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恋愛成就の呪い(2)

智樹と由香里が付き合いだしてから、1ヶ月が過ぎた。
さしもの二人も慣れ始め、今ではお互い名前で呼び合う仲になっていた。

初めてのデートは喫茶店。趣味や家族のこと、昔のこと、お互い色々教えあった。
この時に智樹は、由香里が男と付き合うのが始めてであることをしっかり聞き出している。


2度目のデートは映画。以前は見向きもしなかった映画情報誌を買い込み、
智樹は由香里が好きそうな作品を必死に選んだ。
「わぁっ!丁度これ見たかったんだ!」
電話越しの由香里の言葉に、智樹は密かにガッツポーズをとったものだった。

3度目のデートは水族館。由香里はマンボウが好きらしく、いつまでも水槽から離れなかった。
しかしその日の昼食、魚のフライを注文してしまったのは明らかに智樹のミスなのだが。

そして今日は4度目のデートの日。
由香里の提案で、今日はウィンドウショッピングということになっている。
待ち合わせ場所には15分前に到着した。しかしそこには既に由香里の姿が。
デートの時、由香里は必ず智樹より先に来ている。一体何時から待っているのだろうか。
「待った?」
「ううん。そんなことないよ」
お決まりの台詞。でも今では恥ずかしげもなく言える二人。
今日の由香里は白のワンピースだ。胸元と腰に小さなリボンが着いていて、動く度ふるると揺れるのが可愛い。
智樹も少しは格好には気を使っているのだが、いざ由香里を前すると、つい気後れしてしまう。
「今日は、いっぱい買い物するからね」
「おいおい、ウィンドウショッピングって見るだけじゃなかったっけ?」
「そんなことないよ。今日買うのはお洋服。智樹クン、見立ててね」
「じゃあ、俺の服は由香里に選んでもらおうかな」
「智樹クンだったら、何を着ても似合うよ」
「由香里だって以下同文」
雲ひとつ無い晴天の日曜日。意志の疎通もバッチリな二人は、今日も幸せ一杯だった。


デートの帰り道、不意に由香里が話しかけてきた。
「最近うちの陸上部、調子いいんだ」
「何か一時期成績がガタ落ちしたって言ってなかったけ?」
「うん。理由は未だに謎なんだけどね」
智樹は苦笑した。理由なんて判り切っていたからだ。
「でね、来週大会があるんだけど、いい成績が残せそうなんだ」
「へぇ…」
「智樹クンも知ってるでしょ? 同じ2年の藤沢君。彼、うちのホープなんだー」
藤沢のことは智樹も聞きかじったことがあった。
1年D組の、藤沢圭。智樹達にとっては、1年後輩にあたる。
1学期に静岡から転校してきた男で、やはり向こうでも陸上をしていたとか。
なかなかの美男子で、女子の間では隠れファンも隠れないファンもかなりいるらしい。
「元々早いのに、普段の練習量も凄くてね。他の部員が帰っても、最低1時間は練習を続けるの」
「そ、そうなんだ」
この時、智樹は微かに不快感を感じ始めていた。
部活の話。陸上部マネージャーなら出て当たり前の話題だ。
しかし、どうも今日の由香里の口から出るのは、藤沢圭の話ばかり…な気がする。
「この前なんか、いきなり倒れるから皆であせっちゃったよ」
「……」
「大会前の大事な体なんだから、もう少し気をつ…」
「あのさっ…!」
つい強めの口調になってしまった。あからさまにビクッとする由香里。
言ってから後悔した。自分は何て心が狭いのかと。



