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動き出した歯車(その2)

高校に入学した。
あいつは2組、俺は1組だった。
あいつは不満気だったが、俺は内心ほっとした。
入学式のために登校している最中から好奇の目は向けられるし、自己紹介で立
った途端に歓声が沸き起こるは「いよ!有名人」なんていう野次がとんだりする
は、これがもしあいつと一緒のクラスだったら何を言われていたか、と思うと
背筋が寒くなる。
しかし、思いっきり冷やかされもしたが、みんな気さくで性格の良い連中ばかり
だった。
冷やかしはするけど、それをネタに嫌がらせをしたり、ハブこいたり、するような奴らは居なかった。
とはいえ、あいつは何かに理由を見つけては殆ど毎日のように俺の教室にやって
くるものだから、その度に
「はーーーーーーー。きれいな奥さんをもらった人はうらやましいねぇ。」
などと冷やかしの科白を受けたりする訳で、きれいな彼女を持って優越感に浸る
反面、非常に恥ずかしくもあった。


あいつは、入学早々人気者になっていた。
合格発表の時にあんなことをやった張本人である。、当然知名度は抜群だ。
ルックスも良い。
(お世辞抜きで、あいつは可愛いと思う。雑誌にのっているグラビアアイドルと比べても遜色ないと思う。)
加えてあいつの性格である。
誰に対しても優しい。さらに特筆すべきことは、あいつは小さい頃から男子とよく遊んだせいか、
男に対する警戒心が殆どない上、スキンシップに対し、男女の屈託がまったくといってない。
平気で男子の肩につかまって寄りかかったり、手を握ったり、肩を組んだりくませたり。
(中学の時それが原因で男子生徒が勘違いしてトラブルになったことが何度か
あったのだ。)
(だから、あいつの気持ちを確かめたかったのだ。)
学校内(特に男子の間)で評判にならないはずが無かった。


一通りオリエンテーションを受け、クラブ等の課外活動への参加など
(あいつは、体を動かすのが好きなようで、女子バスケ部に入った。俺は、空手やピアノ(←笑
うな!)に加えて、新たにバイトを始めたため、帰宅部である。)といった
入学時初期の一連の行事も済ませた頃の事だ。

「ね、ひろクン知ってる?うちの学校にスーパースターがいるんだよ。」
「サッカー部の中川先輩って言うんだけど、すごいんだよ。」
「何でも県の代表になっている上にね、日本の代表にも選ばれているんだって。」
「Jリーグのスカウトも来てるんだって。」
「すごいよね?   ね?、ね?、すごいよね?」


知っているも何も、うちの学校の生徒で、中川先輩のことを知らない方が
どうかしている。
うちの学校は進学校とはいえスポーツも結構盛んで、どの部もおしなべて
そこそこの成績をのこしている。
その中でも筆頭と言えるのがサッカー部だった。
元々県でベスト8には残るくらいの実力をコンスタントに持ってはいたのだが、
ここ2年くらい急激に強くなり、インターハイや冬の高校サッカーにちょくちょ
く出るようになっている。
その原動力が中川先輩だ。
他校のサッカー部では、「中川を止めろ」が合言葉になっていると風の噂で聞いた
ことがある。
正確に言うと先輩は県のユース代表には選ばれているが、日本の代表には
選ばれてはいない。U-19の代表候補に選抜されただけだ。
とはいえ、代表候補の合宿には何度も参加していて、かなり高い評価を受けてい
るらしい。
(中には代表入り間違いなしなんて言う人もいるが、これは眉唾ものだろう。)
Jリーグのスカウトが来ている、というのもあながち嘘とは言い切れない。
俺は、「ああ、また例のビョーキが始まった。」と思った。


