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大きなもみの木の上で(その10)
- 2006/08/14
- 07:26
夕焼けに染まった道を僕はトボトボと歩いていた。
でも、絶望しているわけじゃない。
万理子が言った言葉…
『…私、健二くんのこと、好きだよ』
『でも私…』
『今、亮君とお付き合いしているから…』
これが意味することがわからない。
万理子は僕が好きだといった。
でも亮と付き合っている。
これが今の状況。
ここから考えられる可能性は3つ。
①…万理子は僕も好きだが、亮のほうが好き。
だから亮と付き合っている。
②…万理子は僕が好きだが、今は亮と付き合っているから
僕の気持ちは受け入れられない。
(①なら、かなり劣勢だが望みはある。
僕が今よりも万理子の心をつかむことができれば、あるいは…)
(②もまだ可能性はある。
『…私、健二くんのこと、好きだよ』 の台詞が
亮との付き合いを告白する前だったことを考えると…)
そして最後の可能性。
つまり…
③万理子の気持ちが…
僕に対しては友達として好き。
亮に対しては…男として…好き。
(③なら絶望… 僕の失恋が確定する…)
曖昧な返事が欲しかったわけじゃないのに。
好きか、嫌いか。
シンプルな話じゃないか。
なのに何故、万理子はあんなことを言ったんだろう?
パッパァァァーーーーーーーー!!
「バッキャロウ、前見てあるきやがれ!」
トラックの運ちゃんに怒鳴られてしまった。
どうやら歩道をはみ出していたらしい。
(こんな気持ちのままじゃ、とても新学期を向かえられない。
だから僕は、真実を確かめなくちゃいけないんだ)
そんな結論に至った僕は、自宅へと足を速めた。
自宅に帰った僕は、父親の部屋からあるものを拝借した。
恐らく一般家庭には無いものだと思うが、
機械マニアの父親を持つ僕の家には「それ」があるのだ。
準備を固め、僕は目的地へと向かった。
(僕の初恋は、まだ続いているのか、それとも終わっているのか)
それを確かめるために、僕は行く。
目的の場所…すなわち万理子の家へ。
相変わらず万理子の家のもみの木は大きい。
いつものように木の幹に架けられたハシゴを上り、
てっぺん近くに備え付けの展望台を目指す。
ギシギシと音を立てながら…
丸太で組んだ展望台には座布団が3つ。
左から僕、万理子、亮の席だ。
(もう、ここに座ることも無くなるかもな)
僕の初恋の終わりは、そのまま亮達との友情の終わりだ。
いつか大きくなって、
いつか結婚して、
いつか子供ができて、
それでもなお、笑顔で二人と話せる自信が無い。
だから…
(もしも…もしも既に終わっているなら、僕を諦めさせて。
木っ端微塵になるくらいの止めを刺してよ)
この時、僕は半ば諦めかけていたのかもしれない。
展望台の指定席から万理子の部屋を見やる。
ここからなら一足飛びで万理子の部屋に入ることが出来る。
幸いカーテンは閉められてはいない。
誰もいないのを確信した後、僕は万理子の部屋に忍び込んだ。
久しぶりに入る万理子の部屋…
そこに充満する、女の子特有の甘い匂い。
だが、それに浸っている余裕は無い。
僕は目的のものを仕掛けるポイントを探し出した。
「ここは…目立つな」
「ここも…いまいち」
綺麗に並べられたぬいぐるみの影、本棚の隙間。
集音にはどれも向かない場所だ。
「どこか…いい場所はないかな…」
部屋をしばらくグルグルした後、僕はこれ以上無い隠し場所を発見した。
部屋の隅っこに、申し訳無さそうに置かれたオルゴール。
…今朝、僕が送ったオルゴールだ。
「そりゃ…デートには持っていけないよな…」
こみ上げてくるやるせなさを振り払い、僕はオルゴールの中の空洞部に「それ」を取り付けた。
これで完了。
あとは待つばかりだ。
僕はそそくさと万理子の部屋を後にした。
展望台に戻った僕は、用意していた毛布を被りヘッドホンを両耳にセット。
ほどなくして来るであろうその時を待った。
亮と万理子はただ今デート中。
万理子の親父さんは今週はパリにいるらしい。
だから
亮は
万理子の部屋に
寄るはず
だ
どこか遠くで犬が吼えている。
時間はもう午後八時。
(そろそろ帰ってくるかな…?)
