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忍者学園 その3

 たとえば私たちがただの村娘だったら。
恋人を取られたとき、怒ってひっかいて、ひっぱたいて、大騒ぎして、
わんわん泣いて、そして………あきらめるのだろう。
それ以外どうしようもないから。

 だけど私たちは職業的に訓練されたくの一だ。ひっぱたくぐらいじゃ収まらない。
子供のときから鍛えられた闘争心は明確な形で現れて、何らかの対象に向かう。
それが自分自身に向かうときもあれば、他者に向かう時もある。
 単に自分に向けられた悪意なら耐えられる。あの楓さえ、それなら我慢ができた。
だけど、好きな相手を奪われることは、耐えられない。
 なのに今、黙って、物陰に隠れて、それを見ている。

「あの、優しくしてくださぁい。風花すご""く、怖いんですぅ」
 再び、あの山小屋が選ばれた。湯を浴びたばかりの彼女は薄紅色に染まり、
貶めたいと思う私が見ても初々しく、愛らしい。
 空は言った。
「あのね、風花。考え直してくれないかな」
 口下手な彼が必死に言葉を探している。
「たぶん経験のある人のほうが痛い思いをさせないし、それに僕は……」
「私も、一番好きなのは武蔵」
 蕩けそうに微笑む。
「一生あの人の傍でぇ、あの人だけを見つめてぇ、お互い誰にも触らせずに、
二人だけでず    っと暮らしたい」
 そのままうつむく。
「だけど、そんなの許されない。私はこれからたくさんの別の人に、抱かれる。
訓練のためとぉ、お仕事のため。人もいっぱい殺すし、自分が殺されるかもしれない。
捕まって、形がわからなくなるまで壊されるかもしれない」
 空もうつむく。
 風花はまた、顔を上げた。
「しかたないし。でも、それに踏み込むのはぁ、すっごく勇気いるんですよぉ、わかります?」
 うつむいたまま、うなづく空。
「だから、初めての相手はぁ、武蔵じゃないなら、優しい人がいい、って思ってましたぁ」
「僕は……」
「いいんですぅ。私判断で優しければ……それじゃ、始めましょうか」
 可憐な姿に関わらず侮れないくの一は付け加えた。
「大丈夫ですよぉ。一刻前に空が飲んだお茶に、薬師部の淫薬入れときましたからそろそろですぅ」
「え」
「風花もぉ、呑みましたぁ……あ、なんか火照ってくるぅ……」
 彼女は身をよじらせ、着物を少しづつ緩め始めた。
幼い体つきだ。胸も小さく、華奢で、小柄で。まだ、守られている方がふさわしいか弱さ。
なのに、人形のようなその指が、自分の乳首と秘所を這いずって行く。



「ああん……ん、空、早くぅ」
 潤んだ瞳が彼を誘う。胸の痛み。
 空はおずおずと、彼女の胸に触れた。唇と同じ薄紅の乳首が、尖っている。
 壊れ物を扱うような彼の手つき。目をつぶりたい。飛び出していって邪魔したい。
「そうですぅ。そのままうなじに唇をあてて」
 素直に従う彼。いや。それは私じゃない。
「あ、あ、気持ちいいですぅ。ん、んん……あん、ん」

 やめて。誰にも触れないで。
 お願い。その子から離れて。
 そんなに優しく彼女を抱かないで。
 私になんかかまわなくてもいいから、だからほかの子にも近寄らないで。

 風花の声が甘く響く。
空の瞳は、少しずつぼやけていく。
私はなぜか飛び出しもせず、叫ぶこともせず、瞬きもできずにただ、見つめている。
からくり仕掛けの人形の目、それになったみたいに。
 肩に、唇が触れる。指が、おずおずと彼女の腰の線に沿う。
 痛い。肩が。唇が。腰の流れが。彼の触れない、彼の触れるはずの箇所が。
そして、そのすべてより胸の奥が痛い。
「いやぁん……焦らないで、ゆっくりぃ………」
 殺意が生まれる。
あの細い首にこの手をかけて、力の限り締め上げられたら。
忍刀で深く、深くその心の臓を貫けたら。
 風花。卓越した能力を持つくの一。努力なんかしなくても簡単に空の傍にいれるほどの才能。
私の気持ちなんて彼女にはわからない。
「あ、ああん、んんっ、は、入ってくるぅ     っ!!」
 とっさに隠しからクナイを掴んだ。
投げるより先に、彼女の悲痛な絶叫が響いた。
「武蔵っ、武蔵っ!武蔵ぃ      っ!!」
 慟哭が夜気に乗る。
 私には憎しみさえも許されない。



