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夢か恋愛か 5

2週間後、初顔合わせの日。
「よし、行くか」
郡山に肩を叩かれ、さゆりも気合いが入る。

「はい」
大磯監督の二年ぶりの映画と言うことも合ってスタッフの数と熱気が凄い。
さゆり、郡山、陽子の三人はそれだけで圧倒される。
「あの。すいませんが、役者の顔合わせなんですけど」
「あーっ。あっちですよ」
若い男は指を差し、快活に社長に答える。
「おい、あっちだってよ」
「ふぅー、緊張してきた」
さゆりは陽子に寄り掛かる。
「もうしっかりしてよ」
陽子はさゆりの背中をパシッと叩く。
「おっ、中谷さゆりちゃん」
突然後ろから声を掛けられ、三人は慌てて振り向く。
「プロデューサーの谷口です」
さゆりの身体が一瞬で固まる。
この人はあのことを知ってる。
しかし、さゆりの心配をよそに、谷口は気にする様子もない。
「頑張ってね、さゆりちゃん」
「は・・・はい」
「気さくな人でイイ人そうだね」
「・・・」
「どうしたの」
「う・・・ううん。なんでもない」
陽子はさゆりが一瞬示した顔の変化に不安を覚えた。
「さあ、入ろうか」
郡山の言葉に、さゆりは口元を引き締めた。
そして、さゆりは新たな女優への扉を開いた。


それから、数カ月後
映画の公開の期日が近づいてきた。
スポーツ新聞では『アイドルからの脱皮、市川さゆりの大胆なベッドシーン』と
センセーショナルに伝えられていた。



裕介は映画の内容が書かれた新聞記事を信じられない思いで何度も読み替えし、
いやまさかと、別の新聞を買ってきても、そこには同じような記事が載っていた。
さゆりとのメールや電話では映画の内容の話題は出なかった。
今から考えてみるとさゆりが意識的に避けていたのだろう。
映画見に行くよと言っても、さゆりは言葉を濁していた。
裕介は試写会のチケットを陽子から内緒で受け取っていた。
さゆりの大胆なベッドシーン、そんなもの見たくないという気持。
しかし、相反する気持もあった。
裕介は真実をこの目で確かめたかった。
この目で確かめないことには到底真実とは思えなかった。
最初にさゆりから、映画の内容がラブストーリだと聞いた時に、
それなりの覚悟はあった。
キスシーンなどは当然あるんだろうなと。
でも、それは演技の上だしと自分を納得させていた。
しかし、現実にはベッドシーンと言う想像を超えたものが突き付けらることになった。
裕介は試写会までの日々を恐怖にもにた思いで過すことになった。


開館30分前、試写会の当日。
試写会の列が映画館に出来始めていた。
裕介もチケットを握り俯き加減で列に並ぶ。
列に並んでいるのは映画の内容がラブストーリーというのにほとんどが男だった。
恐らくさゆりのベッドシーン目当てなのだろう。
「さゆりちゃん、全部脱いでるらしいよ」
その声に振り向くと男が二人、ニタニタとした笑顔で喋っている。
「全部って、乳首見えてんの」
「そんなの当たり前、身体中舐められてるらしいぞ」
裕介は彼等の発する言葉に怒りで震えながらも、
その怒りを、どうすることも出来ず、
ただじっと聞き耳を立てていることしかできなかった。 
暫く待っていると、列の前の方がざわざわとし始め、扉が開いた。
几帳面に列に並んでいた男達が、開いたと同時に中に我先にと傾れ込む。
裕介は興奮した男達に揉まれながらなんとか席につき、一息ついた。
暫くすると照明が落ち、館内が暗くなる。
息を飲むように館内は静まり返り、時折誰かが静寂に耐えきれず咳をする。
裕介は自分の激しい胸の鼓動を必死に抑えようとしていた。
一度大きく深呼吸をする。
スー、ハー。
息を吐き出すと、あわせるように映画が始まった。