僕は、静かにその瞬間を待った…
『ガチャッ』
心臓が跳ね上がる。
ヘッドホンにドアが開く音が響き渡ったからだ。
(帰ってきた…!)
僕は耳に全神経を集中させ、カーテンで見えない万理子の部屋の状況把握を開始した。
『は~、今日は疲れたよ~』
万理子の声だ。
親父さんはいないのに、開口一番こんなことを言うはずは無い。
ということはつまり…
『ホント、くたくただぜー』
亮が、いた。
予想通りの展開だ。
それが分かった途端、キリキリと軋み出す僕の心臓。
(おいおい、こんな展開があるかもって予想していたんだろう?)
自分自身に言い聞かせる。
落ち着くために、僕は深呼吸した。
『亮くん、ロビーで弾丸避けの真似なんかするから』
『へへ、似てただろ』
『すっごく恥ずかしかったんだから!』
『悪い悪い。でも似てただろ?』
『もう………うん』
どうやら今日のデートは映画だったようだ。
しかもその映画は…
はは… 笑いすらこみ上げてくる。
どうやら神様は、よっぽど①と②の可能性を潰したいらしい。
だけど、まだ真実は神様だってわからないんだ…
『あれ、万理子。そのオルゴールって…』
(やばい!)
亮が目ざとく僕が送ったオルゴールを見つけてしまったらしい。
このままじゃ…集音器が見つかってしまう!
『えと…それ…今日、健二くんが私にって…』
『あちゃー健二に先越されちゃったか。今までの貯金が無駄になっちまったな~』
『ごめんなさい… 亮くん、くれるって約束していたのに…』
『な、何だよ。謝ることないじゃん。
せっかく健二がくれたんだしさ』
『…うん』
そうだったのか。
それで今朝、万理子はあんなに困った態度だったんだな。
妙に納得がいってしまった。
そりゃそうか。
好きな人に貰うのと好きでもない奴から貰うのとでは、天地の差があるよな…
神様の望みどおりに穿たれる僕の心のデリケートな部分。
その底は、まだ見えそうにない…
『ところで亮くん、お風呂どうする?』
『シャワーでいいんじゃん?』
『じゃあ、沸かさないでおくね』
『オッケー』
どうやら亮は万理子の家で風呂をよばれるようだ。
万理子がいつも入っている風呂…
どんな造りなんだろう。
そこには、万理子のあのいい匂いのもとになってる石鹸やシャンプーが、あるんだろうな…
『今日はお湯張らないから100まで数えなくて済むなー』
『あー、シャワーにしようってのって、もしかしてそれが目的?』
『わはは、ばーれーたーかー』
楽しそうに談笑しながら、部屋を出て行く亮と万理子。
その瞬間、僕はとんでもない台詞を聞いてしまった。
『ちゃんと体も洗わなきゃ駄目だよ?』
『わかってるって。んじゃ背中はヘチマで頼むな』
『私の背中も流してね』
ヘチマ。
珍しい。
って、そんなのはどうでもいい!
(背中を流し合いっこ…
つまり、二人一緒に入るってことか!?)
まさか
二人の仲がここまでだなんて。
いや、待てよ?
僕は知識ばかりの頭でっかちだから、穿った見方をしているだけで…
あの二人は案外まだ子供なんじゃないか?
