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アミア

 男がいた、男は歴戦を勝ち抜く猛者であった。
 男の国では数年前、世界が注目するほど巨大な戦争が終わりを遂げた。
 男は敗者だった、しかし死ななかった、いや死ねなかった。
「アミア・・・」
 男が気が付くとその名を呟いていた、生きているのかも分からない恋人の名を。

 青年がいた、青年は腕のある商人であり、街でも顔の知れた気のいい人間だった。
 青年は去年奴隷を買った、当時はその気ではなかったが友人の強引な進めと
奴隷として売られていた少女の一人に目を奪われたからだ。
 青年は奴隷の少女をまるで客人のように扱い愛でた。
「おいで、アミア」

 少女がいた、少女には将来を約束した男がいた、その男は国でも勇者と言われる
ほどの猛者で少女にとって男を支えることが生き甲斐であった。
 しかし戦争という壁が二人を別った、そして自国は敗れたこと知った、男が
死んだという知らせを薄暗い牢屋の中で聞いた、少女は泣いて泣いて
泣きはらした、少女は全てを諦め、奴隷として生きることすら受け入れた。
 少女を買ったのは優しそうな青年であった。


 少女の想像は裏切られた、人以下として扱われ、毎晩好きでもない男に抱かれる
と思っていた、いやそれが普通だった、しかし少女を買った青年は家に着くと
少女に広い部屋と綺麗な服と暖かいスープ与えた。
「どうして・・・ですか?」
 少女の問いに青年は照れたように笑いながら「僕は変わり者なのさ」と言った。
 二人が深い仲になるのにそれほど時間はかからなかった。

 男は驚きで固まっていた、目の前にもう会えないと諦めていた愛しい恋人がいたのだ。
 男が固まっていた理由はそれだけではない、恋人の側には見たこともない青年
がいた、そして恋人には奴隷の紋が付いていた、男は全てを悟り、そして勢いよく走り出した。
「キサマァァァアア、よくもアミアをぉぉおお!!」

 一瞬の出来事に女性が悲鳴を挙げるまでみんな呆然としていた。
「な・・なんで・・」
 男の行動はうまくいった、目の前には血まみれの青年がいた。
 少女の行動はうまくいかなかった、少女は危機を悟り我が主人の盾になろうとした。
 青年の行動はうまくいった、自分の盾になろうとした少女の盾になった。



 その場にいた人間がみんな思った「奴隷を身を呈して守る主人はいない」そのはずだと。
「いや・・・いや・・・マルコ様・・なんで・・」
「だか・・ら・・言ったろ・・僕は・・変わり・・もの・・だっ・・・て・・」

 男には少女が泣いている理由が分からなかった。
「アミア、俺だ!ルーダスだ!」
「・・・いや・・・・・いや・・・」
 少女には男の声は届いていないようだった。
「アミア!!」
「・・・・・ルー・・ダス?」
「そうだ!俺だ!」
 やっと反応を返してきた少女に男は喜んだ、しかし。
「なんで・・・なんで・・あなたが・・・」
「お前を自由にしてやったんだ!一緒に逃げよう!?」
「・・いや・・・いや・・・」
 少女は青年に護身用にと小振りのナイフを持たされていた。
 少女の目には男の姿は映っていなかった、血まみれで息絶えている我が主人のみを見据えていた。
「ルーダス・・・・また会えて・・嬉しいわ・・・でも、・・・・さようなら」
「アミッ・・」
 少女は護身用のナイフを胸元へと突き刺した、その顔は悲しそうであり嬉しそうだった。

 その日から勇者と呼ばれていた男は魔獣と呼ばれるようになった。

 そしてその日死んだ人間が三人だったと知る者は少ない。

 end

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