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大きなもみの木の上で(その1)
- 2006/08/11
- 15:03
大きなもみの木がある、万里子の家の庭。
そこが僕達のいつもの遊び場だ。
「健ちゃん、亮くん、アイスクリーム食べよう」
「おわっ、英語だよ。英語のアイスクリームだよ!凄ぇよな健二!」
「おちつけよ亮。英語でもアイスはアイスだぞ?」
万里子の親父さんは外交官をしている。
そこが僕達のいつもの遊び場だ。
「健ちゃん、亮くん、アイスクリーム食べよう」
「おわっ、英語だよ。英語のアイスクリームだよ!凄ぇよな健二!」
「おちつけよ亮。英語でもアイスはアイスだぞ?」
万里子の親父さんは外交官をしている。
なもんで万里子はいつも色々珍しいもの僕たちに見せてくれるのだ。
「親父さんにお礼言っておいてね、万里子ちゃん」
「うん、わかったよ」
礼を言う僕にむけられる向日葵のような万里子の笑顔。
振り返りざまにおさげ髪がふわりと揺れた。
(可愛いな…)
僕は思わず見とれてしまう。
「おーい、早く食おうぜ、アイス溶けちまうよ」
せっかくのいい気分に亮が水をさす。ったく、食い気しかないのかお前は。
とはいえ当の僕もこの珍しいアイスに興味津々だったりした。
「じゃ、いつものように木の上で食べようか」
「うん、行こう行こう」
「おーし、いつもの席まで競争しようぜー!」
三人同時にもみの木に向かって駆け出す。
お日さまはまだまだ頭の上。楽しい時間はこれからなのだ。
万里子と亮とこの僕、健二。
いつまでも親友だと思っていた。
そう思っていたのは…僕だけだったのかもしれない…
アイスを3人で平らげた後、もみの木の上で僕たちはまったりとしていた。
「はぁ~、食った食った…」
「どう?お口に合ったかな?」
「イタリアンジェラートだね。やはり本場の味は一味違ったよ」
本当はよく分かってなかったが、万里子の前なのでついつい僕はインテリぶってしまう。
「さっすが健二くん。色々物知りだねぇ~」
「いや、それほどでもないって」
尊敬の眼差しの万理子に、僕はポーカーフェイスで微笑み返す。
でも心の中で僕は大げさに小躍りしていたりした。
「ところで亮、お前3個も食ったんだろ?腹の調子は大丈夫か?」
そんな気持ちを悟られたくないので、僕は亮に話題を振ってみた。
「心配無いって。遊んでるうちに消化されちまうよ」
「それよりも亮君は虫歯の心配をしないとね」
「や、それは…だ、大丈夫なんじゃないか…な、………多分」
やれやれ…と、僕と万理子は苦笑した。
「あれ?」
もみの木の「いつもの場所」。
そこからは万里子の部屋がよく見える。
その万里子の部屋に、懐かしいある物があったのだ。
「万里子ちゃん、あれって…」
「ん?ああ、あれ。たまに干したりするんだよ」
懐かしそうに目を細める万里子。
「もう1年なんだね…」
そうか、もう1年も経っってたんだな。
万里子の部屋に掛けられた、一着の制服。
初めて万里子に出会った日、彼女はこの制服を着ていたんだっけ…
「おい健二、昨日の777見たかよ!?」
その日、予鈴ぎりぎりで教室に飛び込んできた亮の開口一番がこれだった。
ま、予想通りの展開だ。
「見たよ。まさかキングオブカリブがあんなに早く死ぬとは思わなかったよ」
「そうじゃなくて予告だよ予告!何か777が赤くなってただろ?」
「ああ、あれね…」
これも予想通りの展開。
ではそろそろ亮を驚かせてやるか。
僕は鞄から「あるもの」を取り出した。
ちなみに亮の言う777とは、今全国の男の子の心を鷲掴みにしている日曜朝の特撮番組
「仮免ドライバー777(フィーヴァ)」のことだ。免許を持たないイケメン主人公が
国際ライセンス持ちのヒーローに変身して悪の怪人と戦う…という筋書き。
亮は777と怪人との戦闘シーンが好きなようだが、僕はあの先の読めない展開が好きだった。
「じゃ~ん!」
