「私は最後の勧誘が残っていますので。それさえ終われば、後を追いますので」
「ああ、例の……」
 もうすぐ紅真九郎がここに来るのだろう。後は彼を連れて行けば、今回の仕事は完璧な形で終了だ。
 菅原に持っていかなければならない荷物はない。全て処分してあるので、身一つでいいのだ。
「さあ、早くいらっしゃい」
 ルーシーの呟きを背に、菅原は廃工場が出て行った。

 真九郎は怒りに表情を歪ませて、誰もいない夜道を走る。手元の携帯電話を壊れそうなほど握り締め、紫の無事を祈った。
 昨日の午後、いつも紫が小学校を出る時間に合わせて迎えに行ったが、紫は一向に現れなかった。少し遅れているのだろうと考えて九鳳院の護衛と待っていたが、30分も遅れる頃には調査が決意される。
 結局、紫も彼女の担任も見つからず大々的な調査網が敷かれる事になり、真九郎は協力を申し出るも邪魔だからと帰される。なんとか紫が見つかった場合の連絡だけはもらえるようにしてもらえたが。
 部屋に帰っても落ち着ける訳がなく、一人電話機の前でうろうろしていた。そんな時だったのだ、静かな部屋にがこんと音がしたのは。耳が痛いほどの静寂に突如響き、真九郎は飛び上がるほど驚いた。
 音の先は扉の投函口だと気づき、そちらに近寄る。手紙にしては妙に重く堅い音だったし、時間的にもう郵便局は働いていない。不信に思いながら、中を確かめる。
 入っていたのは、携帯電話だった。いよいよ不信感は高まり、携帯電話を開くとそこには縛られている紫の姿。拉致された事を核心させるには十分だった。
 すぐに九鳳院に連絡しようと思ったが、誰にも連絡するな、の書き込みがそれをとどまらせる。さらに交通経路等が記載されている事に気付き、こいつらの狙いは自分なのだと気付いた。
 真九郎は誰にも気取られぬよう、慎重に移動する。犯人たちの狙いが自分であるとしたら、真九郎が従えば紫は無事に帰される可能性がある。念を入れて部屋に書置きをしているので、万が一の場合でも九鳳院が動くだろう。
 そして、真九郎は怒りを押さえ込みながら単身、敵の根城へと向かった。移動は長く、着いたのが今正面に見えている廃工場だ。
 入り口の先の暗闇に、一人の男がいる。それに気付いても真九郎にはどうもできず、堂々と進入した。
「紅真九郎様でございますね?」
 姿形の見えない、恐らく男であろう人物が確認を取る。静かな物腰だったが、逆にそれが真九郎を苛立たせた。
「お前たちの要求通り着てやったぞ。紫は無事なんだろうな」
「申し訳ありません、私は紫、という方を存じ上げておりません。真九郎様がいらっしゃった場合に案内をするよう命じられているだけですので」
「……なら早く案内しろ」
「承知致しました。こちらでございます」
 目の前の男を締め上げたくなったが、その行為が紫に危害を加えないとも限らない。怒りを抑えて、男の後について行く。
 用意された場所は、小さな部屋だった。部屋の中心に一つだけ椅子が用意され、その正面に大きなディスプレイが置いてある。
「こちらで少々お待ちください」
 それだけを言い、男が去っていく。鉄でできた物々しい扉は閉められたものの、鍵はかけられていない。こちらが逃げるわけには行かない事を見越した、挑発行為にも思えた。
 乱暴に椅子に座り、相手から連絡があるのを待つ。静かなだけの無骨な部屋で、相手からの行動があるのをひたすら待った。
 それほど待っていたわけではないのに関わらず、真九郎の怒りは限界に達しようとしていた。終始落ち着きがなく振る舞い、正面のディスプレイを睨み付ける。紫の無事、せめてそれだけでも確認したかった。
 どれほど時間が経ったのか、ディスプレイの電源が付く。真っ暗だった部屋に薄い明かりが差し込み、やがて映像が映し出された。
『お久しぶりです、紅さん』
 映像の中の女は、まるで旧友に会ったかのように挨拶する。それに反吐を吐く思いを感じながら女、ルーシー・メィを見た。
「あんただったのか」
『ええ。もう一度、我が悪宇商会にご案内しようと思いまして』
 真九郎の言葉に答えが返ってくる。この部屋にもカメラが仕込まれているのだろう。ならば、この映像は録画されたものではなくリアルタイムで今起こっていて、向こうも自分を見ている。
