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大きなもみの木の上で(その3)

「おーーーーっす!!健二、学校行こうぜーーーーーっ!!」

いつものように、亮が僕を迎えに来た。
今日も朝から元気一杯だな、お前…
こっちは寝不足だというのに(自業自得)。
「おはよう藤井くん。今日もいい天気だね!」

そして亮の隣には仲村さんが。
どうやらここまで亮と一緒に来たらしい。

「おはよう二人とも。すぐ準備するからちょっと待ってて」

複雑な気持ちを振り払い、僕は登校の支度にかかった。

「ね、明日うちに遊びに来ない?」

学校に向かう途中、仲村さんがそんな提案をしてきた。
明日は土曜日。学校も午前で終了する。
誘いを断る理由などある筈も無い。

「おー、行く行く!絶対行くぜ!」
「うん、お邪魔させてもらおうかな」
僕も亮も二つ返事で了解した。

「お父さんがあのもみの木にハシゴと展望台を作ってくれたんだ」
「おおっ、何か秘密基地って感じだな」
「そうだな。そんな感じかも」

初めて遊びに行く仲村さんの家。
もみの木の秘密基地。
どんどんと広がっていく放課後のお楽しみに、僕のテンションは上がる一方だった。

が、それは不意に起こった。


「ところで亮君。昨日のアレ、美味しかった?」
「ん?ああ、あれ?」
「初めて作ったから、ちょっと自身無くて…」
「美味かったぜ。うちのかあちゃんの作るやつと張れるかもな」
「ホント?よかったぁ…」

おすそわけ。
お隣同士ならよくありそうなシチュエーション。
何てったっていわゆる
「スープの冷めない距離」
なんだから…

「おーい、健二?」
気が付くと目の前に怪訝そうな顔をした亮がいた。
「どうしたんだ?難しい顔して」
「あ、いや、何でも無い…」

どうやら、不機嫌が顔に出てしまっていたようだ。
慌てて取り繕うも、どこか白々しかった。

「藤井くん、気分でも悪いの?」
「いや、大丈夫だよ」
「そう、ならいいんだけど…」

くそ、仲村さんにも心配させてしまうなんて…
そう思い直すも、心の中のモヤモヤは一向に晴れなかった。


「はぁ…………」
その日の夜、またもやベッドの上で僕は悶々としていた。
だけど、昨日のそれとは決定的に違っていた。
思い悩むは、わからない何かではなく、突きつけられた現実に対して。

僕と仲村さん。
亮と仲村さん。

その距離の差は、すなわち一緒にいる時間の差だ。
より近にいたほうが、いいに決まっている。

「ふぅ…………」
この時点で、鬱な未来が確定したような気がした。
早いけど今日はもう寝よう…


ピンポーン。

何の前触れも無く玄関のチャイムが鳴った。
いや、チャイムに前触れも何もあったもんじゃないが。
ま、僕には関係ないや。

「健二ー! 友達が来てるよー!!」
1階から姉さんの声がした。
僕に…?
友達…亮かな?
とりあえず僕は下に向かうことにした。


1階に向かう途中、階段で姉さんとすれ違う。
「姉さん、ちょっと端によって…」
お互いに肩が当たるほどでニアミスする。
流石にこの階段も狭くなってきたな…
などと考えていると、
「この、このっ」
「おわっ!」
いきなりの姉さんの肘鉄攻撃に僕は危うく転びそうになる。
「何するんだよっ」
「いや~、健二もスミに置けないね~」
「…?」
意味不明の捨て台詞を残して、姉さんは自分の部屋に消えていった。


「こんばんは、藤井くん」
「あっ…」

玄関には予想だにしなかった人がいた。
両側で結ったおさげ髪をおろしてはいたが、

それは仲村さんだった。


「ど、どうしたのこんな遅くに」
「遅くって、まだ7時だよ?」

いきなりの事態に会話が変だ。
落ち着け、落ち着け…

「僕に、何か用?」
「うん、これを届けにきたの」
そう言って、仲村さんは布巾に包まれたあるものを差し出した。
透明のタッパーの中に、何か液体が入っている。

「これは?」
「フランス料理のスープで、えーと、ヴィシソワーズっていうんだ」
「スープ…もしかして仲村さんが?」
「うん」

驚いた。
まさか、おすそわけをわざわざ僕に届けてくれるなんて。
こんな夜に。
五分も歩かなくちゃならないのに。
お隣さんでも…ないのに…

「あ、これは冷たくするスープだからそのままで食べてね」

しかも冷めても大丈夫な料理を選んでくれている。
僕は感激のあまり胸が一杯になってしまった。

「……そ、そうなんだ。ありがとう、そうするよ」
「うん、じゃあ明日感想よろしくね」


なんだ。距離なんて全然関係無いじゃないか。
彼女のその心遣いを受け、一人悩んだいたことが急に馬鹿馬鹿しくなった。

「じゃ、私帰るね」
「あ、あのさっ」
帰ろうとする仲村さんを、僕は思わず呼び止めた。

「…?」
「ちょっと提案なんだけど」
「何?」

少し躊躇したが、僕は思い切ってそれを告げた。

「仲村さんのこと…これから名前で呼んでもいい?」
「えっ……」

(――そうさ。
 もしこの先、僕と亮とで彼女といる時間に差が出るというのなら)

「いや、友達なのに『仲村さん』『藤井くん』じゃ何かよそよそしいかなーって」

(自分からその差を埋めにかかればいいんじゃないか――)

「……」
「……」

沈黙が続く。それでも僕は彼女の返事を待った。


「…いいよ」
「ホント?」
「う、うん」
「じゃあさっそく……………………万理子ちゃん」
「わ…何か照れる」
「僕のこと呼んでよ」
「え…でも…」
「ほらほら早く」
「うー、うーっ」
「唸っても駄目」
「うー……………………………………健二くん」
「………(照っ)」
「こ、こそばゆいでしょ?」
「た、確かに… でもすぐに慣れるよきっと」
「…そ、そうだね、慣れるよね!」
恥ずかしいやりとりを終え、僕らはお互い笑いあった。
それから僕は当然の如く彼女を家まで送っていった。

初めての出会いは亮が先だったけど、
名前で呼び合ったのは僕の方が先だ。
これでおあいこだ。
…何がおあいこだ?

この競争心がいったい何なのかは、当時の僕はまだわかっていなかったと思う。
けど多分、
いや確実に、
この時、既に僕は彼女のことが好きになっていた。

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