自分の彼女が自分以外の人にさえたＨ 総集編

しばらくして勝ったＡが戻ってきて、
｢悪いけどなんか気分悪いし、しらけたから帰る｣と言って先にひとりで
電車で帰っていった。
Ｂが心配になったので店を出て、見にいったら見事にノされていたが
ダメージよりも酒が回り切っていたせいっぽくて大丈夫そうだった。
メンバーにＢの世話を任せて、俺と親友は帰ったんだけど本当の事件は
それから起こった。


清算も終わり、皆が帰ろうとした頃にＢが復活したらしい。
｢Ａの野郎、どこ行った？｣と言い始めたので、｢もう帰ったよ｣というと
｢あの野郎、絶対このままじゃすまさん！｣とＡの自宅に押しかけかねない
勢いなので、なんとか冷静にさせようと、
｢今は酔っていて、まともな話し合いにはならないだろうから、
明日改めて会いに行け｣と諭したけど、全然納まりそうになかったらしい。
そうこうしているうちに、益々怒りが込み上げてきたらしく、そばに停められ
ていた機材車のドアを開けＡのエレクトリック・アップライト・ベース
(所謂エレキのウッド・ベース)を引きずり出し始めたという。


皆が呆然として止めに入れずにいると、でかいわくそ重いわでとても
振り回せる代物じゃなかったのに、怒りのパワーを発揮したのか
下のアスファルトに叩きつけはじめたらしい。
皆がようやく我に帰って止めた時には、哀れボキボキの修復不可能な
状態に様変わりしてたという。
もうどうしたらいいか分からないので、全てを明日にしてその日は帰ったという。
居合わせた若い奴は、これがﾛｯｸﾝﾛｰﾙか！、とちょっと感動したらしい。


ここからが本題。
殆どのメンツは先に帰ったんで、翌日この事を知ったんだけど、
俺も含め皆Ｂに怒り心頭。人の大事な楽器をあんな風に破壊するなんて、
ミュージシャンとしてありえない。絶対にあいつは許せん！って感じで
特に親友はＢと親しい奴に、
｢俺はあいつのことは絶対に許さん。今度会ったらぶっ殺してやるって
言っておけ！｣と自分の楽器が壊されたわけでもないのに切れまくって
言ったりしていたらしい。誰が見聞きしても、悪いのはＢだった。


が、どうもＡの様子がおかしい。
Ａがどれだけその楽器を大切にしていたか知っているだけに、どんな報復を
するんだ？　頼むから警察沙汰になるようなことだけはするなよと思っていた
んだが、｢あいつだけは許さん｣とか｢もうバンドは解散だ」とか言うばかりで
Ｂへの報復に走る気配はない。
そんなある日、Ｂから親友に電話が掛かってきた。
親友は年長のこともあり、ＡＢ両方から兄貴分として慕われていた。
兄貴に本当のことも知られないまま嫌われるのは辛すぎると、泣きながら
話したところによると、ＡがＢの嫁さんに手を出していたらしい。


どうして分かったのかは知らないが、その時は自分も散々外で遊んでるし、
一回切りのことだし、子供達やバンドのこともあるから、自分の胸にしまって、
これからも二人と上手くやっていこうと思っていたらしい。
だが、あの日しこたま酔ったせいで、つい思いが爆発してしまったという。
親友もあまりの話に呆然としたらしいが、知らずに言いすぎてしまって悪かった
と詫びたらしい。
こんなことは身内の恥だから皆には話さないでくれと、口止めされたらしいが
皆から一方的に悪者にされるのは可哀相だからと、後日こっそり俺だけに
教えてくれた。俺も誰かに話すつもりはない。


その後の顛末は
・バンドは解散
・メンバー含め事の次第を知っている人間は、ＡＢ共に少し距離を置いている。
・Ｂは今のところ、離婚したりするつもりはないらしい。
・五年来の親友同士だったＡＢの仲は、現状では修復不可能。
って感じかな。
身近なところで初めて起こったさえた話でした。