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大きなもみの木の上で(その9)
- 2006/08/13
- 09:27
ひとしきり泣いた後…
僕は姉さんに今までのことを吐露していた。
亮と万理子がお隣通しになったこと。
万理子と仲良くなろうと色々画策したこと。
山での亮と万理子の情事のことは…転んだ拍子にキスしてしまった…に変更はしたが。
そして、亮が万理子のことを、未来の結婚相手にしか使わない呼び方をしていること。
洗いざらい、告白した。
「…いろいろあったんだね」
姉さんは膝の上の僕の頭を撫でながら呟く。
「私もねー、去年失恋したんだ」
「え?」
「しかも親友のコにね、姉さん負けちゃった…」
「ホントに…?」
はっきりと頷き、そして姉さんは静かに語り出した。
姉さんの初恋…その始まりから終わりまでの昔話を。
「陸上部の先輩でさ、すっごくカッコいい人がいてね。
親友の智子と、二人してもう夢中だったなー。
でも二人とも告白する勇気なんてなくって…
そこで、二人して約束事をし作ったの。
おきまりの『抜け駆け無し』ってやつ。
ただ、見ているだけにしようねって、二人で決めたんだ」
「でもある日の部活後に、見ちゃったの。
先輩と智子がキスしているところ…
あはっ、ここなんか健二のと同じだね。
悲しかったよ。
失恋したことも勿論だけど、
律儀に約束を守った自分が馬鹿みたいで…悲しかった」
「次の日、智子に問い詰めたわ。
健二風に言えば、小一時間ってやつね。
その時言われたの。
面と向かって。
…泣きながら。
『負けるのが嫌だったから』…って、ね…」
「聞けばその先輩ってさ、実は私のことが好きだったんだって。
それを偶然智子は知ってしまった。
だから約束を破って、智子は先輩にアタックしたの。
そりゃあ物凄い猛アタックだったらしいわ。
そりゃそうよね。
告白前から絶壁だったら誰でもそうするよね。
それを聞いたらさー、何か怒りが収まっちゃった。
形はどうあれ、私は自分から勝負を放棄していたことに気付いたから。
だって、抜け駆けする機会は私にもあったんだもんね」
昔話のあと、姉さんは僕を抱きしめ、強く言った。
「ねえ、健二。
恋は早いもの勝ちじゃないから」
「…そうなのかな」
「それと、決定的な負けは意外と先なの」
「…そうなのかな」
「智子だって、もう好きな人がいる相手なのに諦めなかった。
そして今の恋を手に入れたんだから」
「でも…」
姉さんの話を聞いたものの、僕は納得できずにいた。
だって亮は万理子を将来のお嫁さんにしようと考えていて、万理子もそれを…
……
…
あれ…?
(万理子の気持ちを、僕はまだ確かめていない…?)
そうだよ。
僕は雰囲気や状況証拠だけで悪い方に思い込んでいただけじゃないか。
山での出来事も、事故といえば事故だ。
(それに…僕はまだ万理子に自分の気持ちを伝えていない!)
自分の中で決着がつくのは、どんなに劣勢でも、誰がなんと言おうと、その後でしかないんだ!!
「…姉さん…!」
「私の二の舞にならないようにね」
「僕、もう少し頑張ってみるよ!」
二人して笑い合う。
僕の中に、希望が生まれた瞬間だった。
勝手に踊るのは、もう沢山だ。
勝手に納得するのは、今日で最後。
そう決意した。
だって、僕の初恋はまだ終わっていないんはずなんだから。
8月31日。
夏休み最後の日。
今日は運命の日だ。
と言っても、僕が勝手に決めているだけなんだけど…
「準備は万端。
あとは、行動するのみ」
今日の午前11時。
僕は万理子と会う約束をしていた。
その目的はただ一つ、
(万理子に僕の気持ちを伝える)
この日のために、僕は周到な準備をしてきた。
それは、今までのような姑息な手段ではない。
夏休み前に、万理子が欲しいと言っていた駅前の店に飾ってあった銀のオルゴール。
天使がキスをしている様をかたどった結構大きな奴だ。
(\8,000-)
この前万理子が見たいと言っていた映画『マトリークス・ロリーデッド』
そのペアチケット(子供2枚)
(\2,000ー)
これを買うための費用一万円を、僕は自分で稼いだ。
親に頼み込んで、新聞配達のアルバイトの許可をもらったのだ。
仕事はきつかったけど、充実感があった。
金を稼ぐのが、こんなにも苦しいことだというのが骨身に染みた。
この品々は、僕の誠意だ。
真っ当な方法で手に入れた、僕の誠意。
それを万理子に届けたい。
そして、もし叶うなら…僕の気持ちを受け入れて欲しい。
だから僕は行くんだ。
真正面からぶつかっていくんだ…!
