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悪魔の尻尾2

翌朝、何事も無かったように朝を向かえ佐和子は杉野と夫に朝食を作り送り出した。早朝まだ人通りの少ない道に夫と杉野の姿が消えるのを確認すると佐和子は深くため息をついた。
(何であんなことに・・)自分が信じられなかった。
まるで淫夢でも見たのではないか?とすら思える。しかし佐和子の中はまだ杉野の残した痕が、嫌でも現実に引き戻させた。

結局週末まで何事も無く毎日が過ぎた。
夫信二は珍しく週末休みがとれ久々に息子陽一の顔を見ることが出来た。
佐和子は買い物に行くため出かけると言って出て行った。
「久しぶりに陽ちゃんと顔を会わせたんだからコミュニケーションとならいと忘れられちゃうわよ」と佐和子は出かける間際に言った。
いつも気にしていたことだけに信二は不機嫌そうに「判ってるよ」と返事をした。

信二は陽一をキャッチボールにさそい近くの公園まで歩いた。
3歳の陽一に柔らかいゴムボールを渡し軽く投げさせ信二はゴロで転がし返した。「うん、なかなか良い球投げるな」と親馬鹿で感心しながら言うと陽一はやっと笑顔を見せた。
やはりめったに顔を会わせないと父子であれ会話はおぼつかない。
信二はちょっと、いやかなりほっとした。

陽一はおもむろに口を開く「パパ、こないだ連れて来たおじちゃんもう連れて来ちゃ駄目だよ」と言った。
「?」一瞬誰のことだか分からなかったが信二は夜に連れて来た杉野だということに気付き「なんだ陽一起きてたのか?ごめんな。うるさかったか?」と言って謝った。
「ううん、でもあのおじちゃんママをいじめるから嫌い」と陽一は目をクリクリさせながら言って球を投げた

「苛める?いじめてはいないだろう?ちょっとパパ達お酒飲んじゃったからうるさくて苛めてると思っちゃったのかな?」
信二は微笑みながら陽一に近付き頭を撫でた。
「ううん、パパが寝てから、あのおじちゃんママを苛めてた」
陽一がちょっと口を尖らせた言った。
「パパが寝てから?」信二は顔を少し曇らせて言った。

「うん、ママ苦しそうな声出してた。で、おじちゃんの唸る声が聞こえた」
何も知らない陽一は平然と言った。信二の心臓が急にドクドクと強く鼓動をはじめ。異様な興奮を覚えた「ば、ばかな・・」
小さく信二は言った。「その後、たぶん一緒にお風呂入ってたよ」
その言葉で信二は強烈なパンチを浴びたようによろめいた。
(ばかな、ばかなばかな!だって俺はあのとき洗面所に居たじゃないか)
信二は、その時の状況を反芻する。しかし、あのとき俺は浴室を見た訳ではない。

(妻の対応が変だったと言われれば確かに変だったような気がする)
信二の心の中で小さな疑念が確証に変わっていった。
「パパもキャッチボールやらないの?」陽一は少し大きめのグローブの中でゴムボールをぽんぽんと弾きながら言った。
「あ、あぁごめんパパやっぱりちょっと疲れちゃったみたいだ帰ってゲームやろう」信二はやっとの声で言った。
何も知らない陽一は「うん」と言いながら急に暗くなった父の対応に心配そうな顔で信二の顔を覗き込んだ。

信二はそれに気付いて「さ、何のゲームをしよっかなー」と言って息子の心配顔を消そうとした。「でも、さっきのおじちゃんの話ママには言ったら駄目だぞ?」と信二は言った。
「なんで?」と当然陽一は応えた。
「なんでってあのおじちゃんはパパのお友達なんだ、そんな事を言ったらママもお友達も悲しむだろう?」と言って息子を説得した。

