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その男、昏睡中につき(9)

車内の雰囲気は重苦しいものに変わっていた。
英子は手持ち無沙汰であった。
「息苦しい・・・」英子はこの雰囲気に押しつぶされそうになっていた。
ふとクーラーの吹き出し口のカップホルダーに気がついた。
そこにはお茶があった。
「息苦しい・・・」のどもカラカラになっていた。

英子はカップホルダーに手をのばした。
「あっ!危ない!!!」
山本は叫ぶといきなり急ハンドルを切った。
「イヤ!!!」
英子は激しく体を揺さぶられた。
「な、なに!どうしたの?」
「なんか、動物が横切った・・・イタチか猫か?」
「びっくりした・・・」
「ご、ごめん、驚かせちゃったね・・・」


「ごめんね、もっと早く帰ればよかったね」
山本はこの機会を利用してこの重苦しい雰囲気を和らげようとした。
「ううん、いいの、山本君私の事気遣ってくれたのにね。
私の方こそ酷い事言ってごめんなさい」
「いいんだよ、英子ちゃんが元気出してくれれば嬉しいよ」
「ありがとう、元気だすね」英子は微笑んだ。

「ねぇ、猫・・・轢いちゃったの?」恐る恐る英子は聞いた。
「大丈夫だよ、きちんとよけたから。でも、危ないよな」
「真っ暗だから気がつくのが遅れたら轢いちゃうところだったよ」
「私、猫好きだから轢かなくてよかった」
車内の雰囲気は先ほどとはうってかわって和やかなものになっていた。


「ねぇ、今どの辺を走っているの?」
「今、うん、茨城だよ」
「えっ!まだ茨城なの?」
「ごめん、いろいろまわったから・・・」
「もう10時過ぎてるし、早く帰りたいよ」
「あっ、うん、大丈夫、大丈夫だよ」

「さっきからどんどん人気のないところに向かっていない?」
「あっ、こっちのほうが近道なんだよ」
「近道なのはいいけれどもさっきからすれ違う車もいないしなんだか恐いよ」
「大丈夫、俺、道知っているから」
「さっき迷ったとか言っていなかった?」
「大丈夫、ちょっと自身がなかったから地図を見ただけ」


山本はさらに車を進めた。英子もこうなったら山本を信用するしかなかった。
山本は片手でハンドルを握りながらコーラを手にとった。
「あっ、ふた開けようか?」
「うん、お願いするよ」
山本はそう言って英子に手渡した。
キャップを回転させるとプシューという音を立た。
「まだ気が抜けてないみたいだね。よかった」
英子はそう言って山本に渡した。


「私も喉かわいちゃった」
英子はそう言うとお茶のペットボトルを手に取った。
時計の時刻は10時30分を示していた。
「ねぇ、山本君、今日中に私の部屋に着くのかな?」
英子はキャップを回転させながら山本に言った。
「うーーーん、もう10時半だからね・・・12時までというのは難しいかな」
「えーーー、ここそんなに遠いいの?」
「うん、ごめんね」


「さっき泣いたから喉かわいちゃった」
「うん、お茶、飲みなよ。遠慮はいらないから」
「ありがとう、いただくね」
英子はキャップを取り外した。
山本は英子の動作を横目で観察していた。
英子の動きは非常にゆったりとしたものだった。


英子は取り外したキャップをダッシュボードの上に置いた。
「ねぇ、ちょっと冷房がぬるくない?」
「えっ、あっ、あぁ、うん、そ、そうかもしれないね」
しどろもどろになりながら山本は答えた。
「お、温度下げようか?」
「うん、これさぁ、ホルダーがクーラーのところについているでしょ」
「あっ、うん、そうだね」
「ここにしばらく置いておいたら冷たくなるかな?」

「えっ!変わらないよ、そんなことしてもあんま効果ないよ」
「そうかなー少しは冷たくなるよ多分」
「変わんないよ、無駄だよ・・・」
「そう?試してみようかな」
そう言うと英子はキャップをはめて再びホルダーに戻した。


