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動き出した歯車(その8)

当日、俺はあいつの瑞々しいばかりの水着姿に見とれていた。
赤、黄、青、緑の鮮やかな原色の模様のビキニ、その体の端から生えている長くて細い手足、
小さな顔に一杯に浮かんだ笑顔。
すれ違う男たちは、みんな振り返っていく。
すげぇ、こいつこんなに綺麗だったんだ。

「どう、惚れ直した?」

「ばかやろ。」

それしか言えなかった。
俺がお前に惚れてるのは、先刻承知だろ。
今更、なんでそんな事を訊く?
全く、嫌がらせでしかないぞ。

確かにあいつは綺麗だ。
可愛い。
自分の事でもないのに自慢したくなってしまう。

でも、
今のあいつはすぐ目の前にいるのに、なぜか手が届かない、酷く遠くにいるように感じる。
なあ、香織、お前随分遠くにいっちまったなぁ。
そんな事をつぶやきながら、遠くの空を眺めていたら、

「どおしたの?」


耳元であいつの囁く声がした。
ドキ!
お前、こんなにすぐ近くにいたのかよ。
今の、聞こえてないかな?
ドギマギしていると、

「もぉ、こんないい天気なのに、そんなことしてると、あっという間に夕方になっちゃうよ。」

そう言うがはやいか、あいつは俺の腕を抱えて、プールサイドを走り出した。

「おい、ちょっと、どこ………行くんだよ。」

ピピーッ、笛が鳴っている。
やべ、俺たちの事だよな。

「そーれ」

ドボーン!
あいつに引っ張られて、プールに飛び込んだ。

ガハッ…ゲボッ…ゴホッ……
不意に飛び込んだものだから、鼻から口から水が入り込んで、息ができない。
苦しい
「プハー!」
ようやく顔が水から出せた。


「お前、何しやがる!」

と、その時
「プールサイドで駆けたり、飛び込んだりしないで下さい!!!」
監視員の人が俺たちを注意しに来た。

「「すいません、」「はーい、ごめんなさーい。」」

「見ろ、叱られちまった。」

「フフッ 御免御免、でも、目 醒めたでしょ?」

あいつは、にっこり笑っている。
此処しばらく見たことも無いような、飛び切りの笑顔だ。

「ああ……うん。」

「そ、……じゃあ、行こうか。」

好きな娘にあんな笑顔されたら、男だったら手も足も出なくなるじゃないか。
笑顔にすっかり丸め込まれてしまった。


「プールにきたら、まずは、ウォータースライダーだよね。」
快活なあいつらしい。

まず最初は、大きなタンデム型の浮き輪にお尻をいれてすべるやつだ。

「ひゃっほー」

あいつが、歓声を上げている。
浮き輪は、グルグルと回りながら、スライダーを比較的ゆっくりと降りていく。
目が回りそうだ。

それよりも問題なのは………

あの、……香織さん、私の足が、あなたの脇のあたりに当たっているんですけど。
というより、あなた様は、私の足を腕で抱え込んでいるのはお解りですか?
私の足の指先が、あなたの胸もとに触れて、勃ってきちゃったんですけど………
と、ゴール地点に着水、この状態から開放された。

「うーん、楽しいけれど、ちょっとスリルにかけるな。」
「よーし、次はあれだ!」

あいつが指差したのは、今まで滑っていた奴より、もう一段高いところにスタート地点がある
スライダーだった。

「私が先に行くね。」

かなり急に見える斜面を、平気で滑り降りていく。
続いて、俺も滑る。


滑り出して、カーブを一つ二つ曲がった時、誰かが止まっている。
ちょっと待て、ぶつかるー。
必死で手で制動を掛け、なんとかギリギリでそれにぶつかることは回避できた。
あいつだった。

「お前、何やってるんだよ。」

「一緒に行こ。」

言うが早いか、俺の太腿を両腕で抱える。
訳がわからず、手をついてもたついていると、

「手を離して。」
「早くしないと、後ろの人来ちゃうよ。」

つられて手を離すと、あいつはスライダーの床を手ではたいてスタートさせた。

「キャー!」

歓声を上げながら、滑っていく二人。
あいつは、俺の太腿をがっしりと抱えて離さないようにしている。

あの、香織さん、あなたのお尻のあたりに、私の股間が触れているんですけど。
ちょっと硬いような、変なものが当たっているはずなんですけど、気色悪くないんですか?

