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切り取られたページとビデオテープ(2)

俺はそこまで見るとビデオを止めた。

話の流れもわかったし、今なら戻れるような気がした。
俺はビデオを巻き戻して元の位置に直す事にした。

物凄く鬱な気分で椅子に乗り、袋やビデオを元の位置に戻していると破かれたページが目に入った。

それをおもむろに開いてみると、最初の頃はトレーナー(教育係り)と反りが合わないと書いてあった。
努力をしているがイジメに遭っていると書いてあり、藤原部長が間を取り持ってくれていたり…悩みを聞いてくれているとの事だった。
それから一か月の研修期間は丸々イジメられたが、配属先が藤原部長の部署になり安心した…なんて書いてあった。
その間はたしかにほとんど電話も出来ない(親元だし携帯がないからね)し、日曜も研修だったりしたから彼女が俺の会社の通用口で待っててくれた時や
他には何日かしか逢えなかった。

そして部長主催の新歓飲み会があったらしいが、部長は接待でキャンセルだった事が判明。
後日、個別か新人を連れて改めて行くような事が書いてあった。同時に私物が無くなるのが困るってのも目についた。

無くなるのは大したもんじゃなく、ペンやクリップの類で引きだしの中のモノらしかった。
俺もその話は聞いたが、「気にするなよ」みたいな事を答えた気がする。そしてページをめくると犯人が捕まったとの事だった…。
同期の男性社員がストレスから盗癖に走ったらしく、彼の机の引きだしにはペンや消しゴム、ブラシや…がごっそり出てきたらしい。
彼はとりあえず休職にして療養する事になり、親が田舎に連れて帰ったらしい。

俺は読み耽った。

その2、3日後に部長に連れられ飲みに行ったらしい。そこには厭味なトレーナーも来ていたそう。
トレーナーが彼女に「将来性を見込んで他の新人よりもキツくあたったが我慢してくれてよかった」
「部長にも怒られたが、伸びる社員だからと…」みたいな事を言い、
小さなプレゼントを渡して謝ったらしい。
そして、そのトレーナーわ詫びを言うとすぐに帰ってしまったらしい。

その後は2時間程度飲んだそうだが、気分が悪くなったのでタクシーチケットを貰って帰宅したらしい。

次の日からはトレーナーと顔を合わせても、鬼トレーナーの雰囲気はなく気さくなオジサンだったみたい。
そして金曜日の夜に部長と飲みに行って記憶がなくなったらしい…。
気がついたらベッドで半裸にされて部長が上に乗ってたらしい。
フラッシュが焚かれた記憶だけが残り朝方に服を着させられて部長に家まで送られた…そう。
部長は車を運転しながら「君が誘ったんだよ」と繰り返していたそう。
土曜日、日曜日と泣きじゃくったとの記述。俺とのデートもキャンセルしたと書いてあった。

俺の気持ちは重かった…。彼女が苦しんでいた頃は何も知らずにいたんだし…


次の月曜日が怖かったらしいが、何事もなく過ぎたらしい…。

三日経ち、何事もなかったので気持ちが落ち着いてきた時に部長が誘いをかけてきたらしい。
その時はきっぱり断り、週末に俺にすべてを話して許してもらえなくても仕方がない、みたいな事が書いてあった。

次の日(木曜日)部長が封筒を彼女に渡したらしい。そこにはポラとメモがあり…
「もう一度だけ逢って欲しい、週末の金曜日に。ポラも全部渡すから」
みたいな内容だったそう…。

結局ホテルに取りに行ったら…例のビデオになるのだが…男Bはトレーナーだったそう。
二人に朝までレイプされてたらしい。
俺の頭は沸点に達していた。俺はメモからポケベルの番号を控え、名前を胸に刻んだ。

日記に戻ると後悔ばかりが綴られていた。そして破かれた最後のページにはビデオと袋とベルが入った紙袋を渡されたとの事。ビデオは見てないが、脅されているとあった。


残りのスペースには死にたいとか…会社を辞めても脅されるような気がする、と書いてあった。
俺に言い出せないから遺書で謝るしかない…。

丁度、一週間前の事だった。

破かれたページはそこで終わっていた。

俺は元の位置に置くと日記の残りを開いた。
そこには破かれたページを読んでいなければわからないが、事務的にだが幼馴染みに電話した…とか、おばあちゃんの声を聞いた…とかが書いてあった。

そして日記のポケットから遺書の下書きらしきモノを見つけた。


俺は時計に目をやり時間を確認するとメモを財布にしまい、部屋にいた痕跡を消して階下に降りた。

居間の電気を点け、震える手でタバコに火をつけた。
落ち着け!落ち着け!落ち着け!

