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夢か恋愛か 8

あの日のことが脳裏に貼り付いて剥がれない。
あの後、さゆりは羞恥に耐えながら残りの撮影を終えた。
撮影を終えたさゆりの心はたくましく、そして空虚になっていた。
それが女優というものなら、きっとさゆりはその時女優になったのだろう。
「それでは、これで」
「お疲れ様でした」
不満げな記者を横目に二人はスタジオから出た。
スタジオの外に出ると、唐突にフラッシュが次々とたかれ、
数十人のマスコミが二人を取り囲んだ。
「一体なんなんですか!」
「やめて下さい」
二人の言葉を無視して、マイクが向けられる。
「一体何なの!」

「おたくの社長が人を殺したんですよ」

「社長はあなたの夫ですよね、今の御気分は」
「市川さん、社長が殺人を起こしたのは、今回の映画のこととかかわりがあるんですか」
陽子の顔から血の気が引く。
さゆりは陽子の手を引くが、陽子は呆然として動かない。
「陽子さん、陽子さん!」
さゆりの呼び掛けにようやく我に帰った陽子は、
さゆりと二人マスコミをかき分けタクシーに飛び乗った。


二人はマスコミを振り切り、ホテルに駆け込むとテレビを付けた。

郡山が谷口を殺した。

郡山は失踪した後、街をずっと彷徨っていた。
どれだけ、街を歩こうと、風俗で女を抱こうと、
抱かれている陽子の顔が頭からはなれない。
あれから一度郡山は事務所に戻った。
その時、ちょうど陽子が谷口の腰に手をまわし出ていくところだった。
郡山はその場で身を隠し二人の背中を見送った。
谷口に抱かれている陽子の感じ入った顔が頭に浮かび郡山は叫ぶ。
うぉおおおおおお。
どうしてだ陽子、なぜだ陽子、陽子、ようこ・・・
谷口、谷口、たにぐち、タニグチ、たにグチ、タにグチ、
たにぐちぃいいいいいいいいい

半狂乱となった郡山は、谷口を付け狙った。
そして、焼肉屋から一人出てきた谷口を郡山は刺した。
焼肉で膨れ上がった腹を引き裂いた。


マスコミがさゆりのいるホテルの前を取り囲んでいる様子を、
裕介はテレビ画面を通して見つめていた。
ワイドショーが喜々として事件を伝えている。
裕介には一体何が起こっているのかわからない。
ワイドショーは数々の憶測を並び立てる。
さゆりと大磯との関係、マネージャーと谷口との関係。
つい最近まで自分の彼女だったさゆりの置かれた状況が
裕介には上手く理解出来なかった。

さゆりはホテルで一人不安に苛まれていた。
陽子は事情聴取で警察に行っている。
どうしたらいいの。
テレビではさゆりと陽子の醜聞が実しやかに伝えられている。
逃げたくても逃げられない。
さゆりは携帯を手にする。
「裕介」
さゆりの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「裕介」
こんな最悪の状況でさゆりの頭に思い浮かぶのは裕介の顔だった。
その時、唐突に携帯が鳴った。
「もしもし、裕介!」
「おいおい、なんだ。大磯だが」
「えっ」
「悪いな、裕介でなくて」
「何ですか」
「そう露骨に不機嫌にならなくてもいいじゃないか。今から会えないか」
「いやです」
「助けてやると言ってもか」
「・・・どう言う意味ですか」
「君このままじゃ、もう芸能界にはいられないぞ。
でも、俺は君をかっているんだよ。女優として一流になれるってな。
だから、君を助けてやろうと思って、大手の事務所に話を持ちかけたんだよ。
君の返事次第では助けてやれる」
「・・・本当ですか」
「ああ、本当だ」
「・・・わかりました」
「そうか、だったらどこで会うのがいいかな」
「ホテルはマスコミに囲まれてますので・・・私の部屋で」


裕介はテレビを消した。
さゆりのことが憎くても、さゆりの今の現状をざまあみろとは思えなかった。
携帯を手にしてもアドレスを消した今、さゆりの番号はもうわからない。
裕介はいてもたってもいられず部屋を出た。
バイクに跨がり、さゆりのマンションに向かう。
マンションにつくと、案の定部屋の明かりはついていない。
辺りを見回してもマスコミ関係者はいないようだ。
どうしてここに来たのか裕介は自分でもよくわからない。
傷心のさゆりとよりを戻そうなんて気は毛頭ない。
でも、さゆりのことを見捨てるなんて事も今の自分にはできない。
車のヘッドライトが近づいてくる。
裕介はバイクを通りの曲り角に置き隠れた。
マスコミか、そう考えていたらタクシーから降りてきたのはさゆりだった。
「さゆり」
声を掛けようとして、思いとどまる。
中年の男が続いて降りてきた。
二人は親密そうにマンションに入っていく。
「ふざんけんな」
裕介は心の中で叫ぶ。
こんなとこまで来て俺は何をやってるんだろう。
さゆりはもう自分の手の届かないところにいるのに、裕介は心底情けなくなる。
マンションを見上げると、部屋の明かりが点った。
カーテンが開かれ、ベランダの扉がゆっくりと開く。
見たことがない女の顔をしたさゆりがベランダに出てきてゴミを置いた。
さゆりがまた部屋に戻る。
裕介は暫く見上げていた。
すると、部屋の明かりが消えた。
やっぱりな、裕介は情けなさから笑いが込み上げてくる。


