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沙有里 -1-

「はぁ、はぁ…沙有里ぃ…」
薄暗い部屋で男が荒い息を吐きながら少女の名を呟く。下半身むき出しで暗い部屋を照らすテレビ画面を凝視している。部屋には無数の使用済みティッシュが散乱し、男のしていた行為を物語っている。
テレビ画面の向こうには一人の少女が微笑んでいる。涙を流しながら画面を見つめる男とは対照的に。

何度となく繰り返し再生されたそのビデオテープ…。

故に男は知っている。その美少女も間もなく涙を見せることを。そしてその時こそ自らの興奮が最高潮に達するときであることを…



その日、一ノ瀬和也は落ち着かなかった。

「和也ぁ、支度できてるでしょうね!?そろそろ沙有里ちゃん迎えにいくよー!」
姉の結花が大声を張り上げている。
「わかってるよ、そんな大声出さなくても!それよりも駅までの運転だいじょうぶだろうね!?オレ、姉ちゃんの運転する車って不安でしょうがねーんだよ」

もちろん和也の落ち着かない理由は当然姉の運転する車への不安からではない。いや、それももしかしたらあったのかもしれないが、その理由は一年ぶりに再会する沙有里を想ってのことであった。

そう、夏休みに入り、一週間が過ぎた今日、従妹の成瀬沙有里が上京してくるのだ。

沙有里は和也と同い年の高校三年生。幼い頃は同じ東京に住んでいて、親同士の仲が良かったこともあり、何度となく顔を合わせていた。その仲の良かった少女も中学生になる頃には近所でも有名な美少女と成長していた。熱心な芸能事務所のスカウトマンが彼女の自宅にまで訪れたほどだ。単なる仲の良い従妹として沙有里と会っていた和也だが、その可憐な美少女に恋心を抱くのはさほど時間がかからなかったし、むしろ必然といえた。しかしお世辞にも行動的とはいえない和也が、その恋心を行動に移すことはできなかった。

そうこうしているうちに、沙有里が中学卒業の春、彼女の父の転勤に伴って北海道へと引越ししていった。家族の前では平静を装う和也だったが、内心は寂しさでいっぱいだった。唯一和也の心を慰めてくれたのは、沙有里の母が送ってくれた1本のビデオテープだった。その春、両家の家族で旅行に行ったときのホームビデオだ。もちろんそのテープは和也を含めた一ノ瀬家に向けて送られてきたものだが、和也はこっそりと自分用にダビングし、沙有里が映る部分だけを編集していた。そして、その行動は自らの沙有里への恋心の深さを自覚することとなった。

「…もうすぐ、沙有里に会える!」
和也の心はいっそう高まっていた。


「久しぶりだね、和ちゃん。元気だった?」
待ち合わせ場所の駅に着くなり、無邪気に話しかけてくる沙有里。
「お、おう。久しぶり。相変わらず背は伸びてねーな」
内心の動揺を悟られぬよう、無意識のうちにぶっきらぼうになる和也。
「もう!お世辞でも『綺麗になった』の一言くらい言えないの!?」
顔を膨らませて怒ったマネをしているが、その表情は笑顔だ。
(そんなこと言えるわけねーだろ!…だいたい綺麗になったの一言じゃ済まないくらい、綺麗になりすぎなんだよ!)

実際、和也が口にするまでもなく、通りがかる男たちは皆が皆、沙有里に注目していたし、中には立ち止まって堂々と携帯カメラで写真を撮る男までいた。おそらく和也たちが迎えに来る間も何人かの男に声をかけられたことだろう。

清楚な白いワンピースに身を包んだ沙有里は、まだ幼さを残し、小柄ではあるものの、長く艶やかな黒髪、黒目がちの抒情的な瞳、アイドルのような小顔がそれをいっそう引き立てている。ノースリーブやスカートの先から伸びる真っ白な腕と脚は折れそうなほどに細いが、反面、少女特有の瑞々しさとたくましさを保っている。

そんな沙有里の姿に無意識のうちに見とれているところを姉の結花の声で現実に返された。
「ほら、和也、荷物持ってあげて!いつもトロいんだから!」
クスクスと笑う沙有里と目が合い、バツの悪い顔をしながらも、渋々と言葉に従う和也だった。

「それにしてもやけに荷物が多いな。沙有里、何泊泊まるんだっけ?」
和也の言葉に少し驚いたように沙有里が答える。

「え、結花姉さんやおばさんから聞いてないの?うち、お父さんが入院しちゃって、お母さんもお見舞いで忙しいから、2週間ほどお世話になるの…。東京の予備校に通えるいい機会だからって、お母さんも言ってたしね。」

