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動き出した歯車(その5)


「初デートで……………………なんで?」

「元々、高校に入ったら素敵な恋をしたいと思ってた。」
「そして、そのまま初体験までできたら、なんて思ってた。」
「そしたら、かっこいい先輩がいて。」
「その先輩がデートに誘ってくれて。」
「何か夢を見ているみたいだった。」

「その後先輩の家へ行って、部屋へあがって、色々とおしゃべりをしてたら、何となく雰囲気
良くなってね。」
「そしたら、いきなりキスされちゃった。」
「何か、頭の芯がジンジンして、『このまま、最後までいっちゃうのかなー』何て思っていたら、
押し倒されて、あっという間だった。」
「何ていうか、勢いでやっちゃたみたいなもんよね。」

何だよお前、勢いでやっちまうほど節操無いのかよ。
手先、足先が冷たくなってきた。

やめろ!そんな話聞きたくない!
でも、…………声が出ない。

何とか気力で声を搾り出す。
「何故なんだよ。」
「俺の気持ち知ってるくせに。」
「俺のこと『好きだ』て言ったくせに、今も『嫌いじゃない』て言ったくせに。
「何故なんだよ!!!!!!!!!」
「嘘だったのかよ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「嘘、………………じゃない。」

「ひろクンの事は、…………今でも好き。」

「でもね、正直、ひろクンとキスしたり、まして………………エッチしたり、とかいうのは全然考え
てなかった。」
「ひろクンのは、そういう『好き』じゃないんだよ。」
「何ていうのかな、お互いに精神的に支えあうって言うか、高めあうっていうか、そんな感じ。」

何だよ、それ。

「勿論、一緒に遊んだりお食事したり買い物したりって言うのは良いんだよ。」
「それに、つらい事があったときは、やっぱりひろクンに側にいて欲しい。」
「だから、ひろクンの事、『嫌いじゃない』じゃなくて『好き』なんだよ。」
「でもね………、でもね………、やっぱり、こういうの、ひろクンじゃイメージ沸かないんだよ。」

「だけど、……この話、ひろクンから最初に告られた時言ったと思ったんだけどな………。」

全然覚えていない。
というか、あの時は『好き』と言われただけで舞い上がっていた。
その後言われたは全部右から左へ流してしまっていた。
くそ!あの時言っていたのは、こういうことだったのか。


結局俺はあいつの恋人にはなれなかったのか。
どんなに頑張っても、親しい友達の毛が生えたような関係から、抜け出す事はできないのか。
情けなかった。

涙が流れそうになるのを必死でこらえた。

「でも、何でこんな事訊くの?」

目の前がうっすらと暗くなってきた。


「もしかして……………、私としたかったとか?」


もう意識を保っているのが精一杯で、声を出すことすらできない。
またもや、長い沈黙が流れた。
(実際は数秒程度だったのかもしれない。)


「そうか、したかったんだ…………。」

どうやらこの沈黙を肯定と受け取ったらしい。


「……………何か、意外だな。ひろクンが私としたかったなんて………」
「いや、………ひろクンて、そういうのからは一番遠い所にいるんだと思ってたから………。」
「ごめん。………そうだよね。ひろクンだって男の子だもんね。」
「好きな娘がいたら、一緒になりたいよね。………一つになりたいよね。」
「セックス……………したいよね。」



「じゃあ、する?」

今何て言った?!!!



「ひろクンが相手なら、…………私は………かまわない………。」

やめろ!もうやめてくれ!そんなこと言われても嬉しくない。そうじゃないんだ!
俺が言いたいのはそういうことじゃないんだ。
しかし、声など出るはずも無い。
もう、理性をもって意識を維持していく限界だった。
俺は
①あいつを押し倒した。
②何も言えなかった。
③そういう事じゃない!


