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動き出した歯車(その10)

連休明けの月曜日、俺は上機嫌だった。
コンクールの予選以来 トラウマとなっていた、『人前であがらずにピアノを演奏する』ということが、すんな
りとできた事、さらに、聴いて欲しい人に聴いてもらい、喜んでもらえた事、この二つの事が 今まで苦痛で
あった人前での演奏を、一気に快感に変えてしまっていた。
こうなると現金なもので、又やりたいと思ってしまう。
今度は何がいいだろうか。
やっぱり、定番のショパンでいくか、
それとも、ベートーベンにして、3大ソナタでも弾こうか。
いっそのこと、全曲リストにしてみようか、『巡礼の年第1年、第2年』一挙演奏なんて………ちょっとそれ
は無謀すぎるか。
などと妄想にふけりながら調子に乗っていたら、すっかり暗くなっていた。
彼女は、今日用事があるとかで、とうの昔に帰ってしまっている。
そういや、あの日は香織と遠野さんが鉢合わせして、あわや修羅場になるところだったんだよな。
あいつが、あっさりと引き下がってくれたから良かったけれど。
そういや あいつ、何かぶつくさいっていたよな、きっと俺への文句だったんだろう。
よし、今度やるときには、香織を呼んでやろう。………と待て、今何時だ?
時計をみると、7時を過ぎ、8時近くなっていた。
やばい、早く帰らなきゃ

職員室はすでに鍵か掛けられていた。
正面玄関に周り、事務の人にお願いして鍵を開けてもらい音楽室の鍵を渡して(散々文句をいわれた。)外に出
ると、真っ暗な中に星がきらきらと輝いている。
「とにかく、急がなきゃ」
通常だと、正面にある正門から出るのだが、一刻も早く帰りたい。
グラウンドの向こうにある通用門から出る事にしたのだが、このためには明かりのついていないグラウンドを
斜めにショートカットしなければならない。
足元が見えない真っ暗な中を歩くというのは、なれた場所でも結構怖いものがある。
おぼつかない足取りで、グラウンドの向側にある部室棟までたどり着いた。


既にみんな帰ってしまっているのだろう、しんと静まり返って物音一つ立たない。
通用門まではあと十数メートル、不気味なので足早に通りすぎようとした時、1箇所だけ部室に明かりが灯って
いるのに気付いた。

「何だ、俺以外にも物好きがいたのか」

そうつぶやきながらその部室に部室棟のそばを通りすぎようとした時、声が聞こえた。

「あぁ……はぁ、はぁ、はぁ……」
男の喘ぎ声、それに合わせて「じゅる、じゅる」という汁物でもすする音がする。
その音に思わず足を止めてしまった。

エロ漫画では、こういった部室で秘め事をするシーンは良くあるのだが、まさか我が校で現実におこっている
のを目にするとは、夢にも思わなかった。
こんな事本当にやるやつ、いるんだな。バレたら退学だぞ、一体誰だ?
ちょっと覗いてみるか、………………それじゃ出歯亀じゃん、帰ろ帰ろ。

興味もあり、後ろ髪引かれる思いもしたが、時間も時間だし、覗きという破廉恥な行為に対する自制心もあっ
て、その場を通り過ぎようとしたときだった。

「はぁ、はぁ、はぁ………気持ちいいよ、香織ちゃん」

香織?!
その言葉に血が逆流する。
足が先へと動かない。
そういえばこの声聞き覚えがある。
まさか、そんな…まさか…


おそるおそる声のする部室に歩み寄り、ドアに取り付けられているプレートを見た。
そこには、「 サ ッ カ ー 部 」という文字が薄暗い月明かりに照らされ、浮かんでいた。

嘘だろ、そんなの嘘だろ。
心臓は早鐘のように鳴り響いている。

まだだ、これだけじゃあいつだって決まったわけじゃない。
とにかく、もっとよく確かめなくちゃ。

ドアの側まで近寄る。
聞こえてくる音は、男の喘ぎ声と何かをすするような音、それにさっきより近寄ったからか、「ん……ん……ん
ん…」という女のくぐもったような声がリズミカルに聞こえてくる。
一体、中で何をやっているんだ。

