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嘘の縺れ -2-

 男5人と女5人がカラオケのパーティー用の個室に緊張しながら向かい合って座る。
信二の前にはユミが座り、仁美の前には唐沢が座った。
信二は対角線上に座る仁美を見る。仁美も信二を不安げに見ている。

「それじゃ、自己紹介しようか。まず、俺は唐沢大輔、二十歳
じゃあ、次は君」
 唐沢は仁美に促す。
「えっと…、小倉仁美です。私も二十歳です」
 仁美は信二と楽し気に喋る時の半分くらいの声の大きさで話す。
「あたしは神戸ユミです。あたしも二十歳。じゃあ次は君ね」
 ユミは信二に笑顔を向けて促す。
「水橋信二です。二十歳」
 信二は抑えようとしても少し声に怒気が混じる。
その後、全員の自己紹介が進み、ユミが皆の飲み物を注文し料理が並ぶと、合コンは和やかに進んでいく。
皆少しずつ打ち解けていき、男女が入り乱れての会話が弾む。
「仁美ちゃんは彼氏いるの?」
 唐沢は仁美に親し気に聞く。
信二はユミと話していたが、唐沢と仁美の会話に聞き耳をたてる。
「…うん」
 仁美の返答に信二は少しホッとする。
「そうなんだ、残念だなぁ。でも、今日合コンに来たと言う事は彼氏と上手く言ってないの?」
「そんな事ないけど…」
 仁美は信二を軽く伺うと少し曖昧に答えた。
信二は途端にむっとする。
「ねぇ、ってば。信二君聞いてるの?」
 ユミは上の空になっている信二に言う。
「えっ…うん、聞いてるよ」
「ホント、なんか上の空だよ。あたしと喋るの退屈?」
「そんなことない、そんなことないよ。すごい楽しい」
 信二は大袈裟に頭を振る。
ユミは一瞬疑わしそうな顔をしたが、信二の焦ってる様子におかしそうに「わかった」と言うと笑った。
「信二君ってかっこいいね。彼女いるの?」
 今度は仁美が信二を伺い見る。信二はその様子に気付いて。
「いるけど、あんまり、上手く言ってない」
 とさっきの仁美に仕返しのつもりでそう仁美にも聞こえるように言った。
仁美はその言葉に戸惑い、目の前のチューハイをぐっと飲んだ。



 場は酒の勢いもあって次第に盛り上がっていく。
信二はトイレに行きたくなり立ち上がると、暫くしてトイレに唐沢も入ってきた。 
「よっ、気に入った子はいるか?」
 唐沢は信二の隣に立つと楽しそうに聞いて来た。
「うん。どうかな」
「なんだよ。しっかりしろよ」
 唐沢は信二の身体を揺らす。
「おいっ、危ないな。お前にかけるぞ」
「おっ、止めろよ」
 唐沢は大袈裟に避ける。
「お前の前に座ってるユミって子、お前に気があるぞ」
「ほんとか」
 仁美の事が気になってそれ所ではなかった。
「ほんとだって。結構可愛いじゃん」
「そうか」
 確かにユミは仁美とは違った今時の子っていう可愛さがある。
「それでな、俺は仁美ちゃんにするよ」
 唐沢のその言葉に信二は驚き唐沢の顔を見る。唐沢はにやっと笑う。
「仁美ちゃんのおっぱいでかいよな、あぁー揉みたい」
「で、でも、彼氏いるって言ってたぞ」
 信二は慌てて言う。
「バカか、何いってんだよ。その気があるから合コンに来てんだろ」
 唐沢はそう言うとまたにやっと笑うとトイレから出ていった。
「おい、ちょっと…」
 信二は言い様のない不安に襲われていた。



 同じとき、仁美もユミと化粧直しに手洗いに来ていた。
「ねぇ、信二君ってかっこいいと思わない?」
「そうかなぁ」
「もう、仁美は見る目ないね。まっ、仁美のタイプじゃないか」
「…うん…」
「仁美は唐沢にしときなよ」
「もう、私はその気ないから」
「まだ言ってんの。まぁいいけど。私は信二君にアタックする」
「…そう」
 仁美はユミの言葉に不安と共になぜか嫉妬する。
ユミは女から見ても可愛いし、信二は私が合コン来た事に怒ってるしもしかしたら。
仁美は不安な気持ち募る。

 唐沢はユミ達が戻ってくると席換えを提案した。唐沢はすぐに仁美の隣を確保する。
信二の隣にはユミが座る。ユミは少し酔っているのか信二をうっとりと見つめる。
その様子を仁美は嫉妬と不安から逃さず見ている。
「仁美ちゃん、今度何処かに一緒に遊びに行こうよ」
「うん、そうだね」
 仁美は唐沢を見つめ信二に聞こえるようにそう返答する。
信二は仁美の行動に何考えているんだといら立ちが募る。
信二と仁美はもうお互いの気持ちが推し量れ無くなっていた。