さんざんもったいぶって僕が鞄から取り出した「あるもの」、
それは来週登場するであろう777の新しい変身フォームの写真だった。
「うぉー!これ、これだよ! 何でお前こんなの持ってんだよー!」
「昨日テレビ麻比のホームページで拾ってきたんだよ」
「凄ぇ、まじかよ!」
「ちなみに名前は『ストックフォーム』。このフォームだと777は
変身前に蓄積したエネルギーを一気に出せるようになるんだってさ」
ホームページに書いてあったそのままをさも自慢げに教える。
それでも亮はしきりに「へーっ!」とか「凄ぇー!」を連発してくれた。
「ちなみにさらに上のフォームもあるんだってさ、えーと確か『AT…』…」
「ちょっと待ったぁ!」
「えっ、何?」
「楽しみが無くなっちまうからその先はいいや」
「そうか。じゃ、やめとくよ」
さらなる777の秘密を亮は拒んだ。
亮はケーキの苺を最後に残しておける奴なのだ。
とても僕には真似出来ないや。
「おい江之本、いい加減に席に着け!」
いきなり誰かに怒鳴られ、慌てて周りを見まわす。
「げ…」
…みんな既に着席してるし。
どうやら僕らは話に夢中で本鈴に気付いてなかったらしい。
担任のハゲ山が凄い形相で睨んでいた。
「しまった!罠か!」
亮がさも悔しげに叫んだ。
瞬間、周りからどっと笑いが起きる。
「さ っ さ と 席 に 戻 ら ん か !」
「マ~トリ~クス~」
ハゲ山のチョーク攻撃をキモい動きで避ける亮。
そしてそのまま自分の席へ。
沸き起こる拍手喝采。
流石だ亮。
ゲーセンで鍛えた反射神経は伊達ではないな。
「ぐっ…」
うな垂れるハゲ山。あーあ、また毛が退行するんだろうな。
「そ、それよりだ!」
あ、立ち直った。
案外ハゲ山は打たれ強んだな。
メモしておこう。
「転校生の紹介を続けるぞ!」
(紹介の続き…これもメモメモ…)
…
…って。
「「転校生?」」
僕と亮の声が綺麗にハモった。
どうやら僕らは話に夢中で本鈴に気付いてなかったらしい。
だって、ハゲ沢の横に佇むおさげ髪の少女の姿に、今の今まで気が付かなかったのだから。
制服を着た少女。あれは名門、昂聖小学校の制服じゃないか。
その少し俯き加減で恥ずかしそうにしている姿から目が離せない。
「は、初めまして、仲村万里子です…よろしくお願いします」
彼女の姿。
彼女の名前。
彼女の仕草。
彼女の声。
目から耳から入って頭の中、僕の「お気に入り」項目に全て登録。
ああ、友達になりたいな。
素直に僕は思った。
HRが終わるやいなや、万理子の席に人だかりが出来る。
「ねぇ、趣味は何?」
「それって昂聖の制服でしょ?」
「お父さん、外交官なんだって?」
「海外は行ったことある?」
「習い事は何かやってたの?」
矢のような質問攻め。
「あ、あの、あのっ…」
対する仲村さんはしどろもどろで満足に答えることすら出来ないでいた。
そんな一気に答えられる訳ないだろ。
僕は何故かイライラしていた。
「……」
「……」
「……」
やがて止んでいく質問の嵐。
場が…白け始めている?
彼女が悪いわけではないのに…
勝手に盛り上がって盛り下がったのは周りの連中なのに…!
僕は歯噛みした。が、すぐにはっとなる。
彼女を、助けなくちゃ…!
「おいおい、みんなちょっと待ってやれよ」
僕が仲村さんをフォローしようとしたまさにその時、誰かが人だかりに割って入った。
「彼女、困ってんじゃん」
それは…亮だった。
亮も僕と同じくイラついていたんだな。
「えっと、仲村サンだっけ」
きょとんとしている仲村さんに、亮は声をかける。
「俺の名は江之本亮。 人呼んで、力の1号!!」
そして、びしい!とポーズを決めた。
・(…何だありゃ)
「そして…おーーい!健二ーー!ちょっとこっち来いよーーー!!」
「え?僕?」
炉ばれるままに僕は亮の所に走り寄る。すると、亮は僕の隣で再びポーズを決めた。
「そしてこいつが人呼んで、技の2号!!」
(………仮免ドライバー?)
