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動き出した歯車(その1)

幼稚園のころからずっと一緒に居たあいつ。
気が付けばあいつのことを好きになっていた。
俺はあいつに「好きだ。」と言い、あいつも俺に「好き。」と言ってくれた。
なのに、


あいつは、俺以外の別の人の彼女になっていた。
そして宣告。

「うん。その人としたよ。」
そして、

「君も、したいの。」
「じゃあ、する?」
体中の血液が逆流するような展開に、俺(田川 博昭 )は
ど う す れ ば い い ん だ。

   ・
   ・
   ・

そいつとは長い付き合いだった。
そいつと初めて会ったのは、幼稚園の時、いや それよりも前かもしれない。
そいつは、チビで、ガリで、活発で、誰に対しても明るく声をかけるやつだった。
そいつの名前は、伊藤 香織、一応女だった。

香織は女のくせして外遊びが好きで、いつも俺たち男と一緒に遊んでいた。
木登り、缶蹴り、鬼ごっこ(さすがに仮面ライダーやウルトラマンと言ったキャラ
クターに関しては良くわからなかったのか置いてきぼりを食らっていたが、)
だから俺たち男も香織とは仲が良かった。
とりわけ、俺とはうまがあったようだ。
家が近かったからかもしれない。
家に帰ってからも、よく遊んだ。
その頃は空き地や林などもたくさんあって、遊び場には苦労しなかった。
よく二人して空き地へ行って、そこに積んであるヒューム管で遊んでいたら管が崩れてきて
蒼くなって帰ったり、林にある木の適当な枝にロープを括りつけてターザンごっこをして
遊んでいたら枝が折れて、怪我して泣いた香織を家へ連れて帰ったりもした。
(あの時は思いっきり怒られた。)


考えてみると、人生(と大袈裟に言うほど長くは生きていないが、)の節目の重要なイベントには、かならず香織が絡んでいた。
空手を習い始めたのも、あいつのことがきっかけだった。
小学校3年、その頃になると男子と女子は仲が悪かったりする。
にも拘わらずあいつは平然と男子の遊びの仲に割り込んできた。

当然それを快く思わない男子もいる訳で、
「女は来るな!」とか言われてしょっちゅうトラブルの種になっていた。
そんな中で事件は起きた。
「おまえ、女のくせになまいだぞ。」
「女なら女らしくままごとでもやっとれ。」
「それとも、おまえ、女のくせにチンチンはえとるのか。」
かねてから香織に対して快く思っていなかった連中が一斉に香織を標的にして攻撃をし出した。
口だけは無かった。
髪の毛を引っ張ったり、キュロットに手をかけてたり、終いには叩いたり蹴ったりも始め出していた。
香織も反撃していたが、多勢に無勢、たった一人では太刀打ちできるはずも無く、ついに泣き出してしまった。
「ウォー!」
俺はそいつらにつかみかかっていった。
しかし、結果は無残なものだった。
5、6人はいただろう。そんな人数相手に勝てるはずも無く、袋叩きにあった。
気が付いた時は先生たちがやつらを引き剥がしていた。
俺がやられている内に香織がその場から抜け出して先生を呼びにいったらしい。

香織は
「ひろクンは私を助けようとしてくれたんだね。」「ありがとう。」
と言ってくれたけれど、俺は、悔しかった。
香織を救い出すことができないどころか、袋にされ 何も反撃できなかった。
そればかりか結局あいつの機転で助け出されたようなものだった。
だから、空手を始めた。
今では黒帯(二段)になっている。


一緒にプールに行って、あいつの水着姿を見た。その胸には二つの膨らみがハッキリとあった。
思わず俺の視線はそこに釘付けになった。
「スケベー!!!」
その瞬間、顔面にビーチボールがヒットした。
見ると、香織がニコニコしながら立っていた。
「もー、ひろクンたら、それじゃおやじだよ。」「せっかくプール来たんだから遊ぼ。早く。」
俺の手を取って走り出していた。
俺は一緒に走りながら、すらっと長い手足、小さくてキュッとしまったヒップ、膨らみ始めだけれどしっかりその存在を主張している胸に見とれていた。

こいつ、いつのまにこんなに可愛くなったんだろう。


あいつを好きになりだした正確な時期は良くわからない。
まあ、恋愛なんていうものは(一目惚れ等は除いて)そんなものだろう。
但、あいつを好きになった最終的なきっかけは良く覚えている。
あれは、中学2年の秋の事だった。
その頃、俺はピアノを習っていて、コンサートピアニストなどと言う大それた夢を抱いていた。
要は、プロを目指していた訳だ。
そんなプロを目指すピアニスト達の卵の登竜門がコンクールだ。
俺は国内ではちょっとは名を知れたコンクールの一次予選にエントリーした。
デビューの年が遅いって?言わないでくれ。そんな事は解っている。
落ちるのが怖くてその時までエントリーできなかったんだから。
(実は、先生も不安でエントリーさせられなかったらしい。)
勿論、練習は人一倍やったと胸を張っていえる自身があった。


