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動き出した歯車(その16)

8月某日、ひろクンのお母さんから電話があった。
アイツ、風邪引いて寝込んでるんだって。いわんこっちゃない、あんな無理な事して。
家に行ってみると、アイツは苦しそうな表情で汗をびっしょりかいて眠っていた。額にそっと手を触れてみる。
熱い。かなり熱あるみたいだ。何だか辛そう。
考えてみると、ひろクンのこんな所見たの、初めてだ。
丈夫だったものねー。小学校のときは、6年間皆勤賞だったし、中学も自分のことで休んだ事なかったし。
そういえば、私ってばひろクンに介抱されてばかりだ。
足を怪我したり、学校で気持が悪くなったりして、よくひろクンにおぶさって家に帰ったっけ。
あの背中にしがみつきながら揺すられているのが妙に心地よくて、ちょっとの事で『おんぶ』ってねだったりしたんだよね。
ひろクン、文句一つ言わないで 黙って背負ってくれたっけ。

何か、昔の事を思い出したら、急にひろクンのことが愛しく思えてきた。やっぱり、色々やってもらったんだから、今度はやってあげなくちゃね。
結局、3日間看病する事になった。
結構大変だったけれど、最後にアイツから『ありがとう』って言われたら、大変さや疲れが全て吹き飛んでっ
た。
ひろクン、その言葉だけで嬉しいよ。




2日後、電話があった。
この間の看病のお礼がしたいから、プールに行こうって。
やったね。別に見返りを期待してたわけじゃなかったけど、『お礼をしたい』なんて言われると、やっぱり嬉しい。
これは、デートだよね。よし!まずはお弁当を作って持っていこう。それから、水着はこのビキニで悩殺し
ちゃえ。当日はうんと甘えてやるんだ。もう、ベッタベタにくっついて、離れないんだから。


抱きしめられてしまった。
ウォータースライダーで溺れかけて、パニックになってしまった処を、さっと抱きかかえて助けてくれた。
そしてそのまま、ギュっと抱きしめられた。
どうしよう、胸がドキドキして、思わずアソコが『ジュン!』てなっちゃった。
恥ずかしい……でも、もう少し こうしていたい。
なのに、「恥ずかしいよ」って言った途端、やめられちゃった。……ちょっぴり不満。
やっぱり、こういう恋の駆け引きは先輩の方が一枚上手だよね。

お昼を食べて、午後は流れるプールでのんびりとすることにした。
マットにつかまって流れに身を任せる。
アイツと一緒に何もするわけでなく、目を瞑って流されていた。
ふと横を見ると、ひろクンは眠っていた。
もー、せっかくのデートなのに、眠っちゃう事ないでしょ。
そう思って、寝顔を覗き込む。何だか寝顔が可愛い。
今なら、大丈夫だよね。
回りを見渡して確認すると、顔を近づけて その唇にキスした。
へへへ。ひろクンのセカンドキス、頂き。
え、ファーストキス?
ファーストキスは、多分ひろクン覚えていないと思う。幼稚園の時の事だもの。


この後、ひろクンの顔色があまりよくないので、早めに帰ることにした。
駅について、電車を降りて10分、そろそろ今日のお別れの時がやって来つつあった。
50mほど先の角を右に曲がるとアイツの家。真っ直ぐ進むと私の家。
あとちょっとでデートは終わり………でも…でも、もし『もうちょっと一緒に』って言われたら……もし、『家
によっていかない?』なんて言われたらどうしよう。
胸が、破裂しそうなほどドキドキ鳴り響いている。
もしひろクンに迫られたら……今なら、多分OKしちゃう。

『先輩との約束はどうなったの?』
もう一人の私が叫ぶ。

『約束はどうでもいいの?そんなに簡単に約束破れるの?』
うるさい!そんな約束してないよ!
確かに、ひろクンとセックスする事は、当分無いっていったよ。でも、それは私にそういう気が無いって言う
事。気が変わることは無いだろうって事で、『しない』って事を約束したわけじゃないよ!
これから起こるであろう事を正当化するために、屁理屈で自分自身を無理矢理説き伏せようとする。なんて滑
稽なんだろう。
でも、でも今の自分の思いを遂げられるなら、滑稽といわれようと何と言われようと……先輩、ごめんなさい。

「じゃあな。楽しかったよ」

「え?……あ、ああ。私も、楽しかった。じゃあね」
何よ、もうこのまま帰っちゃうの?