「もうママいじめない?」と陽一が聞いた。
信二は「もちろん苛めないし、こないだのも苛めてないんだよ」と言った。
陽一はそれ以上は何も言わなかった。
しかし信二はこの時、自分の妻が寝取られたかもしれない、しかも自分が居たすぐ横で。その気持ちを嫉妬や怒りよりも別の興奮が自分の中に蠢いていることを感じていた。性欲の薄い信二にとって初めての爆発しそうなやるせないような異様な気持ちだった。

それ以来、信二の中に渦巻く青白い炎のような興奮は、彼自身の中で増殖し続けた。佐和子を見る度に杉野の逞しい身体に抱かれ喘ぐ佐和子が浮かび、会社で杉野を見かける度に佐和子の身体にむしゃぶりつく杉野が脳裏に浮かんだ。信二は、その煩悩を打ち消すためにトイレに駆け込み、煩悩の捌け口を吐き出した。

信二は会社のトイレで射精した後、ハァハァと息を荒げながら(どうしたんだ俺はいったい?)吐き出しても吐き出して湧き上がってくる底無しの煩悩に自分自身で驚愕した。
もともと、佐和子が遊び好きの女であれば、それほどの事はなかったのかもしれない。が、佐和子は人一倍そういう浮気じみた男の不潔さを嫌っていたのだ。TVドラマでの浮気シーンやタレントの浮気話なども眉をひそめて、あからさまに嫌がった。だから信二自身彼女の中にそういう物が存在するという事は有り得ないと認識していた。

そのギャップが信二の心の中に大きな闇を広げていった。
信二は営業の車に乗りお得意先から帰る途中に電気街を走った。
道路は渋滞しており、車はなかなか進まない。
なにげなく信二は、その派手な電気街の看板を見つめていた。
(そういえば、家のPCもそろそろ古くなってきたな、中古でもいいからそろそろ買うか・・)信二は漠然と考えながらノロノロ運転を続けた。
ふと、その時、調査器具一式という文字が目にとまる。

「調査器具ってなんだ?」信二はやっと青になった信号を見てアクセルを踏んだ。信二はしばらく考えてから「あぁ、盗聴器とか探偵がよく使うあれか」とつぶやいた。信二の脳裏にTV番組で盗聴された家を発見し取り除く番組が浮かんだ。どれも狡猾に仕掛けられていた、当事者が疑いを持たなければ永遠に気づく事がないようなものばかりだった。
信二はやっと動き出した車の中で、あることを考えていた。

(妻と杉野は、もう二度と浮気はしないのだろうか・・?)
そう考えながらも既に信二の一物はムクムクと起き上がり異様な興奮を抑えきれなかった。(そう、むしろ俺は心の奥底でそれを期待している?)
自分の沸き立つ性欲の深層心理に信二自身が気づき始めていた。
信二は急にハンドルを切り今来た道を戻りはじめた。

信二は路上パーキングエリアに車を止めると、さっき見た看板の店へ足を速めた。下は普通の電気店・・いや、モジュラージャックなどのコードがぐるぐる巻いてあったり、何のために使うのか分からないプリント基盤などが並んでいたり、ちょっと怪しい感じだ。調査器具は、どうやら上の階らしい。
信二は胸を高鳴らせながら一歩一歩階段を昇った。
二階に上がると雑然とした一階とは違い、整然と調査器具が陳列してあった。
二階には誰も居ない。良く分からず信二は一つ一つ興味深く商品を見て回った。

(コンクリートマイク?)先っぽに医者の聴診器のようなものが付いているそれを興味深そうに手に取り眺めていると、店主が昇ってきた。
「おとなりのアノ声を聴くんですかな?」店主はぶしつけに失礼なことを平気で言った。信二は慌てて商品を置き、横に首を振ると。
「あ、違うの?最近多いんでつい」と言って笑った。
「で、どういうものが欲しいんですかな?心配しなくても本店はプライバシー厳守ですので」と早くも察したような事を言った。