「あ、あの… 私、何か気に障ること…言った…?」
由香里には全然悪気はないのは、この言葉を聞いても明らかだ。
「……」
しかし、俯いたまま、智樹は言葉を紡ぐことが出来ない。一言、たった一言謝れば…!
「…ごめんなさい」
はっとなって顔を上げる。そこには涙をぽろぽろと流す由香里の姿があった。
「私…鈍感だから…智樹クンが嫌なこと…知らずに言っちゃってたんだよね…」
由香里の言葉に嗚咽が混ざりだす。
「ごめんなさい…ひっく…ごめんなさい…」
急に由香里は智樹に抱きついてきた。
そして背伸びをして、智樹の唇を自らの唇で塞ぐ。
時間にしてほんの1秒。由香里はすぐに唇を離し、
「嫌いにならないでっ…私のこと、嫌いにならないで…」
智樹の胸にしがみつく。深奥から搾り出す、心からの懺悔。
「ゆか…り…」
気付けば、智樹も泣いていた。
自分の愚かさ。
泣かしてしまったことへの後悔。
自分の何気ない一言がどれだけ彼女に響くのかを知った驚き。
そして彼女の、深い愛情に対する感動。
色々な感情がない混ぜになって流れた涙。

智樹は、今度は自ら腰をかがめ、嗚咽を漏らす由香里の唇にキスをした。


初めてのすれ違いを乗り越え、智樹と由香里はさらに仲睦まじくなっていた。
付き合いだして最初の頃は色々影口を言っていた他の生徒達も、今では二人の仲を認めた(諦めた)のか、
今では当然のようにスルーしている。二人の前途は明るかった。

その日の放課後、智樹はちょっとした用事で職員室に呼ばれていた。
「やれやれまいったな。あの先生、話すと長いんだよな」
時間はもう6時をまわっていた。他の生徒は皆帰ってしまっている時間だ。
(由香里、待たせちゃったなぁ…)
そんな事を考えながら、職員室を出た時、智樹は思わぬ人物と出会った。
日に焼けた長身の体。
少し茶色がかった短髪。
真っ直ぐな瞳。

藤沢圭。
陸上部のエース。

一瞬、苦い思い出が智樹の脳裏に蘇る。
しかし、あれは誤解だ。それも自分の一方的な。
そう気持ちをねじ伏せ、智樹は藤沢とすれ違おうとした。
が…
「永沢…智樹さんですよね?」
意外なことに藤沢圭が話しかけてきた。


智樹の心臓が跳ね上がる。
「そうだけど…何か?」
平静を装い、智樹は振り返った。射るような藤沢圭の視線が智樹を貫く。
「……」
「……」
沈黙が続く。
長い。
先にしびれを切らしたのは智樹だった。
「用が無いなら帰る。彼女を…香坂由香里を待たせてるんでね」
言わなくてもよかった事かもしれない。しかし、智樹はあえてそれを口にした。
「マネージャーなら、もう帰りました」
「!?」
繰り出される藤沢圭の言の葉の刃。
智樹の背中に、一瞬で冷たい汗が迸る。
「どういう…ことだ」
「……」
「何とか言えよ!」
苛立ちを抑えきれず、藤沢圭に食って掛かる
「……」
少しの間の後、藤沢圭はやっと口を開いた。 
「俺、マネージャーに… 由香里先輩にに告白したんです」
智樹の思考が一時停止する。しかしすぐに持ち直す。
「そうか。…でも駄目だったんだろ。そんな事をわざわざ言いにきたのかよ?」
余裕をみせる智樹。
今まで培ってきた実績が、交し合った想いが、智樹の自身を後押ししていた。
しかし、藤沢圭は、変わらないその真っ直ぐな瞳で、

「条件付で…OKもらいました」

あっさりと、智樹の自身の鎧を砕いて見せた。





「何ぃ! 香坂に振られただって!?」
「まだ、そう決まったわけじゃないけど…」
電話の向こうで叫ぶ真二。対する智樹は完全に脱力しきっており、声には全く覇気が無い。
「とにかく何があったのか話してみろよ」
「ああ… 聞いてくれ…」