「・・・」
山本は再び黙りこくってしまった。
英子も山本と話をしていたも面白くないので黙っていた。
車内の雰囲気は再び重苦しいものになっていった。

車外は暗闇だった。英子の心を表しているかのようだった。
なんで秀樹は村上さんなんかと・・・英子は考えてみた。
いくら考えても理解できなかった。
秀樹は私の事を愛していてくれた。いつも私の事を好きだと言ってくれていた。
それが一体何故・・・
いくら酔ったからとはいえ酷すぎる。


前日は酔って私の知らない間に私の中に射精した・・・
今までそんなことした事一度もなかったのに。
確かに、外で出すから生でやらせて欲しいと何度かお願いされた事はある。
英子は妊娠するのが恐かったからそのお願いを何度も断った。
秀樹は私が嫌がることを無理やりやるような人じゃない。
なまでやることでさえ拒否していた私に秀樹がなかだしするなんて・・・

それに、秀樹は何度も何度も眠っている私の事を犯しつづけた。
中に出しただけではなくほぼ全身に射精されたあとが残っていた。
顔、胸、お腹、そしてアソコにも・・・少なくても四度は犯されたのかもしれない。
いくら付き合っているとはいえ、眠っている間に私が一番嫌がっていたことをするなんて。
レイプ、そう、レイプと変わらない・・・


いつのまにか、英子の頬を涙が伝っていた。
車窓に映る自分の顔が涙でグシャグシャに見えた。
もう、死にたい・・・英子はそう思った。
信じていた彼氏に寝ている間にレイプされた。
その彼氏は翌日は親友の彼女をレイプした。
あんな人だとは思わなかった・・・
英子の頬を伝う涙は止まらなかった。


「どうしよう、ガソリンがなくなってきた」
山本は突然、口を開いた。
「えっ、えっ」
英子は泣いていた事を覚られまいとして慌てて顔をそむけたまま声を出した。
「秀樹を迎えに行く前に満タンにしておいたけど走り回ったからな・・・」
「途中で給油するつもりだったけど、頭に来ていたし英子ちゃんを励まそうとか
思っているうちに忘れていたんだ・・・」
英子はバックからハンカチを取り出して涙を拭きながら答えた
「えっ、どこかガソリン入れるところはないの?」
「えっ?あっ、あぁ、俺のバイト先が近くにあるけれども・・・」


「えーと、時間は・・・やべ、もう11時だ・・・」
「えっ?だめなの?」
「ごめん、11時で終わりなんだよね。この辺のスタンド閉まるのが早いんだ」
「それでも、僕のバイト先は遅くまでやっているほうなんだよ」
「でも、11時で終わりだから・・・」
「今からとばせば間に合わないの?」
「ごめん、近いといっても30分くらいかかるかな?」

「じゃ、もう送らなくていいから近くの駅まで連れて行って」
「駅?、あぁ、電車ね」
「もう遅いし、電車で帰る」
「いいけど、駅も遠いよ。うん、駅に着く頃には終電終わっているよ」
「なんで?だってどんなに遠くても12時前にはつくでしょ?」
「ここは田舎だから下りの電車は割と遅くまであるけど上りはもうないよ」
「それに12時にもなったら下りだって終わってるよ・・・」
「・・・」英子は再び黙り込んでしまった。


山本は再び車を道路の脇に停めた。
「ごめん、僕、家に電話しておかないと親が心配するから」
「今日帰るって言ってあるからね」
「・・・」
「ホントにごめん」
そう言って山本は車を降りると携帯で自宅に電話をした。

英子は非常に不安になっていた。
今までに茨城になど一度も来た事がない。それにたとえ来た事があったとしても
こんな林の中の寂れた道ではここが一体どこなのか想像もつかない。
頼りになるのは山本だけだった。