そういうことかよ。でもどんな自己紹介だそれは。
「おい健二、お前も決めポーズしろ」
「しろって言ったって…」
はっきりいってかなり恥ずかしい。しかし、彼女の為に僕は恥を棄てた。
「技の二号、藤井健二です!」
友情のツープラトンが完成した。もちろん周りから笑いなんて起きるわけも無く。
でも…
「ぷっ…」
仲村さんは笑ってくれた。
その日から、僕ら3人は友達になった。
「親父さんにお礼言っておいてね、万里子ちゃん」
「うん、わかったよ」
礼を言う僕にむけられる向日葵のような万里子の笑顔。
振り返りざまにおさげ髪がふわりと揺れた。
(可愛いな…)
僕は思わず見とれてしまう。
「おーい、早く食おうぜ、アイス溶けちまうよ」
せっかくのいい気分に亮が水をさす。ったく、食い気しかないのかお前は。
とはいえ当の僕もこの珍しいアイスに興味津々だったりした。
「じゃ、いつものように木の上で食べようか」
「うん、行こう行こう」
「おーし、いつもの席まで競争しようぜー!」
三人同時にもみの木に向かって駆け出す。
お日さまはまだまだ頭の上。楽しい時間はこれからなのだ。
万里子と亮とこの僕、健二。
いつまでも親友だと思っていた。
そう思っていたのは…僕だけだったのかもしれない…
アイスを3人で平らげた後、もみの木の上で僕たちはまったりとしていた。
「はぁ~、食った食った…」
「どう?お口に合ったかな?」
「イタリアンジェラートだね。やはり本場の味は一味違ったよ」
本当はよく分かってなかったが、万里子の前なのでついつい僕はインテリぶってしまう。
「さっすが健二くん。色々物知りだねぇ~」
「いや、それほどでもないって」
尊敬の眼差しの万理子に、僕はポーカーフェイスで微笑み返す。
でも心の中で僕は大げさに小躍りしていたりした。
「ところで亮、お前3個も食ったんだろ?腹の調子は大丈夫か?」
そんな気持ちを悟られたくないので、僕は亮に話題を振ってみた。
「心配無いって。遊んでるうちに消化されちまうよ」
「それよりも亮君は虫歯の心配をしないとね」
「や、それは…だ、大丈夫なんじゃないか…な、………多分」
やれやれ…と、僕と万理子は苦笑した。
「あれ?」
もみの木の「いつもの場所」。
そこからは万里子の部屋がよく見える。
その万里子の部屋に、懐かしいある物があったのだ。
「万里子ちゃん、あれって…」
「ん?ああ、あれ。たまに干したりするんだよ」
懐かしそうに目を細める万里子。
「もう1年なんだね…」
そうか、もう1年も経っってたんだな。
万里子の部屋に掛けられた、一着の制服。
初めて万里子に出会った日、彼女はこの制服を着ていたんだっけ…
「おい健二、昨日の777見たかよ!?」
その日、予鈴ぎりぎりで教室に飛び込んできた亮の開口一番がこれだった。
ま、予想通りの展開だ。
「見たよ。まさかキングオブカリブがあんなに早く死ぬとは思わなかったよ」
「そうじゃなくて予告だよ予告!何か777が赤くなってただろ?」
「ああ、あれね…」
これも予想通りの展開。
ではそろそろ亮を驚かせてやるか。
僕は鞄から「あるもの」を取り出した。
ちなみに亮の言う777とは、今全国の男の子の心を鷲掴みにしている日曜朝の特撮番組
「仮免ドライバー777(フィーヴァ)」のことだ。免許を持たないイケメン主人公が
国際ライセンス持ちのヒーローに変身して悪の怪人と戦う…という筋書き。
亮は777と怪人との戦闘シーンが好きなようだが、僕はあの先の読めない展開が好きだった。
「じゃ~ん!」
さんざんもったいぶって僕が鞄から取り出した「あるもの」、
それは来週登場するであろう777の新しい変身フォームの写真だった。
「うぉー!これ、これだよ! 何でお前こんなの持ってんだよー!」
「昨日テレビ麻比のホームページで拾ってきたんだよ」
「凄ぇ、まじかよ!」
「ちなみに名前は『ストックフォーム』。このフォームだと777は
変身前に蓄積したエネルギーを一気に出せるようになるんだってさ」