2週間!思いがけない沙有里の長期滞在に小躍りしそうなくらい嬉しい和也だったが、口から出るのはいつも心とはうらはらな言葉ばかりだ。
「ふーん、2週間ねぇ…。予備校っていっても、本当は久しぶりの東京で遊びたかったんじゃないの?」
「えへへ、それもあるんだけどね」
和也とはうってかわって素直な沙有里。
「そういうこと!この間言ったじゃない!」
結花が最後の荷物をトランクに詰めながら言った。
「じゃ、帰るよ!」

帰りの車内、3人は終始笑顔だった。話が弾んだ。そして和也は思うのだった。
(この2週間のうちに、絶対沙有里に告白するぞ…!)
そんな淡く蒼い恋心が、沙有里を、そして和也自身をも奈落の底に落とすことになるとは…。この時の和也には予想できるはずもなかった。

沙有里が一ノ瀬家に来てから今日で3日目。予想通りといえばそれまでだったが、和也と沙有里の間には何の進展もなかった。沙有里はもともと姉の結花と仲が良く、寝泊りも姉の部屋であったため、告白するどころか、二人きりになれる機会さえなかった。

しかし今日は姉が大学の友人宅に遊びに行っているため、家には和也と沙有里の二人きりであった。
(いきなり告白は無理だけど、せめていい雰囲気くらい作りたいよなぁ…)
和也の胸に期待感と不安感が同居していた。

「ねえ、和ちゃん。今日ヒマ?」
そんな和也の心を知る由もないであろう沙有里から不意にかけられた言葉。
「え、どうして?」
「んー、あのね。予備校の夏期講習の手続きが今日までなんだって。ひとりで行くのもなんだし、和ちゃんも付き合ってよぉ」
願ってもない誘いに心が弾んだが、
「沙有里の行く予備校って、二駅先のY予備校だろぉ…。暑いし面倒くさいなぁ…。」
とグチをこぼしてみる。
「え~!じゃ、帰りに冷たいモノでもおごるからさぁ…。ね、ダメ?」
(うわ、すっげーカワイイおねだり…!)
和也が口に出してそう言いそうになるほど、上目使いの可愛い表情でおねだりされては、男なら誰もが断らずにいられないであろう。
「わ、わかったよ…。じゃ、オレ支度するから沙有里も準備しておけよ!」
「ホント?ありがとう、和ちゃん!」
こんな他愛もないことで心の底から嬉しそうな表情をしてくれる沙有里。

「じゃ、支度してくるね!えへへ、おめかししちゃおっかなぁ~」
「おめかしってそんな遠くまで行くわけじゃないんだから…」
「だって、和ちゃんとデートだもん♪」
「さ、さゆ…」
「冗談だよぉ~!えへへ、和ちゃん動揺しちゃった?」
「な、何言ってんだこらぁ!」
沙有里は逃げるように姉の部屋に戻って支度を始めたが、オレはしばらくその場を動けなかった…。
「あ、いけね!オレも早く支度しないと!」

予備校の手続きはいたって簡単のものだった。沙有里が事前に書類を準備していたようで、30分とかからずに手続きは終わった。

「お待たせ、和ちゃん」
ロビーで待つオレに手続きが終わったことを告げる沙有里。
「じゃ、帰ろうか」
沙有里を待つ間、この後どこへ行こうか頭をフル回転させて考えていたオレだったが、結局どこも思いつかなかった。映画や買い物に誘おうかとも考えたが、「デート」の言葉が頭をよぎり、結局言い出せなかった。勘違いされていると思われたくなかった、というのが理由だが、結局は勇気がなかったのであろう。

「ね、まだ時間も早いし、買い物でもしていこうよ。ダメ?」
願ってもない沙有里の言葉!和也も内心その言葉を待ってもいたのだ。
「買い物かぁ…。そういえば冷たい物でもおごってもらえる約束だったしな。うん、いいよ」
「もう、現金なんだからぁ!」
そういう沙有里の表情も嬉しそうだった。

和也もあまり来ることのない街であったため、結局寄ったのは駅前のデパートだったが、和也も沙有里もそれで充分満足だった。デパートで沙有里はかなりの時間をかけてウィンドウショッピングを楽しんだ。姉の買い物にたまに付き合わされる和也は、女の買い物の長さというものをしっていたが、姉とでは辟易するだけの時間も、沙有里と過ごす時間は至福そのものだった。

