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夢か恋愛か 1

裕介は落ち着きなく何度も時計を見ていた。
じっとしていられず、待ち合わせの時計台の前を動物園の熊のように行ったり来たり。

待ち合わせの時間はとうに過ぎていた。
メールを送っても返事がこない。
裕介は待たされているいら立ちよりも、
待ち合わせに一度も遅れたことがない、几帳面なさゆりの事が心配だった。
それから二十分後、
漸く待ち合わせ場所に来たさゆりの様子がいつもと違うことに、裕介は直ぐに気付いた。
さゆりは裕介を遠目に見つけると、駆け寄ってきて、
一度大きく息を吐き出し息を整えると、遅れたことを裕介にごめんねと謝り
今さっき起ったばかりの出来事を興奮で上ずった声で話し出した。
「ほんとに?」
「ほんとだよ。これみて」
そう言うと、さゆりは一枚の名刺を得意げに裕介の目の前に差し出した。
裕介は然も疑わし気に名刺を見る。
名刺には芸能事務所の名前と、事務所の代表らしき人の名前が書かれていた。
しかし名刺に書かれた芸能事務所の名を裕介は知らない。
もちろん一般人の裕介は芸能界に詳しくはないから、
この事務所が芸能界では有名だと言われても否定は出来ないが。



「これ、どういう事務所なの。さゆりがスカウトなんかされるかなぁ」
疑いの顔でそう口では言いながらも、
裕介はさゆりの抜きん出た可愛さを十分自覚していたし、
だからこそ、常に些細なことで嫉妬したり心配したりしている毎日だった。
「私だって、最初は疑ってたんだよ、うさん臭いなぁって
でも、ちゃんと話し聞いたら、そんなことないし」
「さゆりって、芸能界っていうか、そういうのに興味あったの」
裕介は感情を自制出来ず、少し苛立って言った。
「もちろん自分には無関係の世界だと思ってたよ。
・・・でも、憧れがない・・・わけじゃないから」
「・・・そう言う人って、口が上手いんだって」
裕介は苛立ち、半笑いで言い放った。
「私なんかがスカウトされるわけないって言いたいの」
さゆりの顔が急に険しくなる。
「いやっ、そう言うことじゃなくてさ」
「・・・もういい」
そう言うと、さゆりは裕介から名刺を取り上げると、裕介を無視して先に歩き出した。
「ちょっと、待って。・・・さゆり」
裕介はその後を慌てて追った。 



「じゃあね」
さゆりは淋しそうな顔で俯きながら言った。
二人はさゆりのアパートの前に帰ってきていた。
今日一日のぎこちない微妙な距離感の中に二人ともまだとらわれていた。
「うん」
裕介はどういう顔をしていいかわからず、
笑顔を作ろうとしたら苦笑いになってしまう。
重苦しい空気。
「さっきは、ごめん」
裕介は面と向かって謝るのが恥ずかしくて、俯き謝った。
さゆりが何も言わないので、顔を伺い見ると、
さゆりの顔はみるみるうちに崩れ裕介に抱き着いた。
「ううん、私もごめん」
裕介もさゆりの身体に手を廻し強く抱き締め返す。
それに呼応するようにさゆりもまた裕介を抱き締め返す。
二人は暫くお互いの気持を確かめるように抱き締めあうと、熱いキスをした。
二人で障害を勝手に作り出し、それを乗り越え盛り上がる。
そんな何処にでもいるカップル、それが裕介とさゆりだった。



裕介は部屋に戻ると直ぐにさゆりにメールを打った。
『さゆりが興味あるんだったら。その事務所に連絡してみたら』
裕介はメールを送信した後、そのメールを見返し少し後悔していた。
いい彼氏を振る舞ってるだけなんじゃないかと。
人生で初めて出来た彼女、それがさゆりだった。
オク手だった裕介は誰かに告白することなど出来るはずもなく、ずっと彼女も出来ず、
同じ境遇をすごした高校時代の同級生達と卒業した後も休みごとに遊んでいた。
しかしそのような関係も、新しい環境になったこともあり、サークルだ、コンパだと、
日が立つごとに一人また一人と彼女が出来ていった。
その内、遊ぶ時に彼等は彼女を紹介半分、自慢半分で連れてくるようになり、
いつのまにか彼女がいないのは裕介だけになっていた。
そんな様子を見ていた友達の誰かが軽い気持で発した
「裕介に彼女作ってあげようぜ」
という一言に、皆直ぐに乗り気になった。
それは最初はゲームのようで、その内みんなの使命のようになっていた。



友達の彼女達はプリクラ帳を開き
「この子はどう、この子は、その子は裕介君にはきつすぎるよ」
などと、論議が沸き起こる中、裕介は他人事のように1冊のプリクラ帳を見ていた。
その時、裕介はプリクラ帳の一人の女の子に釘付けになった。
すると、その様子をすぐに嗅ぎ付けた女の子が
「さゆり?」
裕介の視線の先を探るように言った。
「うん。さゆりだったら、裕介君とお似合いかも」
「そうだね。さゆりがいいよ」
「だよね、裕介君は真面目だし、さゆりを安心して預けられるよ」
女の子達は勝手に納得しあっている様子だった。
それからは裕介の事などお構いなしに、
女の子達は恋のキューピットごっこにはまり込み、
数日後には晴れて裕介とさゆりは御対面となった。



