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剣 - Estranged -

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Estranged
-*-*-

こつんと、背中にかたいものの当る感触を感じて目が覚めた。
売り上げの計算をしている内に、眠ってしまったようだ。
ぼんやりとした頭で机の前を見ると掛けてある古時計が真夜中の3時を示していた。
「サクヤか?」

そういうと背中に当っている硬いもの--恐らく頭、がびくりと震えた。
はは、と自嘲気味に笑いが出てしまう。
19歳にしては大人びて見えるサクヤだが、
ついこの間までは5歳離れている俺に対して子供のような振る舞いを見せる事がよくあった。
居眠りをしている俺の後ろに忍び寄ってそっと目隠しをしてくる位の悪戯はしてきたし、
宿屋の仕事の最中にこっそり裾を掴んで悪戯する事もあった。
こんな風に、怯えるように俺に触れてくるような事はなかった。

サクヤが怯えないように気をつけながら椅子をぐるりと回す。
思ったとおり、俺の背に頭を乗せるような形でサクヤが俯いていた。
サクヤは宿屋の従業員用の白いブラウスに、紺色の短めのスカートという格好。
普段であれば、この格好に茶色の前掛けを掛けるとうちの宿屋の店員としてのスタイルとなる。
スカートの丈が少々短く、露出が高めなのはここが田舎町だからだ。
娼館が一軒以外、娯楽といえば他に飲み屋が一軒しかないこの町では宿屋が酒場を兼ねる。
となれば宿屋の女性店員にもそれなりに気楽な格好が求められるというものだ。
宿屋の格、なんてものはこの町には存在しない。
サクヤに初めてこの制服を見せた時、随分と恥ずかしがったのを思い出す。

前髪に軽くウエーブのかかったセミロングの髪がしっとりと水気を含んでいる。
前掛けを掛けていないのは、シャワーを浴びたばかりだからだろう。
もう特に仕事がないからかもしれない。
そう思いながら立ち上がり、その頭をごしごしと撫でてやるとようやくサクヤは顔を上げた。

年齢よりも大人びて見せている虹彩の大きい澄んだ瞳、小麦色に焼けた肌。
前掛けを掛けていない分、すらりとした肢体の中にそっと隠しているような女っぽい体つきが
白地のブラウス越しに透けて見えてしまっている。
自分が何気なしにサクヤの形良く膨らんでいるブラウスの胸元と
そこから覗ける白い肌を目で追っている事に気が付いて慌てて目を逸らす。

『今、サクヤをそういう目で見てはいけない。』

頭の中の警告を全身に伝えるように首を振る。
笑顔を浮かべる。俺は今、サクヤが安心できるような笑顔を浮かべているのか?
自問する。

「今戻ったのか?」
サクヤの目を見つめながら語りかける。

「・・・はい。シャワーを浴びて来ました。」

「うん、いい匂いだな。」
そういって冗談めかしてくんくんと鼻を鳴らすと、ようやくサクヤは薄く笑った。


「冬真さん、今日も、何かお話をして下さい。」
そう言ってテーブル脇の椅子を引き出してくる。
ちょこんと腰を掛けると、スカートの裾から、すらりと長く美しい下肢が露出した。
どこを見ている。どうかしているぞ。
頭を振る。

「おいおい、まだ寝なくていいのか?」
冗談めかしてそう言うとサクヤは柔らかく微笑み返してきた。

「大丈夫ですよ。私、若いんですから。」
「俺が年取ってるみたいな言い方だな。これでもまだ24だぞ。」
「あはははは」

なぜ、彼女が俺の部屋へ帰ってくるのがこんな時間なのか。
俺は聞かないし、彼女も言いはしない。
なぜ、こんな時間に彼女がシャワーを浴びる必要があるのかも。

「そうだな、何の話をしようか。…そうそう、そうだ。今朝の市場での話をしてやろう。」
さも今考える風に、しかしすでに考えてあった話を始める。

「ふんふん。」
と、彼女も頷く。

「今朝、市場に野菜を買いに行った時の話だ。
 人参と芋を5袋持って買おうとしたらな、あの親父がこう言いやがったんだ・・・」

彼女は毎日、こうして椅子の上に座り、俺のつまらない話が終わるまで椅子の上でうとうととしながら話を聞く。
彼女が贖罪をしているつもりのか。
それとも俺の話が彼女の何がしかの力になっているのかそれは判らない。
この時間の意味を、何かしらの理由があるのかを、彼女は話さない。
それでもこうして朝まで俺の部屋で過ごしていく。

