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変わる関係、移ろう日々 ~4~

 宗治が家に帰ってぼんやりとしていたら、いつの間にか夕食になり、そして風呂に入った。
 心の中にあるもやは晴れず、ベッドに横になる。
『…好きなんだ。セーくんのこと』
『手編みのマフラーをさ、セーくんにプレゼントしようと思ってるんだ。その時に告白しようと思ってる』
 操の台詞が頭の中で繰り返し再生される。
 マフラーは後どれくらいで完成するのだろう。
 だいぶできていたような気がするが宗治には編み物のことなど分からない。
 マフラーが完成したら二人は恋人となるのだろう。
 恋人となった二人は幼い日に見た、父と義母のような行為をするのだろうか。
 そのことを思い出しても胸が痛む。
 愛していると囁き合うのだろうか。
 操は成一のものになってしまうのだろうか。
 考えれば考えるほどに苦しい。
「もう、寝よう…」
 

「ん…」
 目が覚める。
 今は何時だろう。
 宗治は時計を見る。
「2時か…」
 夜中に起きてしまったようだった。
 再び眠りに就こうとしても意識が冴えてしまい、それも叶わない。
「のど、渇いたな…」
 もう家族は寝ているだろうから、宗治はなるべく音を立てずに部屋を出た。
 こんな時間だというのに操の部屋にはまだ明かりがついていた。
(明かりつけたまま寝ちゃったのかな…?)
 宗治も何回かそんなことがあったのでそう思った。
(電気消しておくか…)
 寝ているであろう操を起こさないようにそっとドアに手を掛ける。
(あれ…?)
 中から何か声が聞こえる。
 聞き耳を立てる。
「んっ………っ……あっ……」
(これって…)
 操の声だ。

 操の部屋で操の声が聞こえる。
 当たり前のことである。
 それでも、この声は…
 音を立てないように宗治はそっとドアを開ける。
 操がベッドで仰向けになっていた。
 それだけならどうということはなかった。
 しかし、パジャマの前ははだけており、微かな膨らみとその頂きにある桜色の乳首が見える。
(あっ…)
 はだけられたパジャマに宗治はどきりとする。
 よく見えないがそのことが逆に想像力をかき立てる。
 そして、操は両手を胸元に持ってきて愛撫していた。
「あっ………あっ………んっ………ふぅ……」
 押さえた声だったが、操の興奮した様子がはっきりと伝わってくる。
 紅潮した顔に浮かんだ表情を見て、宗治はショックを覚える。
(ミサオ…あんな顔…するんだ)
 宗治が知っているどこか溌剌とした雰囲気の操とは違った。
 先日、成一への想いを語っていた少女の顔とも違う。
 それは欲情した女の顔だった。
 操ははぁはぁと荒い息遣いの中で自らの行為に没頭する。
「んっ……あっ………ああっ………ふっ………」
 うっとりとした顔で行為を続けるその表情は、操のものとは信じがたいものだった。
 それでもそんな操を見つめているうちに自らの股間も熱くなっていることに宗治は気づく。
 宗治は魅入られたように操を見つめ続ける。
「あっ………はぁっ………はっ………ん……」
 やがて、右手を胸元から離して、ショーツの中に持っていく。
 左手は相変わらず自分の胸元にとどめ置き、愛撫を続けている。
 操は宗治には気づいた様子もなく、いやらしい手つきで自らの女性の部分を慰め続ける。
 そして、次の操の言葉が宗治のショックをさらに深いものとする。
「んんっ………ぁっ……セーくんっ…………ぁあっ……はぁっ……もっと……やっ、あっ…」
(セー…くん…?)
 ここで出てくるのだから当然成一のことを言っているのだろう。
 操は成一のことを考えながらこんなことをしていたのか。
 操の想像の中の成一は操に何をしているのだろう。
 想像の中の成一に操は犯されているのだろうか。
 そして操はそんな想像をしながら、淫らな表情を浮かべているのだろうか。
 驚きと悲しみ、苦しみなどの感情が宗治を襲う。
「はぁ…ん………あっ…セー、くんっ…………あっ……んっ……あぁぁぁああぁ…」
 切ない声を上げてビクンビクンと操は体を震わせた後、ぐったりとする。
 部屋の中には操の微かなはぁはぁという荒い息遣いだけが残る。
(あれが…イくっていうのかな)
 操がイく所を見ることになるとは思いもしなかった。

 しかもただ、イクのではなく、宗治以外の男のことを想って。
 部屋の中ではいやらしい操の息遣いに満たされていた。
(こんなの…これ以上見てちゃだめだ)
 思春期の好奇心に捕らわれて覗いてしまったが、本来はしてはならないことだ。
 宗治は混乱していた思考を何とか纏めて去ろうとした、が。
 ぎぃ。
 焦って宗治はドアに手を触れてしまった。
(まずい!)
 そう思った時にはすでに遅くぼんやりとしていた操の瞳に焦点が戻り、焦った表情でドアを見つめる。
「えっ、誰!?」
 操の驚いたような焦ったような声。
 宗治は観念して顔を出す。
「その…ミサオ…ごめん」
 宗治の顔を確認すると先ほどと怒りか羞恥によるものか操が顔を真っ赤にする。
「――――――!」
 口をパクパクさせる操。
 奇妙なその表情も今の宗治には全く笑えない。
 宗治は自分は操にどんな表情をみせているのだろうか、とぼんやりと思った。
「本当に……ウグッ!」
 宗治が再び口にしようとした謝罪の言葉は発せられることはなかった。
 操が普段その役を果たすことのない目覚まし時計を思い切り宗治の腹部に投げたからだ。
 痛みに息がつまり、視界が一瞬閉ざされる。
「変態!チカン!覗き!スケベ!バカハル!」
 両親を起こさないためか声を抑えながらも口にできるかぎりの雑言を宗治に投げかける。
 そして、カバンや教科書などを手当たり次第に投げていく。
「こ、この…もうボクの部屋に入んな、バカ!」
 最後に枕と共に投げ掛けられた言葉に背を向けて宗治は自室に戻って行った。


 なんてことだろう。
 操に間違いなく嫌われた。
 今まで宗治は操と喧嘩したことは何度もあった。
 その度に「部屋に入るな!」と言われた。
 これまでは仲直りすることができたが、今回は仲直りする自信が全くない。
「ミサオ…ごめん…」
 まず謝らなければならないが、どうやって謝れというのだろうか。
 失恋のショックもまだ癒えていない中で宗治は途方にくれてしまった。

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