 二人の姿が消えても、動くことができなかった。
朝が近い。東の空がかすかに蒼い。
 のろのろと起き上がり、体を引きずるように外へ運んだ。
川で顔を洗っていると、走りに来た水樹にあった。
「顔色悪いわ。大丈夫?」
 昨夜のかげりも残さず彼女は明るい。
「ええ。水樹は?」
 余計なことだと思いながら、尋ねてしまった。
「ありがとう。私はいいの」
 艶のある髪に指を差し込み、かきあげる。そのしぐさが、はっとするほどなまめかしい。
唇の色も、以前より紅く見える。
「決めたの。泣いてたってしょうがないって」
 彼女は水のほとりの岩に腰掛けた。
「永遠に愛して、愛されるって思ってたの。他人の存在なんて考えたこともなかった。
だけど……そんなもの無いのね。とったりとられたりなんて別の世界だと思ってた。
でも、こんなことになって、それでもあきらめきれないわ」
 彼女は微笑む。
「永遠の愛なんて無いのなら、あの子にとってもそうだわ。
だったら、取り返せばいいのね」
 誰よりも優しい水樹。その彼女が別人のような顔で私を見つめる。
「ハヤトじゃなきゃだめなの?」
「あなたが空じゃなきゃだめなのと同じ」
 彼女は再び微笑んだ。
 気品のある美しさに意思的な何かが加わって、凄みさえ感じさせる。
「じゃ、行くわ。後でね、アゲハ」
 長い髪を揺らして走り去る彼女に迷いはなかった。
 私はそれを見送り、それから振り向いて木陰に声をかけた。
「まだ、いるんでしょ、リョウ」



「ああ、やっぱり気づいていたか」
 長身の影がざっ、と一跳びで私の前に現れた。
一つにくくられた髪が揺れる。落ち着いた笑顔だ。
 私はあっさりと聞いた。
「ここで殺すの?……私を」
 くっ、くっ、と彼女は声を立てた。
「どうしてそう思う」
「私の部屋を爆破したのはあんただわ」
 彼女の表情は変わらなかった。
「何故だ?火薬なら全員が扱える」
「だけどあの夜私の部屋に来たのはリョウだけだわ」
 ひた、と見据える。
「毎夜寝る位置は変えるのよ」
「流石だ。えらいよ、アゲハ。実に優秀だ」
「そうではないから、気を使わなきゃならないのよ。で、殺す?」
 期待を持って彼女に尋ねた。逃げるのは嫌だ。だけど死にさえすれば楽になる。
自分で逃げずに逃避できることはひどく魅力的だった。
 リョウは楽しそうに私を見つめた。
「そのつもりだったんだがな………やめた」
 がっかりした。
「なぜ風花をまきこんだの?」
「やっかみにきまってるじゃないか。あいつら所帯持つ気らしい。うらやましい話だ」
 負の感情を語っているのに、彼女の瞳は澄んでいる。
「私には絶対にありえないしな」
「そうね」
 その瞳に語る。
「リョウの想い人は……水樹ね」
「ご名答。気づかれたか」
「風花が、あんたの相手を選ぼうとさえしなかったから」
「別にどうこうしたいわけじゃないんだ。ただ、見守っていたいだけで」
「イヅチを殺したのもそうなのね」
「ああ。見つけるのがあんただとは思わなかったがな」
「楓にも報復するきなの?」
「いや。ハヤトは彼女にふさわしくないからな。つまり、勝手な基準だ。
訓練の相手もほっておく。だが、あの爺は許せなかった。」
 普段と変わらぬ表情で、彼女の狂気は研ぎ澄まされていく。
理性を縦糸に、衝動を横糸にして行動を織り上げる。
最も明確にしただけで、私たちの誰もが持つ罪。
「まあ、あんまり殺しすぎると彼女が気に病むだろうし、ほどほどにする」
 片手を軽く振った。
「他が受けたがらないような任務があったらまわしてくれ。借りがあるからやるよ」
「覚悟しておいてね」
 彼女は動じなかった。にやり、と笑ってその場を去った。

