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悪魔の尻尾12

続いてパタパタとスリッパが床を叩く音がした。
「はい!お電話変わりました」
透き通るような声の杉野の妻の声がする。急激に高まる信二の鼓動・・・。ドクドクと高鳴り口から心臓が飛び出そうだ。信二は乾いた口を潤すように一度唾を飲み込んだ。
「あの・・・もしもし?」
間を不振に思ったのか妻由紀の声がする。
「あ!と・・・突然すいません。あの杉野君の同僚の高山と申しますが!」
慌てて返事を返す信二。落ち着け・・・落ち着け・・・。自分に言い聞かす。
「あ!あ~!。その説はどうも・・・主人がいつもお世話になっております」
やっと相手が誰だか分かり由紀の明るい声が返ってきた。それで信二も若干落ち着きを取り戻す。
「あの・・杉野君の事でちょっとご相談したい事が・・・」
信二はわざと含みを持たすように話を切り出した。
「あ・・あの、主人が会社で何か?」
由紀が心配そうな声を出す。
「いや、会社じゃないんですが・・・電話じゃちょっと・・・奥さん出てこれませんか?」
心持ち重い雰囲気で信二が言った。

「あ、あの?どういう事なんですか?」
由紀の声は明らかに不安を伴った声に変わる。
「いや、あのここではちょっと・・・2時半に○○駅の前で待ち合わせる事できませんか?」
ここで本題を言っては最終目的は果たせない。由紀に直に現場を見せた方がショックは大きいだろう。
「わ・・分かりました。二時半ですね?あのちょっとでも教えていただけません?」
不安そうな由紀は少しでも話の趣旨を知っておきたいようだ。
「僕にも関わる事なんで。すいません、会ってからにしてください」
信二はきっぱり断った。
「分かりました。必ず行きますので。それじゃぁ」
由紀は仕方なく納得する。

ガチャ!と切れ、不安そうな顔で由紀は娘の方を見ながら溜息をついた・・。何だろう?高山さんの口調では深刻な話のようだった。きっとあまり良い話ではないような気がする。それに高山さんにも関係するって・・・。でも会社には関係ない・・。よもや自分の夫と高山の妻が情事を重ねていようとは思いもよらない由紀にはさっぱり相談の内容が思いつかなかった。
「まま~!どうしたん~?」
と舞が怪訝そうな顔で覗き込む。
「ううん、何でもないのよ」
由紀は不安を悟られまいとわざとらしく笑顔を作り娘の頭を撫でた。

2時半に待ち合わせ場所に着くよう調査器具屋の店主に借りた遮光フィルムの貼られてある車で向かう信二。間もなく駅に着いた。腕時計で時間を確かめる信二。2時15分・・・。やはり気が急いているのだろうか?きっかりのつもりでも早く着いてしまった。車の中から駅周辺を見渡す信二。子供が走り回る中、一人だけスラリとした背格好の女が立っている。居た・・・!。ジーンズ姿の割とラフな格好だが黒髪をなびかせたその姿はやはり、周りの奥様方とは格の違いを感じざるを得ない。

信二は車を近くまで走らせると小さくクラクションを鳴らした。ハッとした表情で彼女がこちらを見ている。しかし美人だ・・・。この女を落とすのはちょっと荷が重いな・・・。まぁ彼女の苦悩する表情を拝めるだけでもよしとしよう。信二はウィンドウを降ろすと
「ど、どうも・・」
と小さく会釈した。由紀も軽く頭を下げる。
「とりあえす乗ってください」
同乗するよう促す信二。由紀は黙ってドアを開け助手席に乗り込んだ。信二はどうやって話を切り出したらいいか分からすとりあえず車を走らせる。待ちきれなくなった由紀は
「あの・・・どういう話なんでしょうか?」
黒く潤んだような大きな瞳で不安そうに信二を見つめた。そのあまりの美貌に信二が次の言葉が中々出てこない。
くそ!・・・。なんか言え何か・・・。
「あ・・・えっと、とりあえず現場に行ってから話しましょう」
「現場?・・・あの、主人の話なんですよね?」
待ちきれないという感じで由紀が信二に詰め寄る。

「すいません。僕も混乱していてどう説明していいか分からないんです」
由紀の目を見ているとあがってしまうので信二は前を見つめながら言った。
「混乱って・・・あの・・主人が高山さんにご迷惑を?」
だーかーらー現場に行ってから言ってるだろ?と内心思うがもちろん言えない。由紀はもじもじと膝の上を手でさすりながら落ち着かない。信二が喋りそうもないので仕方なく外を見る。行き交う車の往来を見つめながらどうか大した話ではありませんようにと祈るような気持ちだ。信号待ちをしていると散歩中の犬が暢気に道端で糞をしようとしている。慌てて主人がビニールとシャベルを取り出した。思わずくすっと由紀が笑った。
「杉野君の浮気の話なんです・・・」
気持ちが和んだ刹那にいきなり切り出され
「はぁ?」
ととぼけた声を由紀があげた。

「杉野君の浮気の話です」
全く同じ言葉を返す信二。
「う・・浮気?主人が?あの・・えっと・・・えぇ?」
想定外の方向からパンチが飛んできて面食らう由紀。物静かで感情的な動揺を見せなかった由紀の横顔が明らかに戸惑いの表情を浮かべている。眉間にしわを寄せながら何とか理性を取り戻そうとしている由紀の美貌を見て信二は満足そうな表情を浮かべた。
「え、でも何で高山さんがその事をご存知なんですか?証拠はあるんですか?単なる思い過ごしじゃ・・・」
大人しい杉野の妻も動揺すると饒舌になるようだ。矢継ぎ早に質問を浴びせかける由紀の素行を内心信二は得意な気持ちだった。
「相手は僕の妻なんですよ・・・」
わざとらしく深刻な表情で告白する信二。
「・・・・・・」
さすがの由紀も思わず絶句してしまう。