中を覗けるような穴や隙間がないかドアの周辺をくまなく探してみる。
ドアと壁の隙間に目をやったものの、中は全く見えない。
だめか。とにかくもう一度良く探そう。
再度良く見てみると、ドアノブの下に鍵穴らしきものを発見、調べて見る。
かつては使われていたと思われるその穴は、現在はその役目をドアノブについた錠に譲り、単なる穴となって
いるようだ。
これに望みをかけて、その穴にそっと目を近づける。
部室の中が………見えた。


中では、男がこちらに背を向け、ちょうど肩幅程度に足を開いて立っていた。
その足の間から女の様子が見える。
跪いて男に正対しているのだろう、ちょうど男の膝のあたりの高さで女のスカートがゆらゆらとゆれていた。
女の片一方の手は男の腰に、もう一方の手は男の影で見えない。
一方、男の手は片方は女の肩に置かれている。
もう片方は顔に触れているのだろうか、肩から肘までしか見えない。
女の顔は、ちょうど男の股間の位置にあって、全く見えない。ただ、ちょうどそのあたりで何かが仕切りと動
いている様子が伺える。
おそらく、というか 多分間違いなく 男のペニスを女が口に入れている構図だ。
さっきから聞こえている音がそれを証明している。
「あ…あぁ……っあ…はぁ…くっ」…男の喘ぎ声
「じゅる、じゅる、じゅぽ、ちゅ、」……何かをすする音
「ん……ん……んん……」………何かで口を塞がれたと思われる女の声。

「ん…う…ぷはっ」
苦しくなったのか、えづいたのか、女が口の中のものを出したようだ。

「苦しかった?無理しないで、自分のペースでやってね」

「はい」

「それにしても、ずい分上手になったよね。ものすごく気持ちいいよ」

「……何回もやって、慣れてきたから……恥ずかしい…こんな事言わせないで下さい、やめちゃいますよ?」

「ああ、ごめんごめん。謝る。だからやめないで」


女の声はよく知った人の声だった。
いや、もう10年以上の付き合いのある人間の声だ。聞き間違えるはずも無い。
あいつの   香織の声だ。


香織が男のものを口に入れている。
しかも、もう何回もやって慣れている……

何故だ、何故なんだよ。どうしてなんだよ!何でこんな事やっているんだよ!
俺は、混乱していた。

冷静に考えれば なんていうことも無い。
あいつと中川先輩は恋人同士、しかも既にエッチ経験済みだ。
こういうことをしていても、別段おかしい事はない。
しかし、今の俺にはそんな事も解らなかった。
解りたくなかった。
目の前で行われている事が信じられなかった。
夢なら、覚めてくれと無言で叫んでいた。

いや、まだ まだだ。たまたま同じ名前で、声がそっくりという事もある。
だから、顔を見るまで、せめて背格好や髪型が解るまでは断言できない。

往生際が悪いとはこの事だ。しかし、何と言われようと『今 目の前にいる女=香織』という事を否定した
かった。殆ど間違いないのに、……ありもしない奇跡に 一縷の望みを掛けていた。


