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祖父の指(1)

 この地方では雪なんてちっとも珍しくないが、こんなに大雪になることはめったにない。
 朝から降り続いていた雪が夜に入っても降り止まず、かえって吹雪模様に激しくなって、
 テレビの臨時ニュースでは降雪注意報が大雪警報に切り替えられていた。
 そろそろ寝ようと思って、妻の圭子が布団を敷いている間、僕はボンヤリと窓の外を見ていた。

 夜の不気味なほどの黒い闇と白い雪だけの世界。日常の世界をすっかり冬眠させて、
 まるで白いカーテンで覆い隠すように白一色の別世界に変えてしまっている。
 雪のせいか、やけに底冷えがした。
 トントンとゆっくり階段を上がって来る足音がして、「まだ起きてるか?」と父の声がした。
「じいちゃんがな、風呂に入りたいって言うんだ」
 困惑した表情で父が言った。言い出したら利かない祖父のことだ。
 父も母もさぞ手こずっていることだろう。僕は同情するように父を見た。
「おふくろは?」
「うん、それがなぁ・・・」
「あゝ、そうそう、お母さん、腰が痛いって言ってらしたわ」圭子が思い出したように言った。
「圭子さん・・・。すまんが、何とかお願いできないだろうか・・・。別にいいだろう?もう八十過ぎなんだから・・・」
「はい。いいですよ」圭子は何でもないことのように答えた。すでに立ち上がっている。
 祖父は寝たっきりで、ほとんど風呂に入ることが出来ない。
 頭はしっかりしているんだが下半身がまったくダメだ。
 だから、普段は母が時々身体を拭いてやるか、たまに巡回して来る介護専用の風呂に入れてもらうのがやっとだった。
 でも、稀に身体の調子がいい時、家族のものが協力して家の風呂に入れてやることがあった。
 その役目はいつもは母がやるのだが、持病の腰痛が出たっていうんだったらしょうがない。
 でも、だからといって圭子には無理だ。圭子は嫁いで来てまだ半年しか経っていない。
 いくら家族の一員とはいえ、僕以外の男を風呂に入れるなんてことが出来るはずがない。
「まだ、圭子には無理だよ」僕は父に言った。
「そうだろうなぁ・・・」父が困惑したように答えた。
 しかし、圭子はその“無理”という言葉を誤解した。まだ嫁として半人前であると受け取ったらしい。
「私にだって出来るわ。体力はお母さんよりあると思うし・・・。
 それに、私、早くこの家のお役に立つようになりたいもの」ちょっと憤慨したように僕に言った。
 僕は圭子の言葉を無視した。
「僕がやろうか」父に向かって言った。
 でも、父はゆっくりと首を横に振った。「お前がやれるくらいなら、私やお兄ちゃんがやってる」
 実際、それが無理なことは判りきっていた。僕の家系は、祖父を始め男は皆んな身体がでかい。
 あの浴槽の中に身体の大きな男二人が一緒に入るなんてことは不可能だ。
「大丈夫よ、心配しなくって。直ちゃんは黙ってて・・・」
 圭子は箪笥の引き出しからちょっと大きめのエプロンを取り出した。
 去年の暮れの大掃除の時に買った、胸のところに可愛いチューリップの刺繍が入っているエプロン。
 そのエプロンを被るように身につけると後ろ手に紐を結わえる。とても主婦のようには見えない。まだ高校生のようだ。
 その作業を父も見ていたが、僕に向かって「お母さんも付いているから・・・」そう言った後、「じゃぁ、頼んだよ」と眼を背けるように階段を降りて行った。
 僕は圭子に何か言わなければいけないと思った。勘違いしているのだ。
 でも、圭子はエプロンのポケットに両手を突っ込んだまま、「さぁ直ちゃん、行こう」と僕を誘った。僕は言葉の接ぎ穂を失った。