特にコンクール直前は朝起きてから夜寝るまでピアノ漬けの毎日だった。
その頃は学校も休んで一日14時間は平気でやっていた。
だから、予選くらいは楽々通過する自信があった。
ところが、そんな根拠に乏しい、砂の城のような自信は、本番であっという間に崩れ去ってしまった。
本番ではガチガチに緊張してしまい、ボロボロの演奏だった。
あちこちでミスタッチをしただけはない。
テンポも、強弱も、メロディーラインも滅茶苦茶で、普段の半分はおろか、3割も実力を出せなかった。
情けなくて涙が出た。
結果は見るまでも無く、余裕?で落選だった。
それにも増して俺を落ち込ませたのが、他の出場者の演奏だった。
いや、別に俺以外の演奏者はみんな緊張も無くスラスラと弾けたと言うわけではない。
みんな緊張していたし、演奏もどこか硬くぎこちないものだった。
しかし、此処からが俺とは違って、みんなそれなりに聴かせられるものばかりだった。
勿論、リラックスして、且つ集中していれば、これよりもましな演奏が俺だってできたと思う。
だけど、それは他の演奏者も一緒だった。
もし、他の人も100%自分の実力を発揮していたら・・・・・・いや、もしかしたら自分の100%の演奏も他の人の今の演奏に到底かなわないのでは?
そう思った途端、俺の甘チャンなプライドは一瞬で粉々に弾けてしまった。


先生や家族、みんな俺を慰めてくれた。
「次またがんばれば良いさ。」
「今回は緊張しすぎでガチガチに硬くなっていたね。もうちょっとリラックスすれば、予選くらいきっと突破できるよ。」
違うんだ。そんなんじゃないんだよ。俺はプロでやっていくだけの才能なんて無いんだよ。
(今思えば、たった一回の失敗であきらめた根性無しがプロなんて呆れてものがいえないのだが。)
俺は死ぬほど落ち込んでホールの片隅の椅子に呆けたようにただ座っていた。
そんな時、あいつは俺のそばに座っていた。ただ、黙ってずっとそばに座っていた。
どれくらいの時間二人で座っていたのかわからないが、かなりの時間だったと思う。

「残念だったね。」
おもむろに、あいつが口を開いた。
「ああ。」
「みんな上手かったね。」
「ああ。」
俺は、返事をするのも億劫で、ただ「ああ。」としか返さなかった。
「でも、・・・・・・私はひろクンの演奏の方が好き。」
「みんな上手かったけど・・・・・・けど、それだけ。心に残るようなのは無かったよ。」
「でもね、でもね、ひろクンのは、違うよ。」
「何かね、暖かいんだよ。」
「なんていうのかなぁ・・・・ほら、小さい頃は 椅子の上とか床とか、ベッドじゃなくても所かまわず寝ちゃうことがあるじゃない。」
「そんな時、お母さんが抱っこしてベッドまで運んでくれるでしょ。」
「そのときのお母さんの腕の中に居るような感じにさせてくれるの。ひろクンのは。」
この言葉で、俺は癒された。
プロになる夢は断念したけれど、それ以上ショックは引きずらなかった。
俺のことを解ってくれる
俺のやった事に「いい。」と言ってくれる。
俺が傷ついたとき、やさしく包み込んでくれる。
そんな人が居てくれただけで嬉しかった。
だから、あいつを他の誰にも渡したくないと思った。
自分だけの伊藤香織でいて欲しいと心から願った。


そういう思いがあったからといって、すぐにあいつに告白したかというと、そうはいかなかった。
あいつに一言「好きだ。」と言うのが怖かった。
もともと幼馴染だ。仲は良い。
あいつと話す時も構えることなく自然に楽しく会話することもできた。
状況によるが、一緒に手を繋いだり腕を組んだり、時にはギュッとお互いに抱きしめあったりもしていた。
休みの日には二人で繁華街に出てウインドショッピングをしたり、映画を観たり、遊園地に行ったりもした。(こういうのを世間ではデートという。)
別段告白なんぞしなくとも、傍から観れば充分恋人同士に見えただろう。
もし、告白して…………玉砕したら…………それが怖かった。
小説や漫画でも良くあるパターンだ。
今までずっと側にいた幼馴染に告白して、
「ごめんなさい。あなたには恋愛の感情が湧かないの。」と言われたら、
そして、それがきっかけでお互いの間がギクシャクとして、二人の間の溝が深くなっていったら…
しかし、その逆のパターンもよくある話だ。
「好きだ。」と言えないまま、うじうじしている間に他の人が告白、
そいつと一緒になってしまい、その後何年かたって再開したとき、「本当はあなたの事好きだったの。でも…・・。」
などと言われた日には最悪だ。そんなことになったら死ぬほど後悔する。
俺の気持ちは告白する・しないの間を振り子のようにゆれていた。
中学3年になった。

この年は、受験モードに突入しなければいけない。
特に俺が目指しているのは県下でも一、二を争う名門の進学校、恋愛沙汰に悩んでいる余裕は無かった。
当時俺の通っている中学校からその高校へ進学するのは、例年10名前後、
他に開成や筑波大駒場といった全国区の私立・国立の進学校に行くのが5~6人、それを考えると少なくとも学年で15位前後以内、
最悪でも20位程度には入っていないとその高校を受験することすらできなくなる計算だった。
俺の順位は大体15~18番前後、受験できるギリギリの所だった。