「家にかかってきた電話のやり取りを知りたい」信二はぶっきらぼうに答えた。「あ、奥さんの浮気調査ですか?それなら・・」と早くも良さそうな製品をゴソゴソと店主は探し始めた。
信二は、あっさり言い当てられた事に驚き目を丸くしていると、「あぁ、家の電話の内容を知りたいなんてのは、奥さんの浮気か、娘さんの素行調査ぐらいなんですよ」とシレっとして言った。「あなた、まだ娘さんの素行を気にしなければならない程の年齢には見えないしね」と笑った。

「じゃ、これ。これを電話とジャックの間にかませると、かかって来た時に反応して、こっちのボイスレコーダーに録音するようになってるから。9時間分録音できるから、よっぽどの長電話じゃないかぎり大丈夫」店主は自慢気に言った。「いくら?」信二は単刀直入に聞いた。「これ、最近でたばっかりの優れものなんで本当は8万なんだけど、お兄さん奥さんに浮気されて可哀想だから、おまけして6万にしてあげるよ」と言った。信二は(チ、余計なお世話だよ)と思ったが渋々財布を開けた。

「あ、5万しか無いや。まけてよ」と、信二は札を数えながら言った。
店主はあっさり了承した。信二は(なんだ、本当はもっとまかるんじゃないか?)と内心思ったが正直、その後の楽しみの方が先に立って。あっさり金を手渡した。店主は「じゃ、ね。後で覗いて見たくなっちゃったりなんかしたら、また相談してね。色々あるから」店主はニヤニヤと厭らしく笑った。

信二はちょっと睨んだが、店主は悪びれることなく「いやね、癖になっちゃう人多いのよ。奥さんを一人旅に出さしてナンパする人雇って、抱かせて覗くなんて酔狂人もいるからね」と凄い事を言ってのけた。
「わ、私はただ妻の浮気を確認したい・・」という言葉を店主は遮り「みーんな最初はそう言うのよね」と少し小ばかにするように言った。
信二はムっとして、さっさと階段を降りた。後ろから「自我に目覚めたら何時でも来てねー」と店主の声がした。応えず表に出た。

結局その日信二は仕事もそこそこに家路に着いた。
「あら、あなた珍しいわね。こんなに早く帰ってくるなんて」と、いつもは子供と自分とは別に夫用の食事を遅く作っていた佐和子は、いそいで夕飯の支度を始めた。
「あぁ、俺先に風呂に入るからいいよ」と信二は言って風呂に入った。実際こんなに早く風呂に入ったのも久しぶりだ。
正直、信二には、家族の団欒をこの後楽しもうなどという気持ちは全くなかった。そう、早く妻子を寝かしつけて電話機に盗聴器を仕掛けることだけが彼の思考を占拠していた。

その後風呂から上がり食事をし、息子や佐和子から何度か話しかけられたのだが、正直何と応えたのか覚えていない。覚えているのはチラチラと時計を見たり、電話を見たりしてた事ぐらいだ。信二は佐和子と信二が寝静まるまで辛抱強く待った。そして、佐和子が子供を寝かしつけ一緒にそのまま寝息を立てたのを確認すると、バックから盗聴器を取り出し接続を開始した。

店主の言っていた通り接続は至って簡単。ものの5分で完了した。
一応、ちゃんと録音されるか確かめるため、自分の携帯から自宅の電話に電話をかけ(もちろんベル音を下げ)ちゃんと会話が録音されるか確かめた。こんなに胸を高鳴らせて一つことに精を出したのはいついらいだろう。そもそも、杉野が妻宛に再び連絡をしてくるのかすら可能性は薄いのに正直自分自身でも(馬鹿みたいだな俺)と、自分の行為に苦笑した。

そう、本当に確証など無いのだ。だが信二はそうせざるを得ない衝動に駆り立てられていた。そう、何も無くてもいい。ただ、妻に秘密で電話の会話の内容を盗聴する。それだけで何ともいえない甘美な性的衝動をくすぐられた。「癖になっちゃう人多いのよ・・」店主の言葉が脳裏によぎった。
(俺は、おかしい、どうかしている)信二は行為が真人間として常軌を逸しつつあることを自覚していた。
(そう、俺は妻の浮気を確認したいんじゃない。妻の心の裏を覗きたいんだ)もう信二は自分の本心を隠せなかった。

