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カウンセリング -7-

土曜日の午後、あたしはやっと買えた下着の袋を手に家に急いでいた。
「はー、どうして頭の中で考えることは出来るのに、
いざとなると恥ずかしくって買えないんだろ。常識コントロール、常識コントロール」
頭の中でそんなことを繰り返しながら、必死に走っていた。
あの日帰ってから、スカートをはいてみるとウエストはバッチリ、
おしりもキュッと引き締まってものすごくいい感じだった。
丈は…、まあ注意すれば大丈夫だろ。
でもやっぱり、下着のラインはバッチリでてしまった。
ホワイト系のパンツじゃないし誰も見てないから大丈夫、
自分になんどもそう言い聞かせたが、一度意識してしまうとそこにしか眼がいかなかった。
仕方なく、Tバックの下着を買いに下着専門店に行ったのだが、
中学生みたいにもじもじしてしまい結局店員さんに声をかけられて買えたのはお昼をまわってしまってからだった。
とりあえず、これを家においてお好み焼きの具材を買って聡ん家に向かわねば。
あたしは、渋谷駅まで必死になって走った。
グィーン、グィーン、チ、チ、チ、キュイーン…渋谷の駅について息を切らしながら電車を待ってると、
メールがきたのを知らせる音が鳴った。美由紀先輩からだ。
「葵、明日の午後4時予約取れたから」
って、先輩にデートのこと言ってたよね。まあ、いいやとりあえず。
「先輩、ごめん明日は…」
ここまでメールを打つと、パパパッパッパー聡から電話があった。


「葵、今すぐ家に来られる。すぐに」
ものすごい怒った声であたしにそういってきた。
「とりあえず、今渋谷の駅。いったん家に帰って、買い物して…」
ってあたしが言おうとすると。
「そんなんいいから、すぐに来い出来るだけ早く、今すぐに」
って怒鳴ってきた。かなりキレてる?
「わかったから、落ち着いて。出来る限り早く行くから。買い物は一緒に行こう」
あたしは、あわててそれだけいうと電話を切った。
電車に乗りながら、聡の怒りの原因を考えた。スカートの件ばれた?昨日の親子丼手抜いて作ったのばれた?
色々考えたが、これといって思い当たることはないような気がした。
家に戻ろうかどうしようか考えたけど、聡の声を思い出してあたしは下着と試着するために持って行ったデニムスカートが入った紙袋を聡の駅のコインロッカーに入れておくことにした。
明日の夕方までは、預けておける。帰りにとればいいや。
駅に着くと紙袋をロッカーの中に入れ、あたしは、全力疾走で聡の家に向かった。


聡の家に着くと、いきなりあたしの腕を掴んでパソコンのモニターの前に座らせた。
すごい剣幕にちょっとびびってたあたしは、思わず正座しながらモニターの中を見た。
「インチキ占い師博仁問題連絡会」ってサイトが開いていた。
「なにこれ、あたしがインチキ占い師に騙されたってのがそんなに腹が立つの」
あたしは動揺を悟られないように言葉を選びながら聡にそういった。
「そうじゃないよ、このページを見てみなよ」
聡はマウスを奪うと、次々にクリックしてページを進めていった。
「博仁に騙されたバカ女たちのページ」
そういう名前のページにつくと手を止めて、
「見ろよ」
ものすごい乱雑な言葉で、そのページの右上の最新信者って言うところをクリックした。
まさかあたしの個人情報…。あたしは、ものすごく不安になりながら画面を見ているとモニターいっぱいにあたしのキャミソール姿が映し出された。
え、覗かれてたの?盗撮。何が起こったの。
パニックになりながらも画面を見ると、顔の部分にはモザイクがかけられていた。


「これ、どう見てもお前だよな。何してたんだよ。こんな格好で」
怒りと言うより涙が混じった声で聡があたしにそうつぶやいた。
「え、あたしじゃ…」
いや、どう見てもあたしだ。
こんなところでしらばっくれても逆効果だ。怒ってる聡を見ていると急速に冷静になっていく自分が意識できた。
画面のしたが切れているからマウスをまわして進めていくと、画面の下にはこう書いてあった。
「インチキ占い師博仁の毒牙に掛かる哀れな子羊。
もちろん、この後ムフッ。後は秘密のお楽しみ…。
信者第20号 仮名C.K、顔AA、スタイルAAA、信者度B"、エロ度B+」
って書いてあった。
この先が撮られたのかな、どうしよう、でも何で掲載してないんだろうって考えたとき、あの時の先生の動きを思い出した。
スリップを下におろしてっていいながら、そういえばさりげなく窓の方に動いていってた。
だから、この先は先生の背中しか写っていない。
大丈夫、胸を出しているところを盗撮犯や聡に見られたわけじゃない。