結局沙有里が買ったのは、彼女の長い髪を束ねるヘアクリップと携帯用のストラップだけだった。
「可愛い服があったんだけど、持ち合わせがなくて…」
「そっか…。まあこの次でいいじゃん」
「この次?また次も沙有里と買い物付き合ってくれるの?」
「あ、そ、そういう意味でいったんじゃないけど…。まあ、たまにならいいよ」
はにかみながら口にする和也。そんな和也に同じく少し照れながら沙有里が買ったばかりのストラップを渡した。
「今日のお礼だよ♪」
「え、せっかく買ったのにいいのかよ?」
「私の分もちゃんと買ってあるから。えへへ、和ちゃんと沙有里のおそろだよ♪」
「さ、さんきゅー」
それは革素材にビーズをあしらった手作り風のなかなか洒落たストラップだった。
「こういうのって二人の思い出になるんだから…大事にしてね…♪」
「ああ、大事にするよ」
珍しく和也も素直な気持ちで答えていた。そしてこの時間が和也の至福の時間の最後でもあった…。

プチデートともいえる沙有里との買い物の締めくくり。和也と沙有里はデパート内の喫茶店で涼をとっていた。
「じゃ、約束どおり沙有里に冷たい物でもおごってもらおうかな」
「あんまり高い物はダメだからね~」
そんな他愛もないやりとりをして、頼んだジュースが届いた頃…。

「あれ、和也じゃん!久しぶり!」
後ろから声をかけられた。
「あ、氷高センパイ…!お久しぶりッス!」
氷高アキラは和也の1つ上のバスケ部の先輩だった。後輩の面倒見がよく、和也も最も頼りにしていた先輩だった。
「珍しいじゃん、和也がこの辺来るなんて…って誰だよ、この可愛いコ!」
「はは、先輩は相変わらず元気そうですね~!その子は従妹の沙有里です」
「あ、あの…成瀬沙有里です…。はじめまして」
「サユリちゃん?漢字はどう書くの?」
「えっと…さ、はサンズイに……」
こういう説明には慣れているのだろう。沙有里が漢字の当て方を一つずつ説明する。
「沙有里ちゃんか~!顔だけじゃなくて、名前までカワイイねぇ~」
「はは、センパイ、そんなこと言ってると彼女に怒られますよ」
「だぁ~和也、テメェ!…って見られてないだろうな」
と顔をキョロキョロさせて笑いを取っている。割と人見知りするたちの沙有里だが、和也と仲良くしている氷高を見て、少しずつその話の輪の中に入っていった。

氷高は黙っていればいい男という二枚目な顔立ちだったが、そのひょうきんなキャラで高校時代から男女問わず人気者だった。その話の面白さに和也も沙有里もいつしか時間を忘れて話し込んでいた。

「…おっと、もうこんな時間か!オレそろそろバイトの時間だから帰るわ!」
氷高が3人分の伝票を持って慌てた様子で立ち上がる。
「あっ、センパイ!悪いですよ、オレら、自分の分は払いますから!」
「いいって、いいって。久しぶりに会ったんだし、たまにはおごらせろよ」
「…スンマセン、センパイ。じゃゴチになります」
「おう!じゃ、またな和也。沙有里ちゃんも、また、ね」

和也も沙有里も笑顔で手を振って別れたが、二人は気づいていなかった。氷高の「また」の意味に…。話の最中、氷高の笑顔の影に潜みながら、終始向けられていた沙有里への熱い視線に…。

沙有里が予備校に通い始めた。予備校よりバイトや仲間と遊ぶ時間を優先させた和也だったが、この時ばかりはさすがに後悔した。しかし今更自分も予備校に通いたいとは言い出せず、和也の欲求不満は高まるばかりであった。

夕方、沙有里から和也に携帯のメールが入った。しかし普段予備校からの帰り際にメールを入れる沙有里だが、それはもっぱら姉の結花に送られるもので、和也にメールが届くのは珍しいことだった。さっそく開封してみる。

「予備校でできた友達と出かけるので帰りは遅くなります。
 食事は食べて帰りますので伝えておいてください。
 沙有里」

「なんだよ、それ…。予備校でできた友達って…」
一瞬、男の影が浮かんだが、人見知りが激しくガードの固い沙有里にまさか…とすぐに思いをかき消した。

やきもきしながらも夜の11時頃には帰ってきたのでホッと胸を撫で下ろした和也だったが、一抹の不安を感じていた…。

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