2本目のタバコが灰になった頃に車が家の前に着いた。彼女は慌てて戻ってくると俺にありがとう、ごめんね…といい、状況説明をしながら
荷造りをしていた。俺は車の向きを変え彼女が来るのを待っていた。


車中…俺は励まし続けたと思うが、彼女はごめんねの繰り返しだったような気がした。
40分程で病院に着いたとき、彼女はありがとう…と。

とりあえず病院を出た俺は彼女達は何も食べてない事に気付いた。
俺は近くの寿司屋に車を停めて「特上を折りで…」3人前を注文した。寿司が出来上がる迄にコンビニにお茶やジュースを買いに行った。
三十分後ぐらいに病院に戻り、差し入れをして帰った。

家に着いて一時間程したら彼女から電話があった。

「ありがとう、お父さんも意識が戻ったし大丈夫だって」全治3ヵ月以上の大怪我だったが、今でも健在でいる。

俺は親友に電話をした。
「明日…休み取れない?」
いきなりだったが、彼はデパート勤務だから月曜日と水曜日が休みの事が多かった。

たまたま休みだったのと夕方からはデートだってので、それまでは大丈夫との答えが返ってきた。

事情を聞かれたが「俺が暴走したら止めに入ってくれ、プライドが傷つけられたから取り戻しに行くだけ」
そう答えたら「9時でいいか?」と聞くので「10時に迎えに行くよ」と言い電話を切った。

電話を切った後、心臓がバクバクと高鳴った…


一睡も出来ないままに朝が来た。会社に風邪で休む旨を伝えると、俺はスーツに着替え車に乗り込んだ。

車に乗りながら彼女の会社に電話した。
「お電話有り難うございます○○です。」

「私、田中と申しますがライフグッズ企画部の藤原部長をお願いします。」
少しの間があり女性社員が電話に出た。彼女は今日は休みの筈だったので「田中と申しますが、藤原部長をお願いします。」
と繰り返した。
「はい、藤原ですが…?」
俺の手は震えた。努めて冷静な声で俺は
「田中と申します…。」
「どちらの田中様でしょうか?」
「どう…説明いたしましょうか?玉置がお世話になっていると言えば納得出来ると思いますが…」


「…」
「玉置が世話になったと言ってもわかりませんか?」「…」
「私はあなたの携帯番号を知っています、そちらに掛け直した方が宜しいでしょうか?」「…お願い出来ますか?少し移動した方がいいみたいなので五分後にお願いします」

俺は電話を切り一旦親友に電話を入れて少し遅れる事だけを伝えた。
五分後
携帯に掛け直した。藤原部長はすぐに電話に出たが、声は明らかに狼狽していた。
「心配いりませんよ、藤原部長。何も強請るつもりはないんですよ、ただね…婚約者として上司の顔を見ておかないと不味いでしょ?」
「上司も何も…勘違いなさってるんじゃ…」

「ふざけるな藤原!言葉遊びを繰り返したいんか!」俺は怒鳴っていた。
「わざわざこっちが丁寧に話しているのに調子に乗るんか?」
「この調子でお前んとこに行こうか?俺は腹括ってるし、ビデオも明るみに出るぞ!」


「わかりました。私も男です、で、どうしましょう?」
「テープや写真は何処にある?今はお前の家に向かっているんだが、奥さんにビデオを見て貰ってから家捜ししようか?」

「ク…車のトランクにすべてあります。カ…家族にだけは黙っていて下さい!」

「わかりました、車は会社にあるんですね?それじゃ会社のすぐ近くにクレバーと言う喫茶店があります」
「そこに11:30でどうですか?トレーナーさんと一緒に来て下さい、私は一人で居ますから」

電話を切ると俺は親友に電話をして降りて貰った。

親友は挨拶もそこそこに雰囲気を悟って、「半殺しで止めようか?その手前?」と聞いてきた。
一気に緊張が解け「ごめんな、事情は話せる時が来たら話すから」それだけ言うと車を喫茶クレバーが見える位置に止めた。
まだ約束の時間まで少しあったので、自販機でコーヒーを買い「じゃ、頼むよ」とだけ言って店に入った。


店に入り窓に向かう席に座った。ホットを頼み時計を見た。
まだ少しあるな、俺が緊張してどうする?約束の時刻はもうすぐだ。全ては終わる…自分に言い聞かせた。
約束の時間丁度に中年男が二人入ってきた。一人は色白の眼鏡、こいつがトレーナー。もう一人が藤原。背が低い…
藤原と目があって軽く会釈をすると二人は複雑な表情で向かってきた。座るように合図をすると俺が切り出した。
「最初に断っておきますが、平和的に解決する為の話です。誠意として私は一人で来ているのです。わかりますか?」
藤原は頷いて「私達もそうして貰えるとありがたい」
ウェイトレスが注文を取りにきたので中座。
「先ずは例のモノを貰えますか?」そういうとトレーナーが紙袋を差し出した。
「後でトイレにでも行って確認しましょう」