『馬鹿野郎、そういう事じゃないだろうが!』
『そんな事言われても、嬉しくも何とも無いんだよ!』

この言葉は、あいつに伝わったのだろうか。
自分では確かに言ったと記憶している。

しかし、

既に周りは真っ暗だった。
前も、後ろも、右も、左も、上も、下も
まるで星一つ無い暗黒の宇宙空間に放り出されたようだった。
もう、自分が立っているのか、座っているのか、寝ているのかわからない。


そして、


「ごめん……………………だ………め………

自分が言ったのか、あいつが言ったのかは定かではない。
その言葉を頭の中で響かせながら、俺は意識を無くした。


……………くん!」

…………ろクン!」

何か冷たいものが顔にあたる。

何かの滴………………雨か?

「ひろクン! しっかりして!」

また、顔にあたる。
けど、確か俺は香織の家で勉強してたはず………

「ひろクン! 聞こえてる?!」

目の前に、あいつの顔があった。

「ん?………あ、………香織か、どうした?」

「『どうした』じゃないでしょ。もう、びっくりさせないでよ。」

見ると、目に涙を一杯浮かべている。
すると、さっきの冷たい水は、涙か。

「お前、………泣いているのか?」

「そうだよ!泣いちゃ悪い?!」
「死んじゃうかと思ったんだよ!」
「心配したんだよ!」


「そうか、すまない。」
「心配掛けたな。」

「ひろクンの………バカ………」
「でも……良かった……………」
傍で見ている人がいたら、恋人同士の会話にしか見えないだろう。

しかし、
あいつは、他の人の彼女。
もう、おれの恋人ではない。

「急に倒れたんだよ、もう、びっくりした。」
「どうしたの?もしかして、昨日まで一杯勉強して、その疲れがでたの?」

しきりと訊いてくる。
しかし、自分の言葉がどれだけ人の精神にダメージを与えたかは、理解していないらしい。
まあ、言ってもあいつは理解しないだろう。
とにかく、帰ろう。

「心配掛けたな。もう、大丈夫だ。」

そう言って立ち上がった途端、床が斜めに傾いた。

バランスを崩して、倒れるところを、あいつが支えてくれた。

「まだ、ダメだよ。全然顔色良くなってないもん。」
「さ、ベッドに横になって。」

言うが早いか、あいつは俺を抱えてベッドに連れて行き、横たわらせた。
(一体、あいつのどこにそんな力があったのだろう。)
「ほら、」
不意に頭が持ち上げられたかと思った瞬間、あいつの太腿が頭の下に入ってきた。
さらに、
「それじゃ、寝にくいでしょ。」

頭を胴体の方(足の付け根)に向けて引っ張る。
ちょうど、あいつの下腹部のあたりと対面するかたちで横になる格好となった。
頭を引きずった際、スカートがめくれて俺の唇があいつの太腿にあたっている。
あいつはそんな事も意に介さず、膝枕をしながら、おれの耳の上からこめかみのあたりを優しくなでてい
た。
頭に触れる、あいつの指先の感触。
柔らかく、ひんやりとして、ちょっと湿り気を帯びたその指先。
気持ちが良かった。
いつまでもこうしていたいと思った。

と同時に、困惑していた。

先輩と結ばれて、先輩の彼女になったくせに、
俺の安否を気遣い、涙し、膝枕して癒してくれる。
これが、あいつの俺に対する『好き』という事なのだろう。
しかし、この愛情の発露は一体どういうカテゴリーに入るのだろう。

答えは解っている。

『家族』

全く、あいつの俺に向ける愛情は、家族、或いはペット(最近の『ペットも家族の内』という考え方でいけば、これも家族か)に対するそれと同じではないのか。
そう思えば、合点が行く。


自分に対して『好き』といってくれる。
そして、普通の友達同士の範囲を超えたスキンシップ。
でも、エッチな事は想像できない。
ぴったり当てはまるではないか。
結局、あいつにとって俺は、同い年の兄弟、或いは寂しいときに心を癒してくれるペット(所謂、『アニマ
ルセラピー』というやつか)でしかなかったのか。
デモ、オレト セックスシテモ カマワナイ ト イッタ。