午前10時40分。
僕は約束の公園で万理子の到着を待っていた。
まばらに人がいるが、そんなのは気にもならない。
(万理子が来たら、どんな風に声をかけよう?)
(どうやってプレゼントを渡そう?)
(そして、どうやって告白しよう?)
頭の中をぐるぐると回る、答えの無い問いかけ。
一つ台詞が浮かぶと、顔が真っ赤になり、台詞は消し飛んでしまう。
そして、思考はハッピーな展開へと逃避する。
(万理子との初デートはやっぱ今日なんだろうな)
(『マトリークス』の前作は飽きるほど見た。話のネタには困らないだろう)
(帰りに、キ、キ、キスなんてまだ早いって…)
妄想でじたばたする僕。
周りはどんな目で見ていたのだろうか?
「けーんじっくんっ」
「や、駄目だってそんな…」
「健二くんってば」
「わ、はいいいっーーー!?」
「来たよー」
突然いきなりの非常事態宣言。
誰?
誰?
「ど、どうしたの健二くん…?」
「や、な、なんでも無い!無い!」
いかん。
いつものクールな自分はどこへいったんだ。
こうも取り乱す男だったのか僕は。
ええと、
まずは、
そう、挨拶だ。
「あ、あああのさ、こ、これあげるよっ!」
ずい、と。
いきなりオルゴールを進呈。
ななな何やってんだ僕の馬鹿ーーーーーー!!
「え、これって…」
包みを見て、万理子は中身が何かを悟ったらしい。
そりゃそうだ。包みには商品名が入っているんだし。
「休み前に、これ欲しいって言ってたろ?
だから僕、買ったんだよ。うん」
「こ、こんな高いもの、私貰えないよ…」
どうやら万理子は戸惑っている(バラクエ3風。ちなみにバラモンクエストの略)。
あああ、何を混乱しているんだ僕は。
順序も段取りもあったもんじゃない。
日々想像していたよりも、告白って難しいよ。
でも、
それでも僕は、
嘘偽りない気持ちを真っ直ぐに、この子に伝える。
その為に、今日まで頑張ってきたんじゃないのか?
だから…僕は…!
「受け取って欲しいんだ。
それ、僕の気持ちだから」
「えっ………?」
言った…
…遂に…言えた。
告白の台詞としては申し分無い。
何か、壁を突破したような気分だ。
この世界の全てが、ひっくり返って裏返ったような感覚。
言葉一つで、世界が変わる。
そんな高揚感が僕に溢れてくるのがわかる。
「………」
「………」
沈黙が続く。
恥ずかしくて万理子の顔が見れない。
が、彼女が返事に窮しているのが見なくても分かる。
だから僕は、これだけは決めておいた台詞を繰り出した。
「返事は急がないから。
じっくり考えてからで、いいからさ」
今ここで返事を求めるのはよくない。
いきなり告白されて、まともな思考が出来る人なんていないだろう。
ありがちな台詞かもしれないが、きっと間違ってはいないはずだ。
「じゃ、じゃあ、僕はこれで帰るよ…」
さっと僕は踵を返す。
映画のチケットはまた今度にしよう。
今は、これだけで十分…
「待って!」
予想外の展開。
万理子が、僕を呼び止めた。
僕は万理子に背を向けたままでで硬直。
何?
何が始まるの…?
「…私、健二くんのこと、好きだよ」
え。
う。
あ。
イマ、ナンテイッタノ?
好き…だって?
う、そ。
万理子が僕のこと、好きだって!?
背中に羽が生えたかのような、この開放感!