すぐに眠ってしまった彼女に毛布を掛けながら、頭を2度、3度と撫でる。
明日が来る事を、明日も彼女が又部屋に来る事。
喜びと幾ばくかの絶望感の入り交じった感情を脳裏に感じながら机へと向き直る。


@@

王国にモンスター、と呼ばれる怪物が出現し始めてから5年。
軍による数年間に渡る討伐作戦の後、多大な出費と犠牲を払った王国は軍による討伐を諦め、
新たなモンスター対策を打ち出した。

国は少数で形成される強力な私兵隊【Mut】を結成し、虱潰しにモンスターを狩らせる事にしたのだ。
【Mut】はモンスターに対する国家における軍隊の役割を果たす事となり、それゆえに特権を得た。
【Mut】は市民の家に上がりこみ、モンスター退治に必要と思われるものは全て接収する事を許された。
町にある店に対し、要求をする事で武器防具などを破格の値段で受け取る事を得た。
【Mut】はモンスターを狩る為のあらゆる協力を市民からある種の【税】という形で得る事ができた。

軍が引き上げた後に自分達を守る手段を失った市民達に【Mut】は熱狂的に迎えられた。
呼び名は【Mut】ではなく、市民からはもっと判りやすく、【勇者様】と。
どの町も【Mut】が自らの町に来て、周囲から危険を取り払ってくれる事を望んだ。
【Mut】がモンスターを退治し、幾つもの町を開放するにつれ、
【Mut】の面々はそれぞれ市民達から神のように崇められるまでになっていた。


@@

「そう、さしもの俺も単独で30匹ものモンスターどもの群れに襲われてはもう駄目だ、と覚悟をした。
しかしただやられてたまるものか、と最後の覚悟を決めてこう、斧を振り上げた訳さ。」

目の前では大男が左手に酒を持ちながら右手を振り上げ、大げさな身振りで話している。
隆々とした筋肉が印象的な正に戦士という呼び名が相応しいような大男だ。
額の広いやや下卑た顔をしているが、顔中に浮かぶ傷が不思議な貫禄を出している。
【Mut】のメンバーであるこの男に追従するように相槌を打つ。

「それで、勇者ハルト様はどうしました?」

「叫びを上げ、斧を振り回して一匹、二匹と屠ってやったさ。
しかし多勢に無勢、相手の攻撃を防いでいるうちに
徐々に追い立てられるようにがけの方へ追い詰められてしまった。」

「それでそれで。」
そう言うとハルトは此処からが良い所だ、と云う風に自慢げに目を剥いて頷いた。

「しかしそこで俺はモンスターどもの動きがおかしい事に気が付いた訳だ。
なんだか何かを守るように動いている。そこではっと脳裏にひらめいた訳だ。
モンスターにも序列があるんだってな。群れにはリーダーがいるに違いない。
こいつらはそいつを守っていたのさ。
そこで俺はモンスターの群れに飛び込むと
そいつらの中心にいたリーダーの脳天に一撃を喰らわせてやったって訳だ。」
そこでグビリと酒を煽る。
掲げたグラスを持つ左手にはびっしりと包帯が巻きつけられていた。

「なるほど。それは素晴らしいお手柄。」
もう10回目にもなる手柄話をさも初めて聞いたように頷きながら聞き入る。
客商売には必須の能力だ。

「といってもこんな怪我を負っては始まらないんだがな。」
そう言ってハルトは包帯だらけの腕をぽんぽんと叩いた。

「その間はアイスベルク様、ヒンメル様がご活躍為されているのでしょう。
ハルト様はゆっくりとお休みなされば良いのです。」
そういうと、うむ、と頷く。
ハルトがにっこりと笑って頷く姿はどこか獰猛な熊が座り込んで遊んでいる様にも見え、なんだか滑稽にも見える。
見事な体格と髭の所為で老けて見えるが、年齢は30も半ば程度だろうか。

「ここのご主人は聞き上手だから、わしも休みと言えど暇を持て余さずに済んで助かるな。」
そう言ってにこにこと笑う。
「それはなによりで御座います。」
「うむ。モンスターがしつこい町だが、
ご主人の人柄が良いから長逗留も苦にならぬとアイスベルクやヒンメルとも言っておった所だ。」

「いつまでも勇者様がこの町に居られる事を町の皆は望んでいるのです。」
「そうはいかん、モンスターを一通り退治したら又他の町に行かねばな。」
「そうで御座いましょう。今やどこの町も勇者様をお待ちしている事でしょう。
しかし、それでも町の皆は勇者様にずっと居て頂きたいと、そう思っております。」
「そうかそうか。」
と俺の言葉に満足げに頷くなり、ハルトはにこにことしていた顔を急に下卑た感じに歪ませて笑った。