映画は淡々と物語を進めていく。
しかし、裕介には映画の内容が上手く頭に入って来ない。
ただ、彼女であるさゆりが大きなスクリーンの中で様々な表情を見せているのを、
傍観者の一人として見ていた。
映画の中盤、
さゆりと彼氏役の二枚目俳優との濃厚なキスシーンがアップで映し出された。
さゆりの舌がその彼氏の舌と絡み唾液が光る。
隣の男が「おぉ」と感嘆の声を漏らす。
さゆりが自分以外の男とキスをしている。
それも、あんな濃厚な。
裕介の瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。
しかし、裕介の心情など無視して物語は止まることなく進んでいく。
彼氏役の男はさゆりに内緒でたちの悪い人間と付き合っていた。
ベテラン俳優の斉藤を親玉とするヤクザの一味だった。
バカな彼氏は賭けマージャンにはまり込み、
到底返しきれない借金を背負ってしまう。
彼氏は借金の追い立てに怯え身を隠すが、結局は斉藤に見つかり捕まってしまう。
斉藤は彼氏から借金を回収出来ないと分かると、
斉藤を脅し、さゆりという彼女がいることを知った。
斉藤は一目見てさゆりを気に入り、さゆりに身体を要求した。
さゆりは逡巡しながらもバカな彼氏を愛するがゆえに、
自らの身体を差し出す決意をしてしまう。


隣の男が映画が佳境に進むにつれて少しずつ前のめりになり、
何度も唾を飲み込む音が聞こえる。
不安げなさゆりはホテルの斉藤の部屋の前に立っていた。
部屋の扉が開き、にやついた斉藤がさゆりを中に入るよう促す。
斉藤はベッドに座り、さゆりに服を脱ぐように要求する。
窓から差し込むオレンジの夕焼けを背に、逆光の中でさゆりは服に手をかける。
震える手で服を脱ぐと、白い下着が、そして、さゆりは背中に手をまわす。
裕介は心の中で、やめろ、やめろと叫ぶ。
しかし、さゆりは裕介の叫びを無視して下着を取ってしまった。
さゆりの顔は逆光で伺い知れない。
スクリーンには太陽の眩しさとさゆりの裸体が映し出された。
これは現実なのか夢のなのか。
さゆりの身体のラインがシルエットのように浮かび上がる。
裕介の混乱をよそに、画面は太陽に吸い込まれるように暗転し場面が転換した。
次の瞬間、ベッドでシーツに包まり一人寝ているさゆりの姿が映し出された。
その様子は事後の様子を想起させる。
もっとも恐れていたベッドシーンがない。
新聞に書かれていた激しいベッドシーンは客を呼ぶためのただのデマだったんだ。


隣の男が肩透かしをくったように、背もたれに身体を預けた。
裕介は気が抜けたのか変な笑いが込み上げてくる。
さゆりはヌードにはなったが、それも脱いだかもハッキリとはわからないものだった。
ほんとうに良かった。
しかし、ホッとした裕介の淡い幸福はすぐに悪夢のような現実で覆い尽くされた。
次のシーンでバスルームからバスタオルを巻いた斉藤が映し出される。
斉藤はそのまま、のそのそとベッドに近づく。
ベッドに上がると斉藤はもぞもぞとさゆりに近づき、
脂ぎった顔を震えるさゆりに近付ける。
さゆりは今にも泣き出しそうな顔で嫌だ嫌だと顔を背ける。
しかし、斉藤はさゆりの頭を乱暴に掴むと、無理矢理顔を自分の方に向けると、
さゆりの唇に吸い付いた。
すると、館内の緩慢になっていた空気が一瞬で緊張を帯びた。
斉藤はさゆりの唇を堪能するように舐めまわし、徐々に舌をさゆりの首筋に這わせる。
斉藤の舌は徐々にシーツで覆い隠されたさゆりの胸元に向かう。
次の瞬間、斉藤がさゆりの身体を隠していたシーツを剥がした。
スクリーンにさゆりの白くて豊満な胸が映し出された。
今度は、はっきりとすべてを映し出していた。
館内から低いどよめきが起き、隣の男の腰が浮く。
裕介は何が起ったのか一瞬理解出来なかった。
ただ、スクリーンを凝視しさゆりだけを見ていた。
剥き出しになったさゆりの胸。
その胸の突端、乳首に斉藤は顔を近付ける。
すると、さゆりの胸にカメラがズームする。
それを待っていたかのように、斉藤は乳首を舐めはじめる。
カメラは執拗にさゆりの乳首に焦点をあてる。
さゆりは身体を懸命に捩るが、斉藤に手を掴まれ動きを抑えられ、
カメラは執拗にさゆりの乳首を追う。
さゆりの乳首がだんだんと隆起していく様子が淡々と映し出されていく。 
斉藤が舐めるのを止めると、カメラがあわせるように引いていく。