『香坂由香里が藤沢圭と付き合うのを「条件付き」でOKした』
揺るぎない眼差し。藤沢圭の、それは逆転の手札。
「由香里先輩に惚れたのは、陸上部に入って間も無くでした。
いつか告白しようって、ずっと思っていた。けど由香里先輩、かなりモテてたから気後れして…
そんなある日、先輩に彼氏が出来たってニュースを耳にしました」
藤沢圭は語り続ける。智樹は、聞き逃さないよう黙ってそれを聞いていた。
「…ショックでした。いつも応援してくれる先輩の為に、ずっと頑張ってきたのに…」
(応援…? 由香里が応援していたのはお前個人じゃない。陸上部全体だ。自惚れるな!)
智樹は心の中で毒づいた。藤沢圭の言葉、その全てが癇に障る…
「今日部活が終わった後、下駄箱で、あなたを待っている由香里先輩を見かけました。
30分経っても、1時間経っても、先輩は帰ろうとしない。それどころか待つのを楽しんでいるかのようだ。
…その姿を見て…待たせているのが俺だったらな、って考えたら…抑えられなくなって…」
「由香里に告白したのか」
はっきりと頷く藤沢圭。それを確認すると、智樹は一気に核心に迫った。
由香里が提示した、藤沢圭の告白を受ける…その「条件」。
「…由香里は何と?」
「…明日の午後、大会があります」
「?」
「そこで俺は自己新をたたき出します」
戸惑う智樹に自身たっぷりの笑顔を向け、藤沢圭は踵を返す。
「そしたら先輩は俺の物だ」


「成る程…そんなことが…なぁ…」
智樹の説明が聞き終え、溜息混じりに真二は呻いた。
「で、香坂に連絡は?」
「携帯の電源、切ってた」
「……」
長い沈黙。お互い何も喋らない。
こういう時の気が利いた言葉を、どちらも持ち合わせていないのだ。
「…待てよ…」
不意に真二が口を開く。何かに気が付いたらしい。
「智樹。お前…香坂との付き合い、手を抜いていなかったろうな?」
「…っ! 当たり前だ! 俺が由香里を蔑ろになんかするかよ!!」
いきなりの真二の言葉に激昂する智樹。それを受け、真二はある結論を導き出した。
「藤沢圭も…使ったのか?」
「…何をだよ」
「古井戸の呪い(まじない)を…!」
その言葉。久々に思い出す。かつて自分も使った、想いを捻じ曲げる、暴力的なまでの恋の捕縛。
あまりにも順調だった由香里との交際に、智樹は自分が犯した罪をすっかり忘れてしまっていたのだ。
「そんな… 藤沢の奴も…知っていたのか!?」
「それ以外は考えにくい。藤沢は、どこかで呪いの噂を聞きつけ、あの古井戸を見つけたんだ!」

(あんな出所の判らない胡散臭い噂を、果たしてあの藤沢圭が信じたりするだろうか?)

浮かび続ける疑問。勿論全てはifの話だ。だが、贔屓目に見なくても今日の展開は急すぎる。
「呪いの上書きか。やっかいだが、まだ手はある」
「え…何だよそれ。まだ俺に勝ち目が?」
「ああ。…ところで今何時だ?」
言われて智樹は廊下の壁掛け時計を仰ぎ見た。
「2時…40分か。随分話し込んじまったな」
「やっべえ!!!」
突如、電話の向こうの真二が叫んだ。
「智樹お前今すぐ走れ! 今すぐにだぞ!!」


授業が午前中で終わる土曜日、必然的に部活動の時間が長くなるのはよくある話。
智樹達が通う学園も例外では無く、長い時間を有効利用する部は多い。
特に陸上部は、近隣の学園と合同で毎週ちょっとした記録大会を催していた。

この日、永沢智樹の姿は大会を見学しようと学園に向かう一団の中に見られた。
内心今すぐにでも逃げ出したかった。が、それでも彼はやってきたのだ。
事の顛末を見届ける為に。
グラウンドでは、既に陸上部の面々はウォーミングアップを始めている。
到着後、すぐに智樹は由香里を探し始めた。陸上部マネージャーなら部員の近くにいるはずだから。
程なくして体操服姿の由香里が確認された。見ると藤沢の柔軟のサポートをしている様子だ。
足をハの時に開き、上半身を前に倒す藤沢圭の背中をぐいぐいと押す由香里。
「いって、いててて! 由香里先輩もうちっと優しく…」
「昨日も頑張りすぎたから… 全く、言っても聞かないんだから」
「え…いつもどうりだったでしょ? 大事な大会前にそんな…」
「はいはい誤魔化さない。筋肉・ガチガチに・なっ・てる・わ・よっ!」
ぐいぐいぐい!
「のぉ~~! ギブギブ!!」
(…あの二人、いつもあんな調子なのか…?)
言い様の無い不安に襲われるも、智樹は黙って観客の中に混じった。そしてその時を待つ…

