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動き出した歯車(その4)

何もできないまま、日が暮れていった。
時刻は既に午後8時30分
普通ならとっくに家に帰っている筈だ。
思い切ってあいつの家へ電話を掛けてみた。
出たのは、あいつのおふくろさんだった。
おふくろさんは、今日はてっきり俺と出かけたとばっかり思っていたらしく、びっくりしていたようだった。

香織、お前 今何をやっているんだよ。

情けない、自分の彼女の事を信じられないのか。
ミーハーだけど、そんな貞操観念のないアーパーな女じゃないだろ。
デート一回しただけで、身も心も先輩のものになっちゃうような事なんて考えられないじゃな
いか。
きっと、月曜日になれば、『ヤッホー』なんて能天気な声で俺の所にきて、今日のデートの詳細
報告にくるさ。

俺は、ともすれば疑心暗鬼になりがちな心を無理やり奮い立たせながら、二日間を過ごした。

月曜日
あいつは、予想通りやってきた。

「ヤッホーーーーーーーー」

ひどくご機嫌な様子だ。
きっと楽しかったのに違いない。
妬ましくもあったが、とにかく一番心配した事にはならなかったようで、安心した。

その後は、あいつからデートの詳細レポートだった。
あいつの言葉に適当にあいづちを打ってはいたものの。殆ど耳には入らなかった。
今、いつものあいつが自分のすぐ側にいることに、ただ満足していた。


次の日曜日、あいつのバスケットの練習試合を観に行った。
(あいつから『観に来い』と連絡があったのだ。)
試合の後のミーティングが終わると、あいつは真っ先に俺の所に飛んできた。
帰り道、一緒に帰りながら、CDショップや輸入雑貨店を覗いたり、ちょっとしたデートを
楽しんだ。

大丈夫だ。
何も無かった。
あいつは何も変わっていない。
今まで通りの伊藤香織だ。
安心した。

それから3~4日して、俺は中川先輩に呼び出された。



一学期もそろそろ終わろうとしていた。
一学期が終わると、夏、そう、待望の夏休みだ。
じりじと肌を焦げ付かせる太陽。
すこし白っぽい空、大きな入道雲
暑さを倍加させる、蝉の鳴き声
焼けたアスファルトから上る陽炎。
噴出す汗。
海、海の匂い。
波の音。
焼きとうもろこし。
西瓜。
花火。
夕立。
夕暮れ時のヒグラシの音
夏祭り
盆踊り

そして、

夏の終わりの虫の音。

恋人たちには、一大イベントが待っている。

しかし、窓の外はどんより曇り空、今にも雨が降り出しそうだ。
季節はまだ梅雨、この憂鬱な季節を越えないと夏はやって来ない。
そして、俺たち高校生にとって、もう一つ、超えなければならない憂鬱なイベントがある。
期末テストだ。


我が校は試験前一週間、すべての部活動が休止となる。
今日はその初日だった。
俺は、翌週行われるテストの対策に頭を痛めていた。

…………………クン。」

初日は、数学・物理・古文・英語(ヒアリング)だ。

………ろクン。」

数学と物理は何とかなる。
問題は古文だ。

…ひろクン。」

この科目だけは、どうしても苦手だ。
とても同じ日本語だとは思えない。

「ひろクン、てば!」

一人じゃ、やはり心もとない。
誰か一緒に勉強を………
「ひ・ろ・く・ん!!!!!!!!」
って、うぁあああああ!!!!