車外に目をやると山本は電話で何か説明をしているようだった。
秀樹から聞いたことがあるけれども、山本君は両親が年を取ってからの子供だって言っていた。
だから、多分とても心配されているんだろうな・・・
ふとカップホルダーに入ったお茶に眼が止まった。
英子は何も考えずに手にとってみた。
山本君はクーラーのところにあっても冷たくなるわけがない無駄だと言っていたが
そんなことはなかった。手に取ると心持冷たくなっていた。

「ふふふ、私の思ったとおりだ」
英子は自分の考えたとおりになったことが嬉しかった。
「少し飲んでみようかな?」
中身も冷えているかもしれない。
英子はキャップに手をかけた・・・


「ごめん、ごめん、親に説明するのに時間がかかっちゃった」
山本がドアを開いて中に入ってきた。
お茶のキャップをはずしている英子に気がつくと、
「ごめん、じゃましちゃった?いいよ、お茶でも飲んでゆっくりしてて」
「えっ、ううん、これ、冷えたよ」
「ん?何のこと?」
「クーラーで冷えるわけないって山本君いったでしょ?」
「えっ?そんなこと言ったっけ?」

「もーとぼけちゃって、これ、ほら、触ってみて、冷えているでしょ?」
「あっ、あぁ、ホントだ冷えてるね」
「私の言っていたとおりでしょ」
「うん、そ、そうだね、うん、せっかく冷えたから飲んじゃいなよ」
「うん」


「そうだ、山本君飲みなよ、疲れているでしょ、はい」
英子は山本に手渡そうとした。
「い、いらないよ、ぼ、僕、お茶嫌いだから」
「嫌いなの?珍しいよね、お茶嫌いな人って」
「えっ、う、うんまぁ嫌いというか、あまり好きじゃないんだよ」
「そうなの」英子はそう言うと再びお茶をホルダーに戻した。

「もう少し、冷やしてから飲もうっと」
「・・・」
山本は黙りこくった。
「ん?どうしたの?」
「あっ、な、なんでもないよ」
山本は慌てていった。
「お母さん、心配していたの?」


「あっ、そんなことないよ、大丈夫だよ」
「でも、もう帰らないと心配するでしょ?」
「いいや、バイトに行ってバイトの連中と飲むから今夜は帰らないって言っておいた」
「えっ?帰らない???」
「うん、飲んだら運転できないからよくバイトの連中の所に泊まったりするんだよ」
山本は嘘をついていた。英子に言った内容は確かに母親に言った事である。
しかし、山本はバイト先でも変人扱いされて飲みに誘われたことなど一度もなかった。

「ねぇ、ところで私、どうしたらいいの?」
「ガソリンがないなら私の事送れないでしょ?」
「電車もないんでしょ?」
英子は心配になって山本に聞いた。


「うん、なんとかするよ」
「・・・」
再び車内には重い沈黙が流れた。
沈黙が続くと英子はだんだんと腹が立ってきた。
なんで私はここにいるの?
自分で自分に問い掛けていた。

こうなったのも全て秀樹のせいであった。
あんなに楽しみにしていた海水浴、別荘でのひと時、そして愛し合うふたり・・・
その計画は大無しにされた。それどころか、寝ている間に一番されたくないことをされて
あげくには親友の彼女と寝ていた・・・
考えただけで頭がどうにかなりそうだった。


「うーーーん、どうしようかな?」
何も考えのない山本に対しても怒りが湧いてきた。
「じゃ、山本君の家に泊めてよ!私の寝る位のスペースはあるでしょ!」
「えっ・・・、こ、困るよ・・・だって、親がいるし」
「別に一緒に寝てなんかするわけじゃないから平気でしょ」
「だっ、だってお母さんにバイトの連中と飲みに行くって言っちゃったし」
「私がお母さんに説明するわよ」
「だ、ダメだよ、お母さんに嘘ついたことがばれちゃうよ」