「長逗留も苦にならぬ、といえばサクヤだ。」

「……サ、サクヤが失礼でもしましたでしょうか。」
この男は、サクヤが俺の婚約者であった…いやある事を知らない。
ただの従業員だと思っていることだろう。そう、都合の良い娼婦と変わらないそれと。
どことなく無邪気な感じもするこの男がその事実を知ったらどういう顔をするだろうか。


【Mut】は市民の家に上がりこみ、モンスター退治に必要と思われるものは全て接収する事を許される。
それは市民にとって税金のようなものだ。拒否する事は許されず、拒めば悪とみなされる。
望まれたらそれはなんであれ差し出さなくてはならない。嫌だという事は許されない。
30半ばの男が20にも為らない娘を抱きたいと望んだとしてもそれは望まれた通りに提供されなくてはならない。
この前見たハルトの裸、サクヤの体、そして長大な一物が目の前を過ろうとも、拒否は許されない。
勇者であるから娼婦は買えないという理屈で目の付いた店員の一人を夜に貸してくれと言われれば、
自分の婚約者だからと断る事など、許されないのだ。
それが市民に課せられる税というものだった。

「いやいや、ご主人。失礼など無い。その逆だ。あれがめっけものでな。」
そう言うなりはっと気が付いた顔をしていやいやと手を振る。

「む、無論あれだぞ。モンスターを倒し殺し、その血の猛りを鎮める為に
女が必要という事は判っていような。ご主人。」
「……勿論でございます。」
きりきりと奥歯を噛む。気取られてはいけない。宿屋の主人としての顔を。
笑顔を作り出す。

「勿論存じ上げております。」
安心させるように笑顔を向けるとハルトはどこかほっとしたような顔をしながらもやに下がったような言葉を続けた。

「それがご主人、最初は硬い蕾の様だったサクヤが最近ではすっかり男の体に慣れたようでな。」
「……はは、そうで御座いますか。」

俺の笑顔に安心したのかハルトは腰を据えて猥談をしようというつもりらしい。
自ら酒を注ぐとぐいと煽った。
勇者といえども下卑た話が好きな所はそこらの労働者と変わらない。
いや、あのアイスベルクという男は違ったか。あの男は何処かこちらを見透かしたような態度を見せる。
「ご主人は知らぬかもしれないが、サクヤにはどうも言い交わした男がいたようでな。」

気取られてはいけない。
軽いめまいのようなものを感じてあえぐように息をつく。

「そ、そうで御座いましたか。それは失礼を。」
「いやいや、あの美貌だ。そういう男の一人もいようものさ。」
そういってぐいと体をこちらに近づける。
腰を上げ、逃げ出したい気持ちをぐっと抑えてハルトの顔を見る。
顔には出ていない筈だ。

「最初の1、2週はただじっと寝ているだけでな。我慢したような顔をして人形のようであった。」
目を閉じる。
息が苦しい。心臓が重かった。
--聞いてはいけない。
聞かなくては為らない。逃げ出したい。
ハルトは自分で喋っていて興奮したのだろう。俺の様子には構わず言葉を続ける。

「それではつまらんだろう。いや、無論血の猛りを鎮める為だ、
 だがそうは言っても女を抱くと為れば男はそこは楽しみたいと、そう思うわけじゃないか。
 そうだろう、ご主人。」

「…はは、そ、その通りですね。」

「そこで俺は一計を案じた訳だ。」
まるで手柄話のように続ける。
この男にとっては、モンスターを狩る事も女を抱く事も同じような手柄話なのだろう。

「どのようにで御座いますか?」
相槌を打ってやる。
「うむ。最初の夜にサクヤは処女であったとアイスベルクが言っていた。
そしてサクヤは毎夜、勇者である我らの血の猛りを鎮める事は名誉あるお仕事ですとそういっていた。
真面目にそう思い込むことで我々に抱かれる事を我慢しようとそういう態度であった。」
そこでぐびりと酒を口に含む。

「そこで俺はサクヤに言った訳だ。血の猛りを沈める事には作法があるとな。」
ハルトはそこで自慢げに俺をじろりと見やった。
先ほどのモンスターの親玉を見つけたときの話と同じ目つきで。

