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変わる関係、移ろう日々 ~5~

「ミサオ…」
 部屋に戻ってからも宗治は先ほどの操の言葉とその時の表情が頭の中で何度も繰り返されていた。
『…好きなんだ。セーくんのこと』
『こ、この…もうボクの部屋に入んな、バカ!』
 無力感と焦燥感。
 こんな思いをしたのはいつ以来だろうか。
 宗治の心に浮かぶのは幼い日の思い出――
 まだ、宗治が操と家族ではなかった頃。
『ミサオちゃん、あーそーぼ!』
 操のことを「ミサオちゃん」と呼んでいた。
 インターホンを押して、操の家のインターホンを押して操を呼ぶ宗治。
 扉が開き、操が出てくる。
『こんにちは、ハルくん!』
『ミサオちゃん、今日は何して遊ぶ?』
『あのね、ミサオのママがね、クッキー焼いたの!』 
 元気良く答える操。
『そうなの?』
『うん、とってもおいしいんだよ!ハルくんも食べる?』
 宗治にとっては悪くない提案だった。
 クッキーも魅力的だったが、それよりも――
『いいの?』
『いいよ!お家入ろ?』
 操と共に二人で家に入る。
『おじゃまします』
 挨拶をして入る宗治。
 そして、二人で台所に向かう。
 そこには操の母親の北河洋子(きたがわようこ)がいた。
 艶やかな長い黒髪に、子供がいるとは思えないスタイルの良さを持っていた。
 宗治にとっては憧れの女性だ。
『ママ、クッキー頂戴!』
 操の声に洋子がふり返る。
 にっこりと微笑んで宗治に挨拶をする。
『いらっしゃい、ハルくん』
『えっ、えっと…こんにちは、ミサオちゃんのお母さん』

 口ごもりながら何とか挨拶を返す宗治。
 彼女の前だとドキドキしてしまう。
(ミサオちゃんも女の人なのに、どうしてドキドキするんだろう?)
『クッキーを焼いたのだけど、ハルくんは食べる?』
『は、はい』
 こんな綺麗な人と一緒にいると思うだけで宗治は幸せな気分になる。
『ミサオにも頂戴ね、ママ!』
『ふふ、ミサオはさっき食べたでしょ』
『ハルくんも食べるんだから、ミサオも食べなきゃ不公平だよ!』
 洋子の言葉に操が頬を膨らませて抗議する。
『はいはい、わかったわ』
 苦笑しながら洋子は宗治と操のクッキーを用意する。
 宗治と操は椅子に座って待つ。
『はい、クッキーですよ』
 台所から洋子がクッキーを二人のクッキーを運んでくる。
『ありがとうございます』
『いっただきまーす』
 ミサオはさっさと食べ始めたので、宗治も操に倣うことにする。
 クッキーを手に取り食べてみる。
 ほのかな甘さとできたての温かさが口の中に広がる。
 幸せなひと時を堪能する。
『おいしい、ハルくん?』
 宗治は洋子と話しかけてきたので胸がドキドキした。
『おいしい、です』
『そう、良かった。おいしく食べてくれる人がいると作りがいがあるわ』
 嬉しそうに微笑む洋子。
 宗治も洋子の笑顔が見られて幸せだった。
『ミサオもママのお料理好きだよ!』
 宗治に母親を取られたと思ったのか、操がそんなことを言う。
『そうね、ミサちゃんがおいしく食べてくれるからママ幸せよ』
 クッキーを食べながら宗治は幸福感に浸っていた。

『それでね、ミサオちゃんのお母さんのクッキーとってもおいしかったんだ!』
 宗治は家に帰ってから、夕食の時父の健吾に操の家での話をした。
 宗治の母は宗治が生まれてすぐに亡くなっていたから、父と二人で過ごしていた。
『そうか、宗治はミサオちゃんのこと好きか?』
 息子の話を聞いていた健吾がそんなことを聞いてきた。
『…?うん、ミサオちゃんもミサオちゃんのお母さんも大好きだよ』
 質問の意図が良くわからずにそう答える。

 どちらかというと『ミサオちゃんのお母さん』の方が好きなのだが。
 しかし、その答えに父はなぜか満足そうな表情を浮かべた。
『そうか、それは良かった』
 何が良かったのか宗治にはさっぱり分からなかったが、父が良かったというのならまあ何かが良いのだろう。
 とりあえず頷いておく。
 そこで、その話が終わったので父の態度の意味は分からないままだった。