悩んだ挙句、俺は姉貴に相談した。
姉貴はその頃大学3年生、硬式テニス部(しかも体育会)に居て次期主将間違いなしと言われる存在だった。
姉御肌で、同僚や後輩の面倒見もよく、人望も厚かった。
あいつの事もよく知っていて、相談相手にはうってつけだった。
相談の結果は「自分で決断せい。」だった。
これだけではあんまりなので、姉貴の名誉のためもう少し詳しいことを書いておく。
姉貴によるご神託こうだった。
「結局、やって後悔するかやらずに後悔するか、どちらを取るかに悩むのなら、
やって後悔することを選べ。」
「やらない事を選ぶのなら、よく考えた上で、自分で腹を括ってから選べ。」
「どちらにするかは、おまえの自由だ。但し、何も考えずに決断を先送りするような奴は、
この先社会に出ても、使えん存在になるだけだ。」
「その事をよく考えて、自分で判断しろ。」だった。
結局。俺は告白することにした。
とはいえ、その決断をするのに半年以上かけたのだが。(姉貴はその間ずっとやきもきしていたようだった。)
秋、文化祭の最終日、俺はあいつに告白した。
この後は受験一色に染まらなければいけない。3年生には最後の休息だ。もう後が無かった。
文化祭が終わり、工程でキャンプファイアー(っていうのか?)を見た後の帰り道、俺は切り出した。
「なあ香織、お前、おれのことどう思ってる。」
「なによ、いきなり。しかも受験まであと少しだっていうのに。」
「こんな時期だから言うんだよ!もう、後が無いから、今を逃したら言えなくなるから。」
「なあ、どうなんだ?」「………俺は………………お前……の事……が…好き…だ。」
「何よ、からかってるの?あ、もしかして実はどこかでビデオに撮っていて「ドッキリカメラ」なんて言ってこあとでみんなに公開する気じゃあ……
「俺は真剣だ!!!ドッキリカメラでもなんでもない!!!ビデオ何かどこにも隠れてないよ!!だから、どうなんだ!!!!!」
あいつの顔には、困惑の表情が浮かんでいた。


「ごめん。こんな事、すぐには答えられないよな。」
「忘れてくれ。とにかく、一緒に同じ高校行けるように頑張ろうな。」
あいつからは返事が無かった。
30秒?1分?間があってから
「好きだよ。」返事があった。
「え?」
「だから、ひろクンの事、好きだよ。」「で…
その瞬間、俺の頭の中には一斉に花が咲き乱れていた。
やった。あいつも俺のこと好きなんだ。これで晴れてあいつとは恋人同士なんた。
………よう    って、ひろクン聴いてる?」
「聴いてるよ。」
ぜんぜん聴いていなかった。
この場面を撮った写真があれば、おそらく俺の足は地面から2~3cm浮いた所を歩いていただろう。
とにかく嬉しかった。それだけに勉強にも俄然意欲が沸いてきた。
俺達は、入学テストに向けてひたすら勉強の日々を送った。


そして、俺達は、合格した。

「やった。やった。」
「ひろクン、合格したよ。やったよ。合格だよ。」
あいつは、合格者掲示板に自分と俺の番号を発見した途端、人目も省みずに大声
で叫んで俺に抱きついてきた。
「そうだな、やったな。」

「うん。」

「合格したな。」

「うん………ひっ、っぐ、えぐっ。」

「おいおい、泣くこたぁーないだろ。」

「だって、……合格したんだもん、うれしいんだもん。」
「私、頑張ったんだもん。」
「ひろクンはどうか知らないけど、私はつらかった。」
「勉強以外の事は何もしなかったし。」
「先生からは『お前の成績じゃあ無理だ。』て言われてたし。」
「お父さんからは、『そこまでして受けたいのなら、滑り止めは無しだ。』て
言われて、ここしか受けさせてくれなかったし………。」


「そうか、お前の方大変だったんだよな。」
「よく頑張ったよな。」
「おめでとう。」
俺は、あいつをキュッと抱きしめ返してやり、背中とポンポンと軽く叩いた。
俺に抱きついているあいつの腕の力が少し強くなったような気がした。


しばらく好きにさせてやり、気持ちを落ち着かせることにした。
数分後、
「落ち着いたか?」
訊いたが、返事は無かった。
「手続き用の書類、取りに行こうよ、な?」
腕を解こうとしたが、頑固にしがみついて離れない。
周りを見回した。みんな俺たちの方をジロジロと注目している。
「おい、恥ずかしいだろ。そろそろ離れろよ。」
返事が無い替わりに胸元で頭が左右に振れる感触がした。
とはいえ、力ずくで無理やり剥がすわけには行かない。
結局、あいつと抱き合ったまま、小一時間その場に居つづけることになって
しまった。

あいつと俺は、入学前から有名人になってしまっていた。

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