はっきりしない山本に対しても英子の怒りは爆発寸前だった。
「じゃ、ホテルに連れて行ってよ、ビジネスホテルとかあるでしょ!」
「えっ、ここは田舎だから、そんなものないよ・・・」
「駅の側まで行けばあるでしょ!」
「あっ、えっ・・・な、ないよ、それに駅までガソリンがもたないよ」
山本の答えはしどろもどろを通り過ぎて支離滅裂になっていった。


「じゃ、私にどうしろというのよ!!!」
「えっ、このへんじゃ、うーーーーん」
山本は考え込んだ。言っていいのか悪いのか・・・最高に悩んだ。
山本は今まで女をホテルに誘った事はなかった。
山本が素人童貞を卒業した相手の村上とホテルに行った時は
車中で「居眠り」していた村上が偶然目を覚ました時にトイレに行きたくて
「ホテルに行ってもいいよ」と言ってくれたからである。
自分からラブホテルに行こうだなんて言い出すことができなかった。

「そ、そんなに怒らないでよ、お茶でも飲んで落ち着いてよ」
「なんなのよ!このまま車で過ごさなければならないの?」
英子は怒って怒鳴った。
山本は慌ててホルダーからお茶を取り出してキャップを取り外して英子に手渡そうとした。
「もういい!」
英子は山本の差し出すペットボトルを払いのけた。


山本の準備していたペットボトルのお茶は後部座席にまで吹っ飛んでしまった。
それは後部座席の山本のかばんに当たってそのまま座席にひっくり返った。
「・・・」後部座席に目をやる山本の顔は青ざめていた・・・
山本の表情を見た英子も後部座席を振り返った。
お茶は後部座席に流れ出し、座席はおろか山本のかばんと英子のかばんも濡らしているようだった。
「ご、ごめんなさい・・・」

山本の顔が異常に青ざめているのをみて英子はとても悪い事をしたと思った。
英子は急いで後部座席に転がるペットボトルを拾い上げるとハンドバックから
ハンカチを取り出して座席を拭こうとした。
その間も山本は黙って身動き一つできずにいた・・・
山本は額から汗を流し、顔は青ざめ、表情は強張っていた。
英子は急いで座席を拭ったが、ハンカチ一枚では足りなかった。
「ご、ごめんなさい、ティッシュある?」
取り付くように英子は言った。


「ねぇ、山本君!大丈夫?なんか変だよ・・・」
あまりにも呆然とする山本を気遣って英子は山本の肩に手をかけた。
「ねぇ、しっかりして・・・」
「どうしたの?」
英子は汗ばむ山本の額の汗をバックから取り出したポケットティッシュの
1枚で拭ってあげた。
「本当にごめんなさい。せっかく山本君が用意してくれたのに、ほとんどこぼしちゃった」
「シートもよごしちゃって・・・」

「・・・」
山本は何も言えずに黙っていた。
「ねぇ、山本君。ホントにこの辺は泊まる所何もないの?」
英子は山本の肩をさせえるようにして言った。
「お茶、こぼしたのはごめんなさい」
「でも、私の方はもっと死活問題なのよ」
「まさか、女の子に車の中で野宿しろとでも言うの?」


「えっ、あぁ・・・」
ようやく山本は言葉を発する事ができた。
「よかった、山本君、どうにかなっちゃったのかと思った」
「あー、うん、あぁ」
山本は気のない返事だかなんだかわからない言葉にならない単なる声を発するだけだった。

「山本君、この辺はあのホテルもないの?」
英子は恥ずかしそうにいった。
「えっ?あっ、な、なに?」山本はようやくわれに帰ったように返事をした。
「ほら、例えば・・・ラブホとか・・・」
英子はうつむきぎみにいった。
「あっ、あぁ、う、うん」
山本は慌て気味に返事をした。
「あっ、あるよ、うん、そういえば、近くにあったな」


ようやく山本は言葉を発する事ができた。
「あー、あそこなら、ぼ、僕のバイト先の近くだし、うん、大丈夫」
「朝になったらガソリンも入れられるよ」
山本は急に饒舌になった。
「そうだよね、英子ちゃん車の中で過ごすわけにも行かないよね」
「うん、疲れているだろうし、うん、シャワーでも浴びてゆっくりと休んだ方がいいよ」
「そうだ、そうだ、多分、あそこならゆっくりできるよ、大丈夫」

