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変わる関係、移ろう日々 ~8~

 家の中はいつもより静かで冷たいように宗治には思えた。
 宗治は自分の部屋に入り、着替えを済ますとミサオの部屋の前に立つ。
 心を落ちつけるために深呼吸をする。
(ちゃんと、謝らないと)
 ドアある「ミサオの部屋 まずはノックして!」というプレートに従いてノックをする。
「ミサオ、その…昨日のことは、ごめん」
 返事がない。
「どうしても、僕…謝りたいんだ」
 それでも反応はなかった。
(やっぱり、怒るよな…)
「あのさ…入って、いい?」
 無言のまま数秒待つ。
 返事がないので仕方なく宗治は操の部屋に入る。
 部屋には枕に顔を押し付け嗚咽を漏らしている操がいた。
 カバンは投げっぱなしで、教科書が散乱していおり、操は制服を着たままであった。
 操が編んでいたマフラーは引き裂かれていた。
「う……うう…」
「ミサオ…?」
 顔をあげた操の瞳は赤く涙の跡が残っていた。
「入んな…馬鹿…」
「どうしたのさ、ミサオ?」
 宗治は慌てて駆け寄る。
 操は宗治を手ではねのけ様とするが力が入っておらず、宗治に手を掴まれる。
「ねえ、昨日のことは本当にごめん、だから…泣かないでよミサオ。ごめん」
「違う」
 宗治の謝罪を遮る操。
「違う?」
「そうじゃない……ボク……セーくんに、嫌われてたんだ…」
 その言葉に宗治は最初操が何を言っているのか分からなかった。
 だが、すぐにぴんときた。
『馬鹿ヤロ、あんな男女好きな訳ねぇだろ』
(坂上のあの言葉、聞いてたのか)
「ミサオ…聞いてたの…?」
「…うん…うっ、うう…」

 宗治の問いに嗚咽を漏らしながら操が頷く。
 宗治は操をどうしたら良いか分からずに抱きしめる。
「ミサオ…」
「うっ…うっ…うああっ」
 操は悲しみが込み上げてきたのか宗治に抱きしめられたまま泣きじゃくった。
 細い体は暖かくて柔らかくて、守ってあげたいと宗治に思わせた。
 そのまま宗治は操が落ち着くのを待った。
「うっ、う……」
 しばらく泣き続けた後、落ち着いてきたので操を抱きしめていた腕を緩めた。
 自ら解放したのに操が離れていくことを宗治は残念に思った。
「その、ミサオ…さ」
 宗治はただ誤解なのだと言えば良いのだ。
 成一が照れ隠しで言っただけなのだ、と。
(だけど…坂上があんなこと言わなければ良かったんだ)
 その結果、操は涙を流して悲しんでいる。
 だから、宗治はその言葉をどうしても言う気になれなかった。
 代わりに宗治が言ったのは違うことだった。
「部屋、片付けよ」
 操はこちらを向いてこくんと頷いた。


 部屋を簡単に片づけるのに2~3分ほどかかった。。
 成一に渡すはずだったマフラーはぼろぼろだったが机の上に置かれていた。
 もう使えないはずなのに、ゴミ箱にいれられないところを見ると捨て切れないのかもしれない。
 そのことを思い宗治の胸に嫉妬が渦巻く。
 宗治と操はベッドに隣り合って座った。
「……振られたとしてもさ、友達くらいには想っててくれるって、考えてたんだ…」
 こちらを向かずに独り言のように操が語りだす。
 言葉に力はまだ無いもののだいぶ落ち着いてきたようだ。
「だけど、セーくんって…ボクのこと、ハルくんのおまけくらいにしか考えてなかったんだね」
 成一の告白を聞いた宗治は、それが誤解だと知っていたが、言葉を挟まなかった。
「ボク、他の男子からも…男女で、口うるさい奴だって思われてたんだね…」
 操の声に再び涙がまじりだす。
「ミサオ……坂上のことは…」
 気にするな、と言おうとしたが、言えなかった。
 気にしないことなど無理だろうから。
 成一の本当の気持ちは言わなかった。
 本当のことを言いたくなかったから。
「もう……いいんだ…」
 そう言いながらも再び嗚咽を漏らす操。