「じゅる、じゅる、じゅる、じゅる」
「ん、ん、ん、ん、ん」

音の間隔が短くなってきていた。
男の股間の影も、その動きは激しさを加えている。
フィニッシュが近づいているようだ。

「あ……あ……いく…でる…出る!!!」

「じゅるっ、じゅるっ、じゅるっ………」
「ん、ん、ん、ん、んんーーー、………げほっ、げほっ」

「大丈夫?気管にはいった?」

「…大丈夫…けほ…けほ…むせた…だけだから…けほけほ」
「ごめんなさい。………これだけは、まだ慣れなくて………」

「いいよいいよ、気にしないで。凄い気持ちよかったから」
「飲んでくれなかったのは残念だけど、慣れてきたらやってくれれば良いから」

「はい」

「じゃ交代。はい、立って」

その言葉に促されて、女が立ち上がり、男が女の前に跪いた。
ようやく女の姿が確認できる。



小柄で、スリムな体型。
細く長い手足。
小さな顔、、ショートでストレートなの髪。
大きな二重まぶたの目に、これまた大きく黒い瞳。
ちょっと低めの鼻、小ぶりな唇。

他に間違え様も無い。…………香織だった。

胸が苦しい。心臓がつぶれそうだ。
腹の中が熱い。内臓が焼け焦げそうだ。
地面が揺れる。天地がひっくり返りそうだ。

香織が、……俺の大好きな香織が、
……他の誰にも渡したくないのに、
………自分だけの彼女でいて欲しいのに………
今、他の男の目前でスカートをたくし上げている。

丸見えになったパンツを、男がゆっくりとずり下げていく。
完全に足元まで下ろすと、片方の足だけ抜き、そのまま反対の脚の足首に絡ませている。
足首に絡まった白い布切れが男の興奮をそそる。
香織は、スカートをたくし上げたまま、先ほどより脚を少し開いて立っている。
男は、剥き出しになった香織の股間に顔を押し付けると、ゆっくりと頭を動かしだした。


ピチャ、ピチャ、といやらしい音が聞こえてくる。
と同時に、香織の眉間に縦皺がより、口が半開きになる。
声が漏れた。

「あ………ん………はぁ…」
せつないような、甘ったるいような、なんともいえない淫靡な声だった。
いつのまにか香織の手は掴んでいたスカートを手放し、男の頭を掴んでいる。
まるで、自ら男の顔に自分の股間を押し付けているようだった。

やめろ、やめてくれ、もうやめてくれ!!!
心の中でいくら叫んでも、声は出ない。
こんなもの、もう見たくないんだよ!!!。
そう思っても、足は何かに縫い付けられたかのように動かない。
俺は、ドアの前に釘付けとなり、否が応でも、香織と男の情事を見せられる格好になっていた。
ドアを開けて乗り込む事も、ここから逃げ出す事もできない。

「ぁん……あ…んふ……はぁ……あ…」
香織の声は次第に強さを増していく。

「ちょっと香織ちゃん、声が大きい。聞こえちゃうよ」

男に言われて、香織は右手の人差し指を噛んで必至に声が漏れるのを堪えている。
もう片方の手は、相変わらず男の頭を抑えて自分の股間に押し付けている。
「ん……く……はぁ……んん……は…ぁあ……んぁ…
ちょっと前まで、つったったままだった香織の腰が、男の頭に合わせてうねうねと動きだしていた。


だめだ。
もうだめだ。
これ以上耐えられない。
気が狂いそうだ!

途端、呪いでも解けたかのように、今まで動かなかった脚が動き出した。

俺は…
俺は……
俺は…………へたれだ。
俺は……………意気地なしだ。
俺は…………………その場から逃げ出していた。


気が付いたときには、家のベッドの上だった。
制服も脱がず、布団もかぶらずにベッドに横になっていたらしい。
どうやって帰ってきたか、全く思い出せない。

ただ 一つだけ、家に帰ってきたとき 出てきた両親が怒ろうとしてそのまま黙り込んでしまった事、その
時のお袋の顔が まるで生き返った死人を見たかのような形相だったのはよく覚えている。

時計を見ると午前5時、外では新聞配達のバイクの音が聞こえていた。
眠ったという実感は殆ど、いや全く無い。疲労は全くといっていいほど抜けていなかった。
頭の中では、昨日のあのシーンが壊れたDVDデッキのようにエンドレスで再生されている。今も、ちょっと
気を抜くとそのシーンが目に浮かんできてしまう。

こういう事は、いつかは有ると思っていた。
でも、仕方の無い事と割り切ったはずだった。
実際、あいつから「先輩とエッチした」と言われた時も、(その時は酷くショックを受けたが)割り切る事で何
とか乗り切ってきた。
しかし、
しかし、実際にその場面に遭遇した時、そんなチンケ覚悟なんぞ、いっぺんに吹き飛んでしまった。
人(たとえ本人であれ)から聞かされるのと、実際に自分の目で見るのとでは、そのインパクトは天と地ほどの開きがあった。
もう、看病されても、デートでべたべたと甘えられても、前のように「これはこれでいいのかも」なんて考え
は絶対におきないだろう。