 僕の名前は直樹。高校を卒業後、東京の大学へ進んで、昨年の春、地元の企業に就職したばかり。
 妻の圭子は高校の時の同級生で、僕が就職するのを待っていたかのように結婚した。だから、まだ新婚ホヤホヤなんだ。
 結婚はちょっと早いような気もしたが、たまたま僕の兄が離婚して女手が減り、祖父のような障害者を抱えて母一人では家事をもてあました。
 それに、僕と圭子がいづれ結婚するっていうのは、お互いの家族にも、それから友人達にも周知の事実だったから、後でも先でも同じことには違いない。
 圭子は、結婚を契機に勤めを止め、母と一緒にこの家の家事を取り仕切っている。頭のいい女だ。
 兄嫁とは上手くいかなかった母も、圭子とは本当の母子のように自然に振る舞うことが出来た。
 まあ、高校の頃から世話女房タイプで、僕の嫁になると勝手に決め込んでチョクチョク家に来ていたから、母にも顔なじみではあったが・・・。

 僕と圭子が風呂場に行くと、母が壁に寄りかかるように立っている。
「ゴメンなさいね、圭子さん。無理なことお願いしちゃって・・・」
「それはいいんですけど・・・。それよりもお母さん、腰、大丈夫ですか?」
「これは持病だからしょうがないんだけど、こんな時によりによって、ねえ。おじいちゃんたら、言い出したらきかないんだから・・・」
「私に出来ることでしたら喜んで・・・。それにおじいちゃん、ずっとお風呂に入れなかったみたいだから・・・」
「そりゃぁ、おじいちゃん喜んでたわ。もうすぐお父さんとお兄ちゃんが連れて来ますからね」
 僕は黙っていた。
「でも、ちゃんとできるかしら。ご高齢のことだし、間違いがあったらいけないから、お母さん、ちゃんとそこにいて下さいね」
 そう言いながら、圭子はセーターを腕まくりした。
 浴室の戸は大きく開けられている。人一倍身体のでかい祖父を入れるためにはそうせざるを得ないだろう。
 その開け放たれた戸が閉まってしまうのを阻止するように、母は椅子を置いて座っている。
 そこからは、まるで舞台のように、脱衣室から浴室、浴槽まですっかり見通すことが出来るのだ。
「じゃぁ、お願いね」
「はい。任しといて下さい」浴室入り口の壁に背中をもたせかけて、ちょっと自慢げに笑う。
「・・・・・・」
「私、これで力はある方ですから・・・」
「圭子さん・・・?」母がもう一度圭子を見た。
「え?」
「圭子さん、何してるの?早く準備して・・・」母が言った。
「準備、って?私、いつでも大丈夫ですけど・・・」
 エプロンがちゃんと結わえられてるかどうか確認するように、もう一度、結び目に手を遣る。
 母は不振そうに僕の方を一回見て、それから圭子に言った。
「違うのよ。・・・。一緒にお風呂に入らないとダメなの。
 足が全然ダメでしょう?だからね、圭子さんが先に入って、浴槽の中で支えるようにして上げないとダメなの」
「・・・入るって、・・・裸になってですか?」
「そう。普通にお風呂に入るみたいに。もうすぐ、お父さんとお兄ちゃんが担いで来るから」
「・・・・・・」圭子の顔がみるみる青白くなった。
 僕は弁解するように母に言った。
「いやね。いくら何でも圭子が可愛そうだよ。皆んなの前で裸なんて・・・」
「何言ってるの。家族じゃないの」母はそう僕に言うと、圭子に向かって、
「子供みたいなこと言わないの。もう、他人じゃないんだから、恥ずかしがることないの」とちょっと強い口調で言った。
「直ちゃん、どうしよう・・・」圭子は救いを求めるように僕に向かって言った。
「だからお前には無理だって言ったんだよ」
 圭子は僕の前で下着姿を見せるのも恥ずかしがる。ましてや、いくら家族とはいえ、父や兄の前で裸になるなんてことは絶対に出来っこない。
「水着か何んかに着替えたらどうだ?」
「水着・・・?水着っていったって・・・。しまい込んじゃってるし・・・」
「僕が探してこようか?」
「・・・・・・」
 しかし、そんな悠長な時間がないことは圭子にも僕にも判りきっていた。
 遠くで、祖父の部屋の戸が開く音がした。
 母が言った。「あなた達、早くして。もう来るわ」廊下をドタドタと歩く音がする。父と兄が祖父を担いで来るのだ。
「早く!早く脱いで!」もう一度、母が急き立てるように言った。「何を心配してるの。私、ここにちゃんとついてますからね。大丈夫よ」
 僕は圭子を慰めるように言った。
「大丈夫だよ。バスタオルを身体に巻いてればいいさ」
 圭子はコックリと頷いた。
 でも、これは気休めに過ぎない。祖父を抱えれば、そんな布切れなんか、何の役にも立たないことは判りきっている。
 いや、そんなことよりも、早くしないと父や兄の前で服を脱ぐようになってしまう。戸は大きく開かれているのだ。
 圭子がエプロンの紐を解いて身体から外す。僕はそれを受け取った。
 その時、足音が近くなって、それから、父と兄に抱えられた祖父が脱衣室に担ぎ込まれた。