 宗治は黙って抱きしめる。
「……ハルくん」
 しばらくして、宗治の腕の中で操がぽつりと呟いた。
「…ハルくんはさ、ボクのこと可愛いって言ってくれたね。それだけは……嬉しかったな」
 操が話し出す。
「ミサオは…可愛いよ」
「…そんな面と向かって言われると…恥ずかしいよ」
 そう言って俯く操。
 宗治にはそんなしぐさも可愛らしく思えた。
「ミサオは…すごく可愛いよ、うん」
 自らの表現力の無さを嘆きながら宗治は言葉を紡ぐ。
「うそばっかり…」
 宗治に抱きしめられながら恥ずかしそうに操が言う。
「嘘じゃない。僕はミサオが大好きなんだ」
「ボクもハルくんのこと、好きだよ…」
 操と宗治が発した言葉は同じであったが、異なるものだった。
「そうじゃなくて」
 宗治はどうすれば想いが伝わるか分からずにもどかしくなる。
「…?」
 宗治の言葉に不思議そうに首を傾げる操。
 可愛いな、と宗治は思った。
(誰にも渡したくない…)
「僕は、ミサオが好きなんだ」
「…うん?」
 疑問を表情に浮かべながら操は頷く。
「ミサオは可愛いよ、自身持ちなよ」
「…うん、ありがと」
 嬉しさと恥ずかしさが混ざった声で頷く。
「だから、キスしていい?」
「うん……えっ?」
 操は何か言おうとしたのかもしれない。
 けれども言葉は紡がれることはなく。
 なぜなら、宗治の唇が操の唇を塞いだから。
「………んっ」
 こぼれる吐息。
 驚いたような操の表情がこれ以上ないほどに宗治の近くにある。
 操の唇は柔らかくて、少し涙の味がした。

 操の柔らかい唇の感触に喜びを感じ、間近にある顔に愛おしさを感じ、涙の味に操の悲しみを読み取り、そして。

  成一が手に入れるはずだったキスを奪ったことに興奮し、ゾクゾクした。

 どのくらいそうしていただろう。
 短くも長くも感じる時間が流れ、唇を離した。
「ハ、ハル…くん?」
 驚いた表情で固まる操。
 宗治の心の中には、喜びや高揚感で一杯になっている。
 自分が抱きしめている操の存在が、先ほどの感触が現実であることを教えてくれる。
 操の全てが欲しくなる。
 成一に奪われる前に。
「ミサオ、可愛い」
 耳元で囁いて、宗治は抱きしめたまま制服ごしに胸に触れる。
 薄い胸でもきちんと女性としての柔らかさが伝わってくる。
 この胸も成一が触るはずだったと考えると興奮は否応なく高まってくる。
 手に入らないと思っていたものが今宗治の腕の中にいる。
「あ…ん……ハルくん…ちょっと」
 胸を触られた操が驚いた表情になるが、その声にも艶がある。
「僕、ミサオのこともっと知りたい」
「で、でも……ボク……や…んぁ」
 胸に愛撫されながら出す声はいつもの操とは異なる。
 宗治が知らない操。
 元気に外を駆け回るのではなく、宗治の腕の中で艶やかな声をあげる操。
「ミサオは僕のこと…嫌い?それとも…好き?」 
「好き…だけど」
 真っ赤になって言う操。
「もっと操のことを教えてよ、大好きなミサオのこともっともっと知りたい」
「本当に、ボクのこと好き?」
 どこか不安そうな表情で聞いてくる操。
「うん、何があっても僕だけは絶対ミサオが一番好き」
 躊躇うことなく頷く宗治。
 ここでためらっては宗治に訪れた機会は永遠に去るかもしれない。
「よく、そんなこと言えるね、ボクみたいな男女に。他の子にもそう言うんじゃないの?」
 微かに疑念を込めて操が言う。
「男女とか言われたの…やっぱり気になる、操?」
「だって、セーくんが…」
 操の表情が再び沈んだものになる。
 成一のことが出てくるのが宗治には気に食わなかった。
「僕は坂上とは違うよ、ミサオのこと男女なんて思ってないし、絶対言わない。
ミサオ、すごく可愛いから」

 宗治は言葉を重ねる。
 操の誤解が解ける前に。
 成一の想いを操が知る前に。
 しばらく黙りこむ操。
 恥ずかしそうな表情でゆっくりと話しだす操。
「ボク、シャワー浴びてくるね」
 緊張していたからか宗治の喉がからからになっていた。
 目の前の潤いを求めて、暴れだしそうになる体をなんとか抑えて何とか言葉に出す。
「ミサオ、それって僕と」
「違うよ…そんなんじゃなくて…さっぱりしたいからだよ
 それに…いきなりハルくんにそんなこと言われても…ボクわかんないよ」
 操がいやいやをするように首を振って部屋から出ていく。
 家の中には操と宗治しかいない。
 いつもなら母はパートから帰ってくるはずだが、今日は友人と会うそうだから遅くまで二人だけ。
 今宗治が何もしなければチャンスはなくなってしまうかもしれない。
 そしてただの兄妹で終わってしまい、成一に奪われてしまうかもしれない。
 操の部屋でそわそわしていたが、宗治は風呂場に行くことにした。

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