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変わる関係、移ろう日々 ~7~

 学校では宗治と操はクラスが異なるので、教室のでは顔を合わせることはなく気まずい思いをすることはなかった。
 上の空で授業を聞いていたが、宗治にはどうすれば良いかはわからなかった。

「はぁ…」
 宗治は水泳部員のたまり場になっている更衣室へ向かう。
 更衣室の中から話し声が聞こえてくる。
「やっぱ、川島先輩が一番だろ」
「だよな」
 何の話をしているのだろう。
「何の話をしてるのさ?」
 更衣室に入ってすぐに宗治はそう口を開いた。
 そこにはすでに数人いて、成一も入っていた。
「ああ、ハルか。うちの女子部員でだれが一番か話してるんだよ」
 同じ学年の水島が答える。
「川島先輩ってそんなに速かったっけ?」
 泳ぎが遅いわけではないが、中の上といったころだろう。 
 先輩部員のことを思い浮かべながら宗治は応じた。
「違う違う。女としてどの部員がいいか話してるんだよ」

 女として。
 即座に自慰をしていた操の淫らな顔が思い浮かぶ。
 それを振り払った後、川島先輩の顔を宗治は重い浮かべる。
 確かに綺麗な顔立ちだった。
「そういや女の方の浦林はどうよ?」
 操の話題が出てきたことに宗治はどきりとした。
「あれはなぁ、水着姿でも、胸ないのがわかるだけだしな」
 水島がそう批評する。
 確かに操の胸は他の女子と比べると薄いかもしれない。
 それでも宗治には女性を感じさせるのだが。
「確かに」
 他の男子達は、はははと笑う。
「男の浦林は兄貴だからが論外だけど、坂上はいつも浦林兄妹と登校してるけど、どう思ってるんだ」
「えっ…俺?」
 話を振られて成一が困惑したような顔を浮かべる。
 成一から操への想いを聞かされている宗治としては面白くもなんともない話だ。
「いっつも一緒に登校してる幼馴染だろ?どう思ってるんだ?」
「俺は…」
 困惑した表情を浮かべる成一。
「は~ん、好きなんだな?」
 面白そうな表情を浮かべる水島。
 成一は宗治にとっては意外な言葉を口にした。
「馬鹿ヤロ、あんな男女好きな訳ねぇだろ」
(えっ?)
 以前宗治が聞いた台詞とは全く異なるものだった。
「だって一緒に学校行ってんだろ?」
 水島が追及する。
「あれは…ハルがいつも一緒に学校行ってるから、仕方なくだな…大体あんな口うるさい奴なんて…」
 操は真面目な所があるから、口うるさいと言えるかもしれない。
 しかし、成一がそんなことを言うとは思わなかった。
「ふ~ん…ま、確かに口うらせぇとこあるよな、この前の掃除のときもそうだったし。
ハルもちゃんと妹のことしつけとけよ」
 水島が矛先を宗治に向ける。
「ミサオは間違ったことは言ってないと思うけどね。それに可愛いじゃないか」

(それに、あんなHな顔もするし)
 操をフォローしようとして言ったが余計だった。
「ハルはシスコンかよ!そんなんじゃ彼女できねぇぞ」
 そう茶化されて、他の部員に笑われてしまった。
 

 帰り道。
「なんでミサオのことあんな風に言ったんだよ」
 思わずなじるように宗治は言ってしまう。
 気まずそうに成一が答える。
「だって…な、恥ずかしいじゃんか…」
「恥ずかしい?」
 そう言えばやたら「だれにも言うな」と念押しされていた。
「あんまり人のいる所で、その、好きとかって言うのはなあ…
ハルはまあ、別にそんなことでからかったりしないのは分かってるしな。
ハルだって、ミサオのこと可愛いっていったら他の奴にシスコン呼ばわりされただろ?」
 そんなことを言う成一に宗治は腹を立てた。
 どうして操はこんなことを言う奴が好きなのだろう。
 いささか理不尽な不満を抱く。
「だからって…」
「ところで、ハルはミサオとけんかしたんだろ?」
 言い募ろうとする宗治を成一の言葉が遮る。
 痛いところを突かれた宗治は言葉を続けることができない。
「ミサオと二人っきりで歩けたってのは良かったよ。サンキューお兄さん」
 成一が軽口を叩く。
 その軽口が宗治の神経を逆なでする。
「だれがお兄さんだよ」
「まあ、ミサオが不機嫌だったからあんまり楽しくなかったけどさ。早く仲直りしろよ?」
 最後の台詞には真摯な思いが込められていた。
 宗治としては頷くしかなかった。
「しっかし、ミサオの着替えてるところ勝手に入って行ったんだって?」
 操は成一にはそのように話しているようだ。
 確かに「オナニーしているところを見られた」というのは言えないだろう。
「あれは、僕が悪かったよ」
 ぼんやりと突っ立ってないでさっさと去るべきだったのだ。
 後からはそう言えるが、あの時の宗治は動くことができなかったのだ。
「でさ、ミサオの裸ってどうだった?」
 興味津々な様子で成一が問いかける。
「オトコオンナには興味ないんだろ?」
 精一杯の嫌味を込めて言った。
「あれは俺が悪かったよ…なっ、どうだった?」

「裸は見てないよ」
 宗治からすれば裸以上のものを見てしまったのだがそれを言うわけにはいかない。
「本当に?」
「本当に」
 本当のことを言うわけにも行かずに宗治はそれだけ言った。
「つまんねー」
 成一は不満そうな様子だったが宗治は構わないことにした。
 突然、成一が真剣な表情になる。
「ミサオのこと、どうすれば良いと思う、ハル?」
(告白すれば即OKもらえるよ、どうして本人に言わないんだよ)
 宗治にしてみれば成功がわかっていることを焦らしているいるように思えてしまう。
 そう思ったが宗治は言わなかった。
「さあね」
 代わりに宗治はそう言った。
「じゃ、また明日」
「おう、ミサオと仲直りしろよ。後、マンガ貸してくれよ今度」
 貸してくれ、と言っても勝手に宗治の部屋に上がりこむことが多々ある。
 そのことに関しては宗治も成一の部屋にあがりこんでいることがあるのでお互い様だが。
 とりあえず宗治はそれに頷く。
 平穏だった日々があっという間に壊れてしまった。
 様々な問題があるが、何よりも解決しなければならないのは先日のこと。
 思い出すと宗治の中で熱くなる部分があるが、必死にその熱から気を逸らそうとする。
 一体自分はどうすればいいのか。
 宗治は考え続けたが打開策は思い浮かばなかった。
(まずは、謝るしか…ないよな)
 結局、それだけしか思い浮かばないまま家に着く。
 それでも、宗治はしばらく家に入るのが躊躇われた。
 父は会社にいるし、母はパート先にいる。
 操が友達を連れてこなければ、今は家に操しかいないはずだ。
 どんな顔をすれば良いかわからず、しばらく近所をぶらぶらして時間をつぶした。
 30分くらい時間をつぶしただろうか。
(…帰らなくちゃな)
 いつまでもぶらぶらしていても寒いだけなので家の前まで向かう。
 宗治は操一人しかいないだろう家の扉を開けた。
(鍵は、開いてるな…やっぱりミサオは家にいるのか…)
 ひょっとしたら出かけているのではないかいうと思いも崩れる。
 顔を合わせるのがつらい。
「ただいま」
 部屋にいる操には聞こえない程度の小さな声を出して宗治は家に入った。

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