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特別授業 ~1~

隣の市に住む姉の元へ、郵便物を届けて来い。母からそう命ぜられた久木田延彦は、
春めいた三月の清々しい土曜日を、使い走りで消費する事となった。

「やだなあ、姉ちゃんトコ行くの・・・」
姉の澄香は、隣の市で高校教師をやっており、二年前から一人暮らしをしている。
そのため、実家へ送られて来る手紙の類などを、延彦が定期的に持って行ってやらなければならないのだ。
末っ子で大学生という身分を考えれば止むを得ないが、
折角の休みが潰れてしまうので、出来れば行きたくないのが本音である。

電車を乗り継いで隣の市へやって来た延彦は、とりあえず姉のマンションへ電話をしてみた。
しかし、何度かけても電話は繋がらず、むなしく呼び出し音を繰り返すだけ。
「出かけてるのかな。そりゃ、ラッキー」
延彦が澄香の不在を喜ぶのには、訳がある。
姉と会うと、自分の生活態度や学校の成績について、
いつもお小言を頂く羽目になるので、なるべくなら会いたくないのである。
だが、こうなれば預かり物を姉の部屋のポストへ放り込んで、帰ってくれば良い事になる。
延彦は駅のロータリーにいたタクシーへ飛び乗り、姉の住むマンションへと向かった。


「さっさと用事を済ませて、帰ろうっと。ん?」
姉の部屋の前まで来た延彦が、添えつけのポストに手紙を放り込もうとした時、
何故かドアに隙間が出来ている事に気がついた。

「変だな。ドアが開いてら・・・」
ノブを回すと、ドアが簡単に開いた。
玄関に入ると、明らかに男物と分かる靴が二足ある。
それを見て、延彦は身構えた。
(泥棒か!)
几帳面な性格の姉がドアに鍵を掛け忘れる確率は、ゼロに近い。
そうなれば、何かあったと考える方が妥当である。
先ほど電話に出なかったのは、そのせいかもしれない。
延彦は玄関にあったホウキを手にして、部屋の中へ入った。

(姉ちゃん、無事でいてくれよ)
2LDKのマンションは、玄関のすぐ脇が台所になっている。ここに、姉の姿はない。
延彦は足音を忍ばせながら、更に奥へと進んだ。
(あッ!)
台所の隣が、六畳の洋間になっていた。延彦はここで、姉の物と思しき衣類が散乱してい
るのを発見した。
(全部、姉ちゃんのだ。何があったんだろう・・・)
Tシャツにジーパン、ブラジャーにパンティまでもが、無造作に部屋の中に散らばっている。
澄香の性格から言って、こんな事はまず、有り得ない。
延彦はホウキを握り締める手に力を込めて、更に隣の寝室へと迫った。と、その時・・・

「誰?あっ、の、延彦!」
という声と共に、延彦の背後から下着姿の澄香が現れたのであった。

「姉ちゃん!無事だったか。良かった」
澄香は特に怪我をしているとか、憔悴しているという風ではない。
それを見て、延彦は安堵した。どうやら泥棒とか強盗に入られたような話では無さそうだ。
しかし、澄香の方はそんな弟の思いを他所に、顔を紅潮させて憤るのである。

「あんた、何しに来たの?来る前には、電話くらい入れなさいよ」
「さっき、したんだけど、出なかったから」
「あっ、そうか。ボリュームを絞ってあったんだっけ・・・」
しまった、とでも言いたげな顔で、澄香は頭に手をやった。
延彦はこんな姉の姿を、初めて見る。

「姉ちゃん、玄関が開いてたけど、何事もないの?」
「ああ、あの子たちが掛け忘れたんだわ・・・い、いや、こんな貧乏教師の家に押し入ったっ
て、取るものなんか何も無いからね、鍵は掛けないのよ・・・」
おかしな話である。近ごろはとみに物騒で、家に鍵を掛けぬ者などいないだろう。
まして、女の一人暮らし。鍵は幾重にでも掛けるにこした事が無いはずだ。
「ところで、何の用?私、ちょっと忙しいんだけど」
澄香はなるべく延彦を早く追い出したいようであった。その焦りが、言動に表れている。
もっとも、延彦も姉が無事であれば、早く退散するつもりだった。

「姉ちゃんあての手紙を持ってきたんだ。これ・・・じゃあ、俺、帰るよ」
そう言って延彦から手紙を手渡されると、澄香はやや切なげな顔で、
「わざわざ、ありがとう・・・ごめんね、折角、持ってきてくれたのに、追い出すような感じで・・・」
と言って、目を潤ませるのだった。