「山本君、変なこと想像しちゃダメだよ」
「えっ、な、何」
「ホントにただ休むだけだからね」
「あっ、あっうん、わ、分かっているって」
「別々に寝るんだよ」
「えっ?あー、うん、うん。分かっているよ」

そう言うと山本は車を急発進させた・・・


山本はラブホの部屋の写真の着いたパネルを一目見て何も考えずにある部屋のボタンを押した。
値段はどの部屋も同じような設定だった。ただ、都内のホテルに比べると割安な感じはした。
英子は自分の荷物とハンドバッグを山本は自分のスポーツバッグをかかえて受付で鍵を受け取ると
足早にエレベータへと急いだ。英子は特に慌てる様子もなく山本に従った。

「やだー、この部屋、お風呂丸見えじゃない・・・」
山本の選んだ部屋は風呂場がガラス張りで中身が丸見えの部屋だった。
「こんなんじゃやだよー、他の部屋に変えてもらおうよ」
「だ、だめだよ、ここはみんなこんな部屋だよ、おんなじだよ」
山本はしどろもどろに言った。
「だ、大丈夫だよ、見ないようにあっち向いてるから、平気だよ」


「やだよ、そんなこと言って絶対見るんだから」
「ホント、平気だってば、見ないよ」
「えー、お風呂はいるのやめようかな・・・」
「えっ?疲れているからお風呂はいりたいっていっていたじゃない、入りなよ、見ないから」
「でも・・・やっぱり丸見えなのはイヤだわ」

「お風呂にゆっくりつかってごらんよ、リラックスできるよ」
「うん・・・・そうかもしれないけどな・・・」
英子は悩むように考え込んだ。
「そうだよ、お湯につかってゆっくりすれば嫌な事も忘れられるし」
「そうそう、ほら、ここ、バスフォームがあってさ、泡風呂になるよ」
「ほらほら、大丈夫だって、絶対に見ないって」
山本は説得するのに必死だった。
「うーーーーん・・・」英子は悩んでいた。


「そうだね、リラックスできるかもね・・・」
「じゃ、遠慮なくはいっちゃおう、でも、絶対見ちゃダメだよ」
「も、も、もちろん、だ、だだ大丈夫だよ、へーきへーき」
山本は顔を真っ赤にさせながらそんなことを言った。
「じゃ、お風呂いれてこよ-と」
英子はそう言うと、バスタブにバスフォームを入れてお湯を勢いよく注ぎ始めた。

英子が風呂の準備をしている間に山本はなにやらかばんの中をあさっていた。
山本のかばんはたった二泊の男のかばんにしてはなにやら大きいものだった。
たしか、服はTシャツとジーパンくらいなもので、おそらく二日間とも同じジーパンだったろう。
夜も短パンにTシャツ程度のものだった。
「んー?山本君、何してるの?」
風呂場から戻った英子は聞いた。
「えっ!い、いや、別に。昨日の残りのスコッチあるから飲もうかなと思って・・・」
そんなことを言いながら山本はボトルを取り出した。そこには琥珀色の液体が
4分の1くらい残っていた。


「ふーん」英子は気のない返事をした。
「え、英子ちゃんも飲む?」
「うーん、今はいらない、これからお風呂はいるもん」
「じゃ、じゃ、お風呂から出たら飲みなよ」
「んー、あんまり飲みたくないな・・・」
「飲んでぐっすりと休んだらいいよ」
「いいよ」
英子はバッグの中身をあさりながら気のない返事をした。

英子はバッグの中から巾着袋を取り出すとトイレの中に入っていった。
英子は特に気にもとめていなかったが、山本はなにやら嬉々として飲み物を作っていた。


しばらくして英子が体にバスタオルを巻いてトイレから出てきた。
「あっ、え、英子ちゃん」山本はびっくりしたような顔をしていた。
「これからお風呂はいるけれども絶対に見ないでよね」
「あ、あぁ、うん、だだいじょうぶ、見ない、見ないよ」
「それじゃ」英子はそれだけ言うと風呂場へと向かった・・・