斉藤は掴んでいたさゆりの手を放すと、
その手をさゆりの下半身に向かわせる。
そして、何かを探り当てた斉藤の手は、
さゆりの下半身だけは辛うじて隠しているシーツの下で動かし始めた。
さゆりは慌てて追うように手をシーツの中に入れ
斉藤のその手の動きを止めようとする。
しかし、そのときシーツに入れようとしたさゆりの手がシーツに引っ掛かり、
太ももの辺りまでめくれてしまった。
白い下着が太ももの辺りまでずれ下がっていて、
画面にさゆりの黒い陰毛が大写しになった。
さゆりはシーツを慌てた様子で引っ張りあげた。
一瞬だった。
しかし、確かにさゆりの陰部は下着で隠されていなかった。
そして、裕介は見逃さなかった。さゆりのその時の表情を。
さゆりは恥辱とも恐怖ともいえない表情をしていた。
斉藤はさゆりが抵抗をしなくなったのいいことに手の動きを激しくする。
「あぅっ」
さゆりの声が漏れた。
「あっ・・・あぁぁん」
・・・喘ぎ声。
その声に呼応するように斉藤はシーツの中に身体を入れ、さゆりにのしかかる。
さゆりは懸命に腰を捩っているが、
斉藤は手をあてがいながら目当てを見つけたのか腰をぐいっと大きく動かした。
その瞬間をカメラが逃さずさゆりの顔をアップでとらえていた。
驚きとも、屈辱とも言えぬ、なんとも言えぬ表情を見せた。


斉藤はあてがっていた手をシーツから出すと、カメラはその手をとらえる。
指に白い液体がついている。
カメラは再度さゆりの顔に焦点を移す。
さゆりは目を瞑り何かを堪えようと唇を噛み締めた。
その何かはこのシーンを見ている誰もがわかっていた。
カメラはその瞬間を決して逃さないように静かに待つ。
今この瞬間を見ている館内にいる者も息を飲んで待つ。
斉藤は腰を動かし始めた。
最初はゆっくりと緩慢な動き、身体を擦り付けるように動く。
徐々にスピードを上げていく。
斉藤が腰を動かすたびに、
微かにさゆりの口から吐息とも喘ぎ声とも思える声が漏れる。
そして、その瞬間が来た。
声を懸命に押し殺していたさゆりがその瞬間、
「・・・あぅん」 
と、堪えきれず小さな声で啼くと電流が身体を走ったかのように少し震えた。
カメラはじっとさゆりの顔をとらえていた。
さゆりの顔は情けなく歪み、瞳には涙が溜まっていた。
そして、画面は暗転した。


映画は彼氏が身体を捧げたさゆりを許すことが出来ず別れるという
後味が悪いものだった。
裕介は映画が終わっても暫く呆然としていた。
今みていたものが現実だという感覚が持てない。
館内はそんな裕介を無視してふわっと明るくなる。
明るくなると、館内はざわざわと異様な雰囲気になった。
すると、舞台の端に女性が一人出て来て、マイクで誰かの呼び込みをした。
すると舞台袖から数人の人が出て来た。
そして、最後にさゆりが出て来た。
さゆりは恥ずかしそうな素振りすら見せず堂々と舞台で立っている。
裕介はさゆりをじっと見つめていた。
さゆりの表情は見たことがないほど大人びていて、笑顔で前方を見据えている。
マイクがさゆりに向けられると、さゆりは笑顔のまま一言二言感想を述べ、
ゆったりと館内を見回した。
さゆりの視線が徐々に裕介に近づき、ついに裕介と目が合った。
さゆりは一瞬眉を動かしたが、戸惑う裕介に向けて微笑んだ。
そんなさゆりから裕介は目を逸らしてしまう。
さゆりはもうずっと遠くに行ってしまったんだと始めてその時裕介は気付いた。
裕介はいたたまれず涙を浮かべながら席を立った。

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