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大きなもみの木の上で(その4)

「どうしたの? ぼーっとしちゃって」
もみの木をカットして出来たスペースに据え付けられた展望台。
昔の思い出に浸っていた僕に、上から話しかける誰かがいた。
「あ…」

いつの間に上の枝に登ったのだろう。
枝の隙間から差し込む光が、彼女の身体をスクリーンに幾重もの模様を描く。

―仲村万理子。
 いつも呼ぶ時は万里子ちゃん。
 でも心の中では万理子と呼び捨てだったりする―

夏休みの穏やかな昼下がり。
彼女が、僕のすぐ傍で微笑んでいた。


「おおおー!バッタ発見ー!!」

突如、木の下で何やらごそごそしていた亮が声を張り上げた。


「健二ぃー!仲村ぁー!バッタいたぞーー!!」
下から亮ががなりたてる。
どうやら僕らにそれを見せたくてしょうがないらしい。
…そんなにバッタが珍しいのか。

「相変わらずだよね」
僕はやれやれ、という表情で万理子に話しかけた。

が、彼女は、
「えっ、バッタ?見る見るー」
ハシゴをギシギシと揺らし、さっさと降りていってしまった。

落ち着いてそうに見えて、万理子は案外子供っぽい。


独り取り残された僕は、展望台に敷かれた毛布の上にごろりとなった。
「…僕が子供っぽくないだけか」
そうだよな。
年相応なら、こんなことよりも遊びに一生懸命なはずなのに。
だけど僕は今、別な考えに囚われているのだ。


「わーっ、凄いねー可愛いねー」
「可愛いか?どっちかっていうとかっこいいだろー」
「うんうん、可愛くてかっこいいよー」
しばらくして僕が木から降りた時でも、二人はまだバッタに夢中だった。
亮が手にしているバッタって…おや?
「これバッタじゃないよ。小翔稲子(コバネイナゴ)だ」

以前昆虫関係のサイトで見たバッタとは少し形が違う。足が長く、羽がかなり短い。

「田んぼとかにいる種類なんだけど、こんな所にいるのは珍しいな」
「へーっ、これイナゴっていうのか」
「さすが健二くん。何でも知ってるねっ」
二人の尊敬の眼差しに気を良くした僕は、更なる受け売り知識を披露することに。

「よく大群になって稲を根こそぎ食べ尽くすんだ」
「……!」

「佃煮にして食べたりする地方もあるらしいよ」
「……!!」

「で……あれ?」
ふと見ると、亮はイナゴを指先で恐々とつまんでいた。
隣には怯えた表情の万理子が。

「仲村はこれ…食う気あるか?」
「…やだ…怖い…」
「……ごめん」

どうやら、少しやりすぎみたいだった。


イナゴを逃がした後、僕らは万理子の部屋に移動した。
夏休みの友という名の宿敵を、三人がかりで片付けるためである。

「って、いきなりそれかよ?」
部屋に入るや否や、亮は鞄からクラスタ2を取り出した
そして、慣れた手つきで万理子の部屋のTVに接続していく。
鞄に課題は…入ってなかった。

「いや、算数は俺の専門外だし、今日のところは健二隊員と仲村隊員に任せるわ」
そう言い残し、亮は石版集めの冒険に旅立ってしまった。

「…いい加減慣れたけどね」
ま、亮には自由研究でその腕前を発揮してもらうとするか。
そう納得し、僕は算数の課題にかかりだした。

「…ねえ」

その時、万理子が不意に口を開いた。
それはすごく、寂しげな口調で。

「どうして亮くんは、私のこと名前で呼んでくれないの?」


一気に場が静かになった…気がした。

万理子はスカートの端を握り締め、俯いている。
対する亮はきょとんとしていた。
聞こえるのは、TVから流れる某RPGの戦闘シーンの音楽のみ。

そうなのだ。
僕ら三人が友達になってから、もうそろそろ1年。
だが亮は万理子のことを「仲村」と呼び続けている。
気にはなってはいたが、僕はあえてそれを万理子の前では追求しないでいた。

「私、初めて会ってからずっと亮くんのこと名前で呼んでるのに」

…だって、もし…

「もっと仲良くなれるようにって、頑張ってるのに」

…彼女がそれを知ってしまったらと思うと…


「ね、どうして?」
「どうしてって…」

万理子が亮を追及する。
だが、亮は答えない。
て言うか、答えにくそうな感じだ。

そりゃあそうだろう。

―以前、親友の僕にだけに教えてくれた、その理由―

あんなこと、言えないよな。
僕だったら絶対言えっこない。


「俺、決めてるんだよね」
「えっ?」
「女の子を名前で呼ぶのは、将来、お嫁さんにだけだって」

が、亮はいとも簡単に言ってのけた。
あっさりと。
こともなげに。

「そ、そうなんだ…」

この言葉を万理子がどう受け止めたのか。
彼女の表情からは、終ぞ読み取れなかった。


「そうだ!海に行こう!!」

僕は唐突にそれを提案した。
唐突なのは亮の専売特許なのだが、そんなこと構っていられない。

「け、健二くんどうしたのいきなり?」
「ね、二人とも来週海に遊びに行かない? 穴場があるんだ」

そんなものがどこにあるのかは知らないが、僕は言葉を続けた。

「人が少なくて、海が綺麗で、魚がいっぱいいるんだ!」
「ホントかよ!」

ああ、言ってしまった。
言ってしまったからには後には引けないぞ。
だけど、僕には必要なんだ。

挽回のチャンスが……!