 雪はまだ降っているようだ。
 夕方、僕が仕事から帰ってきた時、圭子は一人で駐車場の雪掻きをしていた。
 確かに駐車場には雪がたっぷり積もっていて、圭子が雪掻きをしてくれなかったら僕の車はすんなりとは止められなかっただろう。
 圭子の赤い長靴が可愛かった。
 僕は御礼の意味も込めて、雪をボール状に丸め込むと、圭子の胸をめがけて投げつけてやった。
 「何するのよ」って笑いながら、圭子がスコップの雪を僕の頭から浴びせかける。
 僕がなおも雪をぶつけると圭子が必死になる。そのまま十分も雪合戦をしていただろうか。
 雪だらけになった僕と圭子が、家に入っていった時、母が呆れていたっけ。
 父や兄は、ふだんからムッツリしている。『北国の春』という歌謡曲の“兄貴もおやじ似で無口な二人が・・・”という歌詞を地でいっている感じだ。
 だから、家の中でも僕や圭子はやけに目立った。

「全部脱がせて来た?」母が父に聞く。
「おゝ、全部脱がせて来た」
「風邪引かせないようにネ」
 祖父は裸のまま、毛布ひとつに包まれている。
 この毛布は、以前、僕と圭子がプレゼントしたものだ。人一倍大きな身体が毛布からはみ出している。
 そのまま脱衣室に静かに寝かせると、それから父と兄が圭子の方を見た。さすがに圭子には言いにくいのか、兄が僕に向かって、
「おい、直樹。早くしろ。爺ちゃんが風邪をひいちまう」と言った。父は黙っている。
「判ってるよ」僕は投げやりに言いながら、圭子のセーターに手を掛けて捲ろうとした。圭子が、何するの?と僕の手を押さえた。
「しょうがないんだよ。爺ちゃんが待ってる」
 でも圭子は僕の手を押さえて離さない。
 それを見ていた母が、おもむろに椅子から立ち上がって、脱衣室の中に入ると、
「いいから・・・。私やるから・・・。圭子さん、もう部屋へ戻ってていいわ」そう言いながら、スカートのホックを外した。
「え?」圭子が驚いたように母を見た。
「そうよねぇ。まだ無理よねぇ・・・。いくらなんでも。いいのいいの、私やるから・・・」
「でも・・・、お母さん、腰が・・・」
 母はそれには答えず、「おじいちゃん、ごめんなさいね。今、支度するから・・・」そう言って、ホックを外したスカートを降ろそうとした。
 腰が痛いからだろうか、壁に片手をつきながら苦しそうに顔を歪めている。
「直ちゃん、どうしよう?」
「どうするって、お前が出来ないんじゃ、おふくろがやるしかないじゃないか」
「だって、お母さん、腰が・・・」
「だから、最初から安請け合いしなけりゃよかったんだ」僕の言葉は圭子には嫌みに聞こえたかもしれない。
 祖父は脱衣室の床に寝そべりながら、顔だけ母の方に向けている。「すまんなぁ・・・」と一言だけ言った。
 母はすでにスカートを降ろしている。足から抜き取ろうとした時、痛みを耐えきれず呻き声を漏らした。
 その時だった。
 圭子は母の元へ行くと、ずり落ちたスカートを持ち上げて、母の腰に着せ掛けた。
「お母さん、いいですから。私、やりますから・・・」
 母のスカートのホックを留めると、
「すみません。いま仕度しますから・・・」
 そう言ってから、吹っ切るようにセーターに手を掛けて、思いっきりよくセーターを脱ぎ捨てた。
「出来る?」母が圭子に訊いた。
「ええ・・・」脱いだセーターを片手で持ったまま、ジーンズにブラジャーだけの姿で圭子がうなずく。
「やってくれる?」
「ええ。大丈夫ですから・・・」
 圭子は隠れるように脱衣室の隅に行くと、そのままジーンズのホックを外す。ジーンズが下半身を滑った。
 僕も近寄る。
 すでに、ブラジャーとパンティだけになっている。
 自然、母が自分の身体で父や兄の視線から圭子を隠すようにした。