「何、大声だしてるのよ。恥ずかしい。」

「何だ、香織かよ。びっくりさせんな。」

「何だ、とは何よ。何回呼んでも返事しなかったのはそっちでしょ。」

「ああ、気づかなかった。わりぃ。」「失礼しちゃうわ。こんな可愛い娘が呼んでるのに、見向きもしないなんて。」

あいつは、ぷんぷん怒りながら、俺の隣にぴったりくっついて歩いている。
こういう可愛いしぐさをされたら、世の男性は殆ど撃沈してしまうのではないだろうか。
(事実、俺がそうだ。)

「所で……さ、期末テストの勉強なんだけど、………一緒に………しない?。」

来た。
できれば、こいつとは顔を会わせたくなかった。
顔が会えば、どうしても、あの日 先輩から言われた事を思い出してしまうから。
そうしたら、勉強どころではなくなってしまう。
いままでは何とかしてあいつと顔を合わせないようにしていた。
しかし、この時期顔を合わせない様にするのはやはり無理だった。
勿論、いつかは決着をつけなければいけない事だ。
しかし、今はテストが目の前にある。
集中しなければならない。
さすがに、あの事で、テストの結果がボロボロになる事は避けなければならない。


それなら、何故もっと前に訊かなかったのか。

怖かった。
高校に入ってから、それまでの俺たちの関係が崩壊しつつあるような気がした。
しかし、2週間ほど前、あいつは、元に戻ってきた。
それだけに、先輩の話の事を訊いて、今までの事が全て崩れ去ってしまう事を恐れていた。
もし、最悪の結果となったら……………

『試験が終わるまでは、一人にさせてくれ』
そう願った。
しかし、その願いはかなえられそうにない。

「私さぁ、国語とか、英語は結構できると思うんだけど、理数系がからっきしダメなんだ
よね。」
「ひろクン、理数系得意だよね。」
「だから、文系の科目は私が教えてあげるから、理系の科目は教えて。」
「ね?」

知ってのとおり、俺は、あいつのお願いには無条件で従わなければいけないようになって
いる。
俺に断る術は無かった。

「判ったよ。」

「やった!。じゃあさ、今日は家でやろ。」
妙にあいつははしゃいでいる。
何でだ。
俺たち二人は、香織の家で勉強をする事になった。


勉強には、ほとんど身が入らなかった。
あいつの顔を見ていると、ついついあの事が頭に浮かんでしまう。
その事で筆をとめて、じっと見ていると。

「どうしたの?」

不安そうに俺の顔を覗き込んでくる。
やめろ、そんな顔をして俺の顔の側に寄らないでくれ!
俺にとっては、拷問にも等しかった。

何とかかんとか今日の分を終えて、一息いれる事にした。
あいつが入れてくれたコーヒーを飲んで、とりとめの無い話をしながら時間を過ごしていた。
しかし、その話は殆ど俺の頭に入ってこない。
あいつの言うことに、適当に生返事を打っていただけだった。

先輩から言われたことが頭の中で鐘の音のように鳴り響いているだけだった。。
このままでは、試験結果は目に見えている。
やはり、この場で決着をつけるしかなかった。
会話が途切れたとき、俺は思い切って切り出した。


「なあ香織、おまえ中川先輩とつきあっているのか?」

「なによ突然。」

「いや、この間さ、中川先輩によばれてな…」

「お前が、田川博昭か。」
「お前、伊藤香織と付き合っているのか?」

「まあ、付き合っているというか、仲は良いと思います。」

「何だよその返事は。よく解らねぇな。」

「いや、付き合いが長いんで。」
「恋人同士か?と言われると素直に『はい』、と言えないところもあるし、でも単なるお友
達か?と言われると、そんなに薄っぺらい仲でもないし、…………説明できないんですよ。」

「何だかよく解ねぇな。」
「いわゆる『友達以上、恋人未満』てやつか。」
「そうだとしても、あんな可愛い子、お前にはもったいないんだよ。」
「大体おまえ、一年のくせして生意気なんだよ。」
「おまえ、遠野景子とも付き合ってるんだってな。」
「可愛い子を独り占めなんて、贅沢な真似、一年坊主のするこっちゃねぇぞ。」