だって、
子供ならさ、
異性を意識する度合いが、
大人に比べて羞恥心とかが…
当の二人は既に階下だ。
そこでのやり取りはもう想像するしかない。
こらえきれなくなった僕は、二人がいない隙に部屋のカーテンを少し開けた。
次に起こることが何なのか、この目で見届けたくなったからだ。
二人が風呂から上がってくるまでの時間。
二人のいない時間。
この時間だけが僕が心落ち着けられる時間のはずだ。
なのに僕は、心のどこかで二人の帰りを待ち望んでいた。
でも、絶望しているわけじゃない。
万理子が言った言葉…
『…私、健二くんのこと、好きだよ』
『でも私…』
『今、亮君とお付き合いしているから…』
これが意味することがわからない。
万理子は僕が好きだといった。
でも亮と付き合っている。
これが今の状況。
ここから考えられる可能性は3つ。
①…万理子は僕も好きだが、亮のほうが好き。
だから亮と付き合っている。
②…万理子は僕が好きだが、今は亮と付き合っているから
僕の気持ちは受け入れられない。
(①なら、かなり劣勢だが望みはある。
僕が今よりも万理子の心をつかむことができれば、あるいは…)
(②もまだ可能性はある。
『…私、健二くんのこと、好きだよ』 の台詞が
亮との付き合いを告白する前だったことを考えると…)
そして最後の可能性。
つまり…
③万理子の気持ちが…
僕に対しては友達として好き。
亮に対しては…男として…好き。
(③なら絶望… 僕の失恋が確定する…)
曖昧な返事が欲しかったわけじゃないのに。
好きか、嫌いか。
シンプルな話じゃないか。
なのに何故、万理子はあんなことを言ったんだろう?
パッパァァァーーーーーーーー!!
「バッキャロウ、前見てあるきやがれ!」
トラックの運ちゃんに怒鳴られてしまった。
どうやら歩道をはみ出していたらしい。
(こんな気持ちのままじゃ、とても新学期を向かえられない。
だから僕は、真実を確かめなくちゃいけないんだ)
そんな結論に至った僕は、自宅へと足を速めた。
自宅に帰った僕は、父親の部屋からあるものを拝借した。
恐らく一般家庭には無いものだと思うが、
機械マニアの父親を持つ僕の家には「それ」があるのだ。
準備を固め、僕は目的地へと向かった。
(僕の初恋は、まだ続いているのか、それとも終わっているのか)
それを確かめるために、僕は行く。
目的の場所…すなわち万理子の家へ。
相変わらず万理子の家のもみの木は大きい。
いつものように木の幹に架けられたハシゴを上り、
てっぺん近くに備え付けの展望台を目指す。
ギシギシと音を立てながら…
丸太で組んだ展望台には座布団が3つ。
左から僕、万理子、亮の席だ。
(もう、ここに座ることも無くなるかもな)
僕の初恋の終わりは、そのまま亮達との友情の終わりだ。
いつか大きくなって、
いつか結婚して、
いつか子供ができて、
それでもなお、笑顔で二人と話せる自信が無い。
だから…
(もしも…もしも既に終わっているなら、僕を諦めさせて。
木っ端微塵になるくらいの止めを刺してよ)
この時、僕は半ば諦めかけていたのかもしれない。
展望台の指定席から万理子の部屋を見やる。
ここからなら一足飛びで万理子の部屋に入ることが出来る。
幸いカーテンは閉められてはいない。
誰もいないのを確信した後、僕は万理子の部屋に忍び込んだ。
久しぶりに入る万理子の部屋…
そこに充満する、女の子特有の甘い匂い。
だが、それに浸っている余裕は無い。
僕は目的のものを仕掛けるポイントを探し出した。
「ここは…目立つな」
「ここも…いまいち」
綺麗に並べられたぬいぐるみの影、本棚の隙間。
集音にはどれも向かない場所だ。
「どこか…いい場所はないかな…」
部屋をしばらくグルグルした後、僕はこれ以上無い隠し場所を発見した。
部屋の隅っこに、申し訳無さそうに置かれたオルゴール。
…今朝、僕が送ったオルゴールだ。
「そりゃ…デートには持っていけないよな…」
こみ上げてくるやるせなさを振り払い、僕はオルゴールの中の空洞部に「それ」を取り付けた。
これで完了。
あとは待つばかりだ。
僕はそそくさと万理子の部屋を後にした。
展望台に戻った僕は、用意していた毛布を被りヘッドホンを両耳にセット。
ほどなくして来るであろうその時を待った。
亮と万理子はただ今デート中。
万理子の親父さんは今週はパリにいるらしい。
だから
亮は
万理子の部屋に
寄るはず
だ
どこか遠くで犬が吼えている。
時間はもう午後八時。
(そろそろ帰ってくるかな…?)