 水樹の狂気は自分に向かい、結果として一歩先へ進んだ。
風花とリョウの分は迷走した。
 私のそれはどこへ行くのだろう。自分でもわからなかった。



 午前の訓練を終え、人気のない林を通る。陽は中空にかかっていた。
右上から殺気を感じ、とっさに左に身をかわした。
黒い影。体型からするとリョウではない。
 上から降ってきたその影は、寸時に体勢を立て直して、拳を左頬に突きつけた。
紙一枚の差でそれを避け、運よく付けたままの手甲鉤で反撃する。
 相手の、顔を覆った布を引き裂くと少し怯んだ。
そのまま足を払い、よろめいたところを突き飛ばす。
 仰向けに倒れた体にまたがり、咽喉もとに鉤を当てた。
「………何のつもり」
 シロウは悲しそうに笑った。
「せめて、初物ぐらいいただきたいと思ってね」
 私は薄く笑った。
「強引な誘い方ね」
「仕方がないだろう!」
 彼は叫んだ。
「どうせお前は空が好きなんだし。俺のような能力に欠けた男は嫌なんだろう!」
「馬鹿ね」
 静かに答えた。
「あんたにその気になれないのは、あんたが私に似すぎているからよ」
「似てね  よ。お前はくの一で一番の……」
「村一番のみそっかすだったわ」

 記憶の中のあの寒空。足が遅いので置き去りにされた私の前に現れた少年。
村の子の誰よりも早く、見惚れるような動きだった。
 ほんのわずか、言葉を交わした。彼は私の走りの欠点を指摘してくれ、
それから髪に触れた。
「うさぎみたいに結んだら、うさぎみたいに速くなるかも」
 それ以来髪形は変えていない。だけど私は変わった。いえ、無理に変えた。
 私が今ここにいるのは彼のためで、空がいなかったら私の存在などない。

「唇だけじゃなくてほかも磨くべきだわ。限界はあるけど、だいぶマシになるわよ。
命がけでやればね」
 私は鉤をあてたまま、自分からシロウに口付けた。見開かれたシロウの目。
「欲しいのないらあげるわ……丑三つ時にお堂に来て」

「おまえ………」
「捨てなきゃいけないのよ。思い切り利用するけど、いい?」
「あ、ああ………」
「それじゃ、後でね」
 にっこりと微笑んだ。シロウは呆然としたままだった。



 月が細く尖っている。
 鉤のようだ。
 忍具は全て外してきたが、夜空の月で武装する。闘う相手はシロウじゃない。
 扉を開くと、半信半疑の彼が落ち着かない様子で私を迎えた。
「おまえ、本当に………」
「私が嘘をつくとでも」
「い、いや」
 立ったまま、思いきり着物をはだけた。誰にも見せたことのない胸が露になる。
 肩の震えは無理やり止めた。誇示するように胸を突き出し、彼に尋ねた。
「どう?」
「凄ェ……凄くきれいだ、アゲハ………」
「当然よ。私の身体なんだから」
 シロウの視線はひどく熱い。舐めまわす様に身体を這いずる。
蟻に登られたような不快感があるが、それを外に出すつもりはない。

「始めましょうか」
 見つめると相手は赤くなった。彼に近寄り、唇を重ねた。
 すでにその、感触は覚えた。感情さえ切り離せば耐えられないほどではない。
シロウは陶然と目を閉じ、腕にだけ力をこめている。
 そのままゆっくり床に崩れた。体の重み。
彼が背負ってきたらしい布団がすでに敷かれているので、痛くはない。
 性急に自分の帯を解こうとした彼を止めた。
「まだよ……充分に潤して」
「アゲハ……もう、俺、こんなに……」
「我慢して」
 睨むと、しゅんとして従う。シロウは私の足を取り上げ、その指を口に入れた。
 生温かくて気持ち悪い。けれど好きにさせた。
 舌がゆっくりと這い上がる。それは足首へ、ふくらはぎへと移っていく。
内腿に達したとき、息が漏れた。
 叢に指がそっと触れる。とっさに振り払いそうになる。でも、耐えた。
 男の手によって体が開かれる。尖らせた舌先がそこをなぞる。
シロウは舌先を震わせ、私は唇を噛んだ。