はじめて裕介の前にあらわれたさゆりに裕介の顔は真っ赤になった。
さゆりも恥ずかしいのか頬を染めていた。
無理矢理に隣に座らさせられた裕介とさゆりは、
何を話していいかわからず暫く押し黙っていたが、
裕介は意を決してさゆりに話し掛けると、
さゆりはホッとしたのか笑顔になった。
その時の笑顔の可愛さを裕介は忘れない。
さゆりへの思いが確かになった瞬間。
それからはメールのやり取りをしたり、
さゆりは有名私大に通っていていて試験だなんだと、裕介とは違い忙しかったが、
時間がある日には友達をそれとなく誘い、グループデートを何回か重ね、
さゆりが想像以上に可愛いのもあって、同級生には途中やっかみを入れられながらも、
皆に担ぎ上げられるように付き合うことになった。
そして、今日が付き合い始めて半年の記念日だった。


『ありがとう。少し考えてみる』
さゆりからの返信メールを裕介はみて、これでよかったんだと思った。
さゆりは確かに可愛いけど、
芸能人になれるはずなんてないだろうと裕介はどこかで高をくくっていた。
しかし、そんな裕介の楽観的な予想は間違っていたことになる。
月日はたち、さゆりは新進アイドルとなっていた。

さゆりがアイドル、その事実は裕介を困惑させた。
そして、それ以上に最近さゆりが芸能活動に真剣に取り組み始めたことに戸惑っていた。
最初の頃は芸能界に戸惑いがあったさゆりだったが、
事務所の人に何度か舞台などに連れて行ってもらううちに、
真剣に女優になりたいと思い出し、
たびたび裕介に対してもはっきりとそう口にするようになっていた。
それからは、一度も休まずに通っていた大学も休みがちになり
変わりに時間を惜しんで芝居や発声のレッスンに励む毎日になっていた。
それが今ではアイドルになっている。
当初は確かにさゆりは女優を目指して懸命に芝居の稽古をしていたのだが、
芝居の仕事はほとんどといっていい程になかった。
すると事務所の社長は、アイドルからでも女優になれるし、
そのほうが夢が近いんだよとさゆりに話した。
最初は固辞していたさゆりも、事務所の熱意と、自らの女優への憧れから納得すると、
それからは、さゆりの可愛さと事務所の並々ならぬ努力もあってか、
さゆりの仕事は徐々に増えてきていた。
最近では有名雑誌のグラビアを飾るようにもなってきていた。


裕介はグラビアの中で、
さゆりが自らの柔肌を惜し気もなくさらしているのが堪えられなかった。
さゆりの肌を辛うじて隠しているだけの小さな水着、
小さな水着から溢れ出した豊かな胸、
お尻の形がハッキリとわかるバックショット、
そして、股間からの卑猥なアングル。
さゆりの水着姿が男達の目に晒されている。
そう考えるだけで堪え難い焦燥感が沸き上がり、
それを吐き出せない無力感が、裕介を覆いつくしていた。
友達には裕介お前いいのかよ、などと心配されていたが、
そう忠告する友達も少しにやけた顔で、
彼等の瞳にはさゆりの卑猥な姿が映っているように裕介は感じられた。
知っている女の子の卑猥な姿なのだから興奮しても当然なんだろうが、
さゆりの身体が他人に見られているという事実が
裕介には現実のものとして叩き付けられ、堪え難い苦しみを起こす。
それでも辛うじて堪えられたのは、毎日交わすさゆりとの電話、メール、
そして、そこで言ってくれるさゆりの裕介への思いが唯一の支えだった。


しかし、裕介には最近新たに大きな悩みの種が産まれていた。
それは、事務所がさゆりとの交際を暗に控えてほしいと裕介に言ってきたことだった。
別れてくれとまでは言わないが、人目につくところで二人であってはいけないなど
事細かに、さゆりの女性マネージャーに注意されていた。
さゆりは気にしなくてもいいと言っていたが、
それでも裕介はやはり気にせずにはいられなかった。
裕介はさゆりが本気で女優になりたいと思っていることに気付いていたし、
なによりも、ごたごたを起こし、それが切っ掛けでさゆりと別れたくなかった。
そこには芸能人であるさゆりと付き合っているんだという優越感もあった。
裕介は暫くしてから友達にさゆりとは別れたんだと言った。
友達はほんとかよと一様に驚き慰めてくれた。
「アイドルの彼氏なんて大変だからよかったんだって。他の子紹介してやるよ」
そう友達は裕介の肩を叩いてくれたが、実際には別れていない裕介は、
「まじで、さゆりちゃんいい身体してるよな」
「ほんと、俺毎日さゆりちゃんでオナニーしてるよ」
などと、さすがに裕介に遠慮をしているのか、目の前では言わないが、
それでも聞こえてくる彼等の会話の中に出てくる、
それは若さゆえに溢れる性欲からの、
さゆりに対する卑猥な一言一言が裕介の胸に突き刺さった。

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