「無茶をしすぎたな。流石のあんたたちでも、九鳳院に手を出したらただじゃすまない」
『それはどうでしょうね?』
 大した問題ではないと言うかのように、クスクスと笑うルーシー。元々好きになれない相手だったが、今回さらにその想いが強くなった。
 ルーシーは足を組んでいるが、その先までは見えなかった。画面の外に出ているからではなく、彼女にかしずく一人の少女によって。
 完全に背を向けているので顔は見えないが、体格からして紫と同じくらいの年齢だろう。露出度の高いエナメル質の服が、長い髪の隙間から覗く。
 少女はルーシーの足を持って、大切な物を扱うように舐めているのが判る。ぴちゃぴちゃという音が漏れて、真九郎まで届いていた。股の間に二本の玩具を挿入し、驚く事に少女は感じているらしい。淫らな液体の輝きがある。

 頭には獣を模した耳が付けられ、よく見れば首輪も巻いていのが分かった。どれほど教育されたのか、少女は嫌がる様子を欠片も見せない。むしろ喜んでいるようにすら映ってしまう。
 最悪に趣味の悪い見世物だ。嫌悪感がこみ上げるのを耐えもせずに、真九郎は吐き捨てた。
「そんなものを見せる為に呼んだのか」
『あら、気付かないのですか?』
「……なに?」
『ほら、挨拶なさい』
『んぷちゅぅ。はい、ルーシー様』
 初めて言葉を発した少女に、真九郎は何も言う事ができない。少女の綺麗な透き通る声は、毎日のように聞いていたものと同じだったのだ。だからこそ、信じる事ができない。
 少女の体が傾き、顔が画面に映されようとする。嘘だ、と何度も心の中で唱え、祈りにも似た悲鳴を上げた。背中が凍てつき、頭から血が失せる。
 口元を涎でべたべたに汚し、瞳は潤んでいる。高い気品を漂わせる顔は赤く染まり、緩みきった表情で淫欲を貪っていた。かつては意志の強さを伝えたであろう顔立ちは砕け、かわりに媚が張り付く。
 いやらしくも美しい容貌は、やはり、最悪な事に、真九郎の良く知るものだった。
『ルーシー様のペットの紫です』
「貴様ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
 喉が張り裂けるほどの絶叫。椅子を吹き飛ばして走り、ディスプレイに掴みかかった。
「紫に何をしたあああぁぁぁ!」
 自分の大切な少女、自分の心を守ってくれた少女、それが穢されている。
 何があったのかなど分からないし知りたくもない。ただ、紫を犬か何かのように扱っているのが許せなかった。かつて感じた事がないほど明確な殺意が湧き出し、ルーシーを捉える。
 真九郎の殺気にも、画面の女性は眉一つ動かさずに微笑を保っていた。
『私は何もしていませんよ。紫は自分からペットになったんですから、ねえ?』
 あごを撫でて可愛がるしぐさは、家畜を可愛がるそれと変わらない。だと言うのに、紫は淫猥な笑みを浮かべて喜んでいる。
『はい。紫は、自分から望んで、ルーシー様に飼って頂いています』
『素直でいい子ね。ご褒美をあげるからいらっしゃい』
『わぁ……はい』
 一連のやりとりを見ただけで、この少女は本当は紫ではないのだと否定したくなる。しかし、真九郎の記憶の中にあるものは全て少女が紫であると断言している。
 もう訳がわからない。真九郎は現状を何一つ理解できなかった。それでも一抹の望みをかけて呼びかける。
「紫ぃ! 俺だ、真九郎だ! 目を覚ましてくれ!」
『しんくろぉ』
 ルーシーに抱えられた紫が、真九郎の名を呼ぶ。しかし、それはとても正気に見えるものではなかった。
 見慣れた顔で、見た事のない表情をする少女。だらしなく淫欲に塗れて、快楽以外を欲しがらない恥女の顔。僅か7歳の子供がこれほど変えられた事に恐怖を覚えた。
 怒りに冷静さを奪われる中、ふと記憶の中の紫に今と同じ表情をしているものを捕らえる。
 薄暗い闇の中。真九郎に跨り。男根を旨そうにしゃぶり。恥を忘れて自らの尻穴に導く。
 あれは夢だったはずだ。しかし、あれが夢でなかったとしたら、それほど昔から紫は嬲られていた事になる。
 真九郎は自分の頭から血が抜けていくのを感じた。もし、あれが本当にあった事だとしたら。それは変えられていく紫に気付かなかった自分に責任がある。
『紫、新しくなった自分を見せてあげなさい』
『きゅうぅ、んんっ! ルーシー様、るーしーさまぁ!』