翌日、信二は出社し、そしていつもにも増して仕事に精を出し。
そして深夜に帰社した。電話で「遅くなるから先に寝てていい」と妻に、あらかじめ信二は連絡していた。もちろんボイスレコーダーを聴く時、妻が起きているとまずいからだ。帰ってみると部屋中がシンとしていた。スっとふすまを開けると子供と一緒に妻が平和そうな顔をして寝ていた。(こりゃ、浮気なんかしそうにないな)とクスリと笑いながら、いそいそとイヤホンを付け、再生ボタンを押した。

「トルルルトルルル。はい高山です。」「あぁ佐和子?あたしだけど」「あ、お母さん?どうしたの急に」「お父さんの実家からリンゴ送って来たんだけど送るね、うちじゃ食べきれないから」・・・(佐和子の実家からだ・・)信二は何の変哲も無いこの会話ですらほのかに興奮していた。(変態だな俺)自分の股間が既に硬くなりつつあるのに気付き自分でおかしくなった。結局、その日は宅急便の不在通知と、息子の友達の親との世間話だけだった。何とも期待に反してのどかな会話だった。信二は安堵と失望の中途半端な気持ちのまま、寝床についた。(でも、それなりに楽しめたよな)結構満足していた。

結局、信二にのってそれが毎日の楽しみとなり、日課となった。全く何の変哲もない妻の会話を聞き続けて、早くも数ヶ月が過ぎようとしていた。その日は朝から強い雨が降り続けていた。いつもに増して忙しかった信二は一人会社に残り、残業をこなしていた。もう、夜中の二時を回っていた。表に出るとまだ雨は降り続いていた。

ザーザーと疲れた身体に鞭打つように降りしきる雨の中で信二はタクシーが通りがかるのを待った。遠くからタクシーらしき車を発見し手を上げて乗り込む。もはや日課となった盗聴も当初の興奮など全く薄れ、だたの行事と化していた。家に着き、寝静まった家の中で、冷め切った夕飯を温めなおしてからモグモグと不味そうに口を動かした。ただ漠然とボイスレコーダーを取り出し、イヤホンを装着する。
そして、再生ボタンを押した。

「トルルルトルルル・・。」「はい、高山です」「もしもし奥さんですか?」「え?」「僕です杉野です、覚えてらっしゃいますか?」「あ・・」「ちょうど近くまで来てるんですけど折角だから会って話でもしませんか?」
ザーザーと外の雨の音が静かな部屋の中にまで響いていた。

地面を叩き付ける雨音とともに屋根から雫がポタ・・ポタ・・と定期的にベランダの床を落ちた。その音に共鳴するかのように信二の心臓の鼓動も強くなった。
「どういうつもり?お願いだからもうかけて来ないで!」
佐和子の強い口調が耳に響く。
(おや?俺の思った展開と違うな・・)
信二の予想では佐和子は杉野の連絡を待ち焦がれているのだと思い込んでいた。が、本当に待ち焦がれていたのは自分自身であることを信二は気付いていなかった。


「いや、奥さん誤解です、僕はこの間の件で謝りたいと思っているんです」
と杉野が慌ててとりなす。
「謝る必要はないわ。あれは私もうかつだったから。お互い家庭があるんだから、この電話で最後にしましょう」
佐和子はすでに受話器を置きそうな勢いだ。信二は失望した。


「ちょ、待って!それではこっちの気が収まらない。あれ以来高山とも顔が合わせ辛いんです。切らないでください。切ったら直接伺いますよ」
杉野の口調は必死だった。
(いつも大らかなあいつが必死だな・・)
信二はニヤリと笑いながら本心では杉野を応援している自分に戸惑いを覚えた。
(俺は他の男に抱かれる佐和子を見たい・・いや、佐和子に俺への強い愛情があるなら強く拒否すべきだ!)
二人の自分がせめぎ合った。