あいつには変な癖がある。
有名人やスーパースターといった存在に弱い、結構ミーハーな一面がある上、
一旦興味を持ち出した相手に対しては、とことん調べ尽くさないと気がすまない
所があるのだ。
その対象の身長体重、生年月日や血液型と言ったデフォの事は当然、さらには
趣味、好きな食べ物や、好きな異性のタイプはから、虫歯の個所や子供の頃の
恥ずかしいエピソードといった「お前、それをどこでどうやって調べたんだ。」
と言った事まで調べあげてしまう。
おまけに、
「こんな人と一緒になれたらなーーーー。」
とか、
「こんな人と結婚したい。」
とか、
「こんな人の子供を産んだらどうなるのかなーーーー。」
とか、
まるっきり恋に恋する少女になってしまう。
傍で見ている俺の方が観ていて恥ずかしくてたまらなかった。
とはいえ、今までは対象が芸能界のアイドルタレントや漫画の主人公と言った
絶対に手の届かない存在だったし、あいつも一月もすれば興味を失うので、
割と冷静に見ていられた。
しかし、今度は違う。
対象は二次元ではなく、三次元。しかも、手を伸ばせばすぐ届く距離にいる。
生の姿、生の声、生の息遣いが間近で見られるのだ。

もし、相手があいつに興味を示したら。



俺は嫌な予感がした。


「ねえねえ、今度の日曜日、サッカー部の試合見に行かない?」

ああ、やっぱり。

「いかない。」

「えーーーーーーー、だってひろクン、バイトも空手もないんでしょ。」

「だからって、なんでサッカー部の試合を観にいかなきゃいかないんだよ。」

「だって、一応我が校の公式試合だよ。応援してあげたっていいじゃん。」

「それだからって、別に試合を観に行く必要はないだろ。」
「県の予選、それも1、2回戦なんて、普通誰も観にいかねぇぞ。」

「あ、それ差別。」

「何でだよ。」

「だって、野球部だと予選でもブラスバンドやら引き連れて、学校上げて応援し
にいくじゃない。」
「なのにサッカー部だと予選は勿論、インター杯に出たってまともな応援しても
らえないんだよ。」
「不公平じゃん。」

「そんな事を言ったら、その他の部はどうなんだ?」

「うっ……。」

「それにお前、中学のとき、俺が空手の試合に出るっていっても、応援に来なか
ったじゃないか。」

「あ……、あれはひろクンが殴られるのを観たくなかったから………」

「まあ、いいよ。」
「お前がサッカー部の応援をするのを止めるつもりはない。」
本当は行って欲しくないけど。
「でも、俺はそこまでするつもりはない。」
「行きたかったら、一人で行けよ。」

「えーーーー、一人じゃつまんないよ。」

「じゃあ、他のやつ誘えばいいだろ。」

「今から誘ったって、みんな予定入っているから無理だよ。」
「それに、ひろクンとじゃなきゃ、つまんないよ。私は、ひろ ク ン と 行 き た
い の。」

何気に嬉しいことを言ってくれる。
しかし、嫌なものは嫌だ。


「行かない。」

「何で。」

「ダメったらダメ。」

「どうしても?」

「どうしても。」

「絶対?」

「ぜっっっっっっっっったいに、やだ。」

「いいよーーーーーーーだ。ひろクンのけちーーーーーーーーー。」
「ひっ、ぐっ。」

しまった!泣かせちまったか。
あいつの顔をみると、目元にうっすらと涙が滲んでいる。
やばい!これ以上あいつを泣かせるわけには行かない。

「わかったよ。わかったよ。行きゃあ良いんだろ、行きゃあ!」

「やったね、じゃあ行こうね。」

途端にあいつは元の笑顔に戻っていた。


全くもって、俺はあいつの泣き顔に弱い。
あいつが泣くどころか、目に涙をちょっとでも浮かべた途端、あいつの言う事に
逆らえなくなってしまうのだ。
これは、俺がちいさい頃、あいつを怪我させたり、泣かせる度に両親に怒鳴られ
たり、姉貴に思いっきりどつかれたりした経験が、深く体に刻み込まれているからだ。


結局、あいつに付き合って、サッカー部の試合を観に行く事になった。

「ひろクン、もうちょと愛校精神を培ったほうがいいよ。」

「って、おまえの目当ては、中川先輩だろうが。」

「あ、わかった?」

「わかるも何も、最初からバレバレだっつうの。」

結局、何だかんだといって、俺はあいつには勝てない。
情けないながらも、あいつについていくしかなかった。


試合は、開始早々我が校が圧倒的に優位に立っていた。
華麗にパスを繋ぎ、時にドリブル、そしてシュートと、殆ど相手校を子ども扱いしていた。
中川先輩は、やはりその中心にいた。
相手校は、3人を中川先輩のマークに当てていたが、そんなものは殆ど効かなか
った。
いともあっさりとマークをはずされ、ドリブルで突破され、シュートを打たれ、
いたずたに我が校の得点を重ねていくだけだった。