 扉が開く。人の気配。体中が冷たくなる。
「アゲハ………?!」
 シロウが硬直した。私は上半身を起こした。
 空が立ちつくしている。闇でもわかるほど、血の気が引いていく。
「………嘘だ」
 内腿に手をやったまま、シロウはきょろきょろと、私と空の様子をうかがう。
体をさらしたまま、空に笑いかけた。
「嘘じゃないわ」
 彼に文を渡したのは私だ。丑三つ時をしばらく過ぎてから村はずれのお堂に来て、
そう書いた。
 空の瞳はさまざまな感情で燃えそうに光る。くぐもった色の怒りが、
強い悲しみが、不審の色が、絡み合って私にあてられている。
「どういうことだよ!」
 その声は悲痛に聞こえた。
「シロウと、寝るわ」
 瘧に襲われたように空は震え、そして背を向けた。
飛び出る前に私は叫んだ。
「行かないで!」
 彼の背が止まる。けれどその背は拒絶を伝えている。
私の声も震えそうだ。
「なぜ、あんたを最初の相手に選べないか、わかる?」
 雷に打たれたような目で、彼は私を振り向いた。
「アゲハ……」
 その目を見つめる。命も力も人生も全てをこめて。
 シロウの瞳から怒りが消えた。そして悲しみが溢れ出す。
「なぜ、それを見せるんだよ…」
 彼の悲しみで、胸が痛い。風花との行為を見つめていた時よりも。
でもその疼痛に、甘美な何かが混じっている。
「あんたに、心底惚れているからよ」
 空の惑乱が私の胸を締め上げる。
「見ていて、私が女になっていくのを」
 彼の瞳に涙が滴る。このままここで死ねたらいいのに。



「続けて」
 シロウの動きから優しさは消えた。乱暴に、胸を吸われた。
弓のようにのけ反ると、そのまま唇を私の唇に移し、
見せつけるように舌を絡めた。
 私は逆らわない。全て従う。
足が乱暴に開かれ、指が秘所を執拗に嬲る。
「あ、あ………」
 耐えられずに声が出た。空の頬にまた、真珠のような涙。
シロウはもはや振り向きもせず、私をいたぶることに力を尽くす。
 死ぬほど不快だ。鳥肌が立つ。
なのにそこからは熱い液体が湧き出してくる。
シロウはそれを自分の指に滴らせ、見せつける。
しょせんお前はただの雌、そう言いたいのだろう。
それは別に間違いではないと思う。
 嫌悪のために立った鳥肌が、いつしか快楽のために変わっていく。
体がとろけそうに熟していくのがわかる。
 私は、シロウを誘った。
「来て………」
 帯が蛇のように落ちたとたん、恐怖で逃げたくなった。
目を逸らす。怖い。
 泣きそうになって空を見ると、悲しみで溢れた瞳が、
潤んだまま見つめ返してくれた。
 ただ、その目を見つめていたい。

 私はあなたに何もあげられない。唇さえも。
 だから、せめて私を見て。
 あなたにあげたかった全てを見つめて。
 あなたの瞳に焼き付けて。

 片足が、シロウの肩にかけられる。
自分の手を添えて位置を整えた彼自身が私の入り口に当てられる。
耳もとにシロウの荒い息が響く。
 痛みが襲った瞬間、敷布を力の限り握った。
 噛み締めた唇も切れて、血の味がする。
 闇雲に動くシロウの肩ごしの空は、ぼやけて見えた。

 嫌悪で、二度と愛してくれないかもしれない。
憎悪で、冷たくされたり、近寄ることさえ避けられるかもしれない。
ハヤトのように別の人に心を移すかもしれない。
 それでもあなたは私の世界の全て。
たとえ愛情という形でなくても、私はあなたの心に住みたい。
深く、深く刻み込まれたい。
 それが、たぶん私の狂気。
あなたに捧げる、私の全て。

終わり



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