………と思うまもなく、着水。
ドッボーーーーーーーン。
仰向けに寝転んで着水したのか、上の方に水面が見える。


すぐに起き上がろうと思ったのに体が動かない。おなかの上に何か乗っている。
え?……びっくりしていると、鼻から水が入ってきた。
痛っ…………思わず口をあけた瞬間、大量の水が流れ込んできた。
いかん、溺れる!
必死でもがきながら、水面に顔を上げた。

「プハーーーーーーーーーー!」

「キャハハハハハハハ…」

あいつが笑っている、とびっきりの笑顔で。

「って笑う事かよ!危うく死にかけたぞ。」

「ひろクンが、しっかりつかまっていなかったからじゃない。人のせいにしないでよ。」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

「じゃ、ちょっとつかまってみて。」

と言って、俺に背中を向ける。

「こ、こうか?」

後ろから、あいつの臍の上あたりに手を伸ばして、組む。

「もっと上。」

「このあたり?」

「もっと。」

「ここか?」

「もうちょっと上。」

「ここ?」

「うん、そこらへん。」

あの、このあたりって、あなたが今つけているブラのすぐ下なんですけど。
何かで手がずれたら、すぐにあなたの おっぱい に触れてしまうのですけど。

「さ、行こ。」

あいつは、そんな事は微塵も気にしない様子で俺の手を取って階段を走り気味に登って行く。
自分たちの順番がきた。
さっきと同じように、あいつが先で、俺が後から滑り出した。
2つほどカーブを曲がると、あいつがいた。
真後ろにぴったりくっつくと、さっきあいつに言われた通り、あいつの胸のすぐ下に腕を伸ばして、
しがみつく。

「いくよ。」

そう言うと、あいつは手で勢いをつけて滑り出した。


俺の手は 腕は、今直接あいつの体に触れている。
その感覚は、何とも言えず心地よく、また 悩ましい。
今度は、密着していたせいか、パニックにならずに着水した。
同じようなことをして何度か滑ったと思う。

「今度は、ひろクンが先に行って。」
「さっきのところで待っててね。」

言われた通り、先ほどのところで止まって待っていると、すぐにあいつが追いついて来た。
あいつは、俺の後ろにつくと、すぐに手を伸ばして背中にしがみつく。

「レッツ ゴー。」

耳の側で、そっと囁いた。

あの、そんな耳元でそっと囁かれると、感じちゃうんですけど。
背中のあたりに、何か丸くて柔らかいものが当たっているんですけど。
股間のあたりのものが大きくならないよう、必死で理性で抑えていると、すぐに着水。
どぼーーーーーん。

いかん、香織の奴、着水前に手を放しちまったらしい。
仰向けに着水して、パニックになると危ない。
すぐに体を反転させ、あいつを抱きかかえると、すぐに上に引き上げた。

あいつは、すぐには状況が把握できなかったみたいだが、

「あ……助けてくれたの。ありがと。」


胸のあたりに、柔らかいものが二つ、俺の両脚の間に太腿らしきものが触れているのを感じる。
このまま、ずっとこうして抱きしめていたい。

「恥ずかしいよ。」

その言葉にハッとして両腕を離す。
そうだ。ここは公衆の面前だった。
しかし、場所もわきまえずに、抱きしめていたいなんて思ったのは、初めてだった。
やっぱり、あの日の事が俺の心の中を動かしているのだろうか。