男の俺が見ても、先輩の存在は光っていた。
あいつの目には…………だめだ。目の中にお星様いくつも光っているよ。
あいつは、既に先輩のプレーに夢中になっていた。

後半途中で先輩は退いたが、それでも我が校の猛攻は止まることなく、8対0で
試合は終了した。

試合終了と共に選手の周りに人だかりができ始めていた。
特に中川先輩の周りには一際大きな人だかりができていた。
しかも、女性がほとんどである。
(やっぱり先輩、もてるんだな。)



「さあ、帰るぞ。」

あいつを促そうと、その方向を向いたが、

あいつはいなかった。

焦って色々な方を見たが、いない。まさかと思って、中川先輩のあたりをよくみてみると、そこにあいつはいた。

先輩の周りの人垣を巧みにすり抜け、いつのまにか先輩のすぐ側にいた。

何か先輩に話し掛けている。
傍からみても、気合が入っているのが良くわかる。
先輩もそれに対して笑顔で答えているようだった。


おれ、一体何しに此処に来たんだろう。
空しくなった。

とはいえ、あいつを置いて帰るわけにはいかない。
俺はあいつを待っていた。

しばらく(30分くらいか?)して、あいつは思いっ切りの笑顔を満面に浮かべ
て、帰ってきた。

帰る道中、あいつの話は中川先輩一色に染まっていた。

「先輩って、やっぱ、格好いいよね。」

「ああ。」

「先輩って、やさしいんだね。」

「そうか?」

「そうだよ。」
「女の子にモテモテだから、私の事なんか眼中にないかとおもったけど、そうじ
ゃないの。」
「私の事見つけると、私の方見てにっこり笑って話かけてくるの。」
「びっくりしちゃった。」

何を言う、自分から強引に輪の中に入っていったんじゃないか。、

「あのなぁ、そんな話ばっかりされても、ちっとも面白くないんだよ。」

「なによひろクン、妬いてるの?」

「妬いてるわけじゃないよ。」

「じゃあ、何なの。」

「そういう訳じゃないけど、……」

「けど?」


俺は何もいえなくなって黙ってしまった。
ああっ、口下手な自分が恨めしい。
本当は、あいつの注目を一心に浴びる先輩に嫉妬していた。
俺だけを見ていて欲しかった。
だけど、男の余計なプライドがそれを言わせなかった。

「あーもう、世話が焼けるなぁ。」

あいつはそういって俺の横に立つと、俺の頬にそっと口付けをした。

「これでいい?こんな事は、ひろクンにしかしない事なんだから、妬かないの。」

たったこんな事で納得させられてしまう自分に情けなかったが、これ以上なにも言えなかった。



翌日から、あいつの怒涛の「先輩情報収集」が始まった。
中学の時もそうだったが、誰彼(←たそがれ(Wと読まないように)構わず、先輩
の事を聞きまくっているらしい。
(だからって、俺にまで訊いて来るな!)
さらには、「手っ取り早いから」と言う事で、何度も直接先輩に訊きに行っている
らしい。
程なくして、『伊藤香織は、田川博昭から中川淳に乗り換えた』という噂が広がっ
た。
級友たちは、
「彼女に逃げられたんだって?」
などと冷やかすものも居れば、
「お前、何とかしないと、本当に盗られるぞ。」
と真剣に心配してくれるものもいた。
何とかすれば何とかなる、のなら、とっくにやっている!!。
一度ああなりだしたら、俺どころか親が言おうが先生が言おうが聞きゃーしない。かえって、意固地になるだけだ。
今までだったら、1ヶ月もすれば熱も醒めて興味もなくなっていた。
今回も静観して、ひたすらあいつの「中川熱」が醒めるよう、祈るしかなかった。

しかし、1ヶ月はおろか、既に2ヶ月が過ぎようとしていたが、その熱は醒める
どころか、ますます勢いを増していた。
最近では、周りから得られる情報はほぼ出尽くしたのだろう、専らあいつは先輩
に直接訊くことが多くなっていた。

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