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大きなもみの木の上で(その7)

「あ、危ない、藤井君!」
「え、ごふっ!!」
渡部さんの叫び声が聞こえた瞬間、目の前が真っ暗になった。
と同時に煌めくお星様。
前方不注意。
僕は真正面から木に激突してしまった。
「…ゃあっ!…井君、藤…君!!」
渡部さんが僕呼んでる気がするけど、意識が急速に遠のいているので、わからな、い…

「あ、気が付いた?」
瞳を開けると、目の前には何故か渡部さんの顔があった。
「あれ、一体どうして…って、あいたた・・・」
「駄目だよ。まだ横になってないと」
起き上がろうとした僕を、渡部さんが制する。
仕方なく僕は再び横になった。
「…あれ?」

僕の後頭部が、ふよん、とした柔らかな何かに当っている。


何だろう、と思った僕は、くるりと頭の向きをを180°変えた。
「きゃっ!」
急に飛び込んでくる、甘やかな香り。
「あ、いい匂い……え……足?」
「わぁん、やだやだっ、お願い上向いてて上!」

あ、そうか、僕は渡部さんに膝枕されていたのか。
そうとわかった途端、僕の鼻から鮮血が迸った。

て言うか鼻血だ。

「わっ、わっ、大丈夫?」
「あ、ごめん。ちゃんと上向いてなかったからかな」
「えっ…?」
「さっきぶつけた時、切っちゃったんだろうね」
「………そうなんだ」

僕の言葉に何とも複雑な表情を渡部さんは浮かべた。
はて… どうしてなんだ?


僕と渡部さんとの間にまったりとした空気が流れている。
僕が勝手にそう思っているだけかも知れないが、そんな気がした。
彼女の膝の上で、鼻血の回復を待つ僕。
そんな僕を、お母さんのような表情で見つめる渡部さん。
時折吹くそよ風が、その空気を乱さない強さで流れていく…

「ねえ、藤井君」
うとうとと、夢見心地な僕に、渡部さんが話し掛けてきた。

「あのね、お願いがあるんだけど」
「え、何?」
「目…つむってもらっていいかな?」

それは、いきなりのお願い。
何で?
寝なさいってこと?

「何か、渡部さんってお母さんみたいだ」
「えっ、どうして?」
「早く寝ろ、早く寝ろってせかすし」
「クスクス… そうじゃないよ。 目をつむるだけ」

どうやら寝なくていいらしい。
まぁ、目をつむる位なら…
僕はすっ、と目を閉じた。
でも、このままじゃ、
この心地良さじゃ、
すぐにでも、眠って、しまいそうだ…

「ん…」
その時、夢の世界に堕ちかけた僕を、確かな感触が現実に繋ぎ止めた。

急激な覚醒。同時に勝手に瞳が開く。
すると、さっきとは比べ物にならない位の至近距離で、渡部さんの顔があった。
繋がれた回路は、
僕の唇と渡部さんの唇。
手と手。
髪の毛が僅かに絡まりあう。

いきなりの渡部さんのキス。
僕は頭が真っ白になってしまった。

時間にして、10秒くらいしただろうか。
急に渡部さんは、僕から飛びのいた。
「わわっ!」
膝がいきなり離され、危うく頭を地面に打ち付けそうになったが、何とかセーフ。
「あ、あの、渡部さん?」
何が何だかわからず、僕は彼女の言葉を待つしかなかった。
が、彼女は真っ赤な顔をして、
「こ、こっちの方に綺麗な川があるの。 そこで水汲んでくるから、だから、待っててっ!」
そうまくし立てるや否や、物凄いスピードで走り去ってしまった。

あとには、一人取り残される僕が。


「あー……と」
混乱していた脳が、しだいに冷静さを取り戻していく。

「キス…だよな・・・やっぱり」

いわゆるファーストキス。
だが、不思議と感慨は無かった。
当然といえば当然。
だって相手が、好きな女の子じゃないんだから。

(この場合、奪われてしまったってことになるか)

別に初めてのキスに価値を見出すつもりはないが、嬉しいような、悔しいような、
妙な気持ちだけが心に残った。

「とりあえず、待つしかないか」
恐らく彼女は今も混乱しているだろう。
けどまぁ、戻ってきたら「アメリカ式の挨拶だったね」
とか何とか言ってお茶をにごしておくとするか。
気持ちは嬉しいけど、こういうことは、お互いの気持ちが通じ合ってこそのものだし。

そう考えることにした僕は、手近の座れそうな切り株か岩が無いか見やった。
「あれでいいや」
さっき僕が正面衝突した木、その下に手ごろな岩があった。
とりあえず、鼻血は止まったみたいだし、渡部さんの水を待つとしよう。

「あ、痛ぁっ!」

僕が二人の存在に気がついたのは、
丁度岩に腰掛けようとした、その時だった。


「中村、大丈夫か!?」
「りょ、亮君、助けてぇっ!」

突然の叫び声。
僕が背にしているちょうどその反対側。
背の高い草に阻まれて、互いの姿は見つけられない。

が、そこに、亮と、万里子は確実にいる。


「どうした! 怪我したか!?」
「うわぁぁん…い、痛い。痛いよぅ…」
さめざめと涙を流す万里子。
くそ、ここからじゃ様子がわからないじゃないか。
こんなこともあろうかと、簡単な応急処置なら事前に調べてある。
偶然を装って出て行けば…

今度こそ、僕が…亮じゃなくて、僕が万理子を助ける番だ!!