「何ボーっとしてるの、行くよ。」

気が付くと、あいつはスライダーの階段に駆け出していた。
なあ、香織、今日のお前、すごく綺麗だ。
何でこんなに綺麗になっちまったんだ。



午前中は、殆どスライダーで遊んだ。
俺が前になったり、あいつが前になったり、
その間、あいつの素肌に触れる感触を喜んでいた。
こんな事でもなければ、触れる事のできない感覚。
いや、今までもこんなにあいつの肌に直に触れる事など無かった。
元々、抱きつき癖があって、他人に触ることに頓着しない方だが、こんなにベタベタ触れてくるの
は初めてだ。
今、気が付いた。


あいつは、まだ続けるつもりらしい。
「ちょっと待った。」
「さすがに、やばいぞ。」

どことなく監視員の視線がきつくなっている。

「なーに、そんなの関係ないじゃない。」

いや、関係あると思うぞ。
「いや、もう1時過ぎだろ、さすがに腹が減ってきた。」

「え!もうそんな時間?」
「あ……そう思ったら、私もお腹すいてきちゃった。」
「そうだね、昼ご飯にしよ。」

荷物の置いてある場所に戻った。
朝一で来た甲斐あって、そこは大きな屋根の下にビーチチェアが並んでいる、最高の場所だった。

「はい、お弁当。」

「え?そんなものまで作ってきたのか。」

「そうだよ。今日のために、気合入れて作ってきたんだから。」

中身は、おにぎり(かなり大きい)が数個、おかずに鳥のから揚げ、卵焼き、ハムサラダ、デザー
トに梨がついていた。
メニューは、なんて事の無いものばかりだけれど、普段 弁当を作り慣れていないあいつにとって
はなかなかの力作といえよう。


……と、ここでも思い出した。
俺は、あいつにお弁当を作ってもらったのは、これが始めてだという事を。

優しくしてくれるのは、嬉しい。ベタベタと甘えてくるのも可愛らしい。
だけど、

「なあ お前、先輩と何かあったのか?」

「へ? なんで?」

「いや、ここんとこ、俺に優しいから、先輩となにかあったのかな、と思って。」

「べ、べつに何も。……あれから何も進展してないし。」

「そっか。何だか急に優しくなったみたいで、何かあったのかと思ったけど、俺の勘繰り過ぎか。」

「そ、そうだよ。だって、夏休みの間、ずっと ひろクン、会ってもくれなくて、さみしかったん
だから、その反動がでただけだよ。」

その口調に、なにか引っ掛かりを感じたものの、納得させた。
俺の思い過ごしなんだ。

午後は、一転して流れるプールでマットにつかまってのんびりと流れに身を任せていた。
あいつは、自分の腕を枕にうつ伏せに寝そべるような格好で顔だけこちらに向けてのんびりとして
いる。
目は閉じられている。起きているのだか寝ているのだか判らない。
ただ、にっこりと笑みを浮かべてこっちにむいている。
それを見ると、何とも言えずほのぼのとした気分になってしまう。


今日一日、恋人気分を味わえたし、これはこれでいいのかもしれないな。

一日日に照らされて、赤くなった顔
小柄で、細く引き締まった肢体
その上を少しばかり被う、白い水着。
そんな、あいつの様子をボケーっして観ていた時だった。

「隙あり。」

言うが早いか、俺の唇に何か柔らかいものが触れた。

「?!?!」

「へっへっへー、ひろクンの唇、頂きー。」

「な、何する。」

「だって、いかにも『唇、奪って下さい。』なんて顔して寝そべっているんだもん。」
「そんな無防備な顔してると、もっとやっちゃうぞ。」
「それとも、その方が嬉しい?」