 男女は段々互いの話が尽きて来る。そのタイミングを見計らって唐沢が皆に提案する。
「王様ゲームでもやらないか」
 その言葉に信二と仁美はドキッとする。
仁美は唐沢を見遣るが唐沢は笑顔を返す。
「おい、待てよ」
 信二は堪らず声をあげる。
「そういうのは嫌な子もいるかも知れないだろ」
 唐沢は信二を睨み付ける。
「えぇなんでだよ。ただのゲームだろ。なぁ」
 唐沢は他の男に賛同を求める。男達は一斉に野次と避難の目を信二に向ける。
「ユミどうなんだよ。いいだろ」
 唐沢が話をユミに振ると。
「いいよ。やろうよ」
とユミは俄然乗り気だ。
「ちょっと、ユミ」
 仁美がユミに助けを求めるように言う。
「いいじゃん。ただのゲームだって。ねっ、信二君もいいでしょ」
 そう言うと、ユミは信二の肩に寄り掛かる。
その瞬間仁美の顔が微かに変わったのを信二は見のがさなかった。
信二は慌ててユミから離れる。
そうこうしている間に、唐沢が割り箸を集めてクジを作る。
「よしやろうぜ、ねっ、仁美ちゃんもいいだろ」
 仁美は戸惑いながらも頷く。



「さっ王様はだれだ?」
 唐沢が見回す。向いに座った女の子が控えめに手をあげる。
「さっ、なんでも命令してくれよ」
 唐沢が命令を促す。
「えっと、じゃあ。三番が四番にピラフを食べさせてあげる」
 その指示を聞いて、信二以外の男は一斉にブーイングをする。
信二は過激な内容になるんじゃないかと思っていたので少しホッとする。
「ま、最初だからな。四番は俺だ、三番は誰?」
 唐沢は明らかに不満げな男達をなだめると、自分の割り箸をみんなに見せた。
「あの…私です」
 仁美が遠慮がちに手を挙げる。
「えっ、仁美ちゃん。ラッキー!」
 唐沢は仁美に笑いかける。仁美も苦笑いを返す。
「早くやっちゃいなよ」
 ユミが不満げに言う。
仁美はその言葉に慌てて新しいスプーンでピラフを掬うと唐沢の口元に持っていく。
「仁美ちゃん、自分のスプーンで食べさせてよ」
 仁美は一瞬たじろぐが周りの早くという目を見て、自分の使っていたスプーンでピラフを掬い唐沢に食べさせた。
「仁美ちゃん、関節キスだね」
 唐沢は口をモゴモゴさせて言った。
仁美は曖昧に頷くと、信二を伺い見る。信二は何事もなかったように、ユミと会話している。



「よし、じゃあ、また引いてくれ」
 みんな、唐沢の手に束ねられたクジを引く。
「おっ、俺が王様だ!」
 唐沢は勝ち誇ったように、クジをみんなに見せる。
信二は唐沢の笑顔を見て不安になる。
「じゃあ、女の子は右隣に座っている男の頬にキス」
 信二と仁美はえっと唐沢を見る。男達は喚声を挙げ、女の子は「えぇーやだー」と口々に言う。 
「頬にキスぐらいなんてことないだろ」 
 唐沢は仁美を見ずに笑顔で言う。
仁美はユミに助けを求めるように見る。
その瞬間、ユミは信二の頬にキスをした。
信二は驚いてユミを見る。
ユミは少し照れくさそうに信二を見る。
その姿に触発されて、女の子達がキスをしだす。そして、キスをしていないのは仁美だけになった。
「仁美、早くやりなよ」
 仁美は言葉を発したユミを怪訝な様子で見て、続けざまに信二を睨んだ。
信二は仁美からすっと目を逸らす。
仁美はその様子にかっとして、唐沢に身体を寄せると頬に軽いキスをしようとした。
すると唐沢がその瞬間顔を仁美のほうに向けたせいでお互いの唇が重なってしまう。
「うわぁ、仁美大胆だね、王様の命令は頬にキスだよ」
 ユミがいやらしく瞳を見る。
「いいなぁ!」「俺にもしてよ!」
 男達は一斉に喚声を挙げる。
信二は呆然とその様子を見ていた。
胸を拳で叩かれたかのような衝撃を受け、その胸が強く締め付けられる。
仁美の顔をまともに見る事が出来ない。ただ視界の端に映る仁美の姿が胸をまた締め付ける。
「仁美ちゃんの唇やわらかいね」
 唐沢は仁美に囁くように、しかも、周囲に聞こえるように言った。
仁美はその言葉に頬を染め、唐沢を睨む。しかし、唐沢は意に返さず笑顔を見せる。
仁美が信二の様子を伺うと微かに震えているのが分かる。

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