コーヒーが運ばれてきた。

「砂糖はいくつですか?」俺はシュガーポットに手をやった。
藤原が「お構いなく…」
暫くの沈黙。

トレーナーが口火を切った。「私共も突然の事でして、どうお詫びすればいいか…」

俺はコーヒーを飲み干し一息ついた。

「去勢しましょう、それしかないなぁ」

二人は互いに顔を見た。
「こんな話に冗談も糞もない。アンタら計画的にハメたんだ。それ位の報いは当然だろ」
俺は冷静にしかし熱く言い放った。
「フィリピンでもモロッコでもいいから取ってこいや」


藤原が宥めるように「それは無理な話だ。会社を辞めろと言われた方がマシだ」と言った。
俺は「計画的にレイプしておいて、何を言ってるんですか?」
「俺らの幸せをブチ壊しておいて、チンポを生かしてくれって…おかしくないか?」
「レイプ犯がムショに入ったら大変らしいぞ、その歳で10年は長いぞ大丈夫か」
俺はゆっくりと言い聞かせた。
藤原達はレイプ犯と言う言葉に反応してうなだれた。


「埒があかないな、それならアンタらが出来る誠意を見せろよ。」

俺は鞄から紙とペンを取りだし、それぞれに書かせた。
他人から見たら契約でもしているかのようだった。

二人が書いたのは口外しない事と部署を異動して顔を合わせないって内容だった。後は慰謝料を払うと書いてあった。

俺はそれを取り上げると
「痛みがないじゃないか?レイプ犯として捕まったら退職金もパァ、一家離散だろ?その上毎晩おカマを掘られるんだぞ、10年もな」


結局、一ヵ月以内の退職と退職金の半分を彼女に支払う事で合意をした。
その場で合意書を作り、公証役場に行く事を提案したが二人が渋ったのでクレバーのゴム印を文章の真ん中に押して貰い、
証人としてウェイトレスにサインをして貰った。

領収書を貰い、それも証拠とした。
「さて中身のチェックをしましょうか?」俺は二人を促し某ホテルの地下バンケットに連れて行った。
トレーナーに外で見張りをさせ、俺は藤原と一番奥の個室に入った。
藤原が「一つはマスター、もう一つはコピーです。残りはポラが8枚」
「あのトレーナーには渡してないのか?ポラって10枚あっただろうが?」
「き北島君に渡しました。明日持ってこさせます」

「俺が言わなきゃそのままか?」
時間にしたら2、3分だが俺は藤原をめちゃくちゃにした。

藤原が半ば気絶状態ななったので、俺は便器に顔を突っ込ませた状態にして北島を呼んだ。

北島さん!

北島が俺に呼ばれて入ってきたので、その姿を見せ…
「嘘は困るなぁ、北島さん。あんたも持ってるんでしょ?」
北島は震えながら頷いた。
俺は笑顔で
「明日の同じ時間にクレバーね、必ず持ってきてね」と言い、トイレを流した。
藤原が呻きながら抵抗したが、構わずに…
「部長は転んだ事にしようね、その方がお互いの為だし…ね」
俺がトイレから出ると近くから親友が覗いていた。

「終わった?」

「飯行こうよ、奢るし」
親友は紙袋の事も聞かなかった。


次の日定刻通りにクレバーに到着した北島を確認して、後を付けている人間がいないかを確認した。
クレバーに電話をし道が込んでいるから10分遅れる事を伝えた。

先に店に入っていたらアウトだけど、回りには誰もいないしそれ以上の用心はしようがなかった。

俺は店に入り笑顔で北島の席に向かった。
「すいません、道が込んでて…」
北島は席を立ち、丁寧に挨拶をした。
「アレからどうでした?部長も不注意とはいえ、怪我はなかったですか?」


「実はあの後、胸が痛むって事で病院に行ったんですよ。私が付いていきました」
俺は笑顔のままで聞いていた。
「それでレントゲンをとったら肋骨が折れてました」
「暫く安静にする必要があるみたいですが、入院はしていません。自宅療養です。」

「そうですか、今日はあなたの番ですね」
北島の顔は引きつっていたが
「冗談ですよ、昨日は彼が嘘を吐いたから罰が当たっただけです」
俺は北島から藤原の住所を聞き出した。

北島は渋ったが簡単な地図を書いた。
「見舞いに行くだけですから、ご安心を。あなたが嘘を付いてたり、約束を果たさない…破ったら」

「鬼になりますよ」

私は伝票を取ると支払いをして先に店を出た。
暫く後ろに注意を払った後、藤原の家に向かう電車の駅にタクシーで向かった。
駅前のデパートで見舞いのケーキを買い、電車に乗った。

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