「べ、別にこんな事されても嬉しかーない!」

「あー、言ったな? それじゃ、嫌でも嬉しいと言うような事やってやる。」

そういうと、あいつはマットの上に膝立ちし、ブラのストラップをはずすと、胸をはだけさせた。

「お、お前、何やってんだよ!周りに人 いっぱいいるんだぞ!」

「関係ないよ。」

あいつは、俺の頭を抱えると、自分の胸に押し付けてきた。
一方の胸の先端が俺のほっぺたにあたり、もう一方が俺の目の前に鎮座ましまししている。

「どう、これでも嬉しくない?」

「あうあうあう………………
あまりに強烈過ぎて、声が出せない。

「そう じゃ、沈めー。」

ドボン。
水の中、直に鼻に口に、水が流れ込んでくる。
必死でもがきながら、何とかして水面に顔を出した。
「ハー、ハー、ハー、」

「大丈夫?」

後ろからあいつの声がした。

「大丈夫って、お前なにしやが………あれ、お前水着、着替えた?」

「何寝ぼけた事言ってるの。私、朝からこのままだよ。」

だって、さっきは白い水着で………、てあれは夢だったのか。
みると、午前中着ていた原色模様のカラフルな水着のままだった。


「もー、恥ずかしかったんだから。」
「居眠りこいて、いびきかいて、終いには『嬉しくない』だとか『あうあうあ』だとか言って、自
分でマットから転げ落ちるんだもの。」

「お昼、私に『何かあったのか』なんて訊いたけど、ひろクンこそ何かあったんじゃない?何か変
だよ。」

その途端、何か急に現実に引き戻された感じがした。
今までの、バカップルと呼ばれそうなほどの、いちゃいちゃぶりも、全て夢の中の出来事だったの
だろうか。
又だ。すぐそばに居るのに、何かあいつが酷く遠い所にいる。
或いは、何て言うんだろう、あいつの体の周りには薄いヴェールが掛けられている。
それ故に、俺はあいつに直接触れる事はできない。
ヴェールを剥がそうにも、それは肌にぴったりくっついて剥がす事はできない。
それどころか、そのヴェールはどんどん厚くなって、終いには俺の目の前からあいつの全てを覆い
隠そうとしている。
そんな不安感が俺の顔に出たのだろう、あいつは俺の顔を覗き込んで、訊いてきた。
「どうしたの?ぼーっとして。」
「つまらない?」

「いや、そんな事ない。」
「ただ、病み上がりなんでちょっと疲れたんだと思う。」

「そう、ならいいけど。」

「けど、………なんだよ?」

「いや、前はさ、具合が悪くても無理矢理平気な顔して、その後でぶっ倒れて大騒ぎになってたじ
ゃない。」
「ひろクンの、こんな顔見たこと無いから、どうしたのかな……て思って。」

「それだけ、この間の風邪が堪えたって事だろ。」

「そう、じゃ、今日はそろそろ上がろっか?」

全く、付き合いが長いと、ちょっとした心境の変化でも、すぐに感づかれてしまう。
簡単に嘘をつくことも、表面だけ取り繕う事もままならない。
しかし、顔に出していればそれはやがてあいつへの不信感を増やす事になる。
此方が相手に不信感を募らせていれば、相手方だって、此方を不信の目で見るようになる。
結果的には、二人の間の溝を、さらに広げることになってしまう。
だから、二人の間をさらに広げる事は、不安を顔に出すことは、極力避けなけれがいけないのかも
しれない。
少なくとも、あいつが、香織がこれ以上遠くに行ってしまわないようにするためには、この現状を
進んで受け入れなければいけないのだろう。
今は、こうやって、一緒に遊んで、にっこり微笑んでくれる。
時には手を繋いだり、腕を組んだり、膝枕をしたり、恋人同士に見えるようなこともしてくれる。
病気になったら、心配して看病したりもしてくれる。
確かに、他の人と付き合っているけど、エッチしているけど、俺とはしたくないと言っているけど、
俺がそれさえ我慢すれば、こういう関係は続いていくかもしれない。
少なくとも、単なる知り合いであるよりは、ずっとましじゃないか。
そう自分に言い聞かせておけば万事うまく行くのかも知れないと思った。
帰り道、あいつはすっかり疲れたのか、俺の手を握ったまま肩に頭をもたれ掛けさせて、眠っていた。

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