裕介はバイクに跨がり帰ろうとしたが、かぶったヘルメットをボックスに入れる。
何を思い立ったのか、マンションに駆け寄り、
マンションの壁にそって立っている電信柱をよじ登り始めた。
さゆりの部屋は三階にある、裕介はそこまで昇るとベランダに飛び移った。
裕介は自分でも何をやっているのかと呆れていた。
それでも、自分の行動を抑えられなかった。
ベランダに飛び移った時に気付かれたかと思ったが、気付かれなかったようだ。
裕介は扉に音を起てずに近づくと、すぐに中の様子が伺い知れた。
声が漏れ聞こえる。
さゆりの喘ぎ声が・・・
裕介はゆっくりとカーテンを少し引き中を覗き込んだ。
ベッドの上で男にさゆりが跨がっている。
下にいる男は手を伸ばしさゆりの胸を掴んでいる。
さゆりは自ら腰をくねらせている。
「あぁあん、気持いいぃ」
さゆりの声が裕介の脳に響く。
さゆりは男に抱き着くと唇に吸い付いた。
裕介はその場にへたり込んだ。
耳を手で覆い、その場でうずくまる。
しかし、それでもさゆりの喘ぎ声が聞こえてくる。
もうやめろ、もうやめろ、もうやめろ。
裕介は呟き続ける。


何分たったのだろう。
裕介は耳から手を放す。
もうさゆりの声は聞こえない。
裕介はカーテンから覗き込む。
ベッドには男しかおらず、気持良さそうにいびきをかいている。
さゆりはシャワーでも浴びているのだろうか。
ドアが開く音が聞こえた。
光りが差し込み、さゆりが裸のまま出てきた。
手には包丁を持っている。
さゆりはゆっくりと男に近づく。
男は起きる様子がない。
さゆりはベッドの脇にまで近づくと、包丁を振り上げた。
「やめろ!!」
裕介は部屋に飛び込んだ。
男が裕介の声に驚いて飛び起きた。
「・・・ゆうちゃん」
さゆりは呆然と裕介を見つめる。
「やめるんだ」
裕介は涙を流しながら言う。
さゆりの目からも涙がこぼれ落ちる。
「・・・どうして」
さゆりの振り上げていた手が落ちる。
その瞬間を見逃さず大磯が飛びかかった。
さゆりと大磯が揉み合いになるが、さゆりは大磯を払い除ける。
さゆりは再び、包丁を大磯に向ける。
そして、大磯に突っ込んだ。
「うっ」
「・・・ゆうちゃん」
裕介がさゆりと大磯の間に割って入り、裕介の腹に包丁が刺さった。
大磯は事の重大さに怯え慌てて逃げ去る。
「ゆうちゃん!ゆうちゃん!」
「・・・さゆり」
「ゆうちゃん。・・・わたし・・・」
「・・・俺は大丈夫だから。心配いらないから」
「でも、でも、ゆうちゃん!」
「・・・大丈夫・・・」
「ゆうちゃん・・・ゆうちゃぁぁぁぁん!!!」


さゆりはベッドに寄り掛かり眠っていた。
ベッドには裕介が。
裕介は目を覚ます。
首を横に向けるとさゆりが眠っている。
病院のベッドの上。
さゆりははっと、目を覚ます。
「ゆうちゃん」
「・・・さゆり」
「ごめんね、ゆうちゃん」
さゆりは涙を流す。
裕介は首を横に振る。
「・・・俺、さゆりのこと・・・ずっと好きだったんだ
あの映画見た後も、電話で仕事貰うために寝たって聞いた後も
どうしてかわかんないけど、きっとはじめて本気で好きになった人だから、
どうしたら嫌いになれるのかわからなかったんだ。
さゆりのことをほんとに憎んだし、二度と会いたくないって思った。
でも、さゆりのことが気になってどうしょうもなくて、そんな自分が嫌になってた。
さゆりがどんどん凄くなっていくのを妬んでたのかもしれない。
だから、結局何もできないまま、毎日バイトしてただけだった」
「ごめん。私が全部悪いんだよ」
「違うよ。そうじゃない。さゆりが一生懸命だったのはよく分かってるから。
俺ほんとのこと言うと、今でもさゆりが好きなんだ」
「・・・ゆうちゃん」
さゆりは情けなく微笑む。
「俺やっとわかったんだ。さゆりのこと嫌いにはなれないって、
そう思えたら、すっと楽になれたんだ、そうだ俺も頑張らなくちゃって、
さゆりに負けないぐらいに頑張らないとって、
そのためには自分の口ではっきりと言わなきゃならないって、
そして、ようやく今なら言える。
・・・さゆり別れよう」
「・・・ゆうちゃん」
さゆりはその場で泣き崩れた。


裕介の傷の具合は思ったほどに酷くなく、二週間後には退院できた。
今は心機一転大学に入るために予備校に通い、勉強に励んでいる。
予備校で気になる子がいるが、昔のようにやっぱり告白出来ずにいる。

陽子は芸能事務所をたたみ、夫に対する悔恨を抱えたまま
持ち前の美貌をいかし、水商売をしながら夫の帰りを待つことにした。
現在は陽子目当ての客で店は繁盛している。

大磯はあの後マスコミにあることないこと叩かれ、
女子高生のパンツを盗撮した挙げ句、覚醒剤でつかまり、実刑を受けた。

さゆりは裕介が告訴しなかったこともあり、書類送検ですんだが、
その後マスコミの激しいバッシングにあい女優としての道は閉ざされた。
しかし、映画のDVDはアダルトショップにも並ぶなど、空前の売上を記録した。
さゆりは今でも一部のマニアの間ではカリスマ的な人気を博し、
そして、彼等には伝説の女優の呼称で呼ばれていた。
一方その頃さゆりは世間の盛り上がりをよそに、
料理教室に通いはじめ、可愛いエプロン姿で肉じゃがを煮ていた。
目下花嫁修行中。

終わり

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