英子は山本の様子をうかがってみた、どうやら向こうを見ているようだが
何気に顔を傾けてこちらをちらりちらりと見ているような様子だった。
やっぱりな・・・英子は心の中で思った。
見ないとか言っても気になるのは仕方がない。
こっそり盗み見ようとしているのがよく分かる。
やっぱり山本君も男だからね・・・
英子はそう思いながらもバスタオルをはらりとはずした・・・


「あっ!」
思わず山本は声をあげてしまった。
「えっ?どうしたの?」英子は風呂場から山本に声をかけた。
「なっ、なんでもないよ・・・」
「ふーん・・・」
英子はそう言うとシャワーを浴び始めた。

英子のバスタオルの下は別荘で着ていた水着だった。
淡いピンク色と白色の生地を織り込んだビキニだった。
英子は見ないと言っている山本を信用しないわけではなかったが
水着を着て入浴する事にしたのだった。
英子はシャワーを浴びると泡立った浴槽につかった。
「ん・・・気持ちいい・・・」


ふと山本のほうを見てみると明らかに肩を落としてがっくりとしているようだった。
やっぱりな、水着を着ておいてよかった。
山本君には悪いけれどもやはり裸を見られるのはイヤだった。



しゅわしゅわと音を立てる泡・・・ほのかなバラの香り・・・
英子は眼をつぶって泡の感触と香りを楽しんだ。
しかし、気持ちはそれらとは裏腹に沈みこんでいった。
お風呂は英子をリラックスさせるどころかさらに悲しくさせた。
無性に孤独感を強めるだけだった。
英子の頬を涙がつたう・・・ダメだ・・・
あの時の光景がまたも脳裏に浮かぶ・・・

しだいに英子の涙の量は増えていく。
それに伴い喉もなりはじめる。
息遣いも荒くなる。
悲しい、つらい、くやしい・・・
「うっ、うっ、うっ」
英子の口から嗚咽が漏れる・・・


浴室は音がよく響く。
英子の嗚咽も反響をしていた。
「どうしたの?大丈夫?」
心配そうに山本が声をかけてきた。
「うっうっうっ・・・」
英子はそれには答えず泣くのをこらえているようだった。

「ホントに大丈夫なの?」
山本はしつこく聞いてきた。
英子は無視するように黙って涙をこらえていた。
「え、英子ちゃん、水着着ているから俺も一緒に入ってもいいでしょ?」
山本は調子に乗ってそんな事を言ってきた。
「ダメだよ!」英子はようやくのことで声を出した。


「お願いだから独りにさせて・・・」英子は泣きながら答えた。
英子の涙はもう止まらなかった。なりふりかまわず泣き叫びたかった。
たとえ浮気をするにしても、現場を見せ付けられるだなんて・・・
とても人のすることではないと思った。
鬼だ、悪魔だと・・・


いつしか、英子は落ち着きを取り戻していた。
入浴の効果が多少はあったのかもしれない。
また、思い切り泣く事により冷静さを取り戻す事ができたのかもしれない。

今、英子はラブホテルの浴槽につかっている。
そしてそこには、秀樹の親友だった山本がいる。
英子は特に山本と関係をもつつもりは全くない。

しかし、秀樹はその親友である山本の彼女である村上と寝たのである。
しかも英子はその現場を目撃してしまった。
おそらく、山本も英子と同じ心境のはずである。
その山本が私の事を気遣ってくれている。
山本君も傷ついているはずなのに・・・



山本君はいい人だし、今日くらいは・・・
英子の心の中でまるで悪魔がささやいているようだった。
秀樹に踏みにじられたからだ。
秀樹に傷つけられたこころ。
もう、秀樹なんてどうでもいい。死んでしまえばいいんだ!
英子は心の中でそう叫んでいた。
死んじゃえ!もう、秀樹なんか知らない。どうにでもなってしまえばいいんだ・・・

秀樹に復讐してやりたい・・・
英子の脳裏には「復讐」の二文字が浮かんだ。
どうやって復讐したらいいのだろうか?
まさか本当に命を奪うわけにはいかない。
殺したい、それくらい憎しみを抱いてはみたものの
英子には殺人などとても無理な話だった。


なら、秀樹にも同じ苦しみを味あわせてやればいいのだ!
そう、秀樹も苦しめばいいんだ!