「来ちゃ駄目!分かりました、こちらから伺いますから場所を教えてください」
佐和子はちょっと怯えた声を出した。それを杉野は察したのか
「いや、本当に誤解なんです。僕も家庭が有りますし、それを壊したいとは思っていません。ただもう一度会って、きちんと謝っておきたいんです」
と、とりなした。
「その気持ちがあるなら二度と連絡してくれない方が一番嬉しいんですけど・・」
と佐和子は不機嫌そうに言った。


(俺は嬉しくない・・)
信二はつれない佐和子の返事にむしろ失望していた。結局杉野は駅前の喫茶店を指名し佐和子と会うことにしたようだ。その後二人が情事に及んだかどうか、そこまではこの会話の中からは分からない。
(あ~!畜生!知りてぇなもう!)
信二は苛ついて頭をバリバリと掻き毟った。


信二は、そぅっとふすまを開け、子供と眠る妻の寝顔を覗き込んだ。最近佐和子は殆ど信二の部屋では寝ないで子供と寝ていた。まぁ、ほとんど深夜まで仕事が及ぶので信二も、その事は了承していた。
(俺が抱かない事で彼女は欲求不満になっているのか?他の男に抱かれてみたいと、ほんの少しでもお前は思っているのか?)
信二は平和そうに眠る佐和子の寝顔を見つめながら問った。暗い寝室を覗く信二の形相は背後から照らされる居間の蛍光灯の光で黒く影になり、目だけがギラギラと異様な光を放っていた。


その日佐和子は杉野の急な連絡で呼び出され、サンダルをつっかけると急いで指定先の喫茶店に向かった。
(どうしよう・・・何と言って断ろう。下手に突っぱねれば逆ギレして、この間の過ちを脅しのネタに使って私の体を要求してくるかもしれない)
佐和子は歩調を速めながらあれこれと思案した。が、実際に会ってみなければ対応のしようがない。佐和子は意を決して気持ちを引き締めた。
(そうよ、なめられてはいけない)


ビルの中二階に有るその喫茶店の名前を確認すると、すぅっと深く深呼吸して自動ドアの前に立った。中では杉野がスポーツ新聞を読んでいた。佐和子に気付くとスポーツマンらしい精悍な笑顔で手を上げて「やぁ」と言った。
(騙されてはいけない、この笑顔もきっと罠よ)
佐和子は、そう決め付け、キッと杉野を睨んだ。
「どういうご用件なのか、手短にお願いしたいんですけど」
佐和子はつっけんどんに言った。


「それに周りの人の目もありますし」
と佐和子が続ける。それを遮るように杉野は
「いやいや、そう構えられては話もできないよ。この間の事はお互いに忘れましょうよ」
と言ってとりなした。
「会わないのが一番忘れられると思うんですけど・・」
佐和子はぶっきらぼうに答えた。
「僕と高山は同期で気も合うし、仕事もお互い助け合ってるんです。それがこの間の件でどうも意識してしまってギクシャクしちゃってるんです」
杉野は頭を書きながら申し訳なさそうに言った。
「で?私にどうしろと?」
佐和子はまだ気を許さない表情で杉野を見た。


「僕は彼とは今後も仲良く付き合っていきたい。それには奥さんと僕がギクシャクしていたら駄目なんですよ。」
「だからその件は私にも間違いがあったと言ってるじゃないですか。」
「いや、だから今後は僕の家族と高山君家族同士で仲良く付き合っていければ、僕の中の罪悪感も消えると思うんです。そうすれば高山ともギクシャクせずに済む。」
「家族同士?」
佐和子は杉野の真意を測りかねて問い返した。