「亮君、あそこ、ひっく、さっきの、蛇!」
「くそ、この野郎っ!!」
どたばたと亮が暴れる音が聞こえる。
にもかかわらず蛇は難を逃れたらしく、草むらを掻き分け反対側にいる僕の横を通り過ぎていった。

(へ、蛇?)

悠々と去っていく蛇の後ろ姿は、毒を持たないシマヘビのようにも見えた。

(万里子は蛇に噛まれたのか!?)

が、一瞬の邂逅だったので、僕とて確信があるわけじゃない。
て言うか毒蛇に噛まれた時の対処法なんて調べていないぞ?

吸い出せばいいのか?
傷口を洗えばいいのか?
もっと適切な処置があるのではないのか?

駄目だ。 思考がまとまらない。


だが、そうこうしている間にも、万里子が…!


「中村、傷口見せろ!」
「うぇえん、えぇん…えっ!?」
「いいから早く! 毒が回ってもいいのかよ!!」
「ど、どうするの…?」
「そんなの、見てみないとわかんないって!」
真剣な亮の声。
亮はただただ、出きる限りのことをしようというのだ。

(バカな! 付け焼刃で治療なんかしたら逆効果だぞ!)

昔見た医療漫画で、そんなことが書いてあったっけ。
だから、うかつに素人が何かしちゃ、駄目なんだ…!

だがそれは…

「うん…わかった」

そんな考えは…

「 私は亮君のこと、信じてるから…」

他人がくれた免罪符を片手に、万里子の運命を亮に託しただけのことにすぎなかった…


万里子の前に、亮が位置する。

「さ、早く。 恥ずかしがって手下ろすなよ」
「う、うん」
促す亮に、意を決した万里子は恐る恐るスカートをたくし上げた。
ぴっちりと足は閉じているものの、そこには…

「馬鹿っ……はいてないのかよ…」
「だって… 来る時は服の下に水着着てたし… 服、濡れるの嫌だったんだもん…」

叱られた子犬のような表情の万里子。
羞恥に染まってはいるものの、スカートをたくし上げる手は、亮の言いつけ通り1ミリも下げはしない。

「ど、何処だよ。噛まれたの」
亮の方も真っ赤だ。
無理も無い。
初めて生で見る女の子の恥かしい部分だ。
こうして、草むらの影から遠目に、見ている僕でさえたまらないのだ。

(くそ、僕なんか、亮の頭が邪魔でちゃんと見えやしないというのにっ…!)

「あの、ここ…だと思う」
おずおずと、本当におずおずと、万里子がその固く閉じられた足を開いていく。
「うっ」
あまりの光景に亮がうめいた。
遂に亮の眼前に、万里子の最も深い部分が晒されたのだ。


(くそ、どけ、どけよ!)

僕は、万里子のその部分がよく見えないことに苛立っていた。
僕の盗み見ている位置からは、亮の頭が丁度ヌード写真の墨のように万里子の部分を隠しているのだ。

「ここだな… 確かに、何かが噛んだような傷痕がある」
「……お願い亮君…… ……吸い出して……」

消え入りそうな声での、万里子の懇願。
取り乱し、泣きはらした後の、脱力した表情。
乱れ、ほどけかけのおさげ髪。
そして、男の前でスカートをたくし上げる、その仕草。

その姿を見て、僕はこれ以上ない位混乱し、また興奮していた。

だが、亮にはそんな恍惚は無いようだ。
万里子のお願いに強く頷くと、秘密の場所に極めて近い、その患部に口を付け出した。


吸い付いては吐き出し、また吸い付く。そして出す。
亮は何度も何度もそれを繰り返す。

「うっ… ひんっ… きゃうっ…!」

その度に、万里子の口からため息にも似た声が漏れる。
まるでスイッチで喋る人形のように。

「ま、まだか? まだ楽にならないか?」
疲れてきたのか、亮が万里子に尋ねる。
が、しかし、息を荒げる万里子は答えない。

ただ、首を横に振るだけだった。

「…わかった。 もうちっと我慢しろよ」
それだけ言って、亮はまた治療を開始した。

…そしてまた、万里子の声が響き出した。


その光景を、少し離れた草むらから僕は見入る。
情けなさで心をいっぱいにしながら。


違う。
あれは違う。

万里子は、亮の愛撫(あえてこう言おう)に感じているんだ。

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