僕は、静かにその瞬間を待った…
『ガチャッ』
心臓が跳ね上がる。
ヘッドホンにドアが開く音が響き渡ったからだ。
(帰ってきた…!)
僕は耳に全神経を集中させ、カーテンで見えない万理子の部屋の状況把握を開始した。
『は~、今日は疲れたよ~』
万理子の声だ。
親父さんはいないのに、開口一番こんなことを言うはずは無い。
ということはつまり…
『ホント、くたくただぜー』
亮が、いた。
予想通りの展開だ。
それが分かった途端、キリキリと軋み出す僕の心臓。
(おいおい、こんな展開があるかもって予想していたんだろう?)
自分自身に言い聞かせる。
落ち着くために、僕は深呼吸した。
『亮くん、ロビーで弾丸避けの真似なんかするから』
『へへ、似てただろ』
『すっごく恥ずかしかったんだから!』
『悪い悪い。でも似てただろ?』
『もう………うん』
どうやら今日のデートは映画だったようだ。
しかもその映画は…
はは… 笑いすらこみ上げてくる。
どうやら神様は、よっぽど①と②の可能性を潰したいらしい。
だけど、まだ真実は神様だってわからないんだ…
『あれ、万理子。そのオルゴールって…』
(やばい!)
亮が目ざとく僕が送ったオルゴールを見つけてしまったらしい。
このままじゃ…集音器が見つかってしまう!
『えと…それ…今日、健二くんが私にって…』
『あちゃー健二に先越されちゃったか。今までの貯金が無駄になっちまったな~』
『ごめんなさい… 亮くん、くれるって約束していたのに…』
『な、何だよ。謝ることないじゃん。
せっかく健二がくれたんだしさ』
『…うん』
そうだったのか。
それで今朝、万理子はあんなに困った態度だったんだな。
妙に納得がいってしまった。
そりゃそうか。
好きな人に貰うのと好きでもない奴から貰うのとでは、天地の差があるよな…
神様の望みどおりに穿たれる僕の心のデリケートな部分。
その底は、まだ見えそうにない…
『ところで亮くん、お風呂どうする?』
『シャワーでいいんじゃん?』
『じゃあ、沸かさないでおくね』
『オッケー』
どうやら亮は万理子の家で風呂をよばれるようだ。
万理子がいつも入っている風呂…
どんな造りなんだろう。
そこには、万理子のあのいい匂いのもとになってる石鹸やシャンプーが、あるんだろうな…
『今日はお湯張らないから100まで数えなくて済むなー』
『あー、シャワーにしようってのって、もしかしてそれが目的?』
『わはは、ばーれーたーかー』
楽しそうに談笑しながら、部屋を出て行く亮と万理子。
その瞬間、僕はとんでもない台詞を聞いてしまった。
『ちゃんと体も洗わなきゃ駄目だよ?』
『わかってるって。んじゃ背中はヘチマで頼むな』
『私の背中も流してね』
ヘチマ。
珍しい。
って、そんなのはどうでもいい!
(背中を流し合いっこ…
つまり、二人一緒に入るってことか!?)
まさか
二人の仲がここまでだなんて。
いや、待てよ?
僕は知識ばかりの頭でっかちだから、穿った見方をしているだけで…
あの二人は案外まだ子供なんじゃないか?
だって、
子供ならさ、
異性を意識する度合いが、
大人に比べて羞恥心とかが…
当の二人は既に階下だ。
そこでのやり取りはもう想像するしかない。
こらえきれなくなった僕は、二人がいない隙に部屋のカーテンを少し開けた。
次に起こることが何なのか、この目で見届けたくなったからだ。
二人が風呂から上がってくるまでの時間。
二人のいない時間。
この時間だけが僕が心落ち着けられる時間のはずだ。
なのに僕は、心のどこかで二人の帰りを待ち望んでいた。