「そう、僕と妻は週末テニスクラブに通っているんですけ、どうですか? 奥さんも高山君誘って一緒に汗を流しませんか?」
杉野はやっと本題を切り出せた開放感でニコっと笑った。
「テ、テニスクラブ?」
杉野から手渡されたチラシを佐和子は見た。
(どうやら、私の体が目的じゃなかったみたいだわ・・)
佐和子は取り越し苦労だった自分を少し責めた。杉野は続けて
「そう、こう言っては何だけど高山は仕事ばっかりで不健康だと思うんですよ。たまには汗を流した方がいいんじゃないかなぁと思って」
と言った。


「あの人やるかしら・・」
佐和子はちょっと戸惑いながらもまんざらでもなかった。元々体を動かすのは嫌いじゃないし、むしろ率先的にやってみたい気持ちだ。
(杉野さんの奥さんと、信二さんも一緒なんだから過ちも起きそうにないし・・)
佐和子は杉野を信じて
「わかったわ、そういう事なら誘ってみる」
と笑顔で答えた。
「いやぁ、やっと笑ってくれた。奥さん笑顔が素敵だから笑ってくれると嬉しいなぁ」
と言って杉野も笑った。


(うん、やっぱり悪い人じゃないみたいだ。あれは本当に間違いだったんだわ)
佐和子は自分を納得させ、杉野にチラシを返した。ふと佐和子の指と杉野の指がふれた。ドキリとして杉野を見たが杉野は別に意識していないようで、上着のポケットの中にチラシをしまい込んでいる。血管の浮いたゴツゴツとした手とワイシャツからのぞくスポーツマン特有の筋張った腕が佐和子の脳裏に浴室で口に含んだ杉野のペニスがよぎった。慌ててそれを打ち消すように
「じゃ、子供置いてきてるからもう行くわね。主人から連絡させるから」
と言って別れた。
(やだもう・・何であんな事を)


佐和子は自分自身の奥底に潜む厭らしさに戸惑った。
(まだドキドキしてる・・)
自分が夫を持つ身であり、子供を育てる身でありながら一人の女であることを佐和子の体自体が示していた。それでもなお佐和子は
(大丈夫、きっと上手くやっていけるわ)
と楽天的に考えていた。翌日信二は、佐和子が起きる前に出勤した。(急用を思い出したから早くでかける)と書き置きを残しておいた。
その日信二は興奮してどうにも寝付けず、まんじりともせぬまま朝を迎えてしまった。表に出るとまだ人影もなく辺りはシンと静まり返っていた。自分の邪念を笑うかのような清々しい朝だ。
信二はその空気を深く吸うと意気揚々と会社に向かった。

朝6時。当然会社には誰も出勤していない。信二はたまった書類を整理しテキパキと仕事にとりかかった。(今日は早く仕事を引けよう・・)信二の頭の中には以前に行った調査器具の店が有った。
(今度は佐和子の居所まで把握しなくてはならない・・)それは完全に夫の浮気調査としての目的ではなく、自分の妻が同僚に抱かれる所を見たい!という切なる願望だった。

あの杉野との会話を聞いて、もはや信二は自我を抑制できなくなっていた。自分が言うのも何だか佐和子はいい女だ。実際に街で待ち合わせすると、今でも男に声をかけられたりする。妻がその事を嬉しそうに「あなた、今私ねナンパされちゃった」と自慢げに言うのを聞くと、ふつふつと嫉妬とは別の欲望が自分の中に渦巻くのを感じていた。
(そうだ、あれと同じだ) 信二は思い出していた。

信二は早々に仕事を片づけ、部長に「今日はちょっと急用が有るので」と許可を貰うと、いそいそと電気街へ向かった。そしてあの店の前へ着く。すると店主が自分を見てニヤっと笑った。信二はもうふてくされることもなく頭を掻きながら照れくさそうに笑った。
「ね、だから言ったでしょ?」
店主はちょっと誇らしげに言った。信二は
「はぁ、まぁ・・」
と曖昧な返事をした。
「ま、上へ上がって話しましょう」
と言って階段を上がった。そしてスタッフルームからパイプ椅子を二つ取り出し一つを信二に渡し座るよう促した。