ハプニングは起こりそうにも無い。アイツと別れて、我が家へと足を動かしていく。
体が重い。今日の疲れがここに来てドッと出てきたようだ。



思っていた事は、なにも起こらなかった。
そうだよね、だってあの「ひろクン」だもの、アイツから誘ってくるなんてありえないよね
乾いた笑い声が胸の中で響く。

ひろクンのバカ。意気地なし

なんて言えないよね。

結局先輩との約束が破られる事はなかった。

家に着いて携帯を見ると、電源が入っていない。
いっけない。水着に着替えた時に切ったままだった。
電源を入れて、メールボックスを覗く。
何通かメールが入っていた。先輩からは……6通!
きっと返事が無くて、苛々して何度も送ったんだよね。ごめんね、先輩。
最新のから開いていく。

『何度メールしても返事が無いのは不安だよ。どうしたのかな。ひょっとして、何かあった?
昼間から何度電話しても『圏外』の案内が流れて、メールに切り替えて送っても何も返事が無くて、寂しくて不安でどうにかなっちゃいそうだよ。
ひょっとして、彼とデート?デートだけなら良いけど、もしかして……そんな事無いよね。ちゃんと約束したも
のね。信じてるよ。
このメールを見たら、お返事ください。』

先輩、気が気じゃなかったみたい。
取り合えず、先輩に電話して今日の事を話す。不満げな口調ではあったものの、ほっとした様だった。
よかった………んだろうか………こういう関係が、このまま続いていくのかな?
何事も無かった様に、一日が……夏が終わろうとしていた。



2学期が始まった。
1学期の終わりにギクシャクしかけた、アイツとの仲は元に戻った様だ。
朝、アイツの教室に出かけて、ちょっとしたお喋りをする。
昼休み、アイツと アイツのクラスメイトと一緒にお昼御飯を食べる。
入学以来繰り返されてきた行為は、2学期になっても何も変わらず執り行なわれている。
わだかまりは感じられなかった。アイツの表情からは、そういうものを感じ取る事は無かった。

多少の問題は抱えているものの、ずうっとじゃないものの、暫くは今の関係が続いていくと思っていた。

あの日までは…



九月某日、秋の彼岸の連休最終日。
この日は部活も無く、(秋の新人戦は、県大会2回戦で早々に敗退)丸々一日空いた日だった。
天気は……抜けるように様に青い空、眩しい太陽、所々にぽっかりと浮かんだ綿毛のような雲、文字通りの秋
晴れだった。
こんな時は、誰かを誘って外で遊ぶに限る。
先輩は、県ユースの合宿とかで、無理。とすれば、残る選択肢は一つしかない。
アイツの携帯に電話をかけた。
……空しく、『圏外』のアナウンスが流れる。あのバカ、また電源切りっぱなしだよ。
この時間帯なら、まだ家にいる筈、家の電話にかけてみた。

「はい、田川です」
おばさんの声だ。

「あ、もしもし、香織です。ひろクン…

「え?香織ちゃん?!どうしたの?何かあったの?」

何かびっくりしている様子。『何かあったの?』って、こっちが訊きたいよ。なんなの?いったいどうしたの?