 子供にとても入るものではない大きな玩具は、ルーシーの手で簡単に出し入れされる。少女とは思えないほど媚肉は柔らかく、擬似陰茎に柔軟に対応した。
 紫は首輪の鈴をちりちり鳴らしながら、ルーシーの上で喜びに踊る。殆どない胸を突き出して強調し、少女の色香というものを十二分に発散していた。
 淫らな欲望に駆られながらも、紫は命じられた言葉を忘れない。アナルの中で振動する尻尾付きバイブを突き出し、真九郎に披露する。尻尾を振る幼い尻が、男の興奮を誘っていた。
『ねえ、紅さん。大人になってもう一度考えましょうよ。悪宇商会に登録したって何も悪い事はないんですから』
 ルーシーの言葉に、真九郎は何も答えられない。目の前の現実離れした光景が、発言を許さなかった。
『給料は高価ですし、社員あっての企業ですから貴方を裏切りませんよ。ほら、我々に何か依頼をするのにも安くないお金がかかりますから、丁度いいじゃないですか』
 大きな猫が主に甘えながら、淫らに遊ぶ。股間からだらだらと愛液を漏らして飛び散らかしているのに、それを気にする様子が全くない。

 ひと擦りごとにぶちゅぶちゅと大きな音がし、はしたない姿を見せ付ける。紫の視線は真九郎に向けられる事など一度もなく、飼い主であるルーシーに媚びた目を向け続ける。
『それにほら、紫もこちらに来たのですから、もう何も問題はないでしょう。いい事尽くめですよ』
 そうだ、紫だ。たとえ真九郎の知る紫ではなくなったとしても、真九郎を救ってくれた事にはかわりない。自分が守らなければいけない少女を、こんな目に合わせた奴の言う事など聞けない。
「紫を無理矢理こんな目に合わせておいて、よく言う……!」
『あら、まだそんな人聞きの悪い事を。紫は自分で決めたんですよ。ほら、説明しなさい』
『はい。しんくろう、わたしは、望んでペットになったんだ。ルーシー様は無能なわたしを飼ってくださっているんだぞ。事実無根の妄言を吐くならとっとと失せろ、目障りだ。ルーシーさまぁ、もっとください』
 真九郎などどうでもよさそうに言い切ると、再び快楽に溺れる。既に紫には自分が人間であるという意識はなく、ペットになっている事に何の疑問もなかった。主と快楽以外には興味など持てない。
『それに、紅さんに来てもらえないと大変なんですよ。ペットにお金を使う気にはなれませんから、自分で稼いで貰わないといけませんので。屈強な人が多いですから、すぐに壊れてしまいますね』
 そんな事を嬉々として語るルーシーは、悪魔にしか見えなかった。その悪魔は、真九郎が詰んだ状態で呼ぶという周到さを見せた。もう打てる手はない。
『それに、金銭しだいでペットの販売もしますよ。もっとも、血統だけは無駄にいいので高いですが。購入予定の方がいれば、無能な猫でも大切に扱うことを約束します』
 紫に挿入されている二本のバイブが強く振動し、幼い肉を抉り取るのではないかというほど暴れる。陰部が充血するほどの暴力的な刺激にも喜び、長い黒髪を振り乱し発情期の猫のように鳴く。
 猫はずっと主に媚び続けている。たとえ主が、猫の事など歯牙にもかけなかったとしても。機械的に与えられる快楽に喜び、どんどん上り詰めていった。
『きゅうぅ、んああああぁぁ、イくうううぅぅぅ!』
 猫は絶頂し、潮と尿を撒き散らす。そんな刺激にすら喜んでいるのか、びくびく体を震わせて満面の笑顔を浮かべる。
 真九郎は溺れた紫の表情を見て、やっと本当に紫が居なくなってしまった事を理解した。結局画面の少女は、自分など見向きもせずに快楽をくれる主人と戯れていたのだから。
『私の話はこれで終わりです。もし悪宇商会に来ていただけるのでしたら、外に車が用意されていますのでそちらに乗ってください。私は来ていただける事を願っていますので。では』
 ディスプレイの明かりが消えて、真九郎は一人闇の中に取り残される。
 紫はもう帰ってこない。それが分かっている。それでも、搾取されるだけの紫を捨ててはおけない。 真九郎が付いていけば、少しは負担が軽くなるだろう。
 真九郎は車に向かう。もう二度とここに戻って来れない事を感じながら。

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