今まで重く圧し掛かっていたものが、空に消えていく。
また、世界が変わった。
僕が変え、万理子が変えたこの世界は歓喜に満ち溢れ…
たまらず僕は振り返った。
そして見た。
…万理子の涙を。
「でも私…」
まりこのこうげき。
「今、亮君とお付き合いしているから…」
つうこんのいちげき。
「ごめんなさい。もう約束の時間だから…」
ザラキ、
デス、
ムド、
マカニト、
ばどうぇーぶ…
あらゆる絶望が僕に降り注いだような気がした。
泣きながら走り去る万理子の背中。
それを呆然と見届ける僕。
世界は何にも変わっちゃいなかった。
ただ、僕だけが目を回していただけらしい…
僕は姉さんに今までのことを吐露していた。
亮と万理子がお隣通しになったこと。
万理子と仲良くなろうと色々画策したこと。
山での亮と万理子の情事のことは…転んだ拍子にキスしてしまった…に変更はしたが。
そして、亮が万理子のことを、未来の結婚相手にしか使わない呼び方をしていること。
洗いざらい、告白した。
「…いろいろあったんだね」
姉さんは膝の上の僕の頭を撫でながら呟く。
「私もねー、去年失恋したんだ」
「え?」
「しかも親友のコにね、姉さん負けちゃった…」
「ホントに…?」
はっきりと頷き、そして姉さんは静かに語り出した。
姉さんの初恋…その始まりから終わりまでの昔話を。
「陸上部の先輩でさ、すっごくカッコいい人がいてね。
親友の智子と、二人してもう夢中だったなー。
でも二人とも告白する勇気なんてなくって…
そこで、二人して約束事をし作ったの。
おきまりの『抜け駆け無し』ってやつ。
ただ、見ているだけにしようねって、二人で決めたんだ」
「でもある日の部活後に、見ちゃったの。
先輩と智子がキスしているところ…
あはっ、ここなんか健二のと同じだね。
悲しかったよ。
失恋したことも勿論だけど、
律儀に約束を守った自分が馬鹿みたいで…悲しかった」
「次の日、智子に問い詰めたわ。
健二風に言えば、小一時間ってやつね。
その時言われたの。
面と向かって。
…泣きながら。
『負けるのが嫌だったから』…って、ね…」
「聞けばその先輩ってさ、実は私のことが好きだったんだって。
それを偶然智子は知ってしまった。
だから約束を破って、智子は先輩にアタックしたの。
そりゃあ物凄い猛アタックだったらしいわ。
そりゃそうよね。
告白前から絶壁だったら誰でもそうするよね。
それを聞いたらさー、何か怒りが収まっちゃった。
形はどうあれ、私は自分から勝負を放棄していたことに気付いたから。
だって、抜け駆けする機会は私にもあったんだもんね」
昔話のあと、姉さんは僕を抱きしめ、強く言った。
「ねえ、健二。
恋は早いもの勝ちじゃないから」
「…そうなのかな」
「それと、決定的な負けは意外と先なの」
「…そうなのかな」
「智子だって、もう好きな人がいる相手なのに諦めなかった。
そして今の恋を手に入れたんだから」
「でも…」
姉さんの話を聞いたものの、僕は納得できずにいた。
だって亮は万理子を将来のお嫁さんにしようと考えていて、万理子もそれを…
……
…
あれ…?
(万理子の気持ちを、僕はまだ確かめていない…?)
そうだよ。
僕は雰囲気や状況証拠だけで悪い方に思い込んでいただけじゃないか。
山での出来事も、事故といえば事故だ。
(それに…僕はまだ万理子に自分の気持ちを伝えていない!)
自分の中で決着がつくのは、どんなに劣勢でも、誰がなんと言おうと、その後でしかないんだ!!
「…姉さん…!」
「私の二の舞にならないようにね」
「僕、もう少し頑張ってみるよ!」
二人して笑い合う。
僕の中に、希望が生まれた瞬間だった。
勝手に踊るのは、もう沢山だ。
勝手に納得するのは、今日で最後。
そう決意した。
だって、僕の初恋はまだ終わっていないんはずなんだから。
8月31日。
夏休み最後の日。
今日は運命の日だ。
と言っても、僕が勝手に決めているだけなんだけど…
「準備は万端。
あとは、行動するのみ」
今日の午前11時。
僕は万理子と会う約束をしていた。
その目的はただ一つ、
(万理子に僕の気持ちを伝える)
この日のために、僕は周到な準備をしてきた。
それは、今までのような姑息な手段ではない。
夏休み前に、万理子が欲しいと言っていた駅前の店に飾ってあった銀のオルゴール。
天使がキスをしている様をかたどった結構大きな奴だ。
(\8,000-)
この前万理子が見たいと言っていた映画『マトリークス・ロリーデッド』
そのペアチケット(子供2枚)
(\2,000ー)
これを買うための費用一万円を、僕は自分で稼いだ。
親に頼み込んで、新聞配達のアルバイトの許可をもらったのだ。
仕事はきつかったけど、充実感があった。
金を稼ぐのが、こんなにも苦しいことだというのが骨身に染みた。
この品々は、僕の誠意だ。
真っ当な方法で手に入れた、僕の誠意。
それを万理子に届けたい。
そして、もし叶うなら…僕の気持ちを受け入れて欲しい。
だから僕は行くんだ。
真正面からぶつかっていくんだ…!