「あの……私、今日起きて、初めて電話したんですけど……
話が見えない。

「あ……そうなんだ。いえね、てっきり博昭と一緒だとばかり思ってたから……ったく、あの馬鹿こういうの
に香織ちゃん誘わんでどうするっちゅうの」

「…ひろクン、どっか出かけたんですか?」

「そーなのよ。何だか、恵比寿の『ガーデン何とか』って所でピアノ弾くんだって。おばさん、てっきり香織
ちゃんに聴かせるんだとばっかり思ってから……

聞いてない、そんな事。恵比寿ガーデンプレイスでピアノを弾くなんて事、アイツはこれっぽっちも話さなか
った。
あの時の事が、思い起こされる。
中学の時の事、満を持して臨んだはずのピアノコンクール。ガチガチにあがって、ズタボロになってしまった演奏。あのときのアイツは、激しく落ち込んで 見る影も無かった。
恐らく、あの時のことが理由で呼ばなかったんだと思うけれど……だけど、わたしにまで秘密にしておくなん
て、酷いよ。
私があんたのピアノ、貶すなんてこと無いの知ってるでしょ。あの時だって、私はあんたのピアノ、良いって言
っただからね。それなのに、何で話もしてくれないのよ。
悲しくて、腹立たしかった。
とにかく いかなくちゃ、その場所へ。
おばさんに場所と開始時刻を聞いて、大急ぎで支度して家を飛び出た。
いそがなくちゃ。あいつの演奏時間に間に合わない。


会場では、アイツが演奏をしている最中だった。
曲目は、何だかわからない。
何だかギクシャクした演奏だなー。強弱もテンポもバラバラ、まるで、あの時の演奏を聴いているようだ。
しかし まあ、仮にもプロを目指していた人が、こんな出来栄えでよく人前で弾く決心がついたと思うよ。
ボロボロの演奏が終わり、次の曲が始まった。
出だしの音が鳴った途端、雰囲気がガラリと変わる。さっきとは全然違う。何、これ?

聞いたことのない曲だった。
スローなテンポで優しげなメロディーが私を包み込んでいく。目を瞑ってその流れに身を任せたくなる。
一音一音研ぎ澄まされているのが、肌で感じられた。ひろクン、すごい集中している。
アイツがこんな演奏するだなんて、知らなかった……ていうか、今までこんな演奏したところ、見たことがない。
確かに、やさしく包み込むようなこの感じは、いままでのアイツの演奏そのものだけど、前はもっとぶっきらぼうで、ミスも多くて、今日みたいに一つ一つの音の響きにまで神経を配った演奏は初めてだった。
すごい。それに、暖かい。まるでお母さんにだっこされてるみたい。
ううん、違う。これはアイツだ。ひろクンに抱きしめられているんだ。
丁度、アイツに後ろからそっと抱きしめられているみたいで、何だかドキドキした。(あそこもちょびっと濡れ
ちゃった)
演奏が終わった。周りにいる人たちも感激したみたい。席を立って精一杯の拍手をしている。
その事が、何か自分がされているみたいで、嬉しかった。
しかし、まあこんなすごい演奏ができるのに、何で今日やる事を黙っていたんだろう。
アイツが演台を降りて、2歩3歩と何処かへ歩き出そうとしている。あー、やっぱり私の事気付いてないか。
しょうがないなぁ、もう……ちょっと、ひろクン……


迂闊だった。
ピアノの演奏なんだから、そのことは充分予想にいれて然るべきだった。
なのに、何で気が付かなかったんだろう。………多分、気が付きたくなかったんだと思う。
私の目の前には、アイツがいて、その横に遠野さんが不安そうな眼差しでアイツと私を交互に見やっていた。
すごい美人。清楚で、理知的で、優しそうで。
自慢じゃないけど、私もルックスには自信がある。でも、この人には到底かなわない。
さすが、我がS校どころか地区内近隣の学校を含めてもダントツ一番の美少女と噂されるだけある。
でも、何故この人なの?何故私じゃないの?
なんで……この人は呼んで 私は呼んでくれなかったの?
ねぇ、答えてよ。黙ってないで何とか言ってよ!私の事なんかどうでも良くなったの?!
胸の辺りが締め付けられるようで 痛い。むかむか吐き気がしてくる。
この気持が嫉妬?私、やきもち焼いてる?
何だろうね。先輩とエッチまでしているんだもの、アイツが他の女の子と仲良くしてたってあたりまえの筈な
のに、こんな所は余裕で受け流す所なのに…やきもち焼いて、非難の目をアイツに、その女に向ける…醜いね。
なのに、胸の辺りには、モヤモヤとした感覚が絶えず湧き上がっていた。
アイツの、彼女の顔を見るほど湧いてくる、不快なモヤモヤ。
頭では解って、自分にそう言い聞かせたところで、それが晴れる事は無い。
むしろ、思えば思うほど酷くなっていく感じがする。
眩暈がしてきた。立っているのも限界だった。