ホームページに書いてあったそのままをさも自慢げに教える。
それでも亮はしきりに「へーっ!」とか「凄ぇー!」を連発してくれた。
「ちなみにさらに上のフォームもあるんだってさ、えーと確か『AT…』…」
「ちょっと待ったぁ!」
「えっ、何?」
「楽しみが無くなっちまうからその先はいいや」
「そうか。じゃ、やめとくよ」
さらなる777の秘密を亮は拒んだ。
亮はケーキの苺を最後に残しておける奴なのだ。
とても僕には真似出来ないや。
「おい江之本、いい加減に席に着け!」
いきなり誰かに怒鳴られ、慌てて周りを見まわす。
「げ…」
…みんな既に着席してるし。
どうやら僕らは話に夢中で本鈴に気付いてなかったらしい。
担任のハゲ山が凄い形相で睨んでいた。
「しまった!罠か!」
亮がさも悔しげに叫んだ。
瞬間、周りからどっと笑いが起きる。
「さ っ さ と 席 に 戻 ら ん か !」
「マ~トリ~クス~」
ハゲ山のチョーク攻撃をキモい動きで避ける亮。
そしてそのまま自分の席へ。
沸き起こる拍手喝采。
流石だ亮。
ゲーセンで鍛えた反射神経は伊達ではないな。
「ぐっ…」
うな垂れるハゲ山。あーあ、また毛が退行するんだろうな。
「そ、それよりだ!」
あ、立ち直った。
案外ハゲ山は打たれ強んだな。
メモしておこう。
「転校生の紹介を続けるぞ!」
(紹介の続き…これもメモメモ…)
…
…って。
「「転校生?」」
僕と亮の声が綺麗にハモった。
どうやら僕らは話に夢中で本鈴に気付いてなかったらしい。
だって、ハゲ沢の横に佇むおさげ髪の少女の姿に、今の今まで気が付かなかったのだから。
制服を着た少女。あれは名門、昂聖小学校の制服じゃないか。
その少し俯き加減で恥ずかしそうにしている姿から目が離せない。
「は、初めまして、仲村万里子です…よろしくお願いします」
彼女の姿。
彼女の名前。
彼女の仕草。
彼女の声。
目から耳から入って頭の中、僕の「お気に入り」項目に全て登録。
ああ、友達になりたいな。
素直に僕は思った。
HRが終わるやいなや、万理子の席に人だかりが出来る。
「ねぇ、趣味は何?」
「それって昂聖の制服でしょ?」
「お父さん、外交官なんだって?」
「海外は行ったことある?」
「習い事は何かやってたの?」
矢のような質問攻め。
「あ、あの、あのっ…」
対する仲村さんはしどろもどろで満足に答えることすら出来ないでいた。
そんな一気に答えられる訳ないだろ。
僕は何故かイライラしていた。
「……」
「……」
「……」
やがて止んでいく質問の嵐。
場が…白け始めている?
彼女が悪いわけではないのに…
勝手に盛り上がって盛り下がったのは周りの連中なのに…!
僕は歯噛みした。が、すぐにはっとなる。
彼女を、助けなくちゃ…!
「おいおい、みんなちょっと待ってやれよ」
僕が仲村さんをフォローしようとしたまさにその時、誰かが人だかりに割って入った。
「彼女、困ってんじゃん」
それは…亮だった。
亮も僕と同じくイラついていたんだな。
「えっと、仲村サンだっけ」
きょとんとしている仲村さんに、亮は声をかける。
「俺の名は江之本亮。 人呼んで、力の1号!!」
そして、びしい!とポーズを決めた。
・(…何だありゃ)
「そして…おーーい!健二ーー!ちょっとこっち来いよーーー!!」
「え?僕?」
炉ばれるままに僕は亮の所に走り寄る。すると、亮は僕の隣で再びポーズを決めた。
「そしてこいつが人呼んで、技の2号!!」
(………仮免ドライバー?)
そういうことかよ。でもどんな自己紹介だそれは。
「おい健二、お前も決めポーズしろ」
「しろって言ったって…」
はっきりいってかなり恥ずかしい。しかし、彼女の為に僕は恥を棄てた。
「技の二号、藤井健二です!」
友情のツープラトンが完成した。もちろん周りから笑いなんて起きるわけも無く。
でも…
「ぷっ…」
仲村さんは笑ってくれた。
その日から、僕ら3人は友達になった。