香織、俺 お前のこと、今までの様には見られないよ。


翌日、学校を休んだ。
無理も無い。自分自身でさえ、鏡に映った自分の姿にギョッとしたほどだ。学校に行ったら、みんなから化け物呼ばわりされかねない。
まして、あいつが見たら………
お袋からは、夕べ何があったのか、しつこく訊かれたが、到底答えられるようなことではない。結局、お袋の方が諦めたのか、答えず終いで何とか押し切る形となった。

いつのまにか眠っていたらしい。
夢の中で俺は『あの』場所にいた。
忌々しい場所、その中では既に「事」が行われていた。
中の人の声が聞こえる。
「今度こそ、やめさせてやる!」 そう意気込んで中に入った。

案の定、中では香織が男のペニスを咥えて、恍惚の表情を見せていた。
だが、その相手は……………

俺?

俺なのか?
だって、俺はいま此処に踏み込んで………

香織は、俺のペニスを口に含み、恍惚の表情で顔をグライドさせている。
どういう事だ?!あれは、俺なのか? 俺は、香織とやっているのか?

香織? 本当に香織なのか?

よく見ると、その顔は香織じゃなかった。
その顔は………


遠野景子だった。


何で? 何で景子が? 
何でだ? どうしてだ? どうしてなんだ?!!

夢はそこで終わった。
目を覚ましてみると、あたりは真っ暗、時計の針は午前2時を、日付の表示は水曜日を指していた。
寝巻きが汗でぐっしょり濡れて気持ちが悪い。
着ている者全て着替え、シーツを取り替えて床に潜ったものの、眠れそうにもない。

何であんな夢を見たのだろう。
あの夢は、俺の願望を表しているのだろうか。
とすれば、俺は 香織と同時に景子にまで、ああいう事をしたいと思っているのか。
好きな娘が他人とエッチして傷ついているというのに、好きな娘に同じ思いをさせたいというのか。
自分の気持ちがわからない。
俺は、誰が好きなんだろう。
誰に好きになってもらいたいのだろう。

水曜日、顔色の状態もかなり回復したようなので、学校に行く事にした。
「お前、その顔どうした?」
「もしかしたら、伊藤に完全に振られたか?」
教室に入った途端、級友たちは口々に勝手なことをいい始めた。

「うるせー、振られたのはとっくの昔だよ」
そう心の中で呟きながらやつらの言葉を聞き流していたが、その中で気になったことが1つ有った。
そいつらの言っている言葉の中に、昨日香織がどうこうした という事が一つも入っていなかった事だ。


もし、昨日この教室に来ていたのなら、「伊藤が来ていたけど、『田川は休みだ』と言った」といった類の話は
あるはず。
なのに、そういう話は一つも出てこない。まして昨日のあいつの様子などはこれっぽっちも出て来ない。
朝来て、あいつと顔を合わせたら、どうなるだろう と色々気に病んでいた俺の   は全くの徒労に終わっ
た。何だかホッとした反面、寂しさが付きまとう。
自分から、香織のことを避けようとしているのに、あいつがこちらに来ないと物足りなく感じる心理。
自分を理解できず、嫌悪してしまう。
一体、俺は香織との間をどうしたいのか。今度ばかりはどうしてもわからなかった。