電車から見る外の景色は、行きの時とはガラリと様相を変えているように見えた。
空はどんよりと灰色に染まり、薄暗い。(晴れて、太陽が輝いているのにね)

「ひろクンにもこういう可愛いガールフレンドがいたなんて、知らなかったからちょっとびっくりしたけれど、お姉さん嬉しいよ。」
無理矢理そう言って帰ってきちゃったけれど、勿論本心からそう言ったわけじゃない。
ただ、あの場にはあれ以上いる事はできなかった。
アイツの顔を、見たくなかった。

あの場所で感た胸の辺りのモヤモヤは、一向に晴れる気配を見せなかった。
『このまま、ひろクンとの関係が薄くなって、先輩とだけになってしまうんだろうか』
帰りの電車の中で、ボーっとしながら、そう言う事を考えた。
常識で考えれば、寧ろそうなるのが普通。でも、そう思うほど、むねのモヤモヤは、より一層濃さを増し、重く私にのしかかってきた。
どうすれば、このモヤモヤは晴れるの?その答えを私の心の中で見つけることは出来なかった。
先輩に電話してみたけれど、予想通り圏外(というか電源切っているんだと思う)で声を聴く事は出来ない。
家に帰って来たけれど、何もやる気が起きない。ベッドの上でうずくまって、徒に時が過ぎるのを待つだけ。
自分を慰めてみたけれども、疲労が増すだけで何も変わることは無かった。

時刻は8時を過ぎ、アイツは家にいるはず。
アイツに、今日の事を訊きたい。
今日は、何故遠野さんと一緒だったの?
遠野さんとはどういう関係?
ひろクンはその人、好きなの?つきあってるの?ひょっとしてもう………
携帯のプッシュ釦を押す指が震える。目指した場所に指が降りていかない。焦れば焦るほど、指の震えは酷くなる。手は汗をびっしょりかき、携帯を落としそうになるほどだった。
電話は出来なかった。
もし、『そうだ』なんて言われたら、私は立ち直れない。それが怖くて、指が最後まで動かなかった。


誰かに支えて欲しかった。
両足が地に付いていない。宙に浮いているようで、放っといたらこのまま空の彼方へと消えて無くなってしま
いそうな気がした。

今にも狂いだしそうな自分の感情を、僅かでも逸らすために、もう一度自分を慰める。
空しい。こんな事しても、何の解決にもならないのに。
その夜、私が眠りについたのは、明け方も近い頃だった。


翌日は、頭が……全身が重かった。
引きずるように学校へ体を運ぶ。まるで頭以外の全ての器官がイヤイヤをしているみたい。
自分の席に体を滑り込ませると、机に突っ伏して目を瞑り、始業のチャイムが鳴るのを待った。
始業前のいつもの行事、アイツの席に行くことはしない。アイツとは顔を合わせたくないから。
夏休み前のアイツの気持が解る気がする。
でも、こんなことで解ったなんて、最低。
授業中の先生の講義なんて、全然耳に入らなかった。ただそこにいるだけ。美術室の石膏像のように、じっと
一点を見つめて、何も考えずひたすら時が過ぎるのをまっていた。
考えたところで、どうにもならないのは解っているから。
午前の授業が終わった。
待望の時間に回りはザワザワと音を立てて至福の時の準備を始めている。

「あれ?香織 どうしたの?彼の処に行かないの?それとも今日はこっち?」

クラスメイトの声がする。でも、とてもそれに答える気力がない。

「ごめん。今日はちょっと食欲がないから……パス」
そう言って、外に飛び出す。今の私にとって、昼休みのうきうきした雰囲気は、より一層鬱な気分にさせられ
てしまいそうだった。

外は、昨日と同じく、よく晴れていた。
秋特有の真っ青な空に、綿毛のような雲が2つ3つ、ポッカリと浮かんでいる。
その下では、男子生徒が野球やサッカーに熱を入れていた。
グラウンドを見下ろす土手に腰掛けて、様子を見るでもなく、眺めていた。
みんな、なんでこんな事に夢中になれるんだろう。
シニカルな笑いが体中を駆け回り、顔から口元が引きつったような笑いがこぼれようとしていたその時、後ろ
からよく知った声が聴こえてきた。