 父と兄に向かって、「ほらほら、おじいちゃんを早く入れて上げて・・・」と言った。
 父と兄は、毛布を慎重に剥ぎ取った。まだ祖父の上半身は意外にしっかりしている。
 それに比べて、下半身はやけに白く痩せていて、それに、艶がなくて所々にシミがあった。皺が波を打っている。
 父と兄は、裸の祖父をもう一度担ぐと、浴室に入れた。それから、浴槽のヘリに背を立てかけるようにして、洗い場に座らせた。
 父がその身体に浴槽のお湯を掛ける。それから、容赦なく下半身を洗う。
 父と兄が祖父を洗っている間、母と僕に囲まれるようにして、圭子が服を脱いでいく。母が後ろから、圭子のブラジャーのホックを外した。
「若いっていいわねえ。肌がピチピチしてる」母が僕に言った。
「結構、スタイルいいだろう?」
 僕は圭子を和ませたかったんだ。
 圭子が「何言ってるの。お母さんの前で・・・」とちょっと笑いかけたが、でも緊張しているからだろうか、笑顔が引きつっている。
「そりゃあもちろん。それに、たくさん子供を産みそうな身体をしてるわ。おっぱいもたくさん出そう」
 圭子がパンティを脱いでいる時、母が圭子の髪の毛を輪ゴムで結わえた。圭子の身長は母よりもだいぶ高い。
 母が背伸びをしている。圭子が「すみません」と一言だけ言った。
「早く子供が欲しいよな、圭子」
「大丈夫よ。すぐ出来るわよ、きっと。お前はお嫁さんに当たったかもしれないわね。
 お兄ちゃんはダメだったけど。ダメよ、大事にして上げなくちゃ・・・」
 目の前に圭子の全裸の身体があった。
 僕は圭子の全裸の身体をしっかり視線で捉えながら、あゝ、子供を作るってことは
 この圭子の身体の中に僕の種を植え付けることなんだなって、妙な実感を以て考えた。
 圭子が周りを見回す。近くにはバスタオルがなかった。しかし、母はそれに気づかない。身体を避けて浴室に圭子を導いた。
「準備、いい?」
「え・・・?ええ」
 母が、「じゃぁ、お願いね」と圭子に言って、それから父と兄に向かって、「今、行きますからね」と声を掛けた。
 全裸の圭子が、母に背中を押されるようにしながら、浴室の中に入って行く。
「バスタオル、いいのか?」僕は圭子の背中に声を掛けた。
「あらあら、ごめんなさい」母がそのことに気づいた。
 でも、もう遅いのだ。圭子の全裸の身体はすっかりあからさまになっている。
「別に・・・、いいわ」
 圭子はきっぱりとそう言った。
 父と兄は、わざと視線を反らせて、圭子を見ないようにしているのがありがたかった。
 しかし、祖父はそうではなかった。下の方からねめ回すように圭子の全裸の身体を見た。ニヤッと笑った。

 その時、母が小さな声で僕だけに聞こえるような声で言った。
「圭子さん、大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ。おふくろがそこにいて、ちゃんと指図してくれれば・・・」
「ええ、それはそうだけど・・・。おじいちゃんてね。お前も聞いてるだろうけど、ずいぶん女遊びをした人なの。
 死んだおばあちゃんは、あれでずいぶん泣かされてたわ」
「うん。それは聞いたことあるよ」
「もちろん、今は下半身はまったくダメだから変なことはないと思うけど・・・」
「当たり前じゃないか。ただ風呂に入りたいだけなんだろう?」
「そうなんだけど・・・。でもね、両手は達者だし・・・。
 お前ね、私も注意してるけど、圭子さんがもし変な風になったらすぐ助けて上げるのよ」
「何言ってるんだ。圭子じゃなくて、心配なのはおじいちゃんの方だろう?」
 その時、僕は母が何を言いたいのか、さっぱり判らなかった。