 その日は天気の良い休日だった。
『ハルくん、今日は何しよっか?』
 とりあえず公園に来た宗治と操は何をしようか考えていた
『えっとね、バドミントン買ったからそれで遊ぼ』
 父に買ってもらって少ししただけだが、折角買ってもらったのだからと思ってそう言った。
『バドミントン?面白い?』
『う~ん、とりあえず持ってくるね』
 そう言って宗治は操を公園に待たせて自分の家にラケットとシャトルを取りに戻った。
 宗治の家はマンションの一回だったので、ベランダからそのまま家に入った。
『え~と』
 バドミントンを手に持った宗治だったが何やら物音が聞こえることに気づいた。
 気のせいかと思ったが、寝室の方から何か聞こえる。
 泥棒だろうか?
 沸き起こる好奇心に従い、宗治は足音を殺して寝室へ向かう。
『ん………あっ……』
 変な声が聞こえてくる。
 寝室は微かに開いていたので、隙間から見つめる。
 そこには裸になった父と操の母がいた。
 そして、なぜか父は操の母に覆いかぶさって体を動かしていた。
『ああん……んっ……いいっ…健吾っ』
 操の母親のそんな声を聞くのは初めてだった。
 穏やかで優しいいつもの彼女とは異なり、全く別人のようだった。
 宗治には全く意味のわからない行為だったが、操の母の淫らな表情は子供心に見てはいけないことなんだと思わせるものだった。
 そう思いながらも宗治は目を離せない。
『やっ…あん……いいっ……ん…あっ……そこ……もっと…』
『洋子…ここがいいのか?』
 意地悪い父の声。
 宗治にはわけが分からない。
 操の母は何だか嬉しそうなのに、なぜ父は意地悪をするのだろう?
 宗治の疑問など知るはずもなく、二人の行為は続く。
『ああん…そう……もっとしてぇ』
 甘えたような声を出す操の母。
 父が体の動きをゆっくりと止めていく。

『どうしたの?健吾』
『俺のが欲しいって言ってみろよ、洋子』
 父の声がやはりいつもと違う。
 いつも頼もしいと思っていた父と全く違う。
 二人のいつもと異なる様子に不安と恐怖が押し寄せる。
 父が操の母の豊かな乳房を揉む。
『あん…もう、健吾の意地悪…』
『欲しくないのか?』
 ククッと笑う健吾。
『健……の、ちょ……い』
 恥ずかしがっているのか小声だった。
 操の母の声は小声で聞き取りづらかった。
『どうした、きこえないぞ、洋子』
『健吾の、頂戴』
 先ほどよりは聞き取りやすい声だった。
 健吾には操の母が何が欲しいのかさっぱりわからなかった。
『ほら、何が欲しいのか言わないとわからないだろ』
 健吾の言葉に宗治は今までとは別の意味でどきりとした。
 宗治がこっそり見ていたことに気づいたのかと思ったのだ。
 しかし、二人ともこちらに気づいた様子はない。
 やがて、操の母が意を決した様子で口を開く。
『健吾のオチンチン、頂戴…』
 はっきりとした口調で宗治にも聞き取れた。
(何でオチンチンが欲しいの?)
『よく言えたな、ご褒美だ』
 父がそう言った後、再び体を動かす。
 操の母が再び喘ぎ声を洩らす。
『やあっ……やん……もっと、もっと…あん』
『俺の可愛い、息子はどうだ?』
『あっ…いいっ……健吾さんの……ああん……やっ…』
 操の母親もやがて体を動かしていく。
『もっと……健吾…いいっ……あん……もっ…駄目……イきそう…』
『俺も、イきそうだ、洋子!』
 健吾はどうすれば良いのかわからずラケットを抱きしめていた。
(お父さんとミサオちゃんのお母さん、どうしちゃったの?)
『あっ……やぅっ……あぅっ……あ・あ・あ』
『くっ…洋子…』
『あっ…あー、あぁぁああああぁぁああぁあ!』
 その喘ぎ声を合図に二人の動きが止まる。
(終わったの?)
 何があったのか分からないが、これでいつもの二人に戻ってくれるのだろうか?
『もう、あんなに激しくして…
周りに声が漏れたらどうするの…健吾』

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