「あれ、香織ちゃん こんな所で、どうしたの?」
先輩だった。
昼練だったのか、Tシャツにスウェットの格好。昼錬の後だろうか、Tシャツは体に張り付いて、肌が透けて
見え、髪の毛はシャワーを浴びたように、濡れていた。
懐かしい気がした。会っていない日はほんの数日しかないというのに、胸が熱くなり 鼻の奥がツンと痛くな
って涙がこぼれそうになった。
私の体は、磁石でもあるかのように先輩の方に引き寄せられ…私は先輩の胸に顔を埋めた。
頬に冷たい感触が伝わる。先輩の汗の匂い、何故だかホッとして、ギュッと頬を押し付けた
いつもは先輩から抱きしめられてばかり、自分から先輩の胸に飛び込んだのは初めてだった。
きっとびっくりしたと思う。なのに先輩は何も言わないで、そっと私の頭をなでるだけ。
ずっとこうしていたいと思った。人目なんて気にならない。このまま世界が終わっても構わないとさえ感じた。

「もう……行かなくちゃ」

先輩の言葉に我に帰る。どのくらいこうしていたんだろう。
ふと 時計をみると、昼休みも終わろうとしていた。
もう、終わりなの?もっとこうしていたいのに。ううん、そうじゃない。もっともっと先輩を感じていたい。
私の全てを先輩で埋め尽くして欲しい。先輩と……一つになりたい。

こんな気持になったのは初めてだった、自分から先輩に抱かれたいなんて。
ごく自然に、私の口から言葉がこぼれて行った。

「先輩………したい」

私の頭を撫でていた手に、キュッと力が加わる。先輩の全身に力が入っていく感じがした。
返事は無い。じっとこの体制で、答えが来るのを待つ。
長い沈黙の後、先輩から答えが返ってきた。

「わかった。部活がおわったら、僕の部室にきて」

後になって考えると、何でこんなことしたんだろうと後悔しきりだ。
でもあの時、私の心の中は、先輩に抱かれたいという事だけしかなかった。したくて堪らなかった。そうでも
しなければ気が狂いそうだった。
これが後でどんな結果をもたらすかなんて、全く考えていなかった。


クラブ活動が終わって、人気の消えた部室はひんやりとしてどこかうら寂しく、ちょっと寒気がした。
時刻は何時くらいだろう、辺りはすっかり暗くなって足元さえおぼつかない。回りの部室からは、全て明かり
が消えていた。
その中で、私と先輩二人だけが、このサッカー部の部室の中にいた。

男子の部室というものは、押しなべてこうなのかもしれない。
ロッカーに乱暴に押し込まれ、だらしなくはみ出したジャージ、練習用のユニフォーム。
履きつぶされて、ペッタンこになったスパイクシューズ。
どこから拾ってきたんろうか、公園によくあるようなベンチが一つ。その上にも何やらシャツのようなものが
置いてある。
その中で、丁寧に磨き上げられ、網に入れられて大切そうに天井から吊るされているボールが対照的でどこと
なく可笑しい。
男の人の汗とボールに擦り込んだワセリンの匂い。
そんな中で、先輩と私は唇を重ね、舌を絡めあい、お互いの体をだきしめつつ、まさぐりあっていた。

「…ん…んん……はぁはぁ、んっ…」

時折、『チュッ』という音が口から漏れてくる。私の口の脇から涎が一本、糸を引く様に床に零れ落ちる。
思考は既に停止している。夢中で唇を、舌を、体を貪った。

「……んんっ……っはぁーー」

長いキスを終え、フーっと大きく息を吐きながら、お互いに見つめあうと、自然に「フフッ」と笑い声がでてくる。

「そういえば、香織ちゃんの方から『したい』なんて言ってきたの、初めてだよね。彼氏と何かあったの?」

「別に……ただ、先輩としたいと思っただけで……もう、恥ずかしい。こんな事訊かないで下さい。それに、
アイツは関係ないです。こういう所でアイツを出さないでくれます?」