二人と別れた後、僕は全速力で家に向かった。
さぁ今日から徹夜だ。
ブロードバンドの神様よ。
哀れな僕に、

『人が少なくて、海が綺麗で、魚がいっぱいいる』

そんな海をどうかどうか与えてください。


「今度は…これでどうだ!」

『無人』
『非汚染』
『大漁』

………

『キーワードに一致するサイトは見つかりませんでした』

「そりゃ駄目だわなー…」
僕はがっくりと項垂れ、さらに机に突っ伏した。
あの日からもう3日だぞ?
亮や万理子とも遊ばず、朝から晩までわき目も振らずサイトを巡回しているのに。
キーワードを変えても、リンクを辿り辿っても、全て空振りとは(涙)。
「あと、4日か…」
カレンダーに付けられた大きな赤丸。
8月5日。
この日、僕はあの二人を『人が少なくて、綺麗で、魚のいっぱいいる海』に
招待しなくてはならない。
ああ、あんな約束しなきゃよかった…
いまさらながらに自分の馬鹿さ加減に泣きたくなる。
泣きたくなるも、手はマウスをクリックし続けていたりして。
我ながら諦めが悪いなぁ…


「あれ?」

もう駄目だ、と思った時、
ふと、とあるリンクが目に止まった。

『~SECRET BEACH~』

シー…クレット…ビーチ…秘密の海?
どうやら海外のサイトのようだ。
そんな遠くに行けるはずもなかったが、何かの参考になればと
藁にもすがる思いで、僕はそのサイトにジャンプした。

しばしの間。
画像読み込み。
ページが表示された。

「え………?」

―――そこには、見たことも無い世界が展開していた―――


どこまでも青くひろがる空。
白いまでに澄んだ海。
風景からもこの場所が日本でないことがわかる。
だがそのホームページは妙だった。

「…入り口が無い」

そうなのだ。
TOPページにはタイトルと、来訪者の数を示すカウンター、
そして…目の覚めるような美しい海岸…の写真。
あるのはそれだけであった。

普通ホームページのTOPなら、入り口のリンクがあるはずだ。
なのに、この奇妙なホームページにはそれが無い。

単純に綺麗な海の写真を見せるだけのページ?
にしては…

『Today:0000106/Total:0033896』

来訪者の数があまりに多すぎる。
何かあると思った僕は、とりあえずソースを確認することにした。


「何も無いな…」
テキストが立ち上がり、ページ情報が表示された。
英語で書かれたそれを、英和辞書片手に調べていくも、特に怪しいところは無さそうだった。

15分ほどたっただろうか?
ガセかよ…と、そのページを消そうとした瞬間、それは起こった。

自動的に新たなブラウザが現れたのだ。
それも沢山。

勝手にジャンプを繰り返し、モニターが窓でいっぱいになっていく。
まずい。
どうやらブラクラ(ブラウザクラッシャー)を踏んでしまったらしい。
悪意を持って設置されたそれにアクセスすると、際限なくブラウザが開いていくのだ。
このままではパソコンがフリーズしてしまう!
僕は慌てて次々と窓を閉じていく。だが、それに負けない速度で新たな窓が開いていく。
「くそ、止まれ、止まれ!」
しばらくの格闘の果て、遂に窓の増加は収まった。
そして最後に残ったページ…そこには…

~SECRET BEACH~

それの真のTOPページが表示されていた。
今度はちゃんと『ENTER』が付いている。


正直、一瞬躊躇した。
またさっきのブラクラが仕込まれているんじゃないかと思ったからだ。
だが背に腹は変えられない。
僕は思い切ってENTERをクリック…した!

「え……!?」

予想だにしなかった展開に、僕は言葉を失ってしまう。

どこまでも青くひろがる空。
白いまでに澄んだ海。
風景からもこの場所が日本でないことがわかる。
だがそのホームページは妙だった。

画面の中で波に戯れる人々。
その全てが…全裸だったのだ。
しかも、そこには女性しかいない。


『ネット巡回中、たまにこんなエッチ関係なものを目にすることがある』
『どうせこんなの、スケベな中年のおっさんとかが見るものに決まっている』
『これは不潔なものなんだ』


自分が忌み嫌っているいやらしいホームページ。
その真っ只中に僕は飛び込んでしまったのだ。

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