全く、情けなくて涙も出やしない。

とにかく、帰らなきゃ。
幸い、手足は自由に動く。
眩暈もさっきと比べて少なくなったようだ。

「ありがと。助かったわ。」
完全に収まったわけではない。

「大丈夫?まだ、顔色蒼いよ。」

あいつは、心配しているけれど、居続ければ精神的なダメージがさらに広がるだけだ。

「大丈夫、もう平気だから。」

ふらつく体を押さえつけながら、無理やり家に帰った。

帰った途端、また眩暈がして、ベッドに横になると、そのまま動けなかった。

横になってから眠るまでの間、唇に残ったあいつの肌の感触を思い出し、それがもう他人のものとなって
しまった事に興奮して自分を慰めている自分に驚き、嫌悪した。


「最低だ。」


俺は、あいつが、伊藤香織が好きだ。
あいつの事全てを独占したい。
その愛は、俺だけに向けて欲しい。
そして、
あいつは、俺のことが好きだ。
何かあれば、今日の様に優しく抱きしめて、癒してくれる。

でも、その愛情は、俺一人だけに向けられたものではない。
しかも、俺以外に向けられた愛には、心だけではない。
身も含まれている。

では、あいつの気持ちが、今の状態から変わることはあるのか。
考えられない。
どんなに望んでも得られないものなら……………

夏休みの予定、全部狂っちまったな。

一学期が終わろうとしていた。


ひろクン以外の男の子との、初めてのデート、それは刺激に満ち溢れていた。
何をするにしても、驚き、どきどきわくわくした。
こんなにどきどきするのは、初めてだ。
先輩といると、楽しい。
色々と積極的に話し掛けてくれる。
それに答えている内に、ついつい話がはずんで来る。
それに、やさしい。
ウインドショッピングでも、私がディスプレイを覗きこんだりしていると、
「そういうのが好みなんだ。」
とか、
「可愛いね。」
とか、
「センスいいね。」
とか
言ってくれる。
ついでに、というわけではないのだろうけれど、携帯のストラップまで買ってもらってしまった。
先輩とお揃いだ。
「今日付き合ってくれたお礼だよ。」
なんて言ってた。
そんな、映画に誘ってくれて、チケット代奢ってもらっただけでも有難いのに……

ひろクンとだと、こうは行かない。
大体、デートといっても、私から誘う事はあっても、ひろクンから誘われる事はない。
さらにお喋りにしても、大抵、話し掛けるのは私の方。
ひろクンはそれに答えるだけ。
しかも
「ああ」
とか
「おう」
とか、言葉にならない事が殆どだ。


もうちょっと、お世辞でも言いから
「綺麗だよ」
とか言ってくれるといいのに。
自分から誘ってくれてもいいのに。
勿論、ひろクンだって私が知らない事を訊いた時には、理解するまで嫌がらずに教えてくれる。
それに、たまにはファッションのことで言ってくることもある。
まあ、大体は好みの違いで言い争いになるんだけど。
(それはそれで楽しいのだけれどね)

私は、素直に先輩とのデートを楽しんだ。
ひろクン、やきもきしているだろうなー。
その上、今日の事話したらどうなるだろ。
やっぱ、すっごいやきもち妬いてくるかな。
よし、ひろクンとは今度デートしてあげよう。
うむ、もてる身は大変なのだ。


別れ際、
「何か、名残惜しいな。」
「良かったら、僕の家に来ない?」
不意に言われた。
やだ、ちょっと展開速すぎるよ。
そりゃ、先輩の家というのは最後に残された秘境、魅力あって余りある場所だ。
是非とも行って先輩のプライベートな部分を覗いてみたい。
でも、ちょっとこれは速過ぎる。
それに、男の子の家に上がる、ということは、アレな事になるのも覚悟する必要があるという事で、
確かに、先輩かっこいいし、やさしいし、こんな人と初体験できたらどんなにか…と思う。
だけど、やっぱりまだ早いよ。
まだ心の準備が全然できてない。


だけど、
これを逃すと、もう2度とこんな機会には巡りあえないかもしれない。
そう思うと、心が揺らぐ。

まごまごしていたら、
「ね、来てよ。」
先輩の声がした。

えい、もうなるようになれ、だ。
先輩の家に行ったって、そういう展開になるとは限らない。
もし、なったらなったでその時考えればいい。
結局『先輩のお家』という魅力には勝てなかった。

一瞬、ひろクンの顔が浮かんだ。
何で ひろクンでてくるのさ。もう、消えろ!

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