2時間目の授業の後、香織は来た。

「あ、ひろクン、今日は来てたんだ……どうしたの、その顔?」
同時に体中の血管が縮こまり、血の気が引くのを感じた。
あいつの手が俺の顔に伸びてくる。

その手を払いのけろ。
そして言ってやれ。
「もう来るな、!」

しかし、頭の中で鳴り響いている言葉とは裏腹に、口は 手は全く動かなかった。
頬に、あいつの指先がそっと触れ、ゆっくりと唇の端に移動していく。

「大丈夫?無理してない?」
そんな優しい言葉を吐く香織に、級友の見ている手前邪険に扱う事も出来ない。

「別に、ゲームのやりすぎで疲れた所に、布団掛けないで寝たら風邪引いちまっただけだよ」

ようやく出てきた言葉は、あいつと決別するのとは正反対の言葉だった。


「どれ、熱は………ないようだね」
頬に触れていた手を額に動かし、自分の額と頻繁に移動させている。
手のひらの、指先の柔らかい感覚が伝わってくる。
それはとても心地よい感覚のはずだった。
しかし、今の自分はそんな感覚に浸ることは出来なかった。
心臓の方は外に聞こえるかと思うほど鳴り響き、あとちょっとすれば破裂するんじゃないかと思うほどだった。

結局、それを防いだのは、3時間目開始のチャイムだった。
「今日は、早く帰って休んだほうがいいよ。」
そう言って香織は自分の教室に戻っていった。
たすかった
アドレナリン噴出しまくりの状況が去って、ほっとする。
と同時に激しい嫌悪が自分を襲う。
あいつに対して、何もいえなかった。

昼休みは鐘が鳴り出すと同時に弁当を持って外へ駆け出していた。
勿論、昼休みに香織が来るとは限らない。
しかし、来れば午前中の二の舞、より自己嫌悪を深める事になってしまう。
これ以上自分の精神状態をおかしくさせないようにするためには、逃げるしかなかった。
あいつに対してきつい事を何もいえない自分の、悲しい自己防衛手段だった。


放課後、この日のピアノは最悪の状態だった。
つまらない所でミスタッチを頻繁に起すし、メロディーラインもアクセントもテンポも感情をそのままに写す
のか、荒っぽく、まるでやけを起しているかのようだった。

何かに没頭できれば、香織の事を忘れられるかも と思った。
しかし、現実は甘くない。
演奏に集中しようとすればするほど 一昨日みた光景が頭の中で渦巻き、集中力をかき乱していた。
どうにもならない怒り、悲しみ、焦り、喪失感。
思わず、鍵盤に拳を叩きつけようとして、後ろに一人ギャラリーがいるのを思い出し、手を引っ込めた。

「はー、今日は全然気が乗らないや。止め止め」

彼女に気を使わせないように、なるべく明るい口調で言ったつもりだった。
しかし、返ってくる彼女の口調は重たいものだった。

「どうしたの?」

「え?どうしたのって?なにか顔に着いている?」

「ううん、そうじゃない。今日の田川君、何か変だから」

「何か変て、何が変なのかな?」

「だって、田川君の演奏、こんな酷いの聴いたことが無いから」
「何か、怒ってて、悲しくて、やけをおこしているようで、とても聴いていられるような演奏じゃないから」

「そ…か」
女の感、とういうものは、男には誤魔化せないものらしい。


「ね、何があったの?」
「伊藤さんの事?…やっぱり、日曜日のことが………」

「それは、関係ないよ」
これは、俺と香織の問題、彼女は無関係だ。彼女を巻き込むわけにはいかない。

「一昨日、ちょっとテレビゲームのやりすぎで、風邪引いて、体調崩しただけだから」

「嘘」
「そんなの信じられない」
「今日のは体調が悪いとか、そういう状態の演奏にはとても感じられなかった」
「もっと、精神的な、何か焦っているような、そんな感じがした」
「ねえ、教えて。何があったの? 私に出来る事は何かないの?」

「だから、そんな事じゃないよ。ただちょっと風邪を………」

「やっぱり、私じゃダメなの?私じゃ力になれないの?」
「私、田川君の…あなたの 暖かくて、優しい演奏が好き」
「あなたには、笑顔でいて欲しい」
「だから、私………田川君のそんな顔みるの…つらい」

なぜ、そんな気になったのか解らない。
彼女に慰めてもらいたいなどとは、これっぽっちも思っていなかった。
むしろ、彼女を巻き込にたくなかった。彼女に責任など感じて欲しくなかった。
だけど、まるで何かに魅入られたかのように、自然と、本当に自然と、俺の口は言葉を吐き出し始めていた。

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