「覗きたくなっちゃったんでしょ?奥さんが他の男に抱かれるの」
店主はのぞき込むように聞いた。
「はぁ、まぁそのつまり・・そうです・・」
信二はモジモジと照れくさそうに答えた。
「照れるこたぁないよ、ここに来る連中は皆そういう変態ばっかだから。かく言う俺も公園や港でアオカンする連中を盗撮するのが趣味だしね」
と言って信二の肩をポンポンと叩き慰めた。
「と、とにかく妻の居所を常に把握しておきたいんです。できれば声も確認できれば・・」
早速信二が本題を切り出す。
「場所はね、確認できるよ今そういう携帯電話出てるしね、パソコンにつないでそういうサービスしてくれる所が有るから。でも声は難しいなー。車の中でも部屋の中でもとにかく電源が取れないと電池やバッテリーじゃ限界があるからね」
と説明する。
「じゃ、場所だけで良いです」
と信二は答えた。

「うん、まぁ場所を突き止めたらやっぱ自分の目でのぞかにゃね」
と言って悟りきったようにウンウンと自分自身の言葉に頷いた。
「そういうものですか?」
と興味深そうに信二が問い返す。
「あったりまえだよ、想像してみな自分の奥さんが抱かれるのを直に見るんだよ?ま、その興奮を知ったらAVなんか一生見ないね」
信二はワクワクして武者震いをした。店主はパソコンと携帯を持ち出し
「これを奥さんに持たせるんだ、コレ自体が発信器として常にパソコンに情報を発信するから、ほらこっちのパソコンを見ると移動先の地図が詳細に分かる。ほら、ここうちの店でしょ?」
と言って信二を見た。信二は興味深そうに頷いた。

「これ本当は会社が営業に渡して素行を確かめる為に開発されたんだけどね」
と言って肩をすくめた。信二も肩をすくめて
「そりゃたまらないですね」
と言って笑った。妙な居心地の良い連帯感だった。

パソコンは今持っている旧型の物でも大丈夫だという事だったが、妻に経費をごまかす為に新しいパソコンを買ったという事にすることにした。いろいろとその他器具も合わせてしめて40万を越えた為、先に10万払って残りは月賦にした。その日帰宅すると、そわそわとカバンから携帯を取り出し、
「会社のが一つ余ったからお前使えよ」
と言って佐和子に手渡した。佐和子は
「えー?私あんまり使うことないわよ、もったいないんじゃないの?」
と言ってあまり乗り気じゃない。

「いいから、経費は会社持ちなんだから持ってろよ」
と言って強引に手渡した。佐和子はいぶかしげに信二と携帯を交互に見ていたがやがて
「うん、じゃ貰っておくわ」
と言って引き出しにしまった。
「それよりあなた、昨日杉野さんからね一緒にテニスやらない?って誘われたんだけど・・」
と佐和子がきりだした。
(おいおい、いきなり直球だな)
と信二は思いながら
「テニスぅ?杉野と二人でか」
と問い返した。
「何言ってるのよあちらの夫婦と、私達でよっ」
と言って佐和子が信二を睨む。

信二は食べかけていた夕飯をブ!と吹き出した。
(昨日のは、その誘いの電話だったのかー!・・期待して40万払った俺はどうするんだよ・・)
信二はパニックになっていた。
「あなた、仕事も良いけど運動もしないと駄目って杉野さんに言われちゃったわよ」
テニスを厭がってパニクっていると思い込んだ佐和子は脅迫的に信二に言った。
(余計なおせわだ!40万・・)

信二は頭をブルブル振った。するといきなり腕に痛みを感じ「いて!」と思って見ると佐和子が自分の腕をツネりながら
「私やるって決めちゃったから、いいわね?次の土曜日OKだって杉野さんに言っておいて」
と言って手を離した。
(な、何でこんな健康的な展開になってるんだ・・杉野め・・)
信二は杉野を呪った。

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