秀樹が嫌がることをしてやればいいんだ。
そのためにはどうしたらいいのだろうか?
秀樹の携帯も自宅の電話も念の為公衆電話も着信拒否にはしておいた。


そうだ、秀樹は私の部屋の合鍵を持っている。
いつでも自由に出入りができてしまう。
管理人さんに事情を説明して部屋の鍵を取り替えてもらおう。
理由などはいくらでも説明できるだろう。
他にどんな事ができるだろうか・・・

ぬるめのお湯にしたとはいえ、あまりにも長くつかりすぎたため頭もふらふらしてきた。
このままではいけない・・・考えもまとまらない。
英子は泡も半分以上消えてしまった湯船から上半身を起した。
水着の上からとはいえ豊満な英子の胸にまとわりつく泡は非常にいやらしく見えた。

英子は上体を起こし右足から静かにあがった。
左足も湯船から抜く・・・泡にまみれた英子のからだからお湯がしたたりおちた。
水着を着ているためにかえっていやらしかった。
ビキニのボトムからしたたるお湯はまるで愛液が溢れているかのようだった。


山本がちらちらと見ているが水着を着ているのであまり気にしなかった。
からだにまとわりつく泡を流すためにシャワーを浴びた。
すこし湯あたりしてしまったためにぬるめというよりほとんど冷水といっていい
位の温度に設定してみた。
つ、つめたい・・・気持ちいい。
冷たいシャワーは熱くほてったからだを冷やしてくれた。
また、血が上った頭も冷やしてくれていた。


「やだー、山本君、目つきがH!」
「ダメだよ、そんな目で見ちゃ、恐いよ」
英子はバスタオルでからだを隠して言った。
「ご、ごめん、え、英子ちゃん、あまりにも魅力的だから・・・」
山本は慌てて視線をそらせて言った。
「美香とは大違いだよ。英子ちゃん、とても色っぽい・・・」
「ダメだよ、私たちはそんなんじゃないんだから」
「だっ、だって本当の事なんだよ、美香なんて細くて色黒だし」
「ダメだよ、自分の彼女の事そんなこと言っちゃー」

「あ、あんな奴、彼女じゃないよ!」
山本は珍しく強くいった。
「ご、ごめん・・・あんなことがあったあとだもんね」
英子はさびしげに言った。
「山本君もつらいんだよね・・・」


「じゃ、僕もシャワー浴びてくるよ」
そう言って山本はタオルと備え付けのガウンを持って浴室に入っていった。
「覗いてもいいよ」山本はおどけてそういいながら扉を閉めた。
「ばかー、山本君の変態!」
英子もおどけてそう言った。
もちろん、英子は山本の入浴シーンなど見たくないから後ろ向きでいた。

英子は有線放送のパネルをいじくり、お気に入りのジャンルを探してみた。
「うん、これにしよう」
お気に入りのヒップホップのチャンネルにした。
英子は洋楽のブラックミュージックが好きだった。


そう言えば秀樹とは音楽の趣味もあっていた・・・
お互いにかぶるCDが何枚もあっておかしかった。
ただ、私は輸入版が好きだったけれども秀樹は日本製を買っていた。
輸入版は歌詞カードがついていないのが多いから、あと和訳があったほうがいいよ。
そんな風に言っていた。しかも、日本製はテキスト処理されていてオーディオによっては
曲名が表示されたりしていた。それがいいんだと・・・

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