 僕や兄がまだ子供の頃、その頃からすでに下半身がダメだった祖父を風呂に入れる回数は、今とは比べものにならないくらい多かった。
 そのことは、僕の記憶の中に甘い想い出として残っている。
 それは本当に楽しいひと時だった。祖父が喜ぶことが何よりも嬉しかったし、冗談好きな祖父が、むっつりした父をからかって、母がそんな父をかばう。
 祖父が民謡の一節でも歌おうものなら、父や母がお囃子を入れる。始終、笑いが絶えなかった。
 しかし、僕が小学校高学年、さらに中学生になるにつれ、いつの間にかその楽しみは、母という女性の裸の身体を見ることに変わっていった。
 父と一緒に祖父の身体を扱うことで、母の全裸の身体は僕や兄の目の前でいろいろな角度を晒した。
 これはきっと兄も同じだったろう。もちろん僕も兄もそんなことは口に出して言わなかった。
 ただ、普段は家の手伝いをするのを嫌がる僕らが、その時だけは、むしろ積極的に手伝っていたことは事実だ。
 公然と女の身体を見ることが出来る。その母の身体にある官能的な美的感覚は、
 高校生になって圭子の身体を知るようになっても、強烈なイメージとして僕の頭の中に残った。

 父と兄はまだ祖父の身体を洗っている。
 圭子が、「私、やりますから・・・」と声を掛けたが、「いいから、いいから」と手馴れたもんで、サッサッと洗っていく。
 それから、兄が「早く入って」と圭子を促した。
 洗い場は大人四人が入れるほど広くはない。
 兄が身体をずらせてスペースをつくったその隙間を、全裸の圭子が身体を斜にしながら通った。
 お湯の中に手を入れて温度を確かめる。
「お湯はちょっと温めにして上げてね」母が圭子に言った。
「はい」そう言って、水道の蛇口を捻る。
「これでよしっと。じゃあ入れるか」
「よし」
「じゃあ、圭子さん、先に入ってくれるか?」
 兄が圭子に言った。
「・・・はい」
 圭子は、そのまま浴槽を跨ぐ。僕は兄の視線が気になった。屈んでいるから、ちょうど圭子の腰の位置に兄の頭がある。
 視線は圭子の秘部をしっかり捉えているに違いない。
 圭子の張りのあるお尻から背中が、湯船の中に沈んで行くのがしっかり見えた。
「・・・、これで・・・、いいですか?」
 圭子が湯船の中に、こちらに背を向けるように入った。浴槽から圭子の頭だけが飛び出している。
 父と兄は、祖父を担いだまま、入れる位置を確認する。
「そうじゃなくってね、足を伸ばしてると、じいちゃんの体重で支えきれなくなる。しゃがむようにした方がいい」
 圭子が浴槽の中で動いた。
「・・・、こうですか?」
「そうそう。それでいい」
 それから、父と兄が慎重に祖父を湯船の中に入れて行った。
「両手でね。後ろから抱くようにして・・・。そう。首から上がちゃんと出るようにネ」母がこちらからテキパキと指図する。
 圭子の身体に祖父の全体重が掛かっているに違いない。圭子の呻く声が聞こえる。風呂の湯がザーッと溢れた。
「両手でしっかり押さえていれば大丈夫よ。我慢して・・・」母が言う。
「圭子さん、そうじゃなくってね、この手をこうやって、後ろから抱くようにするんだ」これは兄。
「こう?ですか」
「そう。こうしてね。うん。ほっとくとお湯の中に沈んじゃうから・・・。そうそう。うまいうまい」兄が圭子の手を取ってやり方を教えている。
「おふくろよりも安定している」兄が、笑いながら父に言った。
「何たって、まだ若いからな。これでよしっと・・・。じゃあ圭子さん。頼んだよ」
 父と兄は一仕事を終えたように、フーッと息を吐きながら浴室を出た。なるほど、ずいぶんと重労働には違いない。
「これでいいだろう。じいちゃん、嬉しいだろう、圭子さんに入れてもらって・・・」
「おう、極楽じゃ」
「じいちゃん、長湯だからな。よく入るんだぞ」