「ごめん、わかったよ。まあ 僕としちゃあ、これで香織ちゃんとの距離が一歩近づいたみたいで嬉しいけどね」

それは、私も感じている。
今まで、受身一辺倒だったのに、自分から先輩を求めている。私の中で、先輩の存在が大きくなってきたのか
もしれない。
体だけの関係と思ってきたのに、何時の間にか心も先輩の方を向き出したのだろうか。アイツの存在が小さくなったような気がした。

「さ、お喋りはそのくらいにして、続きをはじめよう」

先輩はそう言って、ビール瓶ケース(何処で拾ってきたんだろう)を逆さにしてその上にベニヤ板を置いた即
席の椅子に私を座らせ、その側にコンクリートブロック(本当、何でもあるね、この部室)を2段重ねにして
その上に立った。
丁度、股間が私の目の前の位置に来る。
私は、目の前のファスナーを下ろし、社会の窓に手をいれて、中の一物を取り出すと、徐に口に含んだ。
見る見るうちに、口の中で 大きく硬くなっていく。
此処に来る前にシャワーを浴びてきたんだろうか、臭いは無い。
舌をカリ首に巻きつかせ、ゆっくりと顔を前後に動かし始めた。
最初のうちは、奥まで咥え過ぎて吐きそうになったり、つい歯を立てて先輩に大声出されたりもしたけれど、今では手馴れたものだ。
えづくギリギリまで深く咥えこむと、舌を裏筋に当たるように絡ませ、吸い込みながら顔をスッと動かす。
「ぁ…」
先輩の声が聴こえる。感じているみたい。
その声に乗せられる様に、さらに大きく顔を動かしていく。



暫くすると、口の中に唾液が溜まり、動きがスムーズになってくる。と同時に、『ジュポ、ジュポ』といやらし
い音を立てるようになり、それで一段と動きに勢いがつく。

「はぁ、はぁ、はぁ…………ん、んん」
気持良いのか、先輩の声が悩ましげに頭に降りかかってくる。

ん…う…ぷはっ
調子に乗って、強めにストロークしたのは良いけれど、深く咥え過ぎて、えづいた。
思わず、口から先輩の者を吐き出してしまう。

「苦しかった?無理しないで、自分のペースでやってね」

「はい」

「それにしても、ずい分上手になったよね。ものすごく気持ちいいよ」

「……何回もやって、慣れてきたから……恥ずかしい…こんな事言わせないで下さい、やめちゃいますよ?」
もー、何を言わせるの 先輩。
そりゃ 馴れたけれど、こういう事に馴れてること自体が、何て言うか……恥ずかしんだから。

「ああ、ごめんごめん。謝る。だからやめないで」

気を取り直して、再開。今度はちょっと、速めに動かしてみる。すると、それにあわせるかの用に先輩の声も
活発に、リズミカルに聞こえてくるようになった。そろそろ、フィニッシュが近いようだ。
ゴールに向かって、さらにピッチを上げて、顔を 手を動かす。

「あ…あ…あ…ああ…あああ…あああああああ、出る……出る、出る!」


え、もう?
一瞬、顔を引くタイミングが遅く、ちょうど一番深く咥えた瞬間に発射された。
精液が勢いよく喉の奥に当たってむせる。口の中に粘液のドロっとした感覚が充満し、口一杯に栗の花の匂い
が拡がると同時に、苦くて、他には例え様も無い味覚が舌に伝わってきた。胃のあたりが急に縮まる感じがし
て、すぐに吐き出した。

「ん、ん、ん、ん、んんーーー、………げほっ、げほっ」

「大丈夫?気管にはいった?」

「…大丈夫…けほ…けほ…むせた…だけだから…けほけほ」
「ごめんなさい。………これだけは、まだ慣れなくて………」

本当、これだけは なかなか慣れることができない。

「いいよいいよ、気にしないで。凄い気持ちよかったから」
「飲んでくれなかったのは残念だけど、慣れてきたらやってくれれば良いから」

「はい」
先輩、ごめんなさい。でも、これだけはやっぱりダメ。

「じゃ交代。はい、立って」

今度は私が立ち上がって、先輩が腰をおろす。
先輩がコンクリブロックの上にお尻を下ろすと、それがちょうどよい高さ。私のお臍のちょっと下辺りに先輩
の顔がある。

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