大会は順調に進んでいく。100M走が済み、400M走も何事もなく終了。
そしていよいよ、藤沢圭が走る800M走となった。
「藤沢~! 行けー!!」
「藤沢ク~ン! ガ・ン・バ! キャア~ッ!!」
あちこちから声援が飛び交う中、由香里は黙したままだった。
手を胸の前で握り、祈るかのように瞳をぎゅっと閉じている。
その胸中にはどんな想いが、願いがあるのだろうか?
スタートの合図の空砲が鳴った。

歓声に沸くゴール前。
藤沢圭はやってのけたのだ。
自己新どころか大会新記録。
へとへとになって帰ってきた藤沢圭を、部員たちがもみくちゃにする。
その中には無論マネージャーの由香里の姿が。
汗だくになった藤沢圭を、抱きしめて称える由香里。
その姿を見た瞬間、智樹は己の敗北を悟った。

「おめでとう!やったね!!」
「ありがとう由香里先輩! これでやっと…ん?」
後ろに視線を感じ、藤沢圭は振り向いた。
そこには、神妙な顔をした智樹の姿があった。
「と、智樹クン…」
智樹がこの場にいたことに驚く由香里。しかし智樹は由香里に構わず、藤沢圭と向かい合った。
「おめでとう。君には感服した」
せめて最後ぐらいはカッコつけよう。そう考えての行動だった。スッと利き腕を差し出す。
「はぁ、ありがとうございます…」
怪訝な表情で、藤沢圭は握手を返した。
「これで念願成就だな、藤沢」
きょとんとしつつも、智樹の言葉を理解したのか、一気に真っ赤になる。藤沢圭は純情な男だった。
(由香里にはこんな男がふさわしいのかもな)
そんな事を考えながら、智樹は踵を返す。これが今生の別れ…
だが、奇跡は起きた。

「…由香里先輩。もしかして喋っちゃったんですか!?」
ギロリと由香里を睨む藤沢圭。あたふたと由香里はそれを否定する。
「そ、そんな事無いよ!? ね、智樹クン、私言ってないよ…ね?」
「え…?」
意外な展開に思わず振り向く。何が何だかさっぱりだった。
「彼氏に隠し事はしないっつっても、後輩の色恋沙汰まで喋るのは…行き過ぎだと思うんですがねぇ」
智樹の頭に?マークが行き交う。あせりまくる由香里が智樹に同意を求めてきた。
「私、言ってないよね? 藤沢君が好きなコの為に頑張ったこと、ばらしてないよね?」
「はああ?」
由香里の話はこうだった。
藤沢圭には、かねてより片思いしている相手がいた。思い悩んで先輩である由香里に相談した所、
由香里は、「この大会でいい記録を出して、それを告白するきっかけにすればいいよ」とアドバイスしたとのこと。
(ちなみに昨日由香里が電話に出れなかったのは、充電器を教室に忘れたかららしい)
話を聞くにつれて、智樹の顔に笑みが浮かぶ。そして藤沢に耳打ちする。
「なぁ藤沢、その好きな相手って…俺のクラスの後藤沙希?」
藤沢圭の想い人。その名前を、智樹は何故かあっさり看破した。
「ぐわぁぁぁっ!! そこまでバラしてたなんて、見損ないましたよ由香里先輩!!」
「あ~ん! 知らない。知らないよぉ!!」
とうとう二人は追いかけっこを開始した。それを見て部員達がどっと笑う。智樹も同時に笑いだす。
だが皆とは違う理由で…彼は笑っていた。
それは、前日の作戦が功を奏したことに対する、黒い歓喜の笑い。
この日以降、智樹の行動は逸脱を開始する。