午前10時40分。
僕は約束の公園で万理子の到着を待っていた。
まばらに人がいるが、そんなのは気にもならない。
(万理子が来たら、どんな風に声をかけよう?)
(どうやってプレゼントを渡そう?)
(そして、どうやって告白しよう?)
頭の中をぐるぐると回る、答えの無い問いかけ。
一つ台詞が浮かぶと、顔が真っ赤になり、台詞は消し飛んでしまう。
そして、思考はハッピーな展開へと逃避する。
(万理子との初デートはやっぱ今日なんだろうな)
(『マトリークス』の前作は飽きるほど見た。話のネタには困らないだろう)
(帰りに、キ、キ、キスなんてまだ早いって…)
妄想でじたばたする僕。
周りはどんな目で見ていたのだろうか?
「けーんじっくんっ」
「や、駄目だってそんな…」
「健二くんってば」
「わ、はいいいっーーー!?」
「来たよー」
突然いきなりの非常事態宣言。
誰?
誰?
「ど、どうしたの健二くん…?」
「や、な、なんでも無い!無い!」
いかん。
いつものクールな自分はどこへいったんだ。
こうも取り乱す男だったのか僕は。
ええと、
まずは、
そう、挨拶だ。
「あ、あああのさ、こ、これあげるよっ!」
ずい、と。
いきなりオルゴールを進呈。
ななな何やってんだ僕の馬鹿ーーーーーー!!
「え、これって…」
包みを見て、万理子は中身が何かを悟ったらしい。
そりゃそうだ。包みには商品名が入っているんだし。
「休み前に、これ欲しいって言ってたろ?
だから僕、買ったんだよ。うん」
「こ、こんな高いもの、私貰えないよ…」
どうやら万理子は戸惑っている(バラクエ3風。ちなみにバラモンクエストの略)。
あああ、何を混乱しているんだ僕は。
順序も段取りもあったもんじゃない。
日々想像していたよりも、告白って難しいよ。
でも、
それでも僕は、
嘘偽りない気持ちを真っ直ぐに、この子に伝える。
その為に、今日まで頑張ってきたんじゃないのか?
だから…僕は…!
「受け取って欲しいんだ。
それ、僕の気持ちだから」
「えっ………?」
言った…
…遂に…言えた。
告白の台詞としては申し分無い。
何か、壁を突破したような気分だ。
この世界の全てが、ひっくり返って裏返ったような感覚。
言葉一つで、世界が変わる。
そんな高揚感が僕に溢れてくるのがわかる。
「………」
「………」
沈黙が続く。
恥ずかしくて万理子の顔が見れない。
が、彼女が返事に窮しているのが見なくても分かる。
だから僕は、これだけは決めておいた台詞を繰り出した。
「返事は急がないから。
じっくり考えてからで、いいからさ」
今ここで返事を求めるのはよくない。
いきなり告白されて、まともな思考が出来る人なんていないだろう。
ありがちな台詞かもしれないが、きっと間違ってはいないはずだ。
「じゃ、じゃあ、僕はこれで帰るよ…」
さっと僕は踵を返す。
映画のチケットはまた今度にしよう。
今は、これだけで十分…
「待って!」
予想外の展開。
万理子が、僕を呼び止めた。
僕は万理子に背を向けたままでで硬直。
何?
何が始まるの…?
「…私、健二くんのこと、好きだよ」
え。
う。
あ。
イマ、ナンテイッタノ?
好き…だって?
う、そ。
万理子が僕のこと、好きだって!?
背中に羽が生えたかのような、この開放感!
今まで重く圧し掛かっていたものが、空に消えていく。
また、世界が変わった。
僕が変え、万理子が変えたこの世界は歓喜に満ち溢れ…
たまらず僕は振り返った。
そして見た。
…万理子の涙を。
「でも私…」
まりこのこうげき。
「今、亮君とお付き合いしているから…」
つうこんのいちげき。
「ごめんなさい。もう約束の時間だから…」
ザラキ、
デス、
ムド、
マカニト、
ばどうぇーぶ…
あらゆる絶望が僕に降り注いだような気がした。
泣きながら走り去る万理子の背中。
それを呆然と見届ける僕。
世界は何にも変わっちゃいなかった。
ただ、僕だけが目を回していただけらしい…