「いや、遠野さんとは……

「ま、お前が二人と付き合っていようと、別に関係ねぇよ。伊藤香織は俺が頂いたから。」

「は?」

「だから、伊藤香織は 俺が い・た・だ・い・た・の。」
「今言ったことの意味、男ならわかるよな。」
「あいつは、女だ。お前は手を出すんじゃねぇぞ。」俺は、中川先輩に言われたことを簡単にまとめてあいつに話した。
(勿論、遠野景子のことは話していない。)
「で、どうなんだ。」


「……………あれは、やっぱり、………付き合ってる……ことに……なるんだよね。」

何だか訳のわからないことを自問自答している。

「うん、そうだ。」
「決めた!私、先輩と付き合っている。」

何なんだよ、その『決めた』っていうのは、

「って、何でそんなこと訊くの?」
「あー、もしかして ひろクン妬いてる?」
「大丈夫だよ。先輩とは付き合っているけど、ひろクンの事別に嫌いになったわけじゃ
ないから。」
「そうだ。何なら、試験終わったらデートしよか。」

ドクン!心臓の鼓動が高まるのを感じた。
首から上が妙に熱い。


何だか連続投稿に引っかかりそうなので、本日は此処まで。
残りは明日に投下します。


「いや、俺が訊きたいのはそういうことじゃなくて、……………」

「じゃあ、何?」

「いや、その………さ、お前………、その、先輩と……………………………………………
したのか?。」

「したのか?って何を。」

「だからさ、その………………………………えっち…………セックス。」

「え?、よく聞こえないよ。」

「セックスだよ!お前、先輩とセックスしたのかよ?!!!」

「ブーーーーーーーーーーー!、なによ、いきなり。コーヒー吹きそうになったじゃない。」
「何でそんなこと訊くの。」

「だって、『伊藤香織は頂いた。男ならこの意味わかるよな。』なんて言われたら、そっち
の方を連想するの、当然だろ。」

「先輩には訊いたの?」

「バカヤロ。そんなの訊けるわけ無いだろ。だからお前に訊いているんだよ。」

「だからって、何で私から答えなきゃいけないの?」

「いや別に、答えたくなけりゃ答えなくてもいい。俺にそんな権利も無いし、お前にも義務はない。」



あいつは、じっと俺の方を見ながら、沈黙していた。

沈黙の間、心臓の音はどんどん大きさを増していた。
ドクッ、ドクッ、俺の耳元に最大ボリュームで鳴り響き、あいつの言葉もほとんど聴き取れない。
頭に上る血で顔はパンパンに腫れ上がり、破裂しそうなほど痛かった。

素直な気持ちを言えば、嘘でも良いから『そんなことしてないよ。』て言って欲しかった。
そうすれば、あいつが俺の側からいなくなるような、事はないだろうから。
少なくとも、今のままの俺たちで居られると思うから。
たとえ騙されていたとしても、安心できるから。

しかし、答えは帰って来ない。

ただ、
「スー、」
という息を吸う音と

暫くしてから
『フー』という息を吐く音が聞こえた。

そして、
「したよ。」

残酷な答えが帰ってきた。


「え?」

「だから、私、先輩としたよ。」

「何を?」

「もう、ひろクンから言い出したことでしょ。セックスよ。私、中川先輩とセックスしたよ。」
「恥ずかしんいだから、何度も言わせないでよね。」

今度は血が逆流し始めた。

最悪の結果だった。

先輩から言われた時から、ある程度予想はしていた。
しかし、本人から発せられた一言が、これほど大きなダメージを与えるとは、予想できなかった。
あいつの言葉は、俺の腹を抉り、心臓を貫通し、脳髄を吹き飛ばしてしまった。

吹き飛ばされた脳を何とかかき集め、かろうじて一言二言だけでも喋れるまでにはしないと。

「いつ。」

やっとの事で一言、声を出せた。

「一月ほど前、映画に誘われたその日。」

心臓はさらにも増してその鼓動を強めていた。
にもかかわらず、手から、足から、頭から、血の気が引いていく感じがした。

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