 僕は、父と兄が出た後に入れ替わるように浴室に入った。
 圭子は浴槽の中で、背筋をピンと伸ばしてしゃがんでいる。
 その身体に自分の身体を預けるように祖父が足をダランと伸ばして座っている。
 圭子は後ろから抱っこするようにしている。
 僕を見ると、
「すっかり皆んなに見られちゃったわね」と恥かしそうに笑った。
「いいさ、別に・・・。僕の家族なんだから・・・」
 祖父が、両手で顔を洗っている。洗いながらフーッとため息をつく。さぞ気持ちいいんだろう。
「じいちゃん、よかったな」
「おう」
 圭子の両手は、後ろから祖父の脇の下を通って、祖父の胸の前で組まれている。
 祖父がズルズルと湯船の中に沈み込まないようにしっかりと押さえているのだ。
 でも、祖父が両手をしっかり下ろして、脇の下を固めているから、圭子は手の自由が利かないんじゃないか?
 いや、それだけじゃなくて、圭子は身体を動かすことも出来ないんじゃないか?
 祖父が動くたびに、祖父の背中と圭子の間に挟まれたお湯が跳ね上がって、圭子の顔や髪の毛に掛かった。
「お前、大丈夫か?」
「大丈夫よ」でも、ちょっと辛そうな顔をしている。
 祖父が言った。
「ありがとうな。こんなベッピンさんに風呂に入れてもらって、冥土の土産が出来たようなもんだ」
「あらあら、悪かったですね、いつもは私で・・・」母が言う。
「そりゃそうじゃ、こんな張りのあるおっぱいに触れるなんて何十年ぶりじゃろう?」
 見れば、圭子の上半身は祖父の背中にピッタリと密着している。
 圭子が、顔を僕の方に向けて恥ずかしそうに目で笑った。
 祖父が僕に、「もういいから早く出て行け」と言った。祖父はいつもこうだ。僕は苦笑いを浮かべながら、
「じゃあ、何かあったら言えよ!」そう圭子に言うと、圭子はちょっと不安そうな顔をしながら、でもコックリと頷いた。

 浴室を出る時、うっかりストッパーを外してしまったことに僕は気づかなかった。
 母は気づいた。だから僕に何か言おうとした。僕は母を安心させるように、
「大丈夫だよ。うまくやるよ」と言った。
「違うの。早く・・・」
 その拍子に浴室のドアがバタンと閉まった。
「鍵掛けられないように!」あわてて母が言ったが、それと同時に鍵の掛かる音がした。
 え?圭子は手を動かすことが出来ないから、祖父が鍵を掛けたのか。
 僕は、あわてて、「おい。大丈夫か?」と圭子に声を掛けたが、
「大丈夫じゃよ。取り巻きがうるさくっていかん。後で呼ぶから、お前たちは向こうへ行ってなさい」と祖父が言う。
 圭子の呻くような声が聞こえたような気がした。でも、祖父の声にかき消されている。
 母が腰の痛いのも忘れて、ドアのところまで来て、
「おじいちゃん。鍵は掛けないで・・・。ね。すぐ外してちょうだい」と、ドアを叩いたが、
「大丈夫じゃよ。ベッピンさんと二人で入ってるんだ。邪魔しないでくれ・・・」と開けようともしない。
 僕は呆然としていた。何が起こったのか理解出来なかった。
 なぜ鍵を閉める必要があるんだ、なぜ二人だけになる必要があるんだ、それに、母は何でそんなに慌ててるのか・・・。
 兄が意味深い目をして笑みを浮かべながらタバコを吸っている。
「兄貴!じいちゃんは何をやってるんだ?」
「うん・・・?いや・・・」
 お湯の音がチャプチャプと聞こえた。
 それが、だんだん激しくなって・・・。
 ちょっと争っているような感じがして・・・。
 そして、すぐ静まった。
 圭子の声は・・・、聞こえなかった。
 いや・・・、しばらくして、圭子の「ヒッ!」という押し殺したような叫び声が聞こえたような気がした。続いて祖父の低く、しかし明るく笑う声。
 僕はじれったくなるような焦りを感じていた。
「おふくろ!何だ、これ!」
 母はそれには答えず、身体を振るわせるようにしながら僕の脇で少し涙ぐんでいた。

コメント

最近

文が長くてなぜか最後まで読めないです(ノ_・。)

すみません、もう少し細かく分割しますね。

お願いします

彼とのHの参考にしてるのですが…面白い者に限って長いので携帯で見てると途中で途切れてしまうので(〒_〒)盛り上がったトコで見れないのは寂しい(ノ_・。)

申し訳ねぇっす。今後読めなかった物はコメント入れてくれれば直します。

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