パタンと背もたれに倒れると放心したように前を見つめたまま動かなくなった。
「とりあえず現場を突き止めたので奥さんと相談しようかと・・・すいません」
やっと自分が上位に立てたような気持ちになり信二の口調が滑らかになりだした。
「いえ・・」
そう言ったきり由紀は車の揺れにまかせたまま放心している。その眼差しに見覚えのある歓楽街が目に入った。由紀が夫とテニスの帰りによく寄った街だった。ここで買い物をして帰る事がよくあった。
そうか・・・テニスの時なのね・・・。
どうやら信二が言っている事は本当かもしれないという絶望的観測が由紀を重たく覆った。歓楽街を抜けるとこれまた見覚えのあるラブホテル街が目に入った。
そう、夫と付き合いだした頃はよくここのホテルをよく使ったっけ・・・。
何だかまだ本人の浮気を目の当たりにしたわけでもないのに悲しい気持ちになり思わず涙ぐむ由紀。

その手を信二がぎゅっと握りしめる。ハッとして由紀は信二の方を見つめた。
「分かりますよ・・・その気持ち・・・」
信二は前を向いたまま無機質な声で言った。
そうか・・・高山さんも裏切られたのよね・・・可哀想に・・。
作為的な仕掛けとも知らず信二の策略を妄信し由紀はその白く細い手を夫の同僚に任せた。いけるかもしれない・・・信二は厭らしい気持ちを隠しつつ美しい人妻の手をさすり味わった。あくまで表情は深刻さを崩さず。信二は目的のホテルの少し手前で車を止めると二人が現れるのを待った。
見たくない!でも見なければいけない!
待つ間、由紀の二つの気持ちが鬩ぎ合う。

少し早めに到着した信二と由紀はお互いの妻と夫が現れるのを暫く待った。白昼でもまばらにカップルが大して恥らう事も無くホテルに消えていく様を漠然と眺めている信二。
「意外とこんな時間でも使う人いるんですねぇ」
と呆れるように信二は言った。
「はぁ・・・」
由紀はうつむき加減で生返事をする。
「あの・・・」
何か言いたそうに由紀は信二を見た。
「何ですか?」
信二も由紀の方を見る・・・。
「あの、私もう大丈夫ですから・・・あの、手ぇもういいですから・・」
由紀がばつが悪そうに自分の手を握り続ける信二の手を押し戻した。
「あ!す、すいません・・・俺そんなつもりじゃ・・・」
実は下心ありありだが、わざと恐縮して見せる。
「分かってます」
静かな声で由紀は小さく微笑んだ。

前方から見覚えのある女の姿が信二の目に入る。長年連れ添った相方だ。遠目からでもすぐ分かった。さすがに日の落ちる前こういう所に来るのは気が咎めるのか佐和子は心持ち顔を伏せながら歩き、時折あたりを気にしているようだ。由紀は佐和子とは面識がなく、車の前を通り過ぎても気付かない。
「妻です」
信二は顎で今通り過ぎた女を指した。由紀は、ハッとしてその女を見ている。
「綺麗な奥様ですね・・・」
「こんな時にお世辞言うの変ですよ」
思わず吹き出す信二。
「それもそうですね」
由紀も肩をすくめて笑う。悲しい笑顔だ。
「あ!・・・」
由紀の動きが固まる。信二がその視線の先を追うとどうやら杉野らしき男がこちらに歩いて来る・・・。佐和子の方に小さく手を上げ挨拶すると佐和子もそれに応え手を上げた。決定的瞬間だ。硬直した由紀は身じろぎもせずホテルに消えていく二人を見送っている。小刻みに体が震えているようにも見えた。

本当に心配になった信二は
「奥さん大丈夫ですか?落ち着いて・・・」
そう言ってなだめるように肩を叩く。
「え・・・えぇ、大丈夫です・・・でも、これからどうしましょう?・・・」
途方に暮れた由紀は潤んだ瞳で信二を見つめた。濡れた瞳と艶っぽい唇に思わず抱き寄せたくなる衝動を抑え、信二は
「さ、僕達も入りましょう」
そう言うとホテルの駐車場に車で乗り込んだ。
「中に入ってどうすんですか?部屋に乗り込むんですか?」
由紀は心配そうな顔で信二の袖を引っ張った。
「まさか、離婚するにしても何にしても証拠は必要でしょ?その為の準備をしたんで奥さんを呼んだんですよ。さ、降りて」
言うと先に車を降りる信二。
「離婚?離婚するつもりなんですか?私まだそんな・・・」
この期に及んでまだ杉野への愛情を捨てきれないのか由紀は信二の後を追いながら食い下がる。

「復縁するにしても本音を知らないと話にならないでしょ?」
そう言いながら信二は
「予約してある高山です」
とフロントのおばちゃんに告げる。おばちゃんは、あぁ、という表情をして部屋のキーを手渡した。エレベーターに乗り込むと落ち着かない表情の由紀の横顔をちらっと覗き込む信二。気弱になった美女ほど魅力的なものは無い。信二は何としてでもこの女をモノにしたいという欲望に駆られた。やがて目的の階に着くと部屋のキーを開ける。そこには盗撮用モニターが3台でんと構えて設置してあった。凄いな・・・あのオヤジ・・・。自ら望みながら半ば呆れ気味にセッティングされた覗き部屋を信二は見回した。

コメント

やっぱおもしれ~~っ!それにしても信二ってダメダメだよね。

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