「作法、と。」
逃げたい、逃げ出したい逃げ出したい逃げ出してしまいたい。
相槌を打ってやる。
「そうだ、時にご主人は娼館などへは行った事が?」

「いえ、私はそう云うところはあまり。」
そう言うとハルトはがははと笑った。

「そうか。まあ、それでもご主人も男。全然知らんという訳ではなかろう。
娼婦には娼婦の技と言うのがあってな。はは。それをサクヤに教えたのだ。
人形のように寝ていては気持ちも高ぶらんだろう。
寧ろ積極的に男の体に慣れる事を教えこんだのだ。
最初は抵抗していたがな。我らの血の猛りを鎮めるにはそれしかないと言ったら信じたらしく
それ以降は従順にいう事を覚えていった。」

ははは、と笑いながらハルトは続ける。
「それを教えて毎日こってりと抱いてやったらそら、徐々にサクヤも味を覚えてきてな。
最近ではしっとりと濡れるし、声も出す。甘えるように恥らう声がたまらなくなってきてな。
残念ながら血の猛りを鎮めるという理由がある以上、
俺が怪我をしてからは毎夜毎夜もっぱらアイスベルクが抱く番なのだが
あいつ昨日などはサクヤはもう気をやる寸前で
甘え泣きながらしがみ付いてきたとか自慢しやがってな。」
丁度摘み頃の果実だ。
今が一番良い頃なんだが怪我をしてモンスターも狩れんのじゃ血が滾るとも言えん。
と呟きながら怪我した方の腕を撫で、酒を煽る。

言葉が出なかった。
自分の無力さか、彼女を哀れに思ったか。
自分でもわからない。
いきなり涙が出そうになり慌てて前掛けで顔をごしごしと擦った。


「なんだご主人も興奮してしまったか。うははは。」
そんな俺を見て何を勘違いしたのか、ハルトは機嫌よくバンバンと俺の肩を叩いてから顔を寄せてきた。
むっと酒臭い息が顔に掛かる。
「でだ。ご主人。ご主人の真面目さは俺もようく判っているが提案がある。」
そう言いながらにやりと子供のように笑う。

俺は息を吸う。言葉を搾り出した。
「は、はい」

「が、ご主人の男を見込んの話だ。」

「何で御座いましょう。」

「今日もアイスベルクはサクヤを抱くだろう。」
何でこの男達はサクヤを物のように言うのかと思いながら耳だけに神経を集中する。
ショックで何かに神経を集中させないと座ってもいられなかった。

「でだ。血の猛りを抑える為とは言っても俺も男だ。
あのような美女が隣でアイスベルクに抱かれていると思えば俺もむらむらして眠れん。
でだ。今日覗いてやろうと思ってるんだが俺一人ではいかにもさもしい。
ご主人も興味があろう。夜半に俺の部屋へ酒を持ってやって来い。」

「いや、そ、それは」
何を言っているのだ。手を振る。

「いやいやご主人の真面目さは判っていると言っただろう。
だからご主人は俺を助けると思えばいいんだ。
ご主人だって男、興味が無い訳ではないだろう。俺に比べれば年の差も少ない。
ご主人にとってはただの店員とはいえ
あんな美人がどんな風に乱れるかご主人も興味はあろう。
きっと良いものが見れるぞ。これは俺からご主人の日頃の協力へのねぎらいでもあるんだ。」
そう言って上機嫌にグラスを振る。

「しかし、」

「なあ、どうだ。ヒンメルはあいつ、どうにも若い癖に淡白でな。
サクヤも数度抱いただけだと言う。
覗こうと言っても乗ってこんのだよ。
かといって先ほども言ったが一人で覗くのはいかにもさもしい。
しかしアイスベルクの話を聞いて俺はもう我慢ならなくなってしまってな。
サクヤがどのように悶えるようになったかを俺は見てみたいんだ。な。ご主人も俺の酒に付き合うと思って。」
なんだか遊びをねだる子供のように俺の肩を叩く。

「ど、どこから覗かれるおつもりなののです?」

「今日はヒンメルを俺の部屋に寝かせる。でだ、こんな事ご主人に言ってよいのか判らんが
ヒンメルの部屋にはアイスベルクの部屋に向けて覗き穴が開いているようでな。そこから覗けるそうなのだ。」

はあ、と溜息をついた。
隣に若夫婦が泊まった折にでも誰かが穴を開けたのだろう。
すぐに塞がなくてはならない。

なんだか妙に疲れたような気がしてふっと顔を上げた。
ぼうと焦点が霞んで、その先にサクヤの笑顔が見えたような気がした。
昨日、俺の部屋で俺の冗談に笑ったサクヤの顔が。
その直前、勇者アイスベルク様の体の下で気をやる寸前まで昂ぶっていたのだと言う。

そんな事を考えながら
なあ、来るだろう、な。もう一つ穴を開けておいてやるから。
そう言ってにやにやと笑っているハルトの方に顔を向け、いつの間にか俺は頷いていた。



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