大会前夜、智樹は深夜の街を全力疾走していた。
一発逆転の鍵。その在り処へと向かう為に。
おもむろに電話横に備え付けのホワイトボードを引っぺがし、小脇に抱える。マジックも忘れない。
そしてそのまま着替えもせず、寝間着のまま家を飛び出したのだ。
『智樹。ペースを乱さすなよ。休み無く走れば間に合う』
「はぁっ、はぁっ、オッ、ケェー…」
それだけ言って智樹は携帯電話を切った。
深夜の、一人きりでの滑稽なマラソン。少し冷たくなった空気が幾分か疲れを軽くしてくれる。
それでも帰宅部の智樹にとってはかなりのハードワークだった。

深夜2時55分。智樹は目的地に辿り着いた。
その場所とは…裏山の、あの古井戸。
「ハッ… ハッ… 間に、合った…!」
『よく頑張ったな。じゃあさっそくかかれ!』
「よ、よし… …………え?」
行動を開始しようとした智樹は愕然とした。
古井戸の前に…誰かがいる!
月明かりに照らされたその顔は…見紛うはずもない、あの藤沢圭だった!
「俺がこんなもんに頼ったなんて…ナンセンスだよなぁ。でもあの時は藁にもすがる思いだったし」
古井戸の前で独りごちる。それは、他力にすがった己を無理矢理納得させているかのように見えた。
(くそ、やはりアイツも知ってやがったのか…)
智樹は歯噛みした。リミットまで、あと僅かしか無いのに…!
『おい智樹、どうした?』
携帯から心配そうな真二の声が聞こえる。
「いやがんだよ…あいつが!」
『マ、マジかよ』
そんなことを話している間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。


「でも今日は、もの凄いチャンスが手に入った。神様のご利益も…少しはあったのかもな」
パンパンと井戸に拍手を打つ藤沢圭。彼の中で古井戸はそんな程度のものらしい。
だが今の智樹にはそのことに安堵している余裕は無い。
(帰れ!早く帰りやがれ!!)
このことで頭がいっぱいだった。
その後、ひとしきり明日への意気込みやら本番での走り方やらを確認した後、藤沢圭は裏山を降りていった。
瞬間、智樹が飛び出す。残る時間はあと僅か!
転びそうになりながらもホワイトボードを構え、マジックの蓋を口でねじり飛ばす。
『書け!誰でもいいから!』
焦り気味の真二の声。だが智樹も同じだ。急いで藤沢圭の名を書き殴る。

・藤沢圭


『あと10秒!』
「くそっ!!」
(誰でもいい。とにかく書くんだ!)
智樹は由香里以外の女子生徒を思い浮かべる。
真っ先に浮かんだのは、同じクラスの後藤沙希。クラスで一番の不細工。記憶に鮮明だったのもその所為か。
一瞬躊躇する。が、藤沢圭が由香里を狙っているという事実を瞬間的に再認識。怒りに任せて後藤の名を刻む。

・藤沢圭
・後藤沙希

(構うもんか。地獄に堕ちろ、藤沢圭っ!!)
書き終えるや否や、智樹は一足飛びで井戸に噛み付き、両手でホワイトボードをその奥底へ叩き込んだ。
『恋敵を他の相手とくっつける』
真二が提案した作戦。それは悪魔の采配。
間に合ったかどうかは神のみぞ知る。そんなタイミングで作戦は完了したのであった。

「ねぇねぇ知ってる? この間智ちゃんがね…」
「…へぇ、そうなんだ」
「古文の小テスト、問二の答えがわかんなかったよ」
「うん…あれ、難しかったよな」
放課後、いきつけのハンバーガーショップでの何気ない会話。
話題を振る由香里だったが、肝心の智樹はただ適当に相槌を打つだけだった。
(最近の智樹クンは何か変だ)
漠然とした不安が由香里を包む。しかし、由香里はめげない女の子だった。
「E組の松坂君って知ってる?」
ぴくっ!
智樹が過敏に反応した。おもむろに懐からメモ帳を取り出す。何かを書き、すぐ仕舞う。
「その人、麻衣子の彼氏なんだけ、ど……………ごめん、何でもない」
「そう…」
…そしてまた、心ここにあらず状態に戻る…
ここのところ、ずっとこんな調子なのである。
「……智樹クン。私といっしょじゃ…つまんない?」
「そんな訳ないじゃないか。楽しいよ」
「…ならいいんだけど」
弾まない会話。重苦しい時間。どちらとなく席を立った。

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