「別に良いよ。じゃあね・・・あっ?」
無事、用事を済ませた延彦が姉に背を向け、部屋を出ようとした時、キッチンの向こうから誰かが歩いてきた。
見ると若い男で、一糸まとわぬ姿でこちらへ歩いてくるではないか。
それに気づいた延彦の足は止まり、体が硬直した。
「ん?お前、誰?」
男は延彦を見るなり、威圧するような眼差しを呉れた。
年恰好から、まだ十六、七歳くらいと思われるが、明らかに年上と分かる延彦を前にしても、眉一つ動かさない。
相当、肝の座っている男のようだ。

「誰って・・・お前こそ、誰なんだ?」
声を震わせつつ問う延彦。その後ろでは、澄香が頭を抱えていた。
「おい、澄香。こいつ、誰なんだ?」
男がそう言うと、
「・・・弟よ」
澄香はうなだれて、小さく呟いたのである。

「あっ、そう・・・なの。すいません、俺、こんな格好で」
延彦が弟と分かると、男は急に態度を改めた。
引き締まった肉体からは湯気が上がり、風呂を浴びた後だと分かる。
延彦はそうと知ると、一時でも早くこの場を離れたくなった。

(姉ちゃんの彼氏か。それにしちゃ、ずいぶん若いけど)
下着姿の姉と裸の男とくれば、ここに居る自分は場違いとしか言いようが無い。
澄香はもうお年頃である。
男がいたって、何の不思議でもないのだ。
「やだ、香椎君・・・ちゃんと体を拭いてきてないでしょ。ずぶ濡れじゃない」
「あっ、ごめん。澄香」
「タオル持ってくる」
男と弟が顔を合わせたことで居た堪れなくなったのか、澄香は浴室の方に消えていった。
延彦もこの間を利用して退散すべきと考え、男に向かって曖昧な笑顔を見せた後、
「じゃあ、俺はこれで・・・」
と、部屋を出ようとした。しかし──

「あれ?もう、朝か・・・ん?香椎、その人は誰だ?」
という声が、今度は寝室の方から聞こえてきたのである。
見るとやはり、若い男だった。そして、延彦の体は再び硬直したのであった・・・・・

「俺が香椎で・・・」
「俺が井出です」
ソファに座った男二人はそれぞれ名乗り、延彦に頭を下げた。
澄香は着替えを済ませて、延彦の隣に居る。

「はあ、どうも・・・俺、延彦です」
挨拶を交わしながら、おかしな雲行きになったと、延彦は思った。
姉は男二人を部屋に連れ込み、何をしているのだろう。
しかも相手は随分、若い。
教職にあって、これが問題にならないか、延彦は案じずにはいられない。
「ねえ、延彦。お母さんには、内緒にしておいてね」
澄香が言うと、
「こんな事、言えるわけ無いよ・・・」
と、延彦が答えた。まさか、母にありのままを告げる訳にはいかない。

「二人は、姉ちゃんの生徒?」
「・・・そう」
弟の問いかけに、姉は答えにくそうだった。しかし、これは大問題である。
女教師が生徒と淫らな行為に耽溺しているとなれば、ただでは済まなくなって来る。
もし、外部にこの事が知られれば、澄香はもとより延彦や両親まで、世間の好寄の目にさらされる事となろう。
そうなれば、何もかもが破滅である。

「姉ちゃんと君たちは、その・・・好きとか・・・その・・・」
何と言えばいいのか、延彦は言葉が出せなかった。姉と二人の少年の親密な関係。
そんな恥ずべき事実を、口にするのも嫌だった。

「あの、延彦さん。俺たち、そんなにウェットな関係じゃなくて・・・もっと、ドライな感じなんです」
と、香椎が言うと、
「実はね、私・・・お金で囲われてるっていうか」
気まずい雰囲気に、澄香が追い討ちを掛けた。
姉の言葉を耳にした瞬間、延彦は思わず頭を抱える。

「香椎君のお父さん、ここいらの名士でね・・・私、最初は面談会で顔を合わせたんだけど」
澄香はぽつぽつとここに至った経緯を話し始めた。
窓の外を見ると、小雨が降りかけている。
まるで、延彦の涙雨のようであった。
「ほら、ウチの学校、私立でしょ?実は去年、経理の不備が発覚して、
助成金を打ち切られてしまったの。私立は助成金が無ければ、やっていけないわ。
その時、香椎君のお父さんが多額の寄付をしてくれて・・・」
「その代わりに、姉ちゃんを?どうして?訳が分からない」
「・・・実は私、理事長の愛人だったの。その人に、泣きつかれて・・・」
次から次へと明かされる事実に、延彦は脳が溶かされるようだった。

「その当時、香椎君は荒れててね。校内で女生徒にレイプまがいの悪戯をしたの。
幸いな事にそれは未遂に終わったんだけど、大問題になったわ・・・それで、理事長を交えて三者面談をしたのよ。
この悪戯者を、どうすればいいかって」
「それを言われると、恥ずかしいな」
香椎が澄香を敬うような眼差しで見た。
その姿は、まさに改心した悪童のそれである。

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