「聡、背中の肩胛骨の所に運命点があるのって知ってる」
「運命点?」
涙目の聡が聞き返してきた。
「そこを見れば。自分と彼氏の現状、問題点、自分の不満、彼氏の不満そんなんが見えてくるの」
あたしは必死に言訳を考えて、一気にまくし立てた。
「嘘つけ、そんなの聞いたことないよ」
「そうね。でも中国では昔からあったって。日本で最初に取り入れたのが博仁先生一派なのよ。
もちろん、肩胛骨だからあれ以上脱ぐわけないし。だいたい全部脱がされたんだったら、わざわざあんな写真にせずにもっと、過激な写真を掲載するって。
聡に黙ってたのは悪かったけど、いちいち報告するのも変じゃない。
あのキャミだって冬場だから中に着てるけど夏場だったらジャケットの下で見せてもいいやつだって、Tシャツみたいなもんよ」
聡に喋る機会を与えぬように一気にまくし立てた。
黙って聞いてるのをいいことにあたしはさらに続けた。
「だいたいインチキを糾弾するってサイトなのに、このふざけた作りは何よ。
顔AA、エロ度B+ですって、本気で糾弾しているように見える?
こんなおふざけサイトとあたしどっちを信用するの、ねえ」
「いや絶対信用できないって。騙されてるよ葵。」
力なく聡はこういった。的確な反撃が思いつかなかったらしい。
「だいたい、こんな小汚い中年のおっさんお前で脱いでも平気なのかよ。葵」


「小汚いですって」
小汚い中年のおっさんって言葉に私は過敏に反応してしまった。
だいたいあたしは聡のためを思って相談したんだ。
だから、恥ずかしいのを我慢してあんな格好にもなった。
何であたしが責められなきゃなんないんだよ。
「脱いでない。だいたい小汚いおっさんじゃなくって占い師の博仁先生です。
小汚いおっさんお前で脱いでも平気なのかって。
じゃあ、先月神田川ごっこしたいって銭湯に行ったとき番台に座ってたおじいちゃんはどうなのよ。
あのおじいちゃんには全て見られたかもしれないよ。聡は銭湯のおじいちゃんを糾弾するの。
インチキ占い師って偏見があるからあの写真のあたしを見て変だと思うだけ。
常識で考えたら変だもんね。
じゃあ、こう考えたら例えば博仁先生が東大医学部の教授だったとして、あたしの不治の病を治してくれるとする。
それでも、聡は小汚いおっさんお前で脱ぐなって言うの。どうなの」
「あのなー、話をすり替えるなよ、口ではお前に勝てないよ」
お互いの興奮が頂点に達したとき、聡が
「だったら、俺が占い師ならお前は平気なのかよ」
って胸のボタンに手をかけてきた。
第一ボタンと第二ボタンがはずれた瞬間、ベッドの下のエロ本を見つけた時、中2の時間違えて男子の着替え中に入って友達のあそこを眼にしてしまったとき、
ありとあらゆる時の嫌悪感が体中に走った。
パッシーン、あたしは聡のほほを思いっきり叩くと
「あんたは、あたしの恋人だよ。あんな小汚い中年の占い師じゃない。どうしてあたしが信用できないの」
それだけ泣きながら叫ぶと、部屋を飛び出した。
聡は追いかけてくるでもなく呆然とそこに立ちつくしていた。


「聡は悪くない。あたしが悪いの?そんなことない。そのうち誤解は解けるって」
あたしは独り言のように、頭でつぶやきながら駅まで走っていた。
「誤解は必ず解ける。今までもそうだった。今あたしにとって重要なことは…。
あの絵が見えてくるのをどうにかすること、そうでないとあたしたちは前に進めない」
あたしは、自分をごまかすためかだんだんとそう考えるようになっていった。
家に帰るとなんだか落ち着きを取り戻し、
「やっぱり、あたしたちがよくなるためには先生の力が必要。でも明日はデートだし…、デートどうなるんだよ。」
と考えていると、パパパッパッパー携帯の音が鳴り響いた。


「はい、何かよう」
あたしは、複雑な気持ちで電話に出た。

「さっきは、ごめん、葵。信じてるよ。俺が悪かった」
電話の向こうの聡は半泣きだった。
「うん、あたしもごめんうかつだったと思う」 初めてでわからなかったとはいえ、あんな実験をするのに窓を開けっ放しにしとくなんて…。
先生が機転を利かしてくださらなかったら、今頃…。

「いや、いいんだよ、葵。わかってもらえれば」
「ごめんね、聡」あたしがうかつなばかりに嫌な思いさせて。

「今度からはちゃんと気をつけなよ」
「うん」そうねちゃんと気をつけないと。

「葵、世の中信用できないやつも多いんだから」
「そうだね」あんな悪ふざけのサイトにあたしを掲載するバカがいるなんて

「もう絶対  会わない でくれよ、葵」
「うん絶対に 遭わない ようにする聡」

「明日、来てくれなくても待ってるから」
「ううんいくよ。ディズニーランド。あたしたち恋人だよ」
「有難う、めちゃくちゃ嬉しいけどふざけられる気分じゃないよ。じゃあ明日」
「うん、明日。好きだよ聡」
そういって電話を切ったあたしは、聡の懐の広さに感激し聡のためにも絶対この体質を直さなきゃと思った。
そのためにも今度はあんな馬鹿な目に遭わないように、
あたしの方からお願いして、先生にちゃんと窓を閉めてもらおう、声が漏れるのも危険だからドアも閉めてもらおう 
出来れば雨戸も閉めてもらって、電気も暗い目であたしがいることがばれないようにしてもらおう。

絶対に外から覗けたり外に声が漏れたりしないようにしなくっちゃ
例え先生が嫌がっても…。


ってあたしはドア越しに聡に言った。
「だって、風邪引いたって聞いたら心配で、心配で。食べるものぐらい作るよ」
ドアの向こうから聡が叫んできたが、あたしは
「風邪移したらヤダからいい。だいたい、あんたまだ木曜日ロシア語2の追試だろ。
これ落とすと、ロシア語3,4に進めないから留年決定だよ。
気持ちだけ有り難く貰っておくから。今日はごめん。
ディズニーランドは、またいつでも行けるって。
ほんとにごめん。さっき風邪薬飲んだからもう寝る。
ごめん、また夜連絡するから。お休み、ごめん」
一気にまくし立てた。やばい
「ゲッホ、ごほん」
あたしは、取って付けたかのように咳き込むふりをした。
昨日の夜、美由紀先輩に連絡を取ろうとしたが結局つながらなかった。
告発サイトのこともありあたしは、聡とあたしのためにも今日の先生との予約を優先することにした。
常識コントロールが出来るようになればディズニーランドになんていつでも行ける。
さらにそれ以上のことも出来る。
先生がどうなろうと知ったことじゃないが常識コントロールは身につけないと永遠に聡とは前に進めない。


で、朝一番に聡にキャンセルの電話を入れると案の定、昼過ぎに見舞いに来た。
昨日のこともあるし仮病とかが頭をよぎっても仕方がない。
実際そうなんだし…。
「本当に帰るけど大丈夫?」
「あーもう、移してやる、来年から葵先輩って呼びな」
あたしはそういうと、マスクをしてどてらを着て、いかにも病人を装いながら、
ドアを開け、マスクをはずすといきなりキスをした。
「ほら、これでがんばりな。3年後、あたしが働いているのに5年生の聡なんて、絶対嫌だからね。
神様が、あたしに風邪を引かせてくれたんだ。本当に今日は帰ってよ。
あたしのためにも聡のためにも」
「うん、そうする。ごめんね。押しかけたりして。
今日は帰るよ。家にいるから、何かあったら絶対連絡するんだぞ。
じゃあ、明日の晩ご飯な」
驚きを隠すかのように聡はあたしにそう言った。
「絶対、明日の晩までには治すよ。じゃあ」
あたしはそういって、帰って行く聡を見送った。
「聡、ごめんね。それもこれも二人のため」
聡が帰ったあと、あたしは誰ともなくそうつぶやいた。
そして、あたしは聡の駅の忘れ物をロッカーからとってから行